聖女と召喚師、自分の力に慄く
ユルルングルの顎に私のハンドバッグがぶち当たった、その瞬間だった。
私の身体から強い光が発したように、私には見えた。
ボン! という轟音が発し、ユルルングルの頭が垂直に吹き飛んだ。
「えっ――」
ユルルングルも、まさか殴られるとは思っていなかったのだろう。
ぶおん! と物凄い音を発してしなったユルルングルの頭は後ろに吹き飛び――。
そのまま、湿った音を立てて地面に墜落した。
「な――!」
ハイゼンがぎょっと目を剥いて、最初に私を、そして次にユルルングルを見た。
ひっくり返ったままのユルルングルの顎はズレて噛み合わせがおかしくなり、桃色の舌がベロリと吐き出されたままだ。
「し……死んだ?」
「……あぁ、死んでるな」
私は自分の震える掌を見た。
どこにも怪我はないし、ハンドバッグも壊れていない。
「ち、ちょっと叩いたぐらいだったのに……」
安物のハンドバッグがこれほどの威力を秘めていたとは初めて知った。
いや――違う、そんなわけがない。
私は単なる二十七歳のOLであって、武装色の覇気の使い手ではない。
一体私の身体はどうなってしまったんだ……。
自分で自分にドン引きする私は、解説を求めてハイゼンを見た。
「今の光は――聖属性の魔法が放つ光だった」
聖属性?
私が鸚鵡返しに訊ね返そうとすると、ハイゼンが私を怪物を見るように見た。
「お前、まさか聖女の魔力が……!?」
ハイゼンが私を見たが、少しの沈黙の後、ハイゼンは呻くように言った。
「いや……やはりお前に魔力はないな。魔法など使えるはずがない……」
「でっ、でも今、一瞬拳が……!」
「わかってる。見間違いなんかじゃない」
ハイゼンはそう言って考え込むような顔つきになった。
「《シジルの聖女》召喚は本当に失敗していたのか? やはりこの年増女が聖女なら――いや違う。ならば何故魔力がない? 何故魔力がないのに聖属性の魔法が……!」
「ちょ、ちょっと待ってよ! 一人で結論出さないで! あと年増女はやめろ!」
私は立ち上がった。
「だいたい何よその聖属性の魔法って! そんな驚くような話なの!?」
「驚くまいことか!」
私の声に倍する大声に、私はびくっと身体を竦ませた。
「聖属性の魔法なんて使える人間はこの世に五人もいるかどうかだ! 少なくともこの国に聖属性の使い手はいない! そんな事ができる人間は各国によって管理され、全て聖女として信仰の対象になってるぐらいだ!」
そう言われて、私はあんぐりと口を開けた。
まさか、そんなにレアな力を自分は持っているというのか。
しばらく私の顔を見つめながらブツブツと何かを考えていたハイゼンは、やがて考えることを諦めたかのように首を振った。
「ダメだ、魔法の専門家ではない俺にはこれ以上はわからん。これが有り得ることなのかそうでないのか……後で詳しく調べる必要があるな」
そう言われて、私はもう一度自分の右手を見た。
あの瞬間、私は無我夢中だった。
蛇への嫌悪感や殺されることへの恐怖。
そんなことよりも、もっと強い感情。
私はただただ、目の前にいたハイゼンが死ぬところを見たくないと思ったのだ。
そして私はユルルングルを殴りつけた。
そしたら身体が光って――ユルルングルが吹き飛んだ。
なんだ、一体何が引き金になったんだ?
聖女とは、聖属性の魔法とは一体――?
「まぁ――今はあまり考え込むな。それよりコノヨ、思わぬ収穫があったぞ」
ハイゼンに言われて、私は顔を上げた。
「収穫って……?」
「あぁ、こいつだ」
ハイゼンはつま先でユルルングルを蹴飛ばした。
「ユルルングルの皮は防具には持ってこいの素材なんだ。こいつを剥ぎ取れば、ある程度のカネにはなるだろう」
「面白そう!」
「続きが気になる!」
「温泉行きたい!」
「かけ流しこそ至高! 加温濾過循環は邪道!」
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