20話〜馘首〜
「ダージル。飲んでる可能性がある奴らは誰だ?」
「ここにいる、俺ら以外全員ですよ。馬鹿ばっかですから。」
「お前も馬鹿な一人だけどな。」
「え?」
「お前は、根が真面目な馬鹿だ。そういうやつは、将来、大きくなる。期待してるぞ。」
「は…はい!」
「もし、ダージルの予想が的中したらどうするんです?」
「さっきも言っただろう。クビだ。そうなると男性騎士の殆どがいなくなりますが。」
「仕方ないだろうな。規律を守れない騎士なんていらん。最低限のルールを守れんやつは、我が紅蓮商店で働く資格はない。」
俺たちは、そんな会話をしながら、階段を降りていった。俺達がいたのは俺の自室がある4階。酒フロアは、2階。近づくにつれ、騒ぎ声が響いてきた。
「ダージル、ゴーセル。記録する用紙あるか?」
「何に使うんで?」
「記録しておけ。閣下に、伝えるときに正確だろうからな。それにこいつ等の実家に賠償金を請求するときに使えるからな。」
「そんなことできるんですか?」
「おいおい、俺は陛下とも王妃、公爵家とパイプがある。俺に逆らえる人間がこの国にいるのか?」
「将軍ってすごいんすね。」
俺達が2階に到着すると、そこは宴会場になっていた。飲み漁った酒の瓶があちらこちらに転がっている。全員、酔って寝ているようだ。そいつらの顔を一人ずつ確認していくダージルとゴーセル。
「それで?」
「ダージルの予想的中でした。」
「男性騎士23名、揃っています。」
「では、ゴーセル。このことを閣下に伝えて、引き取りに来てもらってくれ。」
「了解しました。」
「ダージルは、上に行って、システィーナ達に女性棟を見に行くように伝えてくれ。」
「何故です?」
「どうして報告に来たのが、彼女たちだけなんだ?」
「まさか…」
「どうせ、化粧品か服に流行ってるのだろう。店長への報告を怠る愚か共は、クビだ。ほれ、さっさといけ。」
「了解しました。」
・
・
・
・
・
それから1時間後…
「店長。父上を連れてまいりました。」
「閣下、お手数おかけして申し訳ありません。」
「いやいや、こちらこそ申し訳ない。こいつ等のこの王都にある屋敷には既に使いを送った。すぐに迎えが来るだろう。謝罪等はどうする?」
「彼らの親に罪は無いので、結構です。その代わり、飲んだ分の代金は頂きたいです。ゴーセル、こいつ等が飲んだ酒の代金を割増して教えろ。5倍くらいにしてやれ。それと売上金も教えろ。」
「了解しました。」
「代金はどの方に請求すればよいでしょうか?」
「私が払おう。」
「良いのですか?」
「結構な金額になるのだろう?」
「ええ。おそらくは。」
「なら、今後奴らを締め付ける材料になる。私にも十分利はある。」
「了解しました。」
「店長。報告します。売上金は、金貨100枚。被害額は、金貨300枚程度かと。」
こいつ等、たいした商売力もねぇくせに飲み漁りやがって!
「被害額は、白金貨8枚として報告書に記載しろ。」
「よろしいのですか?」
「私を怒らせたらどうなるかわからせるためだ。閣下は白金貨3枚お願いします。」
「8枚でなくていいのか?」
「5枚分は多く伝えてください。それと、私が怒りを覚えていたとお伝えください。」
「ああ。これが…白金貨3枚だ。」
「ありがたく頂きます。」
「だが、こうなると働き手が足りんな。」
「そこなんですが、他の商人に卸そうかと思ってます。」
「何?」
「そのほうがブランド化…希少価値が高まると思うんです。安く買いたい方は、私のもとに交渉しに来るでしょう。そんな方だけに対応すればいい。商人への引き渡しもここでやればいい。そうすれば、楽です。残った者たちを鍛える時間が増えてこちらとしてもありがたい。」
「なるほどな…。大商人達は飛びついてくるだろう。情報を流しておこう。この国を拠点とする大商人は3つだ。」
「了解しました。」
「おお。迎えが来たようだ。」
2階の窓から店の前に次々と馬車が停まる様子が見て取れた。中からは、怒りの表情を浮かべた彼らの父親たちが降りてくる。
「閣下、私のことを紹介してもらえますか?」
「ああ。」
彼らは、アルベルト公爵を見つけると表情を一気に変えて謝罪の言葉を述べ始めた。
「閣下、この度は…」
「貴殿ら…。こちらの方がこの店の店主で私の恩人のグレン殿だ。」
「彼が、イルシス殿に勝った…」
「彼が、王国軍を壊滅させた武器の…」
「閣下を助けた…」
「皆様、初めてお目にかかります。グレンと申します。お手数おかけして申し訳ありません。私は、礼儀作法を重要しております。また、就業規則は、原則なものとしており、皆様のご子息は就業時間中の飲酒行為のため、初日ではありますが、馘首させて頂きました。大切なご子息をお預かりしましたのにこのような形になり私としても残念でありますが、ご了承下さいませ。」
彼らは、驚愕の色を隠せなかった。理由は明白だ。この世界で名字を持たない者は、平民である。その平民が、礼儀作法を重視しているとなれば、注目を集めることになる。
「諸君らには後日、書面でお伝えするが、ご子息共は、この店に対して相当な被害を齎せた。」
「どれ程の…」
「白金貨8枚だ。」
「な…!!」
「この店の商品にはそれだけの価値があり、高品質のものをそろえている。だからこそ、陛下もこちらの商品を大変お気に召されている。」
「どの家にも均等に支払って貰うつもりだ。さぁ、今はとにかくご子息を連れて帰り給え。明日からは、通常任務についてもらうことになる。それでは、取り掛かり給え。」
店の中では怒号が飛び交う。それはそうだろう。自分の顔に泥を塗られたばかりか、王族御用達の店に被害を与えたという事実は変わることはない。そんな噂は広がりやすい。彼らの家の名声が下がることは避けられない。それを齎したのが親が期待していた子息なら尚更であろう。
「これはどういうことですか!」
連れて行かれる子息の1人がそう叫んだ。叫ぶばかりか俺に掴みかかろうとしてきた。その愚か者に対して俺は腹に拳を一発、顎に掌底を食らわせた上、顔を蹴り飛ばした。そいつは3m程吹き飛んで意識をなくした。それを見ていた子息一行と迎えに来た親一行は、恐怖心を顔に浮かべた。
「私は強いですよ。本気出せばここにいる人間を切り刻むことくらい造作はない。次は手加減しません。死にたいやつはかかってこい。」
無論、ただの脅しである。予想通り、恐れをなした貴族達は大慌てで逃げ帰っていった。
「凄いな…。久しぶりに見たが、天晴だ。」
「店長流石です。志願して本当に良かった。」
「ダージル!!どこにいる(怒)」
「すぐに参ります!!」
店内から、走り出てきた。顔には、畏敬の念を浮かべている。本当にいいやつだな。気に入った。
「女共はどうだった?」
「システィーナ達の報告によれば、店長のご指摘のとおりだったと。」
「名簿はあるか?」
「は!ここに。」
「アルベルト様。ここにある貴族も呼んでもらえます?」
「こいつ等もか?」
「はい。ダージル、被害額はどのくらいだ?」
「金貨50枚ほどかと思います。」
「では…白金貨5枚と記載しておけ。目にもの見せてくれる!それとシスティーナを呼べ。」
「かしこまりした!将軍!」
ダージルが走り去ってから、数分後、システィーナが申し訳なさそうに出てきた。
「店長。申し訳ありません。私の監督が未熟でありました。」
「お前のせいではない。この名簿とこちらの書類をお前の屋敷に届けろ。そして、名簿に記載されている貴族を迎えによこせ。」
「それは…」
「報告に来た3名以外の女性騎士12名は馘首する。これは、決定事項だ。さっさと行動に動け。」
「畏ました。すぐに。」
彼女が指笛を鳴らすとどこからともなく馬が彼女に駆け寄ってきた。よく躾けてあるな。
・
・
・
・
・
システィーナが馬で走り去ってから、1時間後…
俺達は、俺の自室で休憩していた。そこに…
コンコン。
「店長。父上を連れてまいりました。入っても宜しいでしょうか?」
「ああ。お通ししろ。」
システィーナが伴って入ってきたのは、ガタイのでかい武道家のような貴族だった。見ただけでわかる。この人…強いな。
「お初になるな。システィーナの父親で、イリーヤ-フォン-エルドラン伯爵である。グレンとやら…お主、強いだろう。オーラが抑えられておらんな。」
「それは、エルドラン様も同様でしょう?」
「ほう?分かるのか。」
「ええ。イルシス殿やカーエル殿と同じような雰囲気がありますので…」
「騎士団長と剣豪…彼らと同じ雰囲気か…。あながち間違ってもおらんな。」
「グレン殿。エルドラン伯爵は、私の親類に当たる方でな。武道家として名が通っている。」
「そうでしたか…。」
この人とは正直戦いたくないな。負けるイメージは、沸かないけど。勝てるイメージも沸かない。手合わせとかは、ごめんだ。
「それで、彼らには連絡したのですか?」
「ああ、すぐに来るそうだ。」
「グレン殿。今回も私が払おう。金貨50枚でいいのか?」
「ええ。ありがとうございます。」
俺は、毎度のことながら、申し訳なさそうにアルベルト様から代金を頂く。
「全く困った奴らだ。男女揃ってまともなやつが5名だけとは…。」
「本当です。」
「私としては、有り難いですがね。」
「何故だ?」
「5人だけに教えれば良いなら、彼らは私が当初予定していたものよりも精強な騎士へ鍛え上げることができる。店舗拡大の話も挙がっていたのですが、私としては好ましく思っていませんでした。」
「どうして?規模が拡大すれば、豊潤な利益を生む。そなたの名声も各地へひろがるだろう。」
「どこでも買える、では意味がないのです。公国に来なければ、買うことができない。という形式であるからこそ、価値があるのです。商人たちと取引することも厭いませんが、私が個人的に気にいらない方々は、バンバン切っていきます。たとえ有力な大商人であろうと関係ありません。」
「なるほどな。一理ある。」
「それに今後、宝石類や食品や未販売の武器など種類を増やしていくつもりです。転売の危険性も捨てきれません。転売の危険性がゼロとは言えない状況下での店舗拡大は、損が大きいと感じました。」
「では、今後はこの店は閉めるのか?」
「開くには開きますが、数は変えませんし、独占は認めません。独占しようとした方は入店禁止にします。」
「まぁ、君のことをとやかく言い続けるつもりもない。それに、迎えも来たようだしな。」
先程のようにぞろぞろと馬鹿娘を迎えに来た貴族達が、店の前に集まってきている。親の顔には怒りの顔が見れるのは、先程と同様ではあるが、今回は彼女たちの母親らしき方の多くも来ているようだ。何人かは、昼間に見かけた顔がある。
彼らは、アルベルト様とエルドラン伯爵を見つけると申し訳なさそうに集まってきた。また今回も俺のことは後回しのようだ。それは、まぁ仕方ないのだが…。
「公爵閣下、エルドラン殿、この度はうちの娘が申し訳ない。」
父親たちは、二人のご機嫌取りに夢中だ。でも、母親一行は、俺を見つけると近づいてきた。それも、切羽詰まったような面持ちであった。
「店長さんね。うちの子がごめんなさいね。もしかしたら、私達は店での購入ができなくなるの?」
「いえ、そうはいたしません。どうぞご安心ください。」
「ただし、従業員の減少で今までのようには行かなくなったので、個人的な対応をとらせていただくことになるもしれません。先のことはわかりませんが、ひとまずは、娘さんを連れ帰っていただけますか?」
「ええ…。わかりました。」
数分後には、両親から怒鳴りつけられて訳もわからずに店から連れ出されてくる能無し従業員達。
「店長!これはどういうことですか?どうしてここに、両親が!」
「それは、自分達がしでかしたことを考えれば容易に想像がつくでしょう。」
「いいえ!私達には理解できません。」
この使えない女共は、口を揃えてそう言い放った。俺の怒りのボルテージは少しずつ上がっていく。因みに言っておくと、俺は上下関係の中でも男女差別をしない人間だ。つまり、女性だろうと騎士なら遠慮なく殴り飛ばせるということだ。
「ならば、システィーナからのこの情報は偽りなのか?営業中に店の商品をコソコソとくすねていたこと。自分の家族にサービス価格と銘打って勝手に大幅に値下げして販売していたこと。俺への報告を放棄して、化粧品を使いまくったり、売り物の服で着飾って遊ぶこと。この情報が偽りとでも?」
「そ…それは。」
「一つだけ言っておく。俺が信用する人間は、結果を出した人間だ。多少馬鹿でも、真面目すぎるやつでも、少し抜けてるやつでも関係ない。結果を出せるのならば、正確なんて二の次だ。だが、結果も出せねぇくせに自分の利益ばかりを求めるやつは要らん。君たちは今日をもって馘首だ。明日から来なくていい。というか、来るな。残った者たちの邪魔だ。」
「そ…そんな、あんまりです!他の店でもやってることですよ!」
「それが、俺の店になんの関係がある?」
「商人は、そこも含めて雇うのではないですか!」
「貴様らは、騎士だろう?礼儀作法を重んじず、自分の利益を守るためならば、自らの教官へ報告することも忘れる。そんな常識知らず共に教えてやることは何もない。もとの騎士修練所に戻ることだな。君たちの居場所はここにはない。そもそも、俺はこの国に恩義を感じているわけではないんでな。お前たちの家がどれほどの社会的地位を確立していようが、俺には関係ない。俺に剣を向けるやつは、誰であろうと親類含めて皆殺しだ。」
彼らの目には、恐怖の色が浮かんでいる。逆に残った5名は、勝ち誇ったように喜々として彼らを見ていた。エルドラン伯爵に至っては、大声で笑っている。奥さん方は、娘たちの腕を掴んで引っ張っていった。ふぅ〜ようやく静かになった。閣下にも伯爵にも迷惑かけたし、メンバーも減ったから夕飯は俺が作るか…。
向こうの時間なら、3日は経過してるから材料買いに行くか。何にしよう…。難しいやつは面倒だから、白飯とハンバーグとスープでいいか。
総資産
15億5130万円⇒19億130万円
エリートとは言っても、常識の考え方が異世界ですよね。騎士は、商売に関する認識はたいへん低い。だからこそ、こんなにも従業員が減ったのですが…
次回は閑話として登場人物の説明をしておこうと思います。皆さんに対してというよりは、自分自身でも、名前が有耶無耶になりつつあるのです。




