第二十六話 Автома́т Кала́шниковаをご賞味あれ
「FPSやりましょう」
「はい?」
「引きこもりだったくせに知らないんですか? First-person shooterですよ。 マジで何してたんですか」
いやそれは知ってんだよ。
めちゃめちゃ見てたからね、実況。
武器とかほとんど知らないけどね。
「知ってはいるけどなんで突然?」
「何でもかんでも理由を知りたがるのは現代人の悪い癖です。心の向くほうに行きましょう」
「何十億年も生きてるババアが言うと説得力が違いってててて! ごめんなさい! ごめんなさいって!」
女子の肩パンの威力じゃないって。
左肩吹っ飛んだかと思ったわ。
「じゃあさっそくやりましょう、買って来たんで」
彼女はpray sacred 4を起動させる。
普段からスタンバイモードばっかりで電源ほとんど切ったことない人―! はーい!
つーかパソコンじゃなくてテレビでやるんだな。
「じゃあさっそくオンラインに」
「いきなり!? 練習しない?」
「そんなこと言ってるから引きこもりなんですよ、やりながら慣れましょう」
暴論だが何も言い返せない。
悲しみ2020。
ゴウゴウと不穏なBGMとともにオープニング画面が現れ……おい、まだ見てたのに。
オープニング飛ばすとかマジナンセンス。
つーか初回の説明とかないんだな、不親切なゲームだ。
「二人で組めるの?」
「duoっていう二人組モードがありますけど、kvartetっていう四人組モードが一番人気です。どっちにします?」
なんだそれ、クゥバルテット?
何語? せめて英語にしてくれ。
「duoで」
「チキンですね」
は?
別に他の人とチーム組みたくないわけじゃないし?
怖くないし? は?
「キャラ選択しましょう」
「性能が違うのか?」
「多少ですけど」
画面には八人のキャラが並んでいる。
スマートイケメンにスレンダー美女、筋肉ダルマ。
レパートリーに富んでいる。
俺は迷った挙句、身軽そうな金髪ショートの女の子を選んだ。
「かわいいですよね、そのキャラ」
「や、別に見たんで選んだわけじゃ」
「関係ないですけど私RPGで女主人公選ぶ男の人、生理的に受け付けないんですよ」
関係あるし、選択の自由をくれ。
「つーかレビもイケメンキャラ選んでんじゃねーか」
「私は女だからいいんです。女性が男キャラ選んでても抵抗ないでしょう?」
「お前それネットとかで言うなよ?」
絶対燃えるから。
「女性専用車両もあるし、レディースデーもあるし、女性は一人旅に行っても、ヒトカラしても気持ち悪がられない。それでも我々は女性の地位向上を謳い続けます」
なんでそういう言い方するかね。
論点がずれてるのよ、そういう事じゃないのよ。
世間のフェミニストが主張しているのは。
あれ、でも俺今女性か。
女性の地位向上、謳います。
「武器どうします?」
「選べんの?」
「十個くらいの中から選べます。強い武器はフィールドで拾っていく感じですね」
おお!
やっぱ銃ってテンション上がるよな!
男のロマン!
全然詳しくもないし、今俺女の子だけど。
「……全部拳銃じゃねーか!」
「そりゃそうですよ。いろいろ選べたら戦力差でますから」
よくわからんからデザインで選ぶか。
「おおー、コンバットマグナムですか。オウシキにしてはいいセンスです」
「え? S&W : M19って書いてあるぞ」
レビはやれやれというジェスチャーを見せる。
「それは正式名称、通称がコンバットマグナムです。アンパン三世の二次元小介が愛用しているもので……」
またうんちくが始まったな。
まあずっと暇で人間界見てたっていうし。
俺も二次元小介うんちくあるよ。
煙草の銘柄パールメール!
「レビは何にしたの?」
「私は断然グロック18です」
「ほえー、強いの?」
「弾切れするまでずっと撃てます」
「おい、先に言えや」
俺もそれが良かったわ。
身に着ける装備なんかは選べないらしく、早速ゲームが始まった。
「お、これヘリから降りるタイプ?」
「そうです。どこにします?」
「じゃあここにしよう」
俺は飛行機を降り、倉庫っぽいものが立ち並ぶエリアに着地。
できなかった。
「おい! これパラシュート、なんか柱に引っかかった!」
「あははははは!」
「レビ、おい!」
「はっははは! あは、あははぁ、ふっ、ははは!」
「笑ってないで降ろしてくれよ!」
「し、知りませんよ、そ、ふふっ、そんな間抜けなの始めてみましたよ!」
俺がくねくねもがいている間に何処からか敵が現れ、ガンガンに撃たれている。
「死んじゃう死んじゃう! ヘールプ!」
「ははははは!」
ツボに入ってしまったようで、腹を抱えてソファから崩れ落ちている。
だめだこれ。
二人そろって(実質)戦闘不能に陥った我々は、見るも無残に惨敗。
操作方法を覚えることすらできなかった。
「なんだよこれ、柱に引っかかるなんて聞いたことねーよ」
「私も始めて見ましたよ。そんな器用なことできるんですね」
確かにリアリティという面ではすごいかもな。
いらねーけどな、こんなリアリティ。
「第二戦行きます?」
「これじゃ納得できねーわ。もう一回やろう」
キャラと武器を選び、再びスタート。
あ、拳銃変えるの忘れた。
まあいっか。
「次レビが決めてくれよ、降りるとこ」
「じゃあここにしましょう。ぼちぼち武器があって、敵もそんなに来ないのでお勧めです」
「レビさあ、このゲーム先にやった?」
「降りてください」
無視かい。
まあいいんだけどさ。
初めてのはずなのにすぐ起動できたし、ゲームの説明も出なかったしおかしいと思ったんだ。
「初めてなのにセンスあるーって言われたかったのかな」
「ぶっ飛ばしますよ」
過激ー。
「そういうのは一ミリでも貢献してから言ってください。現実同様ゴミで終わるつもりですか」
「現実では人間よ?」
「ギリですけどね」
ギリなの?
「ほら今度はちゃんと降りられましたか?」
「うん」
山奥の民家に着陸し、周辺を漁る。
「おお、銃だ。これどうやって変えるの」
「拾ってメニューです。何拾いました?」
「えーっと、ワルサーP38?」
「あー強いですよそれ!」
「ほんと? でもせっかくならもっとでかいやつが良かったな。これハンドガンじゃん。あ、これは? からし? 辛いの?」
「あー、それは弱いんで捨ててもいいですよ。私まだ武器ないので貰ってもいいですか」
「いいけど……。これほんとに弱いの? かっこいいのに」
なんか形もかっこいいし、おっきくて強そうなのに。
回復アイテムも拾い、万全の状態で戦場に向かう。
「なかなかいいんじゃないか?」
「調子乗らないでよく周りを見てください、音も。どうせ撃ち合いじゃ勝てないんだから」
きびしい……、さげぽよ。
「ほら敵ですよ! 隠れて!」
おお、FPSっぽくなってきた。
建物の陰に隠れ、敵を確認。
相手はおそらく二人、つまり1チームである可能性が高い。
フィールドは屋外、しかし民家の周りでの交戦であるため屋内から攻撃される可能性もある。
相手もこちらに気付いているようで、どこかに隠れてしまった。
「家の中入りましょう。中のアイテム拾われたらまずいので」
少し不用意な気もするがまあいいか。
戦わないとゲームしてる感じしないしな。
「足音するな」
「上ですね。やりに行きましょう。せっかくですから先どうぞ」
「え、なんで」
「いいですから」
仕方なく先に上がり、ゆっくりと敵の姿を探す。
と同時に敵の凶弾が俺の肩をこする。
「いたぞ!」
俺は階段側に下がり、2対2の構図を作ろうと試みる。
だが後ろにレビがいるか気にする余裕はない。
戦場において一瞬の油断が生死を分ける。
信じるしかないのだ、仲間を。
俺は信じる、レビを。
マシンガンらしきものから連続して銃弾を飛ばす相手に対し、俺のP38はハンドガン。
いつの間にやらライフも残りわずか。
チャンスは実質一発。
もう一人はレビに任せよう。
敵は……。
来た、リロード!
素早く銃を構え、頭部に向けて銃口を構える。
そして……。
バババババ!
倒れているのは二人。
立っているのは。
俺とレビ。
勝った!
けれども。
「なあレビ」
「はい」
「俺にキル数入ってないし、手ごたえもない」
「でしょうね。私のキルですから」
「ですよね」
「はい」
「その武器……めっちゃ強いね」
「はい、カラシニコフ」
「からし、絶対ワルサーより強いよね」
「P38は名銃ですよ。アンパン三世愛用です」
「でもあんまり強くないよね」
「まあそうですね」
「嘘ついたよね」
「ハンドガンで戦場に向かっていくの超格好良かった(おもしろかった)ですよ」
「空耳かな?」
「カラシニコフ欲しかったですし」
「絶対そっちの方が強いよね」
「まあカラシニコフも名銃ですから。正式にはAK-47と言います」
「それめっちゃ人気あるやつだよね、俺でも知ってるんだけど」
「……てへぺろ!」
そして俺は彼女の頭を貫いた。
 




