第7話〜絶縁?〜
僕は、公爵と馬車に揺られながら、陛下へ拝顔するために王城へと向かっていた。
「先程までは、何をしていたのだ?」
「騎士団団長と手合のあと、逆刃刀をお売りして、使い方を教えておりました。」
「騎士団長と手合?売ったのか?」
「逆刃刀ですよ。無銘の護身用の刀です。因みに騎士団長には勝ちましたよ。それに、陛下にお売りするものとは格が違います」
「そうか!良いものなのだな?」
「刀には、無銘、業物、良業物、大業物、最上大業物に区別されます。私が陛下にお譲りしますのは、大業物になります。それでも今までの商品とは額が違いますが…。」
「その分、良いものなのだな?」
「これは、素晴らしいものであると確信しております。」
「ならばよい。」
まあ、それも昨夜頼んだのだが…。もう、届いてるだろうか…。
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カウンターに着くにはついたが、誰もいない。イールイは、どこに行ったのか。まぁ、ゆっくりしても向こうの時間は止まったままだから、良いけど。一応、呼んでみるか。
「お〜い!イールイ〜。来たぞ〜!」
「…く…。」
「ん?」
「今行く!ちょっと待ってろ!」
よく見れば、イールイを誰かが引っ張っているようにも見える。若そうな子だな。誰だ?無理矢理その子をひっぺがえすと、一発殴ってこっちへと来た。
「はぁ…はぁ…。わ…悪いな。それで?何がいる?」
「日本刀を用意してほしい。備州長船を頼む。1000万位で。なるべく早めに頼む。あと、7,62mm弾を追加で400セット頼む。」
「日本刀に弾薬だな。了解した。次に来るまでに準備しておく。少なくとも3日は見といてくれ。」
「そういや、前回、僕が来てからどのくらい経った?」
「ん?一週間くらい…か?」
「分かった。いや、なんでもない。じゃあ、またな。」
なるほど、向こうの一日は、こちらだと1週間経過するのか、ということは?向こうの3時間強で一日計算か。なら、王城に向かう馬車の中辺りにでも取りに行くとするか…。
そして今に戻る…。
見に行ってみるか。まだ着きそうにもないし…。
血統スキル発動。『闇市場』
またいないよ…。
「お〜い!イールイ!取りに来たぞ!」
「は〜い!お待ちどう様!」
なんか明るいギャルっぽい女子が来た…。僕よりは年上に見える。僕が苦手なタイプだ。
「親父は、仕事出てるから私が対応してあげる♡こんな若い子が武器なんて買って何に使うの?それより、化粧品とか買わない?」
これだよ。客の素性とか考えを勝手に決めつけて、自分の思ったように話を進める奴が一番苦手なんだよ。商人どころか人として最低だろ。
「結構です。イールイが来るまで待って、商品を受け取って、支払いが終わったら直ぐに帰りますので。」
「えぇ〜!いいじゃん!私知ってるんだよ!君が金持ちだって!お姉さん。親からあんまりお金もらってないんだよね。だから化粧品売ってるんだけど。なかなか売れなくてさ!君は、お金あるんだから。買ってくれるよね?お得意さんなんだから。」
は?意味がわからない。どうして、得意先だと主人の娘の面倒を見ないといけないんだ?理解できない。
「私は、あなたのお父様の商売相手であって、あなたとは面識どころか初対面であるはず。どうして、そんな方のために、金を使わなければならないのですか?」
「それは、私がその娘だからよ。」
「娘だと何かあるんですか?なら、今からイールイにあなたがこう言っていたと仮に伝えたとしても、彼は笑って許してくれるんですか?もし、彼がそうするならば私も金を使うのは吝かではありません。」
「それは…違うけど。」
「ならば、この話はここまでですね?」
「それでも!私は自分の商品を買ってほしいの!」
しつこすぎるだろ、この女。流石に俺もこいつに構うのも疲れてきた。とりあえず、怖がらせるか。
「お姉さん?死にたいの?」
「ふぇ?」
僕は刀を抜き去ると彼女の首元に突きつけた。勿論、逆刃刀だ。唯そんなことには露にも気づいていない彼女はその時になって、ようやく俺がただの少年ではないと気がついたようだった。
「いい加減にしないと、血を見ることになりますよ?お客はね、君の金蔓じゃないんですよ。武器の売買をしている奴の娘なんだ。勿論、自分の命を捨てる覚悟くらいはできてるよね?」
僕は、笑顔満点で刀の腹で彼女の頬を撫でた。恐怖の影響からか、彼女は腰を抜かして座り込んでしまった。そこから急に大きな声を上げて泣き出した。なんだよ、ちょっと脅しただけだってのに、とんだ意気地なしかよ。随分と甘やかされて育ったんだな。
俺は、待ちきれず大きな声を上げた。
「お〜い!イールイ!まだ帰ってないのかー?」
「あんたか!ちょっと待っててくれ!少し片付けしてから行くから。」
帰宅してたみたいだな。彼の言うように奥でガタガタと何かを置く音が聞こえる。ようやく、用事が済む。
「従順そうな子だと思っていたのに、ガキが…。こんなことしてただで済むと思わないことよ。」
横から声がすると思って振り向くとさっきまで泣いてたギャルっ娘が、銃を構えている。ベレッタ92か。センスは悪くないけど、刀を抜いてる相手にそれを構えるってことは殺してくださいって言ってるもんだけど。それに、何なのその持ち方、撃った瞬間に両手を反動で着ることになると思いますけど?
「貴方、わかっていますか?銃を向けてるってことは、殺してくださいって宣言してることと同意だよ?それは、脅しの道具じゃなくて、人を殺す道具だからね?」
「刀で銃に勝てるわけ無いじゃん!馬鹿なの?」
そうか、なら見せてあげるよ。親父に反射神経を磨くためだからとか言われて、強制的にガスガンのウージーを向けられたときにとっさに身に着けたこの技。
【斬鉄閃:アトム・エッジ】
俺は、一太刀で彼女の持ってるベレッタの銃口を横から切り落とした。彼女の手に当てないようにしながら。彼女の目には、トリガーより上がいきなり消えたように見えたことだろう。
「切ったけど?銃が負けちゃったね。それで…どうする?」
僕は、再度刀を構えた。レイピアみたいに突き刺すような構え。そうあの実写化もされたあのアニメの新選組の人も使ってたあの技の構え。勿論、あんなのは使えません。突きで複数人をふっとばすとか現実離れしている。
彼女は、この世のものとは思えないものを見たように、
現実を信じきれず恐怖で顔を引つらせながら、ゆっくりと下がっていく。俺も少しずつ、姿勢を下げていく。俺が刀の柄に手をかけた。あと少しというところで…
「待ってくれ!!」
顔の向きを変えずに目だけで振り向くと、血相を変えたイールイと
「パパ!この人がいきなり!」
あ?このギャル。本気で殺ってやろうか?俺は、殺気を込め刀を握り直した。
「黙れ!!勝手に私の客に応対したかと思えば、こんな状況を作り出しおって!お前には、いい加減に愛想が尽きた。勘当だ!化粧品ブランドのあの店はお前にくれてやるから、この家から出ていけ!ただし、今後一切の人的、金銭的援助はしない。おい!追い出せ!」
イールイの命令に従って奥から黒スーツを着た黒人2名が現れた。体格の良い…。ボディーガードだろうか?彼らは、彼の娘を両側から持ち上げると、外へと引きづっていった。
「待って!パパ!謝るから!お願い!」
「さっさと連れていけ!」
彼女の声はどんどん遠ざかっていった。俺は、刀を仕舞い、イールイに向き直った。彼は、なんとも言えない顔をしていた。
「悪かったな。こんな騒動にしてしまって」
「いや。いつかはこうなると思っていた。私には、2人の息子と3人のいや、今は2人になってしまったが、娘がいた。あの子以外の子供たちには、商売の才能があった。だから、それぞれにブランドを立ち上げる資金と私の人脈を貸してやった。皆成功している。君もいずれ会うことになるだろう。皆、良い子達だ。だが、あの子は違った。傲慢で自分が1番偉いものと勘違いしている。お客を道具のように使い、ブランドはすぐに破綻。借金まみれになり、私に泣きついてきた。どうするか悩んでいたが、君に迷惑をかけたようだから、仕方がない。」
「親父さんのところに行くのではないの?」
「それはない。あいつは嫌われている。味方はいない。」
「そうか…。まぁ、僕には関係ない。商品は届いてるか?」
「ああ。ちょっと待っててくれ。ええと…、これが備州長船だ。約8万3000ドル(1000万円)だったな。銃弾400セットは、これだ。金は…いらない。」
イールイが手渡してきた日本刀は不思議なくらい美しく、どうやってこんな一品を見つけてきたんだか…。
「どうして?」
「銃弾は、詫び費だ。うちのやつが迷惑かけたからな。」
「なら、これだけは受け取ってくれ。」
そう言って僕は、カウンターに10万ドル置いた。
「8万3000ドルでは!?」
「貰うもんはもらっとけよ」
「優しいな。でも、それは商人には無用だ。」
「心配いらない。さっきも見たでしょ?俺は、気に入らないやつには、残酷になれる」
「ふっ。そうか…。それならありがたく頂かせてもらおう。またよろしく頼む。弾薬はいつでも準備しておく。」
「ああ。頼むね。じゃあ!」
僕は、もとの世界へと戻った。あの娘さん確実になんかしてくるだろうな。少し時間を空けようかな。
「グレン殿。王城が見えてきたぞ。」
「なんと…見事な。」
凄い…。本当にその一言に尽きる。立派な城がそびえ立っている。これだけ見ても異世界に来た実感が湧く。ようやく、ようやく王様に会える。
「さぁ。ついたようだ。参ろうか、グレン殿。」
「ええ。起きてバベル。降りるよ。」
「くぅ。」
僕達はアルベルト公爵に連れられて、王城へと足を踏み入れた。
現在の総資産…2億2000万円