第五十五話 ラジオの名前はシンプルな方がかっこいい
『さあはじまりました。高田晴れの晴れラジオ』
きたきた。
待ってましたよ晴れラジオ。
シンガーソングライターのラジオなんてクソと思っていた俺の世界を広げてくれた神ラジオだ。
毎週水曜夜八時から一時間。
TBFは早く晴れ君に二時間枠を与えるべき。
そこらの芸人よりはなし面白いからな。
おっと、厄介ファンの真似事はこの辺にしておこう。
『早速コーナー行きましょう、今週のフェイクニュース。ラジオネームカラオケのから揚げ。「奇跡起きた!」と書かれているヨウツーバーの動画で、実際に奇跡が起きている確率を西京大学の研究チームが調査。結果は0.6%。あはは、低いなー。赤文字でドン!って書いてあるやつね。あんな頻繁に起きてたら奇跡じゃないんだから。それにしても低いなー』
はは、わかる。
トレンドに乗ってる動画とかそうだよな。
『続いてラジオネームイヴァン童貞。橋岡環奈、イソスタにアップされたわかめポーズがセクシーすぎると話題に。なぁにわかめポーズって、くねくねしてんのかな。頼むから流行らないで欲しいな』
橋岡環奈だから許されるやつね。
橋岡環奈って衰え方ヤバくないか。
少し休ませてあげたらどうなんだろうか。
そういえばレビはまだ帰ってこないのか。
なんか用事あるって言ってたし、あいつなら痴漢も変質者も一発だろうから心配はいらないか。
その後も晴れ君の軽快なトークは続き、瞬く間に二十分ほどが過ぎていた。
『では久々にこのコーナー行きましょう。素人ゲストー!』
おっ! 今日素人ゲストあるのか!
有名なはがき職人や、イソスタで面白い写真をアップしている人、果ては晴れ君の高校の同級生まで、普通なら呼ばないようなゲストを読んで対談する企画だ。
晴れ君のトーク力と彼とスタッフの目利き力で選ばれた素人の実力。
それが合いあまってカルト的な人気を誇る名物コーナーで、素人に電話をかけるという流れになるだけで萎えてしまう俺ですら大好きな企画なのだ。
『本日のゲストは、なんと矢田君がナンパしてきた一般女子高生。あはは、ごめんなさいね。神奈川県でのアンケート調査の際に見つけた変人女子高生、鈴木灵美ちゃんです。
『変人って誰のことですか』
いやもうマジで勘弁してくれ。
なんとなくそんな気はしてたけども。
『いやー、すごい美人だね。それにしても』
『当然でしょう。女神ですから』
桜木〇道かお前は。
『あはは! 完全に変人だねぇ。リスナーさんも聞いたと思うけど、レビさんは自分のことを本気で女神だと思い込んでる美人女子高生らしいんだ』
『元女神ですけどね』
そこじゃないんだよね。
『元なんだ。なんで女神じゃなくなっちゃったの』
聞いてくれるんだ。
晴れ君優しい。
『天界の業務に飽きてこっちに降りてきたんですよ。あ、あと転生した人間の面倒見てます』
ついでみたいに言うな。
完全に俺がおまけじゃねーか。
『天界の業務ってつまんないんだ』
『はい。私の場合あまりにも優秀すぎて仕事の量も異常でしたし』
自分で言うな。
『どんな仕事?』
『エンタープライズアーキテクチャの洗練とそれによって起こった肯定的な変化と否定的な変化の分析、他にも新人のタレントマネジメントやメンタリング、セキュリティマネジメントシステムの構築なんかも』
『なんて?』
全く同じリアクションだわ。
女神ってエンジニアかなんかなのか?
『僕バカだからよくわからないけど大変そうなのは伝わったよ』
『大変というか退屈というか』
『下界に降りてきてからの方が楽しい?』
『ええ。面倒な子守がありますけど』
誰のことでしょうね。
『転生した人の面倒見てるって言ってたもんね。転生って生まれ変わりみたいなこと?』
『そんなところです』
『それ言って大丈夫? オカルト好きな人とか集まってこない?』
『ああいう人たちは解明されない謎が好きなだけなので。謎が自ら事実として歩み寄ってくれば興味を失いますよ』
『そういうものかぁ。今高校生なんだよね、学校はどう? 女神的に』
『なかなか面白いと思いますよ』
『授業にはついていけてる?』
『主席ですから』
『わぁすごい。やっぱ変人って頭いいんだね』
すごいさっぱりディスったなこの人。
『当然です。女神ですから』
気付いてないよ。
調子乗っちゃってるもん。
『神童どころか神ですからね』
いつまで調子こいてんだよ。
『転生した子も同じ学校?』
『そうですよ。陰キャです』
言わなくていいじゃんそれ。
『女の子?』
『えー、あー、まあ』
やめろ、全国ネットで余計なこと言うなよ。
中身ただの陰キャ男子ってバレたら社会的に死ぬ。
『中身はゴミクズです』
『ダハハハハ』
陰キャ男子の方がましだったなぁ。
スタッフもみんな笑ってるし。
前世の俺の状況か!ってな!
なんつって、へへ。
泣くぞ。
『その子は仲いいの?』
『仲いいというか、お世話してるので一緒に住んでます』
『え!マジか! なんか女神とか転生とか信ぴょう性増してきたなぁ』
『事実ですからねぇ』
晴れ君口調やめろ。
『電話かけてみます?』
はい?
『おお! いいの?』
『はい。どうせ暇してると思いますよ』
ブーっとテーブルに嫌な振動音が響く。
待て待て待て。
マジ?
今日俺全国デビューすんの?
やべぇ、出ないと晴れ君のラジオのテンポ悪くなるし。
漢・楓、覚悟を決めろ。
女だけど。
いきなり噛むみたいな古典的なミスだけはしないようにしないとな。
俺はスマホを手に取り、緑色のお端をタップする。
さあ黄色楓、全国デビュー!
『もすもす!』




