第二十四話 打ち上げの語源を知りたい
「球技大会総合二位を祝して、かんぱーい!」
高校初行事を無事終えた俺たちは、打ち上げと称してファミレスのパーティルームに来ていた。
は?
二位のくせに祝うな?
一位になる理由は何があるんでしょうか?
二位じゃダメなんでしょうか?
しかし楽しみだなぁ。
前世ではこういうの参加したことないから。
「ああ腹が立つ、腹が立つ」
なに? 羅刹女?
週刊少年ジャンピング読んだ? 『アクトレス』読んだ?
天性の才能をもつ主人公が演技を通して周囲の人間と、そして自分と向き合っていく傑作。
個人的には『スラムジャム』と『天国教師む~も~』に並ぶ名作だ。
俺的には『理科室のリーパー』と『ツインアーツ』も最高だったんだがなぜか打ち切りに……。
誰に話してんだ、俺?
「私の芸術的パスが全部無駄に」
「レビのパスは鋭すぎるんだよ。俺らが取れるわけないだ」
「美しく勝てなきゃ意味がないんですよ」
はぁ、これだからガンナーズファンとバルシロニスタは。
世の中勝てば官軍なんだよ。
「いやー、でも女神ちゃん頑張ってたよ」
「イリヤマもぼちぼちでしたよ」
「ぼちぼちかーい!」
笑顔でツッコミを入れる杏子。
かわええのう、癒しよのう。
ああ杏子。
どうして君は彼氏持ちなの。
あゝ無情
ええいああですわ。
クラスの打ち上げと言っても結局はいつもの仲良しメンバーで集まることになるのだ。
正面に杏子、その隣にはレビ。
二人が僕の隣ではなく対面に座ったことにショックを受けたりなんてしていない。
絶対に。
それに二十人掛けぐらいの名がテーブルで端に座れたんだ。
幸運だ、むしろ幸運。
問題は。
「うぇぇぇーーい!」
隣が陽キャ男子だという事である。
「いやぁ、ほんと笑ったわ。オウシキちゃんって運動音痴だったんだなぁ。できそうなのに」
「あはは……」
運動能力は前世のままなのに……。
「あれな! マジで笑ったわ!」
チッ、うるせーな。
反省してまーす。
つーか東君はまだしも隣の金髪チビ誰だ。
……久瀬だっけ?
大して仲良くもないのに笑ってんじゃねーぞ。
「あれ、翔祐オウシキちゃんと仲いいん?」
「いや、そんなに、ははは!」
はははじゃねーわ。
なんだこいつ。
「ごめんね、こいつノリウザくて」
レビの隣の扇美君が手を合わせて謝ってくれた。
これが真の陽とパリピの違いか。
「いやー、しかしあんなに下手だとは!」
おい久瀬、今扇美君が収めたところだろうが。
「もうやめてよー」
俺は冗談めかしているものの、この時点で若干イラついていた。
「ドッジも下手だったしなぁー」
「おめーも大して活躍してねーだろ!」
東君は陽気にツッコんでいるが、ちらちらとこちらを伺っている。
潤滑油ポジションはつらいな。
「そうだぞー? 今日いたっけー」
「おい!」
意外と辛らつだな、杏子。
つーか、おい!って。
つまんねーツッコミ。
発展性がないわ。
「てか今日の俺どうだった? ほれた?」
東君が俺たちを見て問いかける。
あー、でも意外とかっこよかったんじゃないか。
やっぱりサッカー部だなって思った。
「かっこよかったよ」
俺が顔を覗き込んでそういうと、彼は少し照れたように見えた。
「うぇーい! かっこいい頂きました!」
誤魔化すようにテンションを上げてハイタッチしている。
「なにー? 東照れてんじゃーん」
杏子がにやにやしながら彼を煽る。
ふっ、悪いなアズマックス。
俺は杏子一筋なんだ。
今のところ。
「スルーパス……」
レビはいつまでへこんでんだよ。
「つーかオウシキちゃんなら彼氏とかいるんじゃないの? かわいいし、いい子だし」
おうおう褒めてくれるじゃねーか。
「えー、私も気になるー!」
俺は君の彼氏の方が気になるー!
「いやいやそんなのいないから」
「ほんとー? じゃあ気になる人とかいないの!」
あーあー、杏子の面倒くさいスイッチ入っちゃったんじゃないのこれ。
アズマックスも興味津々な顔するな。
「いないいない」
俺は両手を振りながら答えるが疑惑は晴れない。
「じゃ、じゃあ今までは?」
お前もそっち側か東。
助けてくれた方がポイント高かったぞ。
「私まだそういうのわかんなくて」
「かまととかー?」
あ?
久瀬、殺すぞ。
久瀬っていうかクズだな。
「ほんとだって」
「いやいやお前みたいなタイプが一番遊んでるんだって!」
「おい、そんな言い方ねーだろ」
ほらー、マックスちょっと怒ったじゃん。
杏子と扇美君はそんな俺らを呆れ顔で見ている。
合コンのノリについていけずこっそり抜け出してホテル行くやつらかお前らは。
ていうかレビは何してんだよ。
「んまい」
辛めチキン食ってるよ。
それ小学生ではまるやつだから。
手がぎっとぎとになるから高校くらいからみんな避けだすやつだから。
「レビ、何とかしてくれよ」
「楽しそうでいいじゃないですか」
「それよりこれ旨いですよ」
知ってるから!
ナポリ風ドリアは皆通った道だから!
「正直に言えばいいじゃないですか、お気に入りはイリヤマって」
「おいなんで知って……、いや違うからね?」
「なーに、内緒話?」
「ううん全然!」
君のことさ、とか言えない。
そうこうしているうちに打ち上げは終了し、レビとともに帰途に就く。
俺たちは電車に揺られながらスマホをいじる。
「なあレビ」
「なんですか」
「打ち上げってつまんないな」
「そうですか? おいしかったですよ、小エビのサラダ」
「ついに本家と同じ名前のやつ」
「本家?」
「何でもない」
「それにな、自信なくなってきたわ。」
「何のですか?」
「女子高生やっていくの」
「五月病ですよ」
スマホから目を話すこともなくバッサリと言い切る。
「それに明日から休みなんですから。そこで切り替えたらどうですか」
「……そうだったな、そうするよ」
「それよりこれ見てください」
彼女はスマホをこちらに向ける。
「ひまじんのサークル?」
「はい、学生用アプリみたいです。やってみませんか」
「なんで?」
「まあまあいいじゃないですか」
「じゃあ、家帰ったらな」
俺はとてつもない嫌な予感を抱きながら、再び電車に揺られるのであった。




