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女神と始めるJKライフ! ~卒業式で死んだら美少女にされました~  作者: 橋本 泪
第一章 入学準備はお早めに
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第六話 TSスルーと過激派サポーター

いつもこの作品をごひいきいただき、ありがとうございます。今回はサッカーに関するセリフが多く出てきます。単語の意味や内容を理解する必要はなく、ただただレビ(女神)がやばくてめんどくさいことだけわかっていただければ幸いです。

「オウシキオウシキ! 早くしないとはじまっちゃいますよ!」


「わかったって。ちゃんと約束は守ってくれよ」


『ナンバー1、ブラント・レト! ナンバー2、ヘクター・ベレリン!』


テレビからは選手名のコールが聞こえる。


三月二十日。


俺が美少女高校生(予定)に転生されてから早二週間、俺たちは今スポーツ配信サービスDEZNを使ってサッカーの試合を観戦している。


この体についての説明を求める度になぜかはぐらされてきたが、しつこく問い続けた結果「ちっ、じゃあガンナーズの試合の時に話しますよ」と舌打ち交じりの承諾を得た。


俺はレビの横に座った。


ふかふかのソファ、八十インチのテレビ。


あー、もう学校行きたくない。


「それにしてもレビがここまでサッカー好きとは知らなんだ」


「天界には娯楽が少なかったですから。ひたすら人間社会を観察し続けたのちに発見した最高の娯楽です。スポーツとしての競技性はもちろん、暴力、恐喝、乱闘。何でもありの異種格闘技としても高いレベルにあります」


「いや、楽しみ方間違ってる……」


『ナンバー19、ニクル・ピピ! ナンバー29、マッテイ・ゴンドウジ!』


「オジルベンチかー……」


どうやら彼女のお気に入りはミスト・オジルのようだ。


独創的なパスやドリブルで観客を魅了する天才プレイヤーだが、どうもここ数年調子が上がらない。


まあそんなことは置いといて。


今は俺の体について問いただすのが先だ。


「じゃあさっそく」


「その前に一つ。やっぱり太りましたよね、オウシキ」


レビが俺のおなかをぷにぷにする。


まあ確かにちょーっと腹の肉が出てきたけれども、まあその程度だろう。


「気にするほどじゃないだろ」


「そうだといいですけど」


「それより今日という今日は俺の質問にちゃんと答えてもらうからな」


彼女はこちらに目も向けず、適当に相槌を打つ。


……不安だ。


「まず、なんで俺はこの体に興奮しないんだ」


こくりとうなづくレビ。


「私があなたに課した課題は友達を幸せにすることです。その体はあくまでそのサポートのために与えました。あなたが自分自身の容姿や体に興奮して、ナルシシズムに溺れられては困ります。そのため、あなたには自分自身に何ら性的魅力を感じないよう設定しました」


設定って。


ゲーム感覚かよ。


改めて彼女が人類を超越した存在であることを悟った。


思い出しただけか。


「そのせいでTSらしい反応が見られなかったのは残念でしたが」


TS知ってるんだ。


「さすがに最初は抵抗あったけどね。トイレとか脱衣とか」


彼女はこちらを見て苦い顔をする。


「脱衣って言い方なんか気持ち悪いですね」


舌を出して白目をむき、顔の横で指をピロピロさせている。


煽り方が異常。


「じゃあ恋愛対象ってどうなんだ。俺デパートですれ違った女の子、かわいいって思ったんだけど。レズビアンってことになるのかな」


「児童性愛の告白ですか」


「すれ違ったじょ・せ・い! これでいいですか!」


「あ、始まりましたよ! キックオフ!」


聞けや。


「ちっ、なんだよ今のロングフィード。考えなしに放り込むなよ、アディショナルタイムじゃないんだから。……なんでしたっけ」


「俺の恋愛対象ってどうなってるんですかねって話です」


思わず敬語で喋ってしまった。


これあれかな、厄介なタイプのサポーターかな女神様。


「恋愛対象はすべての人類です。老若男女すべて」


「ええっ!」


バイセクシャルのみならず年齢制限まで撤廃? この容姿で? 俺、欲に溺れない?


「実のところ恋愛対象の設定には迷いましたが、すべての人類にしました。人間社会では同性愛やらなんやらが問題になっているようですが、私から見ればどれも等しく愛に変わりはありません」


おお。


なんだよ、珍しくいいこと言うじゃないか。


これでこそ女神だよ。


「レビも女神らしいところあったんだな。ちょっと感動した」


「いや女神なんですけど」


「愛なんて偽りです、とかいうかと思っててごめん」


パチン、と手をたたくレビ。


ガンナーズ得意のパス回しがどうもうまくいっていないようだ。


「恋愛的な愛の話ですか。私の考えでは愛は何よりも大きな力を持ちますが、いかんせん賞味期限が短い」


「というと?」


プリンのふたを開け、プラスチックスプーンで薄黄色の物体を救い上げる。


そして口の中へ。


レビは実にうまそうにものを食べる。


なんで俺より食ってるこいつが体型維持できて、俺がちょびっとだけ太ってきてるんだ。


「そのままですよ。人間は愛を永遠のもののように崇拝しますが、愛ほど断片的な感情はありません、っておい! そんなところでロストするなよ! 無理なら無難にクリアしろよな、自分の実力を買いかぶりすぎだこのへたくそ!」


こわー。


そのうちテレビにものとか投げそうで怖いよ。


「質問は以上ですか?」


「あー、あと身体能力とか頭の良さとかそのへんどうなってんの。まあ頭と性格は変わってない気がするが」


「そうですね、基本的には変更していません。もともと男性だったにもかかわらず、女性とそう変わらない身体能力だったので問題ないかと」


おい、傷つくぞ。


男のプライドをなめるなよ。


すぐ傷物になるんだから、プライド。






『ぶっ殺す! ぶっ殺す! ぶっ殺す! ぶっ殺す! ぶっ殺す! ぶっ殺す!

しねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしね』






「あのころに比べれば性格はましになってると思いますけどね」


「ん?」


「ひとりごとです。以上ですか」


「急かさないでくれよ、まだ試合前半だろ?」


いざ質問をしようとすると意外と思いつかないものだ。


こんなことならメモにでもまとめておくべきだった。


しかし何というか、と、とも、ともだ……知り合いとサッカーを見るなんて初めての経験だ。


意外と楽しいものなんだな。


超過激派サポーターだけど。


ペットボトル投げないで。


つーかなんで俺に投げたの、テレビに投げてよ。


いやテレビもダメだわ。


「あー、あとこの体って普通の人間なのか? レビが創造したんだろ? なんか変わった部分とかあるの?」


彼女は首を横に振り、指を振り、そして腰を振った。


なんで?


「一般的な女性の体です、特有の不自由もありますがそれも含めて女性ですからぁぁぁああああああああああああ!」


「うおぉ、びっくりしたぁ」


叫び声と同時に彼女はソファから立ち上がり、なんて日だ!的なポーズをしている。


テレビではゴー――――ル!と実況が盛り上がっている。


しかし盛り上がっているのは実況解説だけ。


なぜならこの試合のホームチームはガンナーズ。


テレビに映るガンナーズの選手たち、サポーター、そしてレビは依然なんて日だ!状態である。


「やられたな。ダイヤモンド・パレスは空中戦強いな」


対戦相手は決して強いチームではないが、ジャイアントキリング、いわゆる格上食いを得意とするチームであった。


ガンナーズは一応名門チームなのである。


一応。


「くそっ、くそっ、くそっ! お前らあんな無茶苦茶なロングボールでやられやがって! センターバックは何をやってるんだ! こんな奴らに何億も払ってるのか、クビだクビ! 突っ立ってるだけで億万長者になれるお仕事、アットホームな職場ですってか! 変われ変われ、こんなことなら私が出たほうがうまくできるね!」


そりゃ女神だからうまくできるかもしれないが。


いるよねこういうおじさん。


その後もいくつか質問を繰り返したが、試合が進むにつれて彼女の返事は適当になっていく。


そしてオジルが出ることもなく試合は終了。


ガンナーズは0対1で敗戦。


「まあこういう日もあるよね」


「は? 慰めのつもりですか? ガンナーズサポなめないでくださいよ。こういう日ばっかりですから、慣れてますから」


それはそれでどうなのよ。


「あなたに慈愛の感情を向けられるなんて屈辱以外の何物でもありません。それに私はオジルが好きなだけでガンナーズが好きなわけではありません」


「ニワカか」


彼女は音もなくすっと俺の胸ぐらをつかみ、アサシンのような冷たい目で言い放った。


「私はガンナーズを創設当初から知っています。次舐めた口をきいたら殺しますよ」


え、殺すの。


怖すぎない?


ていうかゴリゴリのガチ勢じゃん。


「くそっ、それもこれも攻撃でリズム掴めなかったのがいけないんだ。中途半端なポゼッションで後手後手に回ったせいで、カウンターへの対応が個人レベルでしかできなかった。最終ラインもずれてたし、両サイドバックを攻撃的な選手にするならただオーバーラップさせるんじゃなくてカットインさせるなり、ウィングと入れ替わって裏を狙わせるなりしないと。ひたすらクロス上げて崩すには相手のセンターバックは高すぎた。それにディフェンダーが上がった時の守備位置の修正やフォローも中途半端、何もかも中途半端……」


レビは一人でぶつぶつ文句を言い続けている。


俺もサッカーは好きだがここまでいくと狂気の沙汰である。


今日も結局大したことは聞けなかったが、彼女を見てると何事もほどほどにするべきだと感じる。


だから俺の体のことも転生のこともほどほどに知っていればいい。


経験して初めてわかることもあるし、最初から全て知ってしまってはつまらない。


決して自分の準備不足で碌な情報が得られなかった言い訳をしているわけではない。


決してである。


少し落ち着いたのかレビは腕を組み、長い沈黙のあと一言。


「オジルさえいれば」


結局オジルかい。

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