召喚師、物資を召喚する
「え? え? え?」
あまりの事態に、私は二の句が継げなかった。
私のその反応に、ハイゼンが妙な顔をした。
「大きすぎたか?」
「あ、いや……」
「小さすぎたか? どうなんだ?」
「いや、脱衣籠はこれでもいいけど……あの」
思わずコノヨはハイゼンの顔をまじまじと見てしまった。
「この籠――どうしたの? どっから出したの?」
「出した? この籠は召喚したんだ。召喚師なら当然だろうが」
事も無げに言ったハイゼンに、私は目を見開いた。
「え、アンタそんなことできんの?」
「できるもなにも、俺は召喚師だからな」
え、コイツもしかしてめちゃくちゃ有能なんじゃない?
私はそそくさと湯船から上がり、スーツの裾から湯を絞りながら言った。
「そ、それじゃあ、もしかして脱衣籠だけじゃなくても召喚できたりするの?」
「まぁ、モノによるとしか言えん。あまり巨大なものや強力な魔獣だと一人では無理だが、これぐらいの大きさの無機物であれば造作もないな」
「じゃ、じゃあ、タオルとか出せる? 身体を覆えるぐらいのヤツを数枚!」
「あぁ、お安い御用だ」
ハイゼンは再び岩の上に水滴で模様を描き出した。
なんだか私には読めもしない記号と文字を書いてから、ハイゼンはそれに手を置いた。
「――求めに応じて我が腕に依り至り来たれや、《召喚》!」
途端に、さっきと一緒の閃光が発した。
ボン! という水蒸気爆発のような音とともに、丁寧に折りたたまれたバスタオルが忽然と「出現」した。
まるで手品を見せられた子供のように、私はぴょんぴょんと数センチ跳ねながら手を叩いた。
「凄い! こんなものでも召喚できるのね! アンタ凄いじゃない!」
「は――?」
褒めたつもりの発言だったのに、ハイゼンは驚いたように私を振り返った。
「この程度の召喚術がか?」
「えっ?」
「いいか、これは単なるモノだ。氷を吹くドラゴンでも、燃え盛るイフリートでも、幸運を呼ぶカーバンクルですらないんだぞ?」
「だから?」
「だから――って」
ハイゼンが困惑したように私を見た。
私は重ねて言った。
「いや十分、存分に凄いでしょ。そんな今イフリートとか出されても全然役に立たないし。必要なものを必要な時に出せるなら凄い。アンタは間違いなく凄いわよ」
そう言って私が笑いかけると、なんだかハイゼンが釣られて笑みを浮かべようとしたように。少なくとも私には見えた。
それはどう見ても褒められ慣れていない青年そのものの顔で――ぎこちない笑みが何故なのか私の心に引っかかった。
だがそれも一瞬のこと、ハイゼンははっとして笑顔を消し、慌てたように顔を反らしてしまった。
「何?」
「い、いや――なんでもない。それよりも次だ」
「はい?」
「次は――もっと必要なものはないのか。オンセンを作るんだろう? もっと必要なものがあるはずだ」
なんだかふてくされたような声に、思わず私は失笑してしまった。
その反応に、ハイゼンが不機嫌そうに言った。
「なんだよ?」
「いいえ、なんでもないわ。なら次は――」
そう言って、私たちはしばらく必要な物資を淡々と召喚し続けた。
「面白そう!」
「続きが気になる!」
「温泉行きたい!」
「湯は熱めに限る!」
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