第四話 ナントカカントカチョコチップフラペチーノナントカ
カチャ、カチャン。
外でケーキを食べるなんて何年ぶりだろうか。
こんなに気を付けてナイフを使っているのにカチャカチャカチャカチャ。
食器は全部プラスチックにすればいいと思う。
自然保護団体からのお叱りも華麗にスルーして見せる。
「いやー悪いですね、女神様。コーヒーのみならずケーキまで」
「……賤民に施しをするのも神の務めですから」
へこんでるかと思ったらこのセリフ。
いや、へこんではいるか。
俺と女神はショッピングモールの中にあるカフェに来ている。
リア充御用達、スノーバックスである。
まさにJKライフ満喫中。
「あのー、まだ気にしてんの?」
彼女は顔を上げたかと思うとこちらをきっとにらみつけ、腕を組み、人差し指と中指をトントンさせながら言った。
「それもこれもオウシキが変なこと言うからです……」
はぁ?
勝手にキレて、一人でどっか行った挙句地下駐車場で迷子になって、かくれんぼしてた小学生に発見されて、サービスカウンターのお姉さんに女神ですと名乗って突如笑ってはいけない迷子センターを開幕させといて何て言い草だ。
しかしあれだけテンションの高かった彼女をここまで気落ちさせたとなると、さすがに罪悪感がわく。
ショッピングは満喫させといて、あとから注意喚起してやればよかったのかもしれないし。
金も出してもらってるわけだし。
「あむ、申し訳なかったよ」
「ケーキ食べながら言われても説得力ないです」
彼女は小さく頬を膨らませながら拗ねている。
かわいい……。
じゃねーや。
「帰りたい」
「あ?」
「私、天界に帰ります」
「おう、お疲れ」
こいつさえいなければやりたい放題だ。
学校なんか行かず、家でスポーツ観戦と映画視聴に時間を費やしてやる。
ちょうど見直したかったんだよ、クロック仕掛けのみかん。
「天界でもあなたのことは見守れますよ、当然地獄に落とすこともね」
えぇ……、さすが神じゃん……。
「それにいいんですか、私が帰ったらお金の工面も苦労すると思いますよ。家賃も発生させましょう、敷金礼金付きで」
「こっのクソアマァ……」
「ふふーん。思い出しましたか? 私がいなければあなたは所詮ただの人間です。それもとびきり低級のね! さあ、今までの態度を悔い改めて私に許しを請うがいいのです」
「声っ、声でかいって。わかった、謝るよ。ごめんごめん」
「誠意がこもっていませんね。どうやらまだ私のことを見下しているようですが、いいんですかぁ? 地獄が見えてきましたよぉ? 今ならたったの三億年!」
「通販みたいに言うな、っていうか一億年増えてんじゃねーか」
彼女は腕を組んだまま椅子から立ち上がり、ふんぞり返ってほくそえんでいる。
くそ、ちょっと優しくしたらこれだよ。
こいつの声がデカいせいで周りの視線も痛い。
「さあさあ、ほら早く、地面に額をこすりつけるのです。知っていますか、額を地にこすりつけて許しを請うのが日本の伝統なんですよ。さあさあ!」
いやそれもっと大事な時の謝罪。
でも許されなったら俺地獄行か。
やるか、やるしかないのか。
「あのー、お客様。申し訳ないのですが店内ではお静かにお願いします」
「あっ、はい。すいませんでした」
彼女はすっと席に座った。
「……とにかく、私はまだこっちについて断片的な知識しかありません」
確かに。
人間観察は随分得意なようだが援交の意味が分からなかったり、デパートで迷子になったり。
かと思えばスノーバックスではなんちゃらチョコチップなんちゃらフラペチーノなんちゃらかんちゃら注文するし。
知識の偏りがひどいのだ。
「だからオウシキには私をサポートする義務があります」
「おい、俺を生き返らせたのはお友達を幸せにするためじゃないのか。今の発言はアウトだろ」
「私も友達です」
つーかずるずるうるさい、そのナンチョカカンチョカチョコチップフラペチーノ何たら。
「さっき俺のこと賤民とか言ってたろ」
「賤民だから友達にならないなんて言ってません。女神って慈悲深いんですよ、知ってました?」
へぇー、今知りました、たった今。
嘘です。
ほんとは女神は慈悲深いもんだと思ってました、たぶん物心ついたころから。
でもあなたに出会って知りました。
女神に慈悲なんてない。
「地獄……」
「女神さまの助けになれることが私めの天上の喜びにございます」
「よろしい」
彼女は満足げに腕を組みなおした。
ったく。
まだ転生して半日も立ってないのにこのざまだ。
天界からついてきた付録がお荷物過ぎる。
今のところ美少女になった意義がほとんど感じられないし。
ねっとりした視線で見られただけだし。
はぁ。
俺のJKライフ、始まってもいないのに早速苦境です。