聖女、暗殺指令が下る
「国王陛下、是非お耳に入れたいことがございます」
ウェインフォード騎士団の騎士団長であるノーマン・ハメルは向かってそう言った。
相次ぐ大臣たちからの上奏や打ち合わせに追われていた国王は、ノーマンの声に顔を上げずに答えた。
「おお、ノーマンか。今は手が離せないのだが、後でよいか?」
「いえ、今是非ともお話すべきかと」
雷のようなノーマンの声に、国王や大臣たちは顔を上げた。
いつになく頑固なノーマンに、全員が少し驚いたようだ。
顔を見合わせる大臣たちに、国王が頷いた。
それを機に、国王以外の人々は部屋を出ていった。
ノーマンはのしのしと国王に歩み寄り、跪くこともなく言った。
「エルナディアの王宮に潜ませた間者より報告がありました。なんでも、エルナディア側が《シジルの聖女》と接触した、との報告が上がっております」
国王は冠の下の目をぱちぱちと瞬かせ、数秒後には髭を震わせて失笑した。
「《シジルの聖女》だと? 騎士団長ともあろう貴様までそのような妄言を口にするのか? ここに御伽噺をしに来たのであれば貴様と言えども即刻下がらせるぞ」
「恐れながら、私も報告を受けたときはそのように考えておりました。ですが国王陛下」
ノーマンは表情を変えずに報告した。
「この情報の出どころは、先日の戦闘以来行方不明だったエルナディアの第三皇子、アダム・エルナディアンであるようなのです」
その一言に、流石の国王も顔色を変えた。
太い眉をしかめ、今度こそ王はノーマンの顔を真っ直ぐに見た。
「ほう、あの無謀な皇子が《シジルの聖女》に接触したと?」
「ええ、そしてその不思議な魔力で傷を癒やされ、ほぼ無傷で帝都へと舞い戻りました」
「確かか?」
王の目が鋭くなる。
あれだけの勝ち戦でありながら、その指揮官であり大将であったアダム第三皇子の行方はようとして知れていなかったのだ。
「ええ。そして皇子は、聖女がいればこの戦いに勝てると気炎を上げているそうです」
「聖女がいれば戦いに勝てる、か。剛毅なものだな――」
本当にそうであったらいいのに――。
国王の疲れ切ったような失笑は明確にそう言っていた。
実にもう三年に渡った隣国・エルナディアとの戦乱は、国王をも確実に疲弊させている。
先日の戦いではアダム第三皇子相手に大勝したものの、結局それを取り逃がし、帝都に帰り着かせてしまったのだ。
結局、勝負は振り出しに戻ったようなものだ。
《シジルの聖女》。
それはこの大陸に生きとし生ける人間ならば耳にタコが出来るほど聞かされる御伽噺だ。
戦いに勝利を、苦難に歓喜を、絶望に希望を、傷に癒やしを。
天が乱れるときに聖女は現れ、身分に隔たりなく人々を癒すという伝説の存在。
つらい時、苦しい時、人々は遥かな空を見上げてその聖女の到来を待ち望む。
どうぞここに降臨し、我が苦難を癒やしてください――と祈る。
《シジルの聖女》は、ある意味で人々の希望そのものなのだ。
だが、それが御伽噺ではなく、真実なら。
本当に聖女が現れたとなれば――それはウェインフォード側にとって明確な脅威となりうる。
現に、アダム第三皇子は帝都へ帰還し、再び聖女と接触しようとしているという。
それも、あれほどの激戦の中で傷ついたはずの皇子が、無傷で帰還したのだ。
どんなタネ明かしがあるにせよ、《シジルの聖女》の癒やしの力は無視していい類のものではないはずだ。
それに、エルナディアの民衆の心はどうだろうか。
御伽噺である《シジルの聖女》が、作り話ではなく本当に出現したとしたなら。
そうすれば戦乱に疲弊した民たちの絶望は希望に変わり、エルナディア軍の士気も高まってしまうだろう。
いずれにせよ、これはウェインフォード側にとって無視すべきことではない。
そう進言したつもりのノーマンから視線を外し、王はたっぷりと蓄えた髭を手でしごいた。
「貴様はどう思う? 《シジルの聖女》出現は真だと思うか」
「真実であるにせよないにせよ、これは我が国にとって重大な脅威となり得ます。早めの対処を進言致したく、急ぎここに参じました」
ノーマンが騎士団長としての声で言うと、ややあってから王は頷いた。
「よろしい、この件は貴様に一任しよう。居場所を突き止め、早めに《シジルの聖女》を自称する女を排除せよ」
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3/6、異世界転生/転移ランキングで4位を頂きました!
私のひとつ下にかの『蜘蛛ですが、何か?』
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クッソ名作に露骨に挟まれてなんだか気持ち悪い感じがします!
この調子でこの作品をよろしくお願いいたします!!




