暗殺者、暗殺される
攻城用トロール!?
ぎょっと目を見開き、私はもう少しのところで声を上げるところだった。
その言葉に、兵士のひとりは「上がなに考えてるかなんか知らねぇよ」とそっけなく返した。
「しかし、ハメル団長がかなり本気だってのはわかるな。山賊でも出てるのか知らねぇが、あんなもん出されたら一巻の終わりだな」
「そんなこと言って、攻城用トロール二つに正規兵が三千だぜ。どう考えても山賊相手の規模じゃねぇだろうよ」
「全く、あんな森にどんな敵がいるってんだろうな……ドラゴンでも住み着いたのか?」
口々に愚痴りながら、兵士たちは廊下の奥に消えていった。
攻城用トロールに、正規兵が三千……!?
予想打にしなかった《シジルの聖女》討伐軍の規模に、私は震えた。
馬鹿な、三千の兵なんて、最前線にだって送られない規模、一大決戦クラスの兵力だ。
それに攻城用トロールだなんて――ハメル団長は《シジルの聖女》を文字通り本気で踏み潰すつもりなのだ。
そんなものを出されたら、あの貧相な身体つきの女は、あの上から目線の召喚士は――ひとたまりもないだろう。
しばらく、私は回らない頭で考えた。
どうする、どうやってあいつらに伝えよう。
討伐軍が来る、その前に逃げよと今から伝えに走って間に合うだろうか。
この王城を脱出し、《不帰の森》まで走って二日というところか。
それまでに討伐軍は――と、そこまで考えたところで、私ははっと虚空を見上げた。
私は、あの女のところに走るつもりなのか――。
半ば自然にその事を考えている自分に、驚いた。
馬鹿な、何を考えている。
私はあの女を暗殺しようとしたのだ、失敗したけど。
そんなやつがノコノコ現れて、よく帰ったと歓迎する人間なんているわけないじゃないか。
「いつでも戻っておいで」――その言葉を本気にしたというのか。
馬鹿馬鹿、私は何を考えているんだ――。
何度自分を罵ってみても、胸に立ち昇る焦燥も、痛みも消えてくれない。
あいつなら、あいつらなら、私を受け入れてくれるのではないか――。
そんなことを真剣に考え始めている自分に、吐き気がした。
くそっ、と私は自分を罵って立ち上がった。
とにかく、このことを伝えるにしても何にしても、この王城を抜け出さねばならないことは確かだ。
討伐軍が編成されている、今のドサクサならきっと――!
そこまで考えたときだった。
すっ――と、背筋に鋭い冷たさが走り、私は目を見開いた。
それと同時だった。
ずるっ、と、私の脇腹に異様な感覚が走り、私は反射的に下を向いた。
光、が――。
きらりと冷たく光る鋼の白いきらめきが、私の脇腹に深々と突き立っていた。
「面白そう!」
「続きが気になる!」
「温泉行きたい!」
「春の天然温泉ってなんであんなに熱いの!?」
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