第四十三話 失敗の言い訳をすれば、その失敗がどんどん目立っていくだけです
「皆さんこんにちは。青浜高校の女神、鈴木灵美です」
今日は一学期の終業式。
式が終われば帰れる最高の日だと思っていたが、そう簡単にはいかないのが人生というもの。
今日も女神様直々に尊いお言葉をお聞かせ願えるようです。
入学式の事件を完全に忘れていた俺のミスだ。
「今日をもって前期は終了です。一年生にとっては初めての高校生活でしたね。クラスにはなじめましたか、友達はできましたか?」
一年生の席から笑いが起きる。
各々隣の肩を叩きあったり、軽口をたたいたり。
マジもんのボッチなんてそういないものなんだなと改めて思わされた。
前世の俺マジ希少種。
「二年生、そろそろ受験というものが現実的に見えてきます。震えて眠れ」
なんでそんなこと言うの。
まだ大丈夫よ。
修学旅行楽しんでからがんばろ!
「三年生、夏が受験の天王山なんていわれてるんじゃないですか? 安心してください。実力者はとっくに勉強始めてます。せいぜい死に物狂いで頑張ってください」
そうだろうけども。
夏で逆転できるって。
あきらめるにはまだ早いよ。
「終業式でだらだら話すのもあれなので、三年生にだけメッセージを送ります。私が面と向かってしゃべれるのは卒業式を除けばこれで最後でしょうから」
三年生が固唾をのむ音が聞こえる。
いや、二年も一年もそうだろう。
彼女の言葉が無情にも現実を突きつける。
タイムリミットはもうそこまで来ているのだと。
「私が言いたいことはたった二つ」
相変わらず話の引き込みがうまい。
二つと具体的な数字を提示することにより聞き手の集中を保つことができる。
加えて数値効果で話の説得力も増す。
「一つ目は自由について」
新興宗教?
女神だからあながち間違いでもないか。
「あなた方高校生はまだ見ぬ将来に不確定な希望と美しい未来予想図を持っていることでしょう」
そうだろうな。
俺ですら多少の希望を持っていた。
高校さえ卒業してしまえば何かが変わるかもしれないと。
「ですがあなたたちはここから社会の常識というものに縛られ始めます。大人なら当たり前、一般的にはこれが常識。それが正しいかどうか、納得できるかどうかなんて関係ない。これが社会だと」
夢も希望もないな。
でもまあそうだろうな。
俺も社会はそういうものだと思っている。
いかに個性を捨てて歯車になれるか。
それが社会なんじゃないか。
「それは仕様がないことです。人間は増えすぎたので、そうやって役割分担をしないとあぶれる奴が増えすぎて世の中終わります」
もう少し優しい言い方はできないものか。
「マジで増えすぎなんですよね人間。個人的には人口の限界値って50億前後だと思うんですけど。そろそろ80億ってマ? 殺します? 30くらい」
集合時間遅らせる?みたいなノリでとんでもないジェノサイド起こそうとしてるんだけどこいつ。
30億を30って言うな。
詐欺師でもここまで単位ごまかさないわ。
「話を戻しますと社会というのは思っているよりもさらに閉塞的なものです。現代社会はやたらと自由を謳うくせに自由を求める人間を求めずバカにします。社会のルールにのっとって敷かれたレールをあたかも自分で選んだかのように錯覚させられます」
全校生徒が黙って彼女の話を聞いている。
過激なようで決して間違っていない話。
ますます社会に出たくないわ。
働いたら負け、うん。
「ですが私はあえて言います。あなたたちにはまだ自由に道を選ぶ権利があります。そのために大切なのは、無駄なプライドを捨てることです」
ほう?
「プライドはとても大切なものです。自分が生きてきた証であり、歩んできた人生の積み重ねがプライドを生みます。プライドの高い人間は嫌われがちですが、プライドのかけらもない人間に比べればはるかに有望であり有用です。ですが時にそのプライドは自らを傷つける刃となります。例えばなまじ頭のいい人間が専門学校に進学したり、小説家を目指したりするのはすごく勇気のいることだと思います。年収コンプレックスなんてものもそうです。それなりに幸せな生活をしているのに、周りと比べることで自ら自分を卑下してしまう。これらはすべてプライドがもたらす悪しき副産物です。私はあなたたちに自由に生きてほしいと切に願っています。自由というのは自らの余計なプライドからの解放です。もう一度言います。自由に生きてください」
……。
女神の話を聞いてときどき思うが、彼女は真面目にしゃべるとき少し「らしくない」気がする。
普段がクズ過ぎるからとかそういう話ではなく、なんといえばいいだろうか。
彼女の言葉からは負け犬の哲学のようなものを感じる。
負のオーラというか、根本的に暗いというか。
堂々と終業式を乗っ取ってべらべら喋るような奴が贈る言葉ではない、気がする。
だがこの説得力はその負の部分から来ているような、気がする。
「二つ目は自由について」
一つ目も自由じゃなかった?
大事なことなので二回言いました?
「正確に言えば自由の意味をはき違えない事。自由と怠慢は違います。怠惰の言い訳に自由を使わないでください」
耳が痛すぎて中耳炎になりそう。
「現在人間界はIT分野の日進月歩の進化によっていたるところで小さな革命が起きています。これまでの当たり前を覆す若い経営者なんかもゴロゴロ」
俺もカリスマベンチャー社長になりたい。
エアヴィンの水飲みながらイキったジャケットでフレックス出社したい。
「かっこいいですよね、常識をぶち破るのって。でも現状の社会に不満があるから、就職したくないから、そんな理由で自由を求めてもろくなことにならない」
耳が痛すぎて外耳炎になりそう。
「常識を破るには常識を知る必要があります。常識のない人間が常識を破るのはただの愚行です。この二つの教えを頭の片隅にでも置いておいてくれれば幸いです」
いつの間にか自己啓発セミナーみたいになっとる。
でもまあ聞く人によってはいい教訓になったのかもな。
「最後に小話を一つ」
なんで?
「昔々ある国で王のもとに新たな命が生まれました」
あら、おめでたい。
「しかし王と王妃の関係は既に冷え切っており、その影響か彼は母から寵愛を受けることができませんでした」
かわいそう。
「そのせいか王は彼を非常にかわいがりました」
よかったね。
「でも三人の兄だけに土地を与えました」
なんでやねん。
「王は後々まで彼だけに土地を与えられなかったことを気にします」
まあそうだよね。
ランドセル買ってあげられなかった末っ子にずっと罪悪感抱くみたいな。
「王は征服地や兄たちに与えるはずだった領土を彼にあげてしまいます」
ヘイト買う奴じゃん。
「それにブチ切れた兄が父に反旗を翻します」
そうなるよね。
「兄が優勢とも見るやいなや父を裏切ります」
クズが過ぎるぅ。
「その後兄の死など幸運に見舞われ、多大な領地を獲得します」
兄の死が幸運な時代怖い。
「そして婚約者のいる12歳の幼女を寝取ります。強制的に」
ツッコミどころが多すぎるけどとりあえず死ね。
「それを理由に他国と大揉めして領土をめちゃくちゃ持ってかれます」
アホなの?
「アホです」
アホでした。
「その後彼はローマ教皇に自国領地をすべて寄与。珍しく優位にたった戦争でビビッて敗走。バカ教皇に返してもらった領地もすべてロスト。挙句自国民に全面ストライキされて王の権限を制限される大憲章に署名させられるのです。最後には桃の食いすぎで死ぬ。バカ、アホ、ドジ、マヌケおまけにクズ。世の中にはこんな人間もいるのです」
自己紹介?
つーか完全にあいつの話じゃねーか。
俺たちのジョン王だろ?
世界史やっててジョン=キング・オブ・イングランド嫌いな人いないからね。
アホすぎて。
一つだけフォローしとくと死因は赤痢が有力らしいよ。
「こんな奴もいるので楽しくいきましょう! 以上!」
まあなんというかな。
前半で終われや。




