聖女と召喚師、天然温泉を堪能する
「どういうことだ……スキルが成長しているだと……!? こんなことはありえない……!」
ハイゼンが信じられないものを見る目で私を見た。
フフン、と鼻を鳴らし、私は決断を迫るようにハイゼンを見た。
「どうだね召喚師君。これでもまだ不潔だなんだと温泉を馬鹿にするのかね?」
ぐぬぬ……とハイゼンが歯ぎしりした。
それでもまだ煮え切らない態度のハイゼンに背を向け、私はこれ見よがしの大声で言った。
「あーあ、不幸だなぁ! こんなに気持ちいいのになぁ! 不潔な未開人は清潔な文明人より幸せなんだなぁ~!」
私が当てつけるように言うと、あああああ! とハイゼンが地団駄を踏んだ。
「異世界の年増女が元王宮付き召喚師をコケにしやがって! 何がオンセンだ! こんなもの怖がって王宮付き召喚師が務まるかァ!」
そう言って、ハイゼンが物凄い勢いで服を脱ぎだした。
クスクスと笑いながら、私は明後日の方向を向いた。
無事、タオル以外は全裸になったハイゼンは、おっかなびっくり温泉に歩み寄った。
「――なにがオンセンだ! こんな湯に浸かったぐらいで疲れが取れるわけが……!」
そう言って、ハイゼンが足先をお湯に浸けた。
途端に、ハフッ、という声がして、ハイゼンの大声が霧散した。
「おっ……!?」
「ん? どうしたの?」
ニヤニヤと意地悪な微笑みを浮かべる私に、ハイゼンはぶるぶると首を振った。
「あ……いや、まだ足だけだ。全身を……!」
そう言って、ハイゼンはずぶずぶと全身を湯に浸した。
途端に、ハイゼンの顔がだらんと弛緩した。
「あ――」
「どうかね?」
「あ、ああ……こ、これは……」
ハイゼンのメガネのレンズが白く曇る。
ハイゼンはぴくりと痙攣し、そして、ほう、とため息をついた。
「なんだ……これは……ゆ、湯に疲れが溶け出していくようだ……!」
「でしょう?」
私は自慢気に言った。
「これが温泉療法よ。こうして温めることで血管が拡張して疲労回復効果があるのよ。冷えは万病の元だからね。そして更にここに含まれる温泉成分が……」
「う、うおお……き、気持ちいい……! なんだ、まるで母の胎内に戻ったような……!」
「ちょっと、聞いてるの?」
「あ、あははは! あはははははは! 最高だ――最高だぞコノヨ! ここは天国だ! 極楽だ!」
「ああ――聞いてないのね」
ハイゼンは口の端から涎を垂らしながらがくがくと痙攣し、喝采を叫んだ。
満身に疲労が蓄積していた分、その快感たるや尋常なものではなかっただろう。
ハイゼンは今やこの湯に圧倒的なくつろぎ感を与えられるだけのただの肉袋と化していた。
それでいい、と私は思った。
温泉の恩恵は人々を平等に癒やしてくれるのだから。
それから一時間、だくだくと唇の端からヨダレを垂らしながら、私たちは天然温泉を堪能した。
「面白そう!」
「続きが気になる!」
「温泉行きたい!」
「風呂入っただけだぞ四国でオイ!」
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