第二十三話 謝罪は時に人の心を傷つける
球技大会二日目。
第一種目のバスケで二位に入り、ドッジボール七位というとんでもないハンデをひっくり返して優勝圏内に立った我ら一組。
なぜだかバスケは見てるのがつらかった。
愛しの杏子が頑張ってるのを見るのは実にいいものだった。
しかし男子勢の活躍は見ててつらかった。
なぜか?
答えは簡単である。
扇美君とか東君みたいな陽キャ軍団が活躍するのは一向に文句はない。
当然だからね。
はしゃいでっからね。
今回バスケで活躍したのはゴリマッチョ刈谷君、クールメガネ韮崎君、野球部主力のくせに坊主じゃない波止場君。
この三人はスペック的には超陽キャのくせに目立つことを良しとしないなんか一番いけてるやつらなのである!
一番モテるタイプなのである!
俺が転生したかったのはこういう感じである!
やる気ありませんけど?みたいな顔して大活躍したかったのである!
こういう奴に限って漫画オタクだったり、ラジオリスナーだったりするんだ!
だから陰キャ勢からも嫌われない!
ずるい!
嫉妬である!
醜い!
……。
取り乱した、失礼しました。
ちなみにバレーボールは一位でした。
昼食を取り終え、午後の最終種目。
サッカーである。
懸命な読者様ならもうお分かりだろう。
間違いなく優勝である。
だってレビだもん。
だってサッカーだもん。
無双確定でしょ。
「よし、準備はできました」
ほらもう違うもん、クラTじゃないもん、赤白ユニフォームだもん、ガンナーズだもん、背番号十だもん!
「クラTはどうしたんだよ」
「忘れました」
さっきまで着てただろ。
着てたことを忘れたの?
「大丈夫、オウシキが心配しているようなことにはなりませんよ」
「というと」
「せっかくの高校初行事を一人の力で終わらせるようなことです」
わかってたのね。
だとしたらバレーで全得点取るのはやめて欲しかったな。
「私のお気に入りはミスト・オジルですよ。ガンガン点を取る選手ではありません」
確かに彼はゲームメイカーだけども。
「オジルみたいにプレーすんの?」
「完コピしますよ」
……それ、大丈夫か?
「だぁぁぁぁ、クソ!」
いつもの敬語は何処えやら。
荒れるレビ。
「そりゃあな、本物のオジルと同じクオリティのパスをしてただの女子高生が取れるわけないだろ」
レビの活躍は見る人が見れば一瞬でその才能に見ほれるほどのものだった。
まあ神だからね。
左足から繰り出される異次元のスルーパスを筆頭に、エレガントなドリブルはまるで貴族の行進の様だった。
そんな神業にクラスメイトの女子たちが反応できるわけもなく、まして俺も反応できるわけもなく。
レビの神パスはあたかもミスのように扱われていた。
「何がレビちゃん調子悪いねですか! 気にしないでですか! こっちのセリフですよ!」
「しょうがないだろ。オジルの調子いい時のプレーなんてガンナーズでも異次元なんだから」
「とりあえずチームメイト全員ぶっ殺してうまいやつ連れてきますね」
「とりあえずで日本史上に残る事件起こすのはやめて」
今のところ男子の頑張りもあって三戦三勝、総当たりを首位通過。
勝っているからいいものの、これで負けたりなんかしたら本格的に不機嫌になる恐れがある。
そうなればこいつの殺戮を止められないかもしれない。
次の決勝戦。
俺が、俺がやるしかない!
対戦相手は四組。
男子は学年のエースとキャプテン候補がいるらしく明らかに分が悪い。
最初の五分、女子の時間帯でリードを奪っておきたいところだ。
相手のクラスには珍しく女子サッカー経験者もいるらしいが、それはレビが何とかするだろう。
しかしこの読みは甘かった。
サッカー好きな読者ならお分かりかもしれないが、オジルは決して守備の得意な選手ではない。
そしてレビは凝り性。
真似するといったら完璧に真似をする。
「ゴー―――――ル!」
「レビてめぇ! 守備もやれ!」
「私はトップ下ですから」
「現代サッカーに守備免除などない! だからオジルは終わっ……」
「オジルは終わってません」
「終わってないね、全然終わってない!」
試合は2-0。
残り二分。
まずい、少なくとも一点差では終わりたい。
レビは相変わらずだし、ほかの女子はいまいちやる気ないし。
まあサッカーなんてそんなもんか。
これで終わっても総合二位だしね。
立派。
……。
それでいいのか?
否。
「皆……」
に呼びかけてもダメか。
所詮素人、プレーで引っ張った方が早い。
俺はレビに近づき、こっそりと耳打ちする。
「レビ、俺だけ見てろ」
「え……あ、はい」
……。
なんで顔赤いの?
こっちが恥ずかしいんですけど。
こいつ意外とこういう耐性低くない?
ちょろくない?
お父さん心配。
俺はボールをセンターサークルにセットし、バックパスをして試合を再開。
鶴井さんがレビにボールを渡す。
と同時に僕はディフェンダーの裏に抜ける。
まあオフサイドとかないからこんなの意味ないけどね。
その瞬間、完璧なタイミングで低い浮き球のパスが足元へ。
それを俺がトラップし、右足を振りぬく!
ボールはゴール右隅に突き刺さって!
ない!
なんで!
「……オウシキ」
レビは心底悲しそうな顔をしながらゴールの奥の方を指さす。
そこにはサッカーボールが転がっていた。
「クソッ、外したか!」
「いや、外したっていうか……」
「もう一回だ!」
「いや、でも……」
「次は絶対決める。信じてくれ」
「は、はい」
俺たちは何度も何度も繰り返した。
裏抜けとスルーパスを。
彼女がオジルなら、さながら俺はカジィポン。
圧巻のホットライン。
しかしやはりシュートというのは難しい。
俺はゴールを割れず、女子の部は終了。
後は男子に託すしかなかった。
「ごめん東君、点取れなかった」
「おけおけ、任せろ! 面白いものも見れたし!」
面白いもの?
「最高だったぜオウシキちゃん! トラップ失敗してボールどっか行っちゃってるのに、シュートするの!」
は?
振り返るとレビが申し訳なさそうに目をそらす。
え?
シュートミスしてたんじゃなくて、そもそもパス受け止めれてなかったの?
なのに毎回シュートしてたの?
鶴井さんはいつもの八方美人偽物ニコニコではなく、ガチの笑いをこらえながら俺にグッドサインをする。
「最高! ふふっ」
レビはまだ目を合わせてくれず、なぜか申し訳なさそうな顔をしている。
「難しいパスしてごめんなさい」
え?
レビって謝ることできたの?
つーかつらい。
「転生時にもっと運動能力あげておけばよかったですね。こちらの不手際です。本当に申し訳ありませんでした」
つらい。




