聖女と召喚師、脱衣所を作り始める
「――よし、だいたい形にはなったわね!」
私たち二人の頑張りのおかげで、《聖女の湯》は「水たまり」から「湯船」に昇格した。
周りに生えていた草や落ち葉などは綺麗に掃除した。
水たまりからはあらかた全ての邪魔な岩が取り除かれた。
湯船の底には近くの川から小石をかき集め、タイルのように底に敷き詰めてみた。
服を着たまま何度も確認し、足を怪我するような心配がないかも確認した。
後は脱衣所さえ建てれば、これはもう立派な温泉であろう。
「ハァハァ……疲れたぞ全く。なんで俺がこんなことを……」
ローブを脱ぎ、シャツ姿になったハイゼンが風呂の縁に座り込んだ。
わかっていたことだが、どうもこの男は体力がない。
作業中もぶつくさと、何で俺がこんなことを、とか、人を雇えばいいのに、とか、不穏な愚痴を繰り返していたコイツである。
全く、私よりも歳下なんだからもうちょっと男の甲斐性というものを見せてほしいものだ。
「全く情けないわねアンタは。こんなんでへばってたらいつまで経っても王都には帰れないわよ」
「やかましい、俺は頭脳労働者なんだ。体力なんかなくて召喚師は務まるんだ」
「臆面もなく自分を肯定すんな。私より若いんだからもうちょっとハツラツとしろ」
「ちぇ、うるさい女だなぁ……それで、次は何をするんだ?」
ハイゼンの問いに、私は言った。
「そうね……次は脱衣所と脱衣籠を作ろうかしら」
「脱衣所はわかるが……脱衣籠とは?」
「着てるものを入れる籠よ。大層なもんじゃなくても、要するに服が入る入れ物なら何でもいいわ」
そう言うと、ハイゼンが言った。
「ほほう、服さえ入ればなんでもいいのか?」
「まぁでも、こればっかりは私たちだけの力じゃ無理ね。なんとか誰かに頼んで作ってもらわないと……」
そう言った私に、ハイゼンはさっと背を向けた。
ん? なんだろう……と見ていると、ハイゼンがお湯に指を漬けた。
そのまま、指から滴るお湯で平らな石になにかの記号を描き始める。
「どうしたのハイゼン? 何やってんの?」
私が声をかけても、ハイゼンはこちらを見ようともしない。
背を向けているので表情はわからないが、何かをブツブツと呟き始めた。
おいおいコイツ、なんか突然自分の世界に入り込んじゃったぞ。
私はだんだん不安になってきて、ハイゼンに近寄った。
「ねぇ――ちょっと何やって……」
そう言った途端だった。
ボン! という音とともに、ハイゼンの身体からストロボのような強い光が発した。
うわっ! と顔を背けた途端にお湯で足が滑り、私は頭から湯船に落ちた。
しばらく、どこが上か下かもわからなかった。
めちゃくちゃに手足を動かした私はどうにか水面から顔を出した。
鼻と言わず耳と言わず入り込んできたお湯に、私はしばらく盛大に咳き込んでしまった。
「おいコノヨ、なにやってるんだお前?」
「はーっ、はーっ……! あ、アンタのせいでしょ……!」
私は鼻の穴から侵入してきた湯を排水しながら言った。
「な、何よ今の? 何の手品使ったのよ! あの光は何よ!?」
「手品? 何のことだ? それよりも――」
そう言って、ハイゼンは手に持っていたものを、ずい、と私の鼻先に近づけてきた。
うっ、と思わず顔を反らした私は、そこにあったものを見て目が点になった。
「よくわからんが……脱衣籠とかいうやつはこういうのでいいのか?」
ハイゼンの手にあったのは、藤蔓で編まれた籠。
それはもう――立派な脱衣籠だった。
「面白そう!」
「続きが気になる!」
「温泉行きたい!」
「寝湯に浸かると寝てしまう!」
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