4話 囚われの姫
高く小さな小窓、
そこから溢れる月明かり、
囚われた女達、
彼女達は罪人では無い。
盗賊により、不当に囚われた者達である。
その中に、
スホミュラ・グランダード・イース、
この国の姫がいた。
以前の名は、
メーリン・グランダード・イースであった。
彼女は、南町の住人達を傷つけない事を条件に、
自ら囚われの身となった。
これは、
解放が条件であると、交渉に時間がかかる事が、
予想出来、
その場合、盗賊からか、魔王軍によるか、
どちらかにより、南町の住人に怪我人、
最悪、死者も出るかもしれないからだ。
だが、
この条件なら、
盗賊達には損は無く、それどころか更に儲かる事になるのだから、
盗賊達は、交渉に乗る。
更に、戦火に巻き込まれたく無い盗賊達は、
速やかに、この戦場を去るだろうから、
労せず避難出来る事になるのだ。
つまり、この姫は、盗賊達を利用していた。
しかし、
相手は悪人、普通なら信用しない。
もちろん彼女も、完全に信用している訳では無い。
ただ、もしもの時は自分が戦い、人質共々脱出するつもりで、
実際メーリンなら出来るであろうから、
今は必要がないので、動くつもりが無いのだ。
豪胆にも牢の中で、すやすや寝始め、
周りの者は驚いたが、
逆に安心して、皆眠りについた。
メーリンは、夢を見た。
それは、過去の自分の物だった。
そこは、南町の宿屋の裏で、幼いメーリンの遊び場だった。
メーリンも幼く、おそらく、2、3才の頃であろう、
その場所から、亡くなった母、リミリ・グランダードの、
姿が見えた。
今は宿屋の厨房で働いているが、
地方の小さな下級貴族の娘である、
イストニア王宮で、王太子マーラーの妾の1人であった。
リミリは、聡明な人で、
宮廷内の異変に、いち早く気づき、
第1近衛騎士団長ギルメーヤの助けを求め、
宮廷を脱出し娘を守ったのだ。
その後、
南町に身を隠したのである。
メーリンは、いつも母の仕事が終わるまで、
この場所にいた。
その日、宿屋の裏に、
メーリンと同じくらいの歳の小さな女の子が、
迷い混んで来たのだ。
それは、メーリンとアズの出会いであった。
アズは、とても賢く、口調もハッキリしていて、
とても自分と同じ歳とは、思えない位であるが、
体は小さく、こちらも、同じ歳とは思えないものだった。
話しを聞けば、
王都の大商家の妾の娘なのだが、正妻に目をつけられ、
ついには、命の危険が出た為、
母に連れられ、南町に逃げて来たのだ。
どこかで、似た話しを聞いたような、と、
思うメーリンは、親近感を感じ、
すぐに友達になった。
やがて、暖炉の前で母が、珍しく実家の話しをした場面になった。
グランダード家は、
初代イストニア王の参謀を務めたトニオ・グランダードの家で、
イストニア王国建国に多大な功績を誇る者だったが、
建国後の宮廷内の政権争いに嫌気がさして、
王宮を去ってしまったのだ。
その為、
権力者達に、辺境へ追いやられ、
以降、中央とは関わりを持たなくなった様だ。
ただ、その地の為には、智力を尽くして善政を敷いた。
それ故、
グランダード家は領民から、とても愛されていると、
母が話したのは、望郷の念が、
この日は、あったのかも知れない、と、
メーリンは思った。
それから、間もなくして、
母は、病で亡くなった。
続く様に、アズの母親も亡くなった。
幼い2人は、協力して宿屋で働いた。
メーリンの夢は、加速している様だった。
宿屋の女将、ミモザの手助けで、
南町の商店の組合を立ち上げた、メーリン達は、
それにより、
違法な店の炙り出し、南町の治安の改善を始めた。
7才の頃である。
その後、
衛兵隊を利用したり、傭兵を使ったり、
そうして、
犯罪を行う悪い集団を、南町から排除して行った。
8才の頃。
やがて9才にもなれば、
南町自警団を創り、自ら木剣を持ち、町の安全を守った。
運命の10才、
ついに汚職衛兵を突き止め、全面対決、
アズの機転で、密かにメーリンを見守っていた、
第1近衛騎士団長ギルメーヤに、協力を求め、
反乱の罪にメーリンが問われない様に、手配した。
ただ、
この事で、国王に孫娘が生きている事が知られ、
と言うより、
ギルメーヤの動きに、気づき、密かに馬車で、
メーリンの大捕物を見ていたのである。
場面は、
国王の来訪、メーリンが姫である事が明かされ、
その時のアズとミモザの顔が、
あまりに可笑しく、
メーリンは笑っていた。
メーリンは、国王の図らいで、
すぐに王宮に入らず、
大将軍ワンパに預けられた。
リンザとの出会いである。
やがて、
学院を首席で卒業して、
王宮内での仕事が与えられた。
ただそこは、他の王族からは閑職とされた場所で、
王宮書庫の管理官であった。
決して表に出る事無く、
まるで隔離された様な場所であった。
が、
メーリンは、喜んでその職に着いた。
彼女は、
記録や書類の整理を、仕事を手早く済ませて、
残りの時間、
様々な、記録や資料を読みまくり、
知識の欲を満たしていったのである。
そこに突然、
国王から、スホミュラの名が与えられ、
正式に王位継承権第4位に成った。
だが、メーリンは、
その意味するところを知り、
家出をした。
そして、
すぐに剣の師匠に出会い、
太湖ターニアの南側、王都との対岸にある森、
シリの森で半年修行した。
その後、師匠と共に放浪の旅をしながら、
経験を積んだ。
やがて師匠と別れ、1人で修行の旅をする事になるが、
その中で、色々な人達と出会う事になった。
そうして、
イストニア王国騎士団領の隣り、エルザニア王国の危機が訪れた。
隣国マルザ王国のクーデターが起こり、
その国が滅び、新国家が勢いに任せて攻めて来たのだ。
その時のメーリンの戦いは、
後の伝説に成る程のもので、
エルザニアを救った女騎士とされ、
王室は彼女を、聖女騎士ホーリーナイトに、推薦した。
結果、イストニア王国騎士団領の長、教皇は、
彼女に、その称号を授与する事にした。
その時の、リンザとアズの驚いた顔が、
また面白く、メーリンは笑った。
そして、
王宮に戻り、王宮書庫管理官の職に戻ったが、
自身の騎士隊を持つ事に成り、
騎士隊長と兼務する事になった。
そこで、
リンザを副官として呼び、
アズを付き人兼務の助手として迎え入れた。
アズを入れるのに反対する者達もいたが、
大将軍ワンパは、彼女の能力を高く評価しており、
反対する者達を黙らせた。
こうしてアズも騎士隊に入る事が出来た。
アズは、表に出る事は無いが、
様々な、手配を多くこなして影から隊を支える者と成り、
無くてはならない者である。
すると、
魔王軍襲来の日の場面に変わり、
目の前に、
伝説の古の大魔導師ダマリアがいた。
肌の色は灰色で、人とは違う種族なので、
少し怖いと、思ったが、
大きな眉毛から覗く、鋭い眼光の奥から感じる、
深い知性を感じ、安心した。
この目の前の人物は信用できる、
と、メーリンは理解した。
その人物が、
「貴方は、虜囚の辱めを受ける。」
と言い、その通りに成った。
「貴方の前に現れる、少年と少女を頼りなさい。」
どんな者達なのだろう。
メーリンは目を覚ました。
小窓から覗く空を見ると、
まだ少しの時間しか経っていなかった。
その頃、診療所でリンザが目を覚ました。
「ここは、、、どこだ、、、。」
そこにいたシスター・アンジェラは、
優しくその問いに答えた。
「ここは、フレデリック診療所ですよ、
赤い鎧の騎士様。
それとも傭兵さんかしら?」
「診療所、、、済まない、今は身分を明かせない、
が、名はリンザと言う。」
アンジェラはベテランのシスターである。
その口調1つでも、
リンザが、高貴な騎士である事が判る。
だが、あえて言わず、
知らないふりを通す。
「わかりました。
詳しくは聞きません、皆さんをお呼びしますので、
少しお待ち下さい。」
リンザは、身を起こし頷いた。
シスターは、フレデリック達を呼んできた。
病室に入って来た4人を見て、
リンザは、何やら思案していた。
「思ったより早く目覚めた様だね。
ところで聞きたいのだが、
この町の外で、戦争でもしているのかね?」
フレデリックの問いに、リンザは静かに答えた。
「戦争は起こったが、この町の近くではない、、、
王都だ。」
「王都!!?」
3人はハモった。
「相手はどこなんだい?」
フレデリックも静かに聴いた。
「、、、魔王軍だ、、、。」
「!魔王軍!!?」
今度は、ドリファンとミンが、ハモった。
「どうしたんだい?君たち?」
フレデリックは、今度はドリファンとミンに聞いた。
「実は、、」
ミンは、これまでの事情を話した。
イストニア王国東の辺境の北、メイソニア王国で起きた事、
メイソニア王が、
魔王軍の狙いは、
もしかしたらイストニア王国に挟撃を、
するつもりだったのでは?
と、疑念を抱いていた事。
「、、と、いう事が、あったんです。」
ミンの的確な説明で、フレデリック達は驚いた。
「そんな事が起きていたのか、、、。」
リンザも、驚いていたが、ミンとドリファンの方を向き、
声を上げた。
「そこの2人!
どうか我が主人を助ける為!
この私に力を貸してくれ!
頼む!」
「いい!!フゴッ!」
咄嗟にドリファンは、ミンの口を塞いだ。
「事情を聞かせて、。」
「私達にも聞かせてもらいたい。」
フレデリック達も事情を知りたい様だった。
リンザは小さく頷き、話し始めた。
「先日、重装甲トロール兵20万を従え魔王軍が、
イストニア北西より襲来した。
大群になす術なく、防衛網は突破された。
王都は、民達は、北の森に避難した。
我が主人は、逃げ遅れた民を救助していた中、
盗賊団の襲撃を受けたのだ。
そして、
人質となった民の安全と引き換えに、
その身を差し出してしまわれた。
私達は、主人を取り戻す為に、後を追ったのだが、
罠にハマり、私だけこの町まで来たのだ。」
「で、何を僕たちに助けて欲しいんだい?」
ドリファンはミンの口を塞いだまま、
リンザの望みを聞いてみた。
「無論、主人の救出だ。」
「場所は分かっているの?」
「ああ!この町の酒場の地下、犯罪者ギルドの牢だ!」
「わかったわ!もちろん手を貸すわ!」
ミンの口を塞いでいたドリファンは、
頭にタンコブを付けられ、ダウンしていた。
「ち、ちょっと君達!ヤメたまへ!」
「そうですよ、この町の犯罪者ギルドのメンバーは、
とても多いのですよ!」
フレデリックとシスターは、当然2人を止めようとしたが、
止まるはずも無く、、、。
「たいじょうぶよ、先生。
何も全面戦争しようって訳じゃ無いんだから。
こっそり忍び込んで、
助け出せば、いいんだから。」
「かたじけない。」
「しかし、なぁ〜、、、。」
「そうです、そんなに簡単な事じゃありません。」
2人は、行く事に決めてしまった。
「だいじょうぶ、
わたし達、強いから!」
リンザは、既に赤い鎧を装備しており、
ミンも立って、身体を動かしている。
とうとう、2人は走って行ってしまった。
「、、行ってしまったか、、、。」
フレデリックは、結局2人を見送る事となった。
その横で、少年は呟く。
「、、まったく、何にでも首を突っ込むんだから、、、。」
「、、、君は、、行かなくて、良いのかい?、、、。」
「、、あっ!」
ドリファンは、慌てて2人を追って走り出した。
「、、、なんか、不安になって来た。」
フレデリックは、急いで書簡を用意して、
シスター・アンジェラに手渡した。
「済まんがシスター、
これを教会にいる、あいつに渡してくれるかい?」
「わかりました。」
「シスターは、そのまま教会で休んでいてくれ。」
「はい。」
フレデリックは、しばらくシスターを見送った。
「、、、それにしても、
困った子供達だ、、嫌いじゃないが、、、。」
深夜のモーゴタウンは、静けさを増していく。
4話 完




