第五十四話 シャワー室が一番きつい
「海に行きましょう」
「いやだ」
「なんでですか」
「水場が嫌いだからです」
「泳げないんですか」
「泳げます。何なら六年くらいスイミングスクール通ってました」
「知ってます。女神舐めないでください」
「じゃあ聞かないでください」
海なんてろくなことにならないのだ。
臭いし暑いしベタつくし。
はっきり言って海に行く奴は馬鹿。
「ならプールはどうですか?」
「プールの方が嫌い」
「なんなんですか。引きこもりですか。引きこもりでしたね」
「違いますー。インドア派ですー」
プールはきたねぇし、人口密度高いからマジで嫌。
あとあの濡れたコンクリートの感触がマジで不快。
鳥肌が立つ。
濡れた髪の毛が絡まってる排水溝とか、シャワー室の濡れたすのことかすべてが不快。
はっきり言ってプールに行く奴は馬鹿。
「大体な水回りなんてバカが大量に湧くだけだぞ」
「キッチンに湧くゴキみたいないい方しますね」
「実質ゴキだからな。黒光りしてる不快な生き物が高速で女性に手を出してるのを見るだけの動物園だからな」
「偏見強すぎませんか」
「レビにだけは言われたくない」
「いいか。海だのプールだのってのは下着と何ら変わらない破廉恥な格好でそこかしこを闊歩し、水でびしょぬれになり、無褒美に痴態をさらし、衣服を脱いだことで心まで開放的になった輩がひと夏のなんちゃらと体のいい言い訳を盾に自分の人生に取り返しのつかない傷をつけるためのマヌケな舞台装置でしかないんだ」
「マヌケな舞台で村人Aにもなれない雑魚が言っても醜い嫉妬にしか聞こえないんですけど」
雑魚って。
そこまで言うことないじゃん!
「それに楽しそうだと思いませんか? 友達とプールで遊ぶの」
「そりゃあまあ。でも水回りはほんとダメなんだよな」
「潔癖なんですか」
「いや、違うと思うけど」
「でしょうね」
でしょうねって。
部屋が汚くても潔癖症の人っているんだよ?
部屋汚くないけど。
「折角前世でできなかったことをやらせてあげようと思ったのに」
「レビが行きたいだけだろ」
「私が行きたいところはオウシキの行きたいところでしょう」
陽キャジャ〇アン理論やめろ。
「そんなに行きたくないんですか?」
「まあそうだな。いくらレビの頼みと言えど」
「了解です」
あれ、今回は意外とあきらめがいいな。
まあ俺としては助かるが。
「しょうがないですね。イリヤマには私だけ行くと伝えておきます」
「ちょっと待て」
「なんですか」
「杏子も行くのか」
「はい。イリヤマからのお誘いだったので」
「行きます」
「は?」
「行きます」
「プール嫌いなんじゃなかったんですか」
「大好きです」
「ゴキだらけの動物園じゃなかったんですか」
「斬新で面白い発想の動物園だと思います」
「マヌケな舞台装置じゃなかったんですか」
「インスタントに青春の輝きを提供してくれるファストスポットだと思います」
「結局馬鹿にしてませんか? 分かりました。イリヤマにはオウシキも行くと連絡しておきます」
「あざっす!」
散々文句を言ってみたが、前世ではできなかった学生らしい遊びを体験できるのはどれもこれもレビのおかげだ。
一応感謝しておこう。
ああ、楽しみだな。
杏子の水着。




