デスゲームオンライン
最近デスゲームものって少ないですよね。
その日、新作VRMMOがサービスを開始した。
フルダイブシステムを世界で初めて使用したことによる圧倒的臨場感。
現実と区別がつかないほどの美麗なグラフィック。
脳にデータをフィードバックすることで再現された完全な味覚や嗅覚。
複数のジョブと習得可能スキルを組み合わせることで生み出される無限の可能性を持つキャラクター。
そして妄想を現実(仮想だが)にする自由度の高い数々の魔法。
βテストで明らかにされたそれらは既存の物を大きく引き離し、100年先を行くゲームと評価された。
だが、最も人々を驚かせたのはこのゲームが賞金付きだったことだ。プレイヤーは自分の行動が全て録画されることを了承させられる代わりに、メインクエストのボスを最初に倒したプレイヤー達に総額5億円(パーティーまたはレイドで頭割り)の賞金が与えられる。それが発表された時、初回生産ロット10万台、お値段9万8800円の筐体は一瞬で売り切れた。
人々の欲と期待を集めたそのゲームは、しかしサービス開始直後のオープニングイベントでプレイヤーを地獄に叩き落とす。
「やあ、唐突だけど君達プレイヤーのログアウト機能を停止させた。そしてこの世界での死は現実世界での死になる……所謂デスゲームだね。脱出方法は唯一つ、メインクエストのボスを誰かが討伐する事。ああ、外部からの助けは期待しない方がいい。この世界はクロックアップによって体感時間が現実の86400倍、つまり現実の1秒がこちらの1日にあたる。仮に一時間後に誰かが異常に気付いても救出は3600日後だね。まあセキュリティ解除に十数時間は掛かるだろうから実際はもっと……数百年は掛かるかな。ちなみに状態異常「老化」があるから設定年齢30を越えた辺りでステータスが低下し始め、50を越えた辺りから病気、70越えで寿命のリスクが出てくるから引きこもりはオススメしないよ。では皆さん良いゲームを」
恐慌、狂乱、怒りと悲嘆。しかしプレイヤーは立ち止まったままではなかった。一部のプレイヤーは死の恐怖を乗り越えてレベルを上げ始めた。また、彼らを支援する生産職もまた立ち上がった。……一部は引きこもり、初期資金を使いきって満腹度が0になって餓死した者もいたようだ。
そして彼らの命を賭けた戦いのドラマが幕を開ける。
ある者は大切な者を失い、
「おい! バカ野郎! 死ぬんじゃねぇ!」
「……すまん……俺はここまでだ……お前は……生き……」
ある者は仲間の為に命を賭け、
「……くそっ! すまない!」
「ハッハァッ! 一度言ってみたかったんだよなぁ! ここは俺に任せて先に行けってなぁっ!」
ある者は仲間を見捨て、
「ひっひぃっ! も、もう無理だぁっ!」
「あ! てめふざけんな逃げぐあっ!」
ある者は絶望に狂い、
「PKだと! そんな事をしてなんになる!」
「……どうせ全部無駄さ。なら人間をぶっ殺してみたかったんだよなぁ、くひひっ」
ある者は己の技を振るい、
「おいおい、こんな値段で売ったら採算が取れねぇだろ?」
「……俺には戦う力も度胸も無い。ならせめて俺の鍛えた武器で攻略に貢献したい。それが俺なりの戦い方だ」
そしてまたある者は新たな絆を結んだ。
「……俺、お前の事が……」
「……決戦前にフラグっぽい事やめてよね。そういうのは終わった後に、ね?」
そしてゲーム内時間で3年、遂にメインクエストのボス「狂える創造神デミウルゴス」が討伐される。ワールドアナウンスでそれを知り、沸き立つ生存者達およそ6万人。
「やっとだ! やっと終わる!」
「畜生! なんでここにアイツがいないんだ!」
「運営だか開発だか知らねぇがこんな目にあわせやがった奴ら、絶対に許さねぇ!」
「そうだな、死んだ奴らの無念を晴らさなきゃな……」
「賠償金幾らもぎ取れるかねぇ」
そして彼らは現実世界に帰還するべくログアウト操作を行う。
だが帰還する彼らは絶望する。怒りのぶつけどころなど無い事に。彼らは最初から道化だったという事実に。
デスゲームオンライン
世界初のフルダイブVRゲーム。リアルさやゲーム性もさることながら、体感時間の加速により1時間で10年分遊べる無茶苦茶さと、5億円の賞金により話題をかっさらう。そのプレイ内容は全て録画され、運営により編集され有料配信され、その収益により賞金は捻出される。
特徴的なのはプレイヤーはログイン中は「このゲームがデスゲームである」と脳波干渉によって信じ込まされるため、極めてリアルな人間模様が観察出来る事である。なお、これらに関する同意書にサインしない限りこのゲームをプレイする事は出来ない。
悪趣味だが人気が爆発。賞金は10億円に増やされ、現在第12期のプレイヤーを募集中。なおデスゲームオンラインの情報は脳波干渉によりプレイ中は忘れさせられる。
なお、一番人気の動画は第一期でボスを倒したヒーロー君の仲間、そして恋人と共に歩む愛と友情の感動のドラマ……の最後でログアウト操作をした瞬間に記憶を取り戻し、ログアウトするまでの映像。
「……は? え? ちょ、ま、ふっざけんにゃ……」(ここでログアウト処理)
本棚の裏から「クリスクロス」のハードカバー版が出て来て思わず読んだ結果、なんか書きたくなった。文化放送でやってたラジオドラマのopカッコ良かったよなぁ……もう30年近く前の作品だよ……VRデスゲームものの元祖みたいな作品だよなぁ。今の若い子は知らないんだろうなぁ。
ちなみに長編ネタだったけど最初のシリアスからのこのオチは酷いので一発ネタの短編にしました。