第十八話 チトーにはなれない
昨日俺たちは担任の松原にクラスTシャツのアイデアをまとめる任務を仰せつかった。
そして彼女の予想通り、運動部の連中が先輩からクラTの話を聞きつけていた。
今日は六限を使って球技大会の種目決めとTシャツのデザイン決め。
実行委員の『おせっかいおばさん』小谷さんと、『イケメンスラッガー』波止場君の力もあり、出場種目は予想に反してすんなり決まった。
残すは。
「えっとー、ても、手元に資料はいきわたりましたか」
うぃー的な適当な返事が返ってくる。
「で、そこに、クラスの、えーっ」
「なんですか? カンペ見て喋る国会議員ですか? 質疑否応答ですか?」
うっ、うるさい! 緊張してんだよ!
皆の前で喋るなんて初めての経験なんだ。
大目に見てください。
「えーっと、そのカタログに載ってるデザインの……」
喋ってるのに意識が飛んでいるような感覚だ。
頭は真っ白、どこから言葉が出ているのかわからない。
「時間切れ狙いですか? 与党ですか? 残念、あなたは人類の野党です」
おいなんだ。
なんかむかつくぞ。
ええい、やけくそだ!
「とにかく、そのカタログからこれがいいなってデザインがあれば言ってください!」
うっし、クリア。
「はーい! このサッカーのユニフォームみたいなやつがいいでーす!」
早速東君が意見を出してくれた。
こういう時もしっかり意見を出してくれるから彼のことは嫌いになれない。
普段ははしゃいでるくせに、こういう時はだんまり決め込むエセ陽キャは本当に嫌いである。
ええ、本当に。
「うーん」
だが意見の方はどうも芳しくないようだ。
レビ含め、クラスの三分の一くらいは微妙な顔をしている。
三分の一はそれでもいいかな的なスタンス。
残りの三分の一は……。
著作権に抵触しそうなボケはやめておこう。
「アズマリアン」
誰だよ。
そんな呼び方してたの?
「なんだいレビちゃん」
「このレプリカみたいなやつ、クラT感なくないですか?」
うなずくクラスメイト達。
随分まともな意見するじゃないか。
「えー、かっこいいのになぁ」
「それにこれ、アルゼンチン代表とバルシロナモデルですよね」
片方は白と水色のストライプ、もう片方は赤と青のストライプ。
レビの言う通りだ。
「ありえませんね。赤と白にしましょう」
結局自分のひいきチームのユニがいいだけじゃねーか。
そんなこったろうと思ったよ。
「でもクラTらしさがないという意見はその通りだと思う。他のやつにしないか?」
「これなんかどう?」
隣にいた小谷さんがカタログを指さす。
真ん中にはデカデカ唐辛子。
某激辛お菓子のパッケージをパロったデザインになっている。
「おー、いいんじゃない」
クラスメイトの反応も上々である。
そしてこの辺りで気づき始める。
クラTとか心底どうでもいい、と。
マジ興味ない。
普通に帰りたい。
そもそもサッカーのユニフォームだろうがお菓子のパロディだろうが、クラスらしさなんて皆無である。
皆で着てればパジャマだろうがビキニだろうが一体感なんて生まれるのである。
絶対やだけど。
どうやら興味がないのはレビも同じようであり、あくびをしながらスマホをいじっている。
「おいレビ、どうすんだこれ。俺微塵も興味ないんだけど」
「同感です。ぱっぱと決めて席替えに移りましょう」
そうと決まれば。
「よし、じゃあ賛成多数という事でこのデザ……」
「あのー」
手を上げたのは上野さんことふわふわ天然。
間違えた。
ふわふわ天然こと上野さん。
余計なこと言うなよ、マジ頼む。
「絵がうまい人に書いてもらえばいいんじゃないかな、クラTのデザイン。そしたらクラス感も出るとおもうー」
「おお、いいねー!」
「それ賛成!」
「誰か絵がうまい人いる?」
「扇美やれよー!」
「書けるわけねーだろ」
「内山さんは?」
「え、私は……」
レビはすでにどこからか椅子を引っ張り出して座っている。
俺も自分の席から椅子をとってきて隣に座る。
クラスは端から端まで意見が飛び交っている。
東君も杏子も小谷さんも波止場君も。
置いて行かれたのは二人だけ。
「なあレビ」
「はい」
「俺が陽キャになれないのはわかってくれたか」
「はい」
「それは良かった」
「圧倒的にカリスマ性が足りません」
「言ってくれるじゃねーか」
「世の中顔じゃありませんね」
「悪意を感じる」
「人間に善意を向けるほど落ちぶれちゃあいませんよ」
「ブローカ野バグってんの? レビは結構善意向けてると思うけど」
「はい?」
「最初はクズだと思ってたけど、そこまで悪いやつじゃないよな」
「……」
「照れるとことか」
「殺しますよ」
「すいません」
どうやら意見がまとまったようで小谷さんが俺たちを呼ぶ。
手元には一枚の紙が。
おそらくデザイン原稿だろう。
「こんな感じになったから」
レビと二人でのぞき込む。
そこにはデカデカと松原先生の顔面が描かれていた。
劇画調で。
俺とレビは顔を見合わせ、死んだ顔で同時に言い放った。
「いいね」




