第5話〜公爵邸にて〜
「おかえりなさいませ!御当主。ソフィアお嬢様。…こちらのお方は?」
執事服を来たやつが、白髪の老人が訝しそうに僕を見ていた。
「止さないか、彼は客人のグレン殿だ。道中で命を救って貰い無理を言ってご同行願ったのだ。しばらくの間、賓客として我が屋敷にて過ごして頂く。無礼な振る舞いはするなよ。」
「かしこまりました。そのように。」
「グレン殿。取り敢えず、私の自室で話そうか?」
「えぇ。」
僕とアルベルトさんとソフィアさんは、様々な装飾が施された階段を上がり、廊下を進んでいく。彼が部屋を開けるとほぼ同時に部屋から小さな女の子が彼に向かって抱きついてきた。
「おかえりー!パパ!」
「リーシャ…。また、私の部屋に勝手に入ったのかい?」
「む〜。パパが帰ってくるの待ってたの!」
おそらく、アルベルト様の娘さんなのだろう。そして、ソフィアさんの妹であるのだろう。ソフィア様と同様に可愛く、彼女をそのまま小さくしたようだ。ソフィアさんと同じように人形さんみたいに整った顔立ちをしている。
「私は、お客さんとお話をしないと行けないからお母さんのところへ行っていなさい。」
「え〜。」
「リーシャ…。」
アルベルト様は、少し語尾に怒りを込めた。彼女もそれを察したのだろう。
「わかった…。」
「リーシャ、一緒お母様のところに行きましょう。」
「お姉ちゃん…。うん…、行く。」
彼女は、ソフィアさんに連れられ半分泣きながらトボトボと歩いていった。
「申し訳ないな。」
「いえいえ、お父さん思いの良い子ではありませんか。では、入りましょうか…。」
「あぁ。」
彼に続いて僕も部屋に入った。なんと説明すればよいのかもうわからない。まあ、誰もが異世界の貴族として想像する部屋と考えれば良いいかもしれない。ただ、流石は参謀総長だけはある。部屋の中央には、おそらく公国と王国の全体の地図が飾られている。
彼は、部屋の済にあるデスクに着くと僕に前にある豪華なソファに座るように促した。これいくらするんだろう。でも、儲けが出れば俺も買えるかも知んない。ここからは、少し気をはらないと。
「それで、私にお話というのは?」
「あぁ。まずは、助けてくれて本当にありがとう。君が望んだ報酬についても提供するつもりだ。ただ、今のこの国の情勢から鑑みると開店については先延ばしにすることを私は薦める。」
「えぇ。その点に関しましては、同意できます。私も少しは国内が落ち着いてからと考えております。」
「先程君は馬車の中で、より良い武器を提供出来ると話していたな。私に売ってくれたこの拳銃なるものよりも性能が良いものを。」
「えぇ。もちろんです。無論、価格は高額になりますが。」
「それを見せてもらうことはできるか?今この場で。」
「この場でよろしいのですか?陛下や軍部の方々の前ではなく?」
「その銃の威力、性能を図った上で判断する。それに先にも行ったが、私は参謀総長だ。物資、武器の調達は私が陛下より一任されている。私の決定は、陛下の決定でもあるのだ。私が決めた事は、余程のことがない限り覆ることはない。」
「かしこまりました。では、ご覧ください。これが、今この国の状況に最も適切と考えられる武器でございます。呼称は、アークと申します。」
そのまんまAk-47でもいいけど、せっかくの異世界だから格好いい名前がいいよね。それに紛争とかで利用されてて、全世界の武装勢力によって多用されて来た歴史ある大量殺戮兵器だ。一番取り扱いやすい銃だと思うからね。耐久性も高いし、命中率はまぁ…あれだけど。ただ僕がサバゲー始めたときは、テロリストの印象が強かったから無難に64式小銃を使ったよ。
「これの威力はどの程度なのだ?」
「試しに撃ってみますか?」
「良いのか?」
「ええ。実際に使わないとわかりませんからね。」
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そして、今僕らは、敷地内にある訓練場に来ている。ここは通常騎士たちが訓練を行う場だ。ただ、今は、騎士たちも一緒になって試射を見学している。因みに的は、古くなって廃棄処分になった鎧だ。前回の粗悪な鎧と違って一応騎士が身につけていたものだ。
「まずは、私が手本をお見せいたします。銃の上部に御座います照門を覗きながら、引き金を引きます。それだけです。では、撃ってみます。」
僕は、引き金を引絞る取り敢えず単発で。
「ダン!!」
俺の放った弾は、鎧の頭の部分に当たった。貫通した上で弾痕付近は砕けた。この弾、貫通性あるけど対人じゃないと威力分かりにくいんだよな…。そもそも、単発というより連射向きな気がするし。取り敢えず、付け根狙ってみるか。そこから4発同じようにセミオートで撃った。気づけば、鎧は何も残さずバラバラとになっていた。残りは15発か…。フルでいいか。最後だし。トリガーを引絞り、打ち尽くした。結局、鎧を立てかけていた木材も砕け散った。
「以上で手本を終了いたします。どうでしょうか?」
笑顔満点で振り返るとそこには、恐怖に染まった騎士たちと意気揚々とした思いで待つ様子のアルベルトさん。
「素晴らしい…。いや本当に素晴らしい。これがあれば、王国にも勝てるだろう。いや、勝てないはずがない。相手の鎧を木っ端微塵にするのだからな。貸してもらえるか?私も撃ってみたい!」
俺は、弾倉を替えて、アルベルト様に渡した。そこから、教えながら、撃ってもらったが、すぐに感覚を覚えたようで、弾倉一つで扱えるまでに成長を見せた。体格が良いからだろうか。一応、貴族として騎士と訓練をこなしているからだろうか。反動に対してブレることがない。
「なるほど、一発でも肉体に当てれば、即死だな。引きちぎられるだろう。弾倉1箱に何発入っているのだ?」
「これは試験的でしたので、20発でしたが、販売用は30発のつもりでおります。」
「それで、この銃は何丁ほど保有しているのだ?」
「現在、200丁ほど。」
「200!?そ…それは良い。弾はどのくらいだ?」
「4000箱。12万発です。」
「12万!!…ふふ…フハハ!いい…良いぞ!全部買おう。いくらだ?」
「そうですね…。金貨90枚でいかがでしょうか?」
「金貨90枚!?」
流石に高すぎただろうか…。ぼりまくった価格だからな。180万の商品を50倍の9000万で売る奴がどこにいるのか。
「そうか!まだ私に気を使ってくれているのだな。案ずることはないぞ。先にも申したがこれでも私は公爵なのだ。金のことは心配せずとも良い。」
何だ。僕がわざと安く見積もったと思われたのか。あ…あはは。これ、予想を遥かに上回るヌルゲーなのかもしれない。なら、ふっかけてあげよう。正規価格の100倍の1億8000万で!
「それは、申し訳ありません。戦争中とのことでしたので。公爵様に改めて気を使わせてしまうとは。」
「良いのだ。まだ、君は若いのだからな。こういう時には、立場は木にせんでもよいのだ。それで実際のところではいくらなのだ?」
「白金貨1枚と金貨80枚になります。」
「半額近く値引きしてくれていたのか。払おう。」
「ありがとうございます。商品はどちらに?」
「ついてきてくれ。倉庫を案内する。ベルン!金を倉庫へもってこい!」
「畏まりました。御当主。」
なるほど。あの執事長は、ベルンというのか…。それより、本当に100倍で売れちゃった。これ、やばいんじゃない?王国倒す頃には、凄いことになりそう…。
「ここだ!」
そんなことを考えているうちに倉庫へ到着した。
「そういえば、商品はどこにあるのだ?」
「アルベルト様。今からご覧になる私の秘密をお守りいただけますか?」
「秘密か。分かった。神に誓おう。グレン殿の秘密を守ると。」
「理由を聞かないんですか?」
「君には、命を救われている。そこに来て、この国を救うための力を与えようとしてくれた。そんな君を信用しないでどうするのだ。」
「ありがとうございます。少し下がってください。」
僕は、そう言うと血統スキル『アイテムボックス』を発動させた。その中からAk-47を200丁と弾薬4000セットを取り出し、倉庫内に並べた。倉庫内には元々、剣を立てかける棚があったので、そこに並べていった。
「アイテムボックスか…。魔法…ではないなようだな。血統スキルといったところか。となると、ただの旅人というわけでもなかろう。フェンリルもつれているところを見てもな。」
あぁ、バベルのことすっかり忘れてたね。彼は、ここまでの話の中、ずーーーーーーと僕の頭の上に乗っかっていた。寝てたから話に出てこなかったのだけど。
「仰るとおり、血統スキルになります。ただ両親からも理由については聞かされないまま、一人になりましたので、自分が本当は何者なのかについては自分にもわかりません。」
「なるほどな…。いや、この話はここまでにしておこう。今の話は私の胸の中にしまっておこう。陛下にも喋らんよ。さて、支払いも済ませようか。ほら、白金貨1枚と金貨30枚だ。」
「…確かに頂きました。ですが本当によろしいのですか?これほどの大金…。そして、国王陛下にはいつお会いするので?」
「金については気にせんで良い。あれは陛下から軍事予算として頂いていたもの。私の金ではない。そして今日はもう遅い。陛下への拝謁は明日にするとしよう。君の部屋に案内しよう。」
彼との取引は、始まったばかりだ。この国に銃をもたらしたことが、この異世界を大きく揺るがす騒動を生むことを僕はまだ知らない。
王国との衝突はまだ先です。
なのに現在…総資産
1億8000万円
金貨100枚、銀貨8000枚
衝突時はどうなるんだろうか