第二十九話 電車でラノベ読んでたらエロい挿絵のページになってつらかった件
「何読んでるんですか?」
今週の学校も終わり、今日は土曜日。
俺はリビングでラノベを読んでいた。
この手のものは前世でも読んでいたのだが、めんどくさいオタクタイプの俺はメジャー作品を避けるきらいがあった。
せっかく蘇ったことだし、人気作品も読んでみようと平積みから手に取ってみたのだ。
「えーっと、『陰キャ高校生の俺が異世界転生したら最強スキルを手に入れたけど、コミュ障過ぎて一匹狼やってます』だって」
「なんて?」
まあそうだよね。
長いよねタイトル。
最近は短いのも増えてきたみたいだけどね。
「なんでこんなに長いタイトルなんですか? 若干ネタバレしてますし」
「俺は作家でも出版社の人間でもないからあくまで推論だけど、発見されるためだね」
「発見?」
「うん。ライトノベルって結構ネット発祥のものが多いんだ。誰でも登録できる投稿サイトみたいなのがあって、そこで人気が出ると正式に出版できたりするらしい」
「ほうほう」
レビは相槌を打ちながら俺の隣に腰かける。
近い近い、緊張するわ。
「ででで、でもそのサイトにはラノベ作家を夢見る人が山のようにいて、毎日山のような作品が更新されるわけ。そうなるとタイトルで内容を大々的にアピールしていかないと読者が集まらないってこと」
「なるほど。戦略だったわけですね」
「そういうこと」
裏のあらすじを読み終わったので早速表紙を開く。
が、すぐ閉じる。
「どうしたんです?」
「い、いや! 別に!」
やっべー。
このラノベ最初の数ページにカラーでちょいエロいイラスト付いてるタイプのやつだった。
レビはこういうの苦手だったはず。
既に地に落ちてる評価が下限突破してブラジルの人聞こえますかしちゃう!
「い、いや、やっぱ自分の部屋でじっくり読むわ」
「ん? なんでですか?」
彼女は何とかラノベの中身を覗き込もうとこちらに身を寄せてくる。
今日に限ってなんでこんなに積極的なの!?
当たってる! 当たってるって!
何この最高のシチュエーション。
これなんてラノベ?
女神と始めるJKライフ!です。
「レビのためを思ってだから! マジで、あっ!」
やべっ、落とした!
咄嗟に手を伸ばすものの、レビが俺に乗りかかって先に本を拾った。
すっごいドキドキしました。(作文)
「どれどれ」
あーあ。
終わったな。
「ほえー、イラストもついてるんですね」
「あれ、大丈夫なの?」
「何がですか?」
レビは本当に何のことだかわかっていないようで、口を結んで首をかしげる。
「そのイラストとか、どう思う?」
風呂に入ってるヒロインやモンスターの吐き出した液体で部分的に服が解けている女盗賊のイラストだ。
ちなみに俺は何も感じない。
いつからか二次元は白黒じゃないとヌけない体になってしまったのである。
「あー、なんかセンシティブですね」
あれ、それだけ?
「レビってこういうの苦手じゃなかったっけ」
「あー……。私が苦手なのはリアリティのあるものなので。これはなんというか、妄想駄々洩れというか」
「やめて差し上げろ」
妄想だからいいんだよ。
現実にこんな髪色の奴いないし、こんな胸デカかったら絶対処女じゃない。
……。
レビも負けてない気はするが。
彼女はぺらぺらとページをめくり、プロローグの部分を開く。
え、一緒に読むの?
『人生って何で決まると思う?』
「顔ですね」
「神のいう事ではない」
『金? 顔? それとも学力? 俺にいわせりゃそんなもんオマケだね』
「いわせりゃって、勝手に言ってるだけですけどね」
「まあプロローグだし」
『答えはコミュ力。これがあれば人生大抵何とかなる』
「あながち間違いではないですね」
「正しいところは認めていくスタイル」
『実家が金持ちでも顔がそれなりでも勉強ができたって人生がうまくいくとは限らない。なぜならコミュ力がないから。ソースは俺』
「母体数一の調査の結果って信頼度低すぎません?」
「ソースはおたふく」
「二点」
「十点満点だよね?」
プロローグを軽く読み飛ばし、とっとと次のページに向かうレビ。
俺まだ読んでんだけどなぁ。
プロローグとか独白って作者の自己陶酔が垣間見えて面白いんだよ。
『「危ない!」 考えるより先に足が動く。気付けば俺は道路に飛び出し。少女の背中を押した。右側からクラクションの音が聞こえる。 ――ああ、死んだわ』
「これいつ面白くなるんですか?」
「導入で飽きられたら作者もたまったもんじゃないよね」
「面白い導入で読者を引き込むのが物書きじゃないんですか?」
「ぐうの音も出ない」
『「ん……、ここは?」 目が覚めると俺は見知らぬ森にいた』
「そんなことはあり得ませんね」
「すごい説得力」
『とりあえず歩いてみるか』
「切り替え早くないですか?」
「それこそ飽きられるからね。無駄なパートが長いと」
その後もレビの茶化しは続く。
俺はなぜかひたすらフォローにまわることになってしまいましたとさ。
『「誰あんた、見ない顔だけど」 そこに立っていたのはかわいらしい女の子。手にはその容姿に似つかない武器が握られている』
「言葉わかるんですね」
「神の御加護だよ、多分」
『「きゃあ!」 「危ない!」 モンスターに襲われそうになったミラを救おうと手を伸ばした。その瞬間、モンスターは跡形もなく消えていた』
「モンスターを見ておびえたりしないんですね。つい最近まで喧嘩もしたことなさそうなのに」
「ミラちゃんを助けたいという思いが上回ったのさ」
「きも」
「つら」
『「あんた何者?」 「何者、って……」 ただのコミュ障高校生なんだけど』
「なんか腹立ちますね」
「本当に何物でもないやつがカッコつけてるからだろうね」
『「ワオ! その服すごく珍しいデスネ! 高くするのでぜひ譲ってクダサイ! 金貨十枚でどうデスカ!」 「金貨十枚!?」 「なんだよ大声出して。そんなにすごいことなのか?」 「すごいなんてもんじゃないわよ! 私たちが一生働いても稼げないくらいに!」 まさかこの制服にそんな価値が付くなんて。初めて高校に感謝することになったな』
「都合いいですね」
「……チート無双系だし、ね?」
『「あんたのどこが、えっと、その、コミュ障?なの? 全然喋れてるじゃない」 確かに。一体なぜだろう。ミラとは面と向かって普通に喋れてる。彼女から漂う独特の安心感みたいなものがそうさせているのかもしれない。 「ミラだからかな」 「なっ!? 何言ってんの!」 彼女は顔を赤く染めて大声を張り上げた。やばい、怒らせたかな。 「ま、まあ? あんたみたいなやつにそう言ってもらえるのは悪い気はしないけど……」 「ん? なんて?」 「何でもない!」 「いてっ!」 なんだよ、急に殴ることはないだろ』
「ツッコミ待ちですかね、これ」
「一つ言えることは暴力ヒロイン反対」
『「いてっ」 「きゃっ」 いてて。何かにぶつかって倒れちまった。ん? この感触はなんだ? 暖かくてやわらかくて気持ちがいい。 手のひらに感じるこの突起は、ん? 突起? 悪い予感がした俺はゆっくりと顔を上げる。 そこには顔を赤くしながらわなわなと震えるミラの姿が。 これは、まずいのでは。 ミラが握りしめたこぶしを振り上げた。 「待ってくれ! わざとじゃ」 「最低!」 「いってぇぇぇ!」』
「暴力ヒロイン、でしたっけ」
「これは正当な暴力です」
「ですよね」
「羨ましいので死ね」
レビはライトノベルをぱたりと閉じた。
なんという虚無顔でしょう。
「まあなんというか。私は初ラノベですのであくまでこのライトノベルについての感想を述べますね」
「うん」
「面白くない」
「いっちばん残酷」




