聖女と召喚師、脱衣所を建てる
「よし、とりあえず形にはなったわね!」
ユルルングルの襲撃を受けてから三日後。
ドワーフのおじさんと話をつけ、脱衣所はなんとか完成した。
ただ木の板で屋根を拭き、簾の目隠しを張り、なんとか形を整えただけのあばら家。
だがそこにハイゼンが召喚したスノコと脱衣籠を置けば、なんとか形にはなった。
私とハイゼンがおじさんを手伝ったために、人件費も格安で済んだ。
「お、おいお嬢ちゃん、本当にこんなみすぼらしい佇まいでいいのか? あと銀貨5枚でも費用があればもっと上等な造りにも出来るんだぜ。これじゃほとんど部材費だけなんだが……」
ドワーフのおじさんは不安そうに訊いてきた。
私は大きく頷いた。
「これでいいんだよ、おじさん。第一こんな山の中に立派な御殿建てても仕方ないしね。服を脱ぐ時に裸を隠せればいいんだから」
「まぁ、依頼主のお嬢ちゃんが言うなら俺はいいんだけどよ……」
不承不承という感じでおじさんは頷いた。
それから、ほかほかと湯気を上げている温泉を見た。
「しかし、この泉は一体何なんだ? 妙な匂いがする上になんだか酷くあったけぇ。こんなもんに浸かってどうするんだ?」
「そうだ、おじさんはまだこの温泉に浸かってないんだよね?」
私はドワーフのおじさんに言った。
「おじさんもこのお湯に浸かってみなよ。絶対に損はさせないからさ」
「い、いや――それは遠慮しとく」
私が言うと、おじさんは急に困ったような表情を浮かべた。
えっ? と私がちょっと戸惑って言うと、おじさんは申し訳無さそうに言った。
「正直言やな、ちょっと気味が悪いんだよなぁ。こんな山奥にこんな湯が湧いてるのも初めて見るし、それに人前で裸になるってことがどうもな……」
その一言に、私は少なからず衝撃を受けた。
日本人であれば、山の中に湧いている湯=温泉、とすぐにわかる。
裸の付き合い、という概念にも、おそらくそんなに抵抗はないだろう。
だが本気で戸惑っている様子のおじさんを見れば、それがこの世界では常識的な話ではないということはすぐにわかった。
この世界で常識的でないものに対しておじさんが拒否反応を示すのは無理からぬ事だった。
おじさんは道具箱を取り上げて私を見た。
「とりあえず、小屋は完成した。これでいいか?」
「う、うん……。とりあえずありがとうね」
「じゃあ、俺は帰らせてもらうぜ。いろいろ仕事も溜まってるんでな」
「ちょっと待ってくれ、ドワーフの親父さん」
ハイゼンがそそくさと帰ろうとするおじさんに向かって言った。
「我々は本気でこの泉で人々を癒やしたいと思っているんだ。今はまだ抵抗があるかも知れないが、そのうちきっとこの泉の名声が貴方の耳にも聞こえてくるだろう。――そのときは、またここに来てくれるか?」
ハイゼンの言葉に、おじさんは目を丸くした後、ひげもじゃの顔を笑顔にした。
「あぁ、その時は覚悟を決めて浸かりに来てやるさ。じゃあな」
おじさんはそう言って、村がある方向へ帰っていった。
その背中を見送ってから、ハイゼンが静かに言った。
「コノヨ、仕方がないさ。この世界ではオンセンどころか湯浴みの文化すら満足に根付いていないんだ。抵抗があるのは仕方ない」
私は首を振った。
「いや、落ち込んでるわけじゃないけどさぁ。ハイゼンとアダムは抵抗なく温泉に入ってくれたから、ちょっと驚いちゃって」
正直言って、これは予想外だった。
私は温泉さえ整備すれば、後は宣伝次第で人々が集まってきてくれると信じていた。
だが、それが全く甘い考えだと知って、私の中の興奮は冷水を浴びせかけられたかのように萎んでしまった。
この世界に、根本的に温泉の文化を根付かせるには時間がかかりそうだ。
本当にこの先、大丈夫なのだろうか。
いつかこの世界に温泉の文化が根付く日がやってくるだろうか……。
私が肩を落として、湯気を上げる温泉を見ていたときだった。
私の耳に、複数の馬の蹄の音が聞こえてきた。
「面白そう!」
「続きが気になる!」
「温泉行きたい!」
「アルカリ性温泉はトロトロしてて最高!」
そう思って頂けましたら【★★★★★】で評価お願いします。
何卒よろしくお願い致します。




