3:露呈
「と、思っていたんだけどなぁ」
深夜の王城のとある部屋、その開いた扉に肩肘をついて、俺は目の前の光景を眺めていた。
部屋の中の大きなベッドには、裸で抱き合う男女の姿。
誰あろう俺の婚約者様と、この国の騎士団長様である。
「こ、これはっ!」
「違うんです! 違うんです!」
お約束の言葉を吐きながら、二人は慌てて起き上がろうとするが体が動かないらしい。
だって俺が魔法で拘束してるからね、それもちょっときつめに。
裸で抱き合ったまま身動きの取れない二人、これが本当の『だいしゅきホールド』ってか? やかましいわ。
「で、いつから?」
慌てる二人を無視して部屋の中へ入ると扉を閉めて施錠確認。念のために遮音の結界を展開する。
椅子をベッド脇まで移動させ、それに座ると足を組んで二人を眺め、そう声をかける。
「は、初めてです! 今日が初めてです!」
「はいダウト」
立ち上がり部屋の中を歩きながら、ある物を回収する。
「これ、なんだかわかる?」
回収したそれを、抱き合ったままの二人に見える所に放り投げ、椅子に座り直す。
「これは……」
「あの時応接室に仕掛けられていた物と同じ物。って言えばわかるよね」
二人の顔が真っ青になる。
「なかなかしんどかったよ、あんた達の盛ってる声を聞かされ続けるのはさ」
実際のところ、二人の関係に気付いたのは結構前の話。
城へ戻った時に、たまさかステータスを覗いてみたらさ、色々見えたり見えなくなってたりしてた訳。
そりゃ最初は結構凹んだし怒り狂ったりもしたけどさ、実際のところ、婚約者として付き合ってるとは言え、一緒に居る時間は短かったし、心のどこかで今一つ婚約に現実味が無かったって言うのも事実だしで、冷静になるのにそんなに時間はかからなかった。
で、間違えたっていいじゃない、人間だもの。間違いの一つや二つ有ったって、それを反省して筋を通すなら不問にするのも吝かではないと考えた訳だ。処女性に拘るようなガキでもないしさ。
そっから例の魔道具とかコ〇ン君も真っ青の便利な勇者スキルのあれこれを使って経過観察してたんだけど、こいつら悔いるどころかズンドコ深みにハメてハマって愛の翼広げまくってった訳で。
そろそろ諦めるか~って事で、本日現地来訪と相成りました。
観察を開始してからほぼ毎晩のように盛ってたから、今日もおっ始めるんだろうなぁと張り込みしていたら、いそいそとやってくる団長君。
認識阻害してるから部屋の中で待機してても良かったんだけど、流石に直視できないよなぁ、仮にも婚約者の浮気現場だもの。
と、言う事で、扉の前で待機しながら中を窺い、前奏⇒Aメロ⇒Bメロ⇒サビとなり、ドームライブだったらキャノン砲かジェットスモーク上がるタイミングなところで、盛大に扉を開けて御登場してみました。
「どこまで、とは言わないけれど、俺も色々知ってるわけさ。お前らが語る事と、俺の知ってる事実が食い違ったらどんどん機嫌悪くなるからね。その辺は注意しながら喋ろうか」
毎度御馴染みになった威圧を発動しながら、渾身のイケメンスマイル(但し以下略)
事情聴取の結果、二人は元々幼馴染と言うやつだったとの事。
子供の頃には、所謂『けっこんのやくそく』とかする程度の仲だったそうな。
流石に大人になってからは、身分やら立場やらで少なくとも王女の側にはそういった感情は無くなったと思っていたのだが、俺が登場して彼女の結婚が現実味を帯びて来た辺りで、諦めきれない団長君が理性が天元突破して王女に迫るようになったと。
最初は拒んでいた王女も、元々は憎からず思っていた相手からの繰り返されるアタックに焼け木杭状態で陥落。
後は禁断の愛に燃え上がり、メロメロメロンちゃんからのエンドレスして今に至ると。
「はぁ……」
何と言うか、溜息しか出ない。
『寂しかったの!』とか色々言ってた気がするが知るかっての。こっちは遊びで旅してた訳じゃねーんだから。
なんだっけこれ、BSSからのNTR? やってる事が良く聞く不倫のパターンまんまじゃん。
こうなるのが嫌だから最初に確認しておいたんだけどなぁ。
これあれだろ? 二人からしたら俺の方が間男扱いになるパターンじゃね?
「まぁ良いや、婚約破棄の件も含めて、後は王様も交えて話そうか」
「えっ!?」
いや、「えっ」って何だよ。
「当たり前だろ? 俺がアンタの親父とした契約は、『王女を対価として魔王を討伐する』だ。で、その対価を掻っ攫ってくってんだから、これは明らかに契約不履行だよな」
軽く膝を払う真似をしながら立ち上がる。
「対価が無いのだから、当然俺が魔王を討伐するという話も無しだ。その辺りをちゃんと話し合わないとな」
「た、対価なら私が……」
おいおい、何言い出してんのこやつは。
「まさかとは思うけど、この状況で俺があんたと結婚するとか思ってんの?」
自分でも冷たい目をしているのがわかる。いや、冷めた目と言うのがより正確かな。
これでも彼女に対して、それなりに信愛とか恋心とか有ったと思ってたんだけどな。
「バレなきゃ大丈夫だと思ってた? 結婚しても隠れて盛ってりゃ大丈夫だと思ってた? バレた時どうなるとか考えなかった? つかさ、子供出来ちゃったらとか考えなかったの?」
「そ、それは……」
「『托卵を企んでました』とか寒い事言い出したら殴るからね? まぁ、人生にたらればは無いからさ。これからどうするか二人で考えなよ。時間も選択肢もそう多くは無いけどね」
二人に背を向け、軽く伸びをする。結構しんどいわ、こういうの。
「じゃ、おやすみ。防音の結界は朝まで有効だから精々良い夜を」
そう言い残し部屋を出る。後は明日の話し次第だ。
あ、ちなみに二人は拘束したままにしてある。逃げ出したり、逃げ込まれていらん報告とかされても面白くないからな。
§
「ゆ、勇者様……それは……」
「ん? あぁ、気にしないで良いから、見回りご苦労さん」
朝日の眩しい廊下を、謁見の間に向かって歩く。
今なら朝の謁見とやらで王様も、主だった貴族連中も勢揃いしているだろう。
「よっと」
軽い掛け声と共に、謁見の間のでかい扉を蹴り破る。両開きのでかい扉を、蹴り一発で両方吹き飛ばすって結構コツがいるんだぜ?
突然の騒音に、中に居た連中が驚いてこちらを見ている。
「ゆ、勇者様……」
珍入者が俺である事に気付いた貴族の一人が声をかけてくるが、俺が引き摺っている『それ』を見て絶句する。視力良いね、君。
近付く程に『これ』に気付きざわめきが広がるが、とりあえず無視していつぞやの段差の前まで来ると、目を見開いて絶句している王様の前に『それ』を放り投げる。
あ、なんかごっそり抜けちゃった。
「よう国王様、御機嫌如何?」
手に纏わり着いた髪を払いながら王様に声をかける。
「こ、これは……」
やっとの事で声を出す王様の目の前に転がってる『それ』は、裸で抱き合う一組の男女。まぁ、昨日から拘束しっぱなしの元婚約者様と間男君だ。
「おいおい、冷たい事言うなよ、アンタの良く知ってる人間だろうが」
ちなみに、二人は昨日拘束したままの姿な訳で、つまりは裸で抱き合ったままの状態。しかも真っ最中に拘束してるもんだから、まぁその、色々と丸見せな状態。
流石に女性を下にするのはどうかと思ったので間男君を下にして来たんだが、お陰様で間男君のお尻は真っ赤にズル剥けである。どうせ剥けるなら後ろより前の方が良かったかね? いや、知らんけど。
「ぶ、無礼者! 陛下に対する口の利き方ばかりか、王女殿下にこのよ――うぼっ?!」
なんか外野がやかましいので軽く衝撃波的な奴で吹っ飛ばしておく。
「今は俺が国王陛下とお話してんだよ、外様が割り込んでくる方が無礼だろうが」
全方位に威圧を飛ばしながら広間を見渡す。
全員真っ青になってるね、泡吹いて倒れてる根性無しも何人か居るけど。
「まずは状況の確認しようか」
収納空間から椅子とテーブル、それとティーセットを取り出し腰掛ける。あ、御茶菓子も必要かな。
続いて水晶玉の様なものを取り出しテーブルの上に置く。
「それは……」
「見ての通り、録音と再生の魔道具だよ。昨日の晩に『それ』が喋ったことを記録してある。俺の口から説明するより、本人の言葉の方が信用できるだろ?」
軽く魔力を流して『再生』の機能を起動させる。
「それでは皆々様、耳の穴かっぽじって御静聴願います。これより語られるは、一組の男女が『真実の愛』とやらに目覚める美しく感動的な物語で御座います」
§
「ふぅ」
カップの紅茶を飲み干し一息。
真実の愛の告白を再生し終わった魔道具は沈黙し、広間は静寂に包まれていた。カップをソーサーに戻す音がやけに大きく響く。
「で、これからどうすんの?」
問いかけてはみたものの、誰も彼も黙り込んだままで話が進まない。
「黙ってないで質問に答えてもらえないかな」
取り合えず王様を見ながら発言を促す。やっぱ責任者と話をしないとね。
「どうする……とは?」
「皆まで言わせんなよ。アンタとの契約はそちらの不義によって破棄されたんだ、その責任をどうとるのかって話だよ」
「そ、それは……」
なんかも~『これ』とか『それ』しか言わないけどこの国の語彙力大丈夫?
「昨日の晩に『そいつら』にも言ったけどさ。俺が魔族と戦ってたのは、偏にアンタとの契約が有ったからだ。契約内容は、『魔王討伐の対価として、王女が俺と結婚する』これは間違いないよな? そして、アンタはあの時それに合意してる」
俺、ちゃんと確認したもんね?
「で、こうなった以上契約はそちらの都合による破棄となる訳だが、俺としては違約金、及びこれまでの労働に対する対価を請求したとしても罰は当たらないと考えている訳だが、その辺はどうよ?」
「……」
まただんまりかい。
「念の為言っておくが、契約が破棄された以上、今後俺が魔族と戦う事も無いからな?」
「それは困る!!」
おー、都合が悪いとだんまり決め込むくせに、こういう時は食い気味で反応すんのな。
「そりゃ困るだろうがさ、それはそっちの都合であって俺の都合じゃねーんだわ。俺も別に慈善事業してる訳じゃねーから、ただ働きは御免なんだわ」
「そ、それならば、騎士団長は更迭し王女と遠ざける故、改めて王女との婚や――」
言い終わる前に収納空間から剣を射出し、王様の股座、顔の両側に突き立てる。
魔物の群れと戦う時に思い付いて試してみたんだけど、結構便利なんだこれ。
「まさか本気で言ってないよな? 他の馬に散々かじられた人参ぶら下げられて喜ぶ馬が何処に居るんだよ」
いや、この世界の馬が人参好きかは知らないけどな。
「つかさ、お前らこの事知ってたよな?」
「なっ……」
「一度や二度ならまだしも、数か月の間毎晩のように、しかも王女の寝室で盛ってんだぜ? 気付かない訳がないよなぁ?」
椅子から立ち上がり、ガタガタ震えてる貴族達のうち一人に近づく。
「で、それを知ったアンタは、息子可愛さに筋を通さず、無理を通す方法を模索してた訳だ」
青ざめて言葉も出ない侯爵閣下の胸ぐらを掴み、未だに転がったままの二人の横に投げ飛ばす。
「王様も一緒になってな」
そう、こいつらは事が露呈した際に、どう筋を通すのかではなく、どう誤魔化すのかを日夜話し合っていたんだ。
「金、爵位、土地、女、仕舞には魔王さえ倒せば用は無いから、暗殺出来ないかなんて話まで出てたよな」
「そ、そんな事は……一体何を言っているのか……」
脂汗流しながらなんとか言い訳しようとする侯爵閣下の前に、収納空間から取り出した『それ』を放り投げる。
「それ、見覚え有るだろ? あの時、アンタらが応接室に仕掛けてたやつと同じモンだよ」
「……」
ちょっと警戒してれば気付いたはずなんだけれど、どうしてこういう連中は自分がやったことを自分もやられると想像もしないのだろうか。
まぁ、想像力足りてるなら今のような状況にはなっていないのだけれど。
「そんな訳で、アンタらの考えてる事は全て、とは言わないけれど、粗方把握してる。下手な言い訳すると余計に俺の機嫌が悪くなるからな、そこんとこ注意しような」
「で、ですが、魔王を討伐せねば勇者殿も元の世界には……」
ようやっと口を開いたかと思えばそれのことね。
「あぁ、それってさ『嘘』だよな」
「なっ?!」
この世界に来て、王様に一番最初に確認した事。あれが嘘だって事は最初から予想してた。ある筋からの情報によりそれは確定する。話の分かる奴だったよ。
それも含めて、この騒動を起こしたんだけどね。
「あの話さ、最初から嘘だって予想はしてたんだよ」
人差し指を立てて王様に見せる。
「アンタらはさ、魔王が倒せないから俺を呼んだんだろ? なのになんで『魔王を倒せば帰還方法がわかる』事を知ってるんだ?」
「そ、それは……そう! 過去の勇者が魔王を討伐して元の世界に帰ったとの記録が!」
中指を立ててピースサイン。
「俺が過去の勇者の記録を見せろって言った時、アンタは『全て失われて残っていない』って言ったよな」
「うっ……」
「そして何より、過去の勇者に関する記録は全て失われているにも拘らず、なんで勇者を召喚する方法は残ってる?」
「そ、それは……」
最後に親指を立てる。
「そして三つ目だが、何故元の世界に帰る事を前提に話をしている人間に、この世界での結婚を勧める?」
「……」
そう、こいつらは最初から知っていた。元の世界に帰る方法が無い事を。
そのうえで帰る方法も餌にして馬を走らせようとしてた訳だ。
全く以って筋の通らない話だ。
散々我慢してきてやったが、もう良いよな。
「もう一晩だけ時間をやるよ。これからどうすんのか、どうしたら俺を気持ちよく踊らせられるのか、その足りない頭で考える事だな」
指を一つ鳴らし猿の拘束を解くと、そう言い残し広間を去る。
「結局アイツら碌に喋ってねぇじゃね~か」
そんな事を呟きながら。
「寂しかったの」⇒ 寝取られ彼女を、情状酌量の余地のないただの尻軽に出来る魔法の言葉