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聖女と召喚師、敵国で話題になる

「アダム第三皇子がお戻りになられたぞ!」




その一言に、セルゲイ・ゴルロフ騎士団長はハッと顔を上げた。

バタバタと数人の騎士が幕舎の外へ走り出す気配がして、にわかに場が騒がしくなった。


「どうした、何があった!」


外へ駆け出して行こうとする若い騎士を一人捕まえて、大声で怒鳴りつける。

突如大声で質された若い騎士はしどろもどろに答えた。


「じっ、自分にもわかりません! ただ、アダム第三皇子が《不帰の森》より戻られたと、城の門番が……!」

「アダム皇子が? バカな! 皇子が率いていた隊は壊滅した! どうして戻ってこられる道理がある!」

「私にもわかりませんよ! ただ、皇子は徒歩で戻られたと聞いておりますが……!」

「は――!?」


徒歩? セルゲイは唖然と若い騎士の顔を見た。

バカな、国境地帯から城までは有に100kmは離れている。

ただでさえ負け戦を戦った皇子が、傷だらけの状態でその距離を帰ってこられるはずがなかった。


「ともかく、団長も来てください! お迎えに上がりましょう!」

「わかった、すぐに行く!」


セルゲイは甲冑のまま椅子から腰を上げ、王城の正門へと走った。

既に正門には人だかりが出来、やんややんやと喝采を上げている。


「退け、貴様ら! アダム皇子が帰還なされたというのは本当か!」

「ああ、ゴルロフか! 僕ならここにいるぞ!」


そう言ってにこやかに走って来た人物。

間違いない、アダム・エルナディアン第三皇子だった。


一瞬、セルゲイは真剣に、それが幽霊ではないかと疑った。

何しろ、第三皇子が直々に出馬した戦では、ウェインフォード王国側の奇襲攻撃によってエルナディア軍は大敗を喫しており、アダム皇子の生存は絶望視されていたからだった。


セルゲイは巨体を揺すって皇子に駆け寄り、その手を取った。


「でっ、殿下! よくぞお戻りに……!」

「あぁ、僕も信じられない気持ちだ! それよりゴルロフ、喜べ! 僕は《不帰の森》の中で癒やしの聖女様に会ったんだ!」


曇りのない笑顔とともにそう言われて、一瞬、ゴルロフは皇子の正気を疑った。

慌てて駆け寄ってきた騎士団の連中も、皇子のその一言に足を止め、アダム皇子を見つめた。


しーんと、場が静まり返った。

なんと答えようか迷って、ゴルロフは結局、常識的に適当と思われる反応をすることにした。


「あぁ殿下、大分お疲れのようですな。負け戦ではそのような幻覚を見ることもよくあるものです。――こら貴様ら、何をしている! 医者を呼べ! 殿下を診療するのだ!」

「あはは、ゴルロフ。さては僕の言うことを信じてないな?」


アダム皇子は爽やかな表情と声で言った。


「なぁゴルロフ、僕はどうやってここへ帰ってきたと思う? 徒歩だよ、それも《不帰の森》からここまで走って帰ってきたんだ! 100kmの距離を寝ないでだぞ!」

「は、はぁ……それはそれはよろしゅうございましたな」


まぁ、まんざら嘘ではなさそうだ。

アダム皇子は爽やかに汗をかいていたからそう思えた。

まぁ流石に100kmは冗談に違いないが、確かに甲冑を着たまま、ある程度の距離を走ってきたのは本当のようだった。


アダム皇子は子供のようにはしゃぎながら続きを語った。


「僕はあの後、本隊とはぐれて、疲労と空腹で一歩も動けない有様だった。そこに聖女様とその下僕が現れて、僕に食料を恵んでくれたのさ!」

「そうですか、それはようございました。ささ、殿下。募る話は後にしましょう。まずはごゆるりと休養を……」

「休養? ああ、そうだゴルロフ! 聖女様は泉を持っておられるんだ! 世にも不思議な癒しの泉だよ!」


ゴルロフは目を点にした。

周りを取り囲む衛兵たちや騎士たちも、正気を疑う目でアダム皇子を見た。


「聖女様は僕を不思議な泉に浸けてくださった。その時の僕は疲労と過労で死にそうだったのに、その泉に浸かるだけでその全てが吹き飛んだんだ! 本当だよ! 泉の水はとても温かくて、しかも不思議に硫黄の匂いがしたんだ!」


なんだか、幻覚にしてはやたら詳細な話だった。

温かい泉? 硫黄の匂い? 疲れが吹き飛ぶ?

思わず首を傾げたゴルロフに、アダム皇子は熱っぽく言った。


「全快した僕を見て、聖女様はいつでもまた来いと微笑んでくださった……僕はその吉報を一刻も早く王宮に届けたくてここまで走ってきたんだ!」


徐々に徐々に、アダム皇子の言葉は熱を帯び始めていた。

最初は不安げに皇子を見ていた兵士たちも、徐々に顔を見合わせ始めた。


ひょっとしたらアダム皇子は、本当に聖女に会ったのかも知れない――。

癒しの泉。もしそんなものが実在するなら、それはこの戦争にどれほどの貢献をもたらすだろう。

軍人の頭で、そう真剣に考え始めている自分を、ゴルロフは頭の片隅に知覚していた。


アダム皇子は興奮した表情で言った。




「凄いぞ……伝説の《シジルの聖女》が現れたんだ! この戦争は必ず勝てる! 父上にも報告するんだ! すぐに聖女様をお迎えに上がるようにと……!」





「面白そう!」

「続きが気になる!」

「温泉行きたい!」

「小岩井乳業のフルーツ牛乳再販を求む!」


そう思って頂けましたら【★★★★★】で評価お願いします。

何卒よろしくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「アラン、あなた疲れてるのよ」扱いされて当然ですね。甲冑100kmマラソンはやばいです。あの温泉を制したものが戦争を制すと言っても過言ではなさそうですが…次の更新も楽しみにしています!
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