第2話〜王都へ〜
「お!見えてきたかな。どう思う?バベル。」
「クゥ?」
僕は、一緒に連れて行くことになったフェンリルの子供にバベルと名付けた。確かバベルって神の門って意味だった気がしたんだよね。フェンリルってさ、神の次に強い聖獣みたいな位置づけにしてるんだよね。僕の個人的な解釈ではさ。
それで、僕らはあの神様からの手紙にあったとおりに街道に向けて歩いてきた。結構歩いたかな。一時間くらい?
念の為にアイテムボックスの中を確認してみたら、初期資金としてなのか金貨が10枚、銀貨が450枚、銅貨が5000枚も入っていた。日本円にすれば1500万円程になるだろう。出発資金と考えれば高く思えるけど、今後戦闘が起きた際に銃器を購入するとなれば、高過ぎるほどでもない。
銃器に詳しいと言っても、本物の値段なんて気にしたことねぇーもん。日本人なんだからさ。
あとアイテムボックスに入っいたのは、刀と楔帷子かな。刀は銘は入ってないけど、随分と良いモノのようだ。
因みに僕の父親は、大橋流という剣道の名家で昔から教わってきた。家系は、戦国時代から続いているんだと。
僕としては、刀より銃のほうが好きだったからテキトーだったけど、部活としてやらされていた剣道部では一年生にも関わらず個人部門で全国大会で優勝した。
それでも父さんには全く敵わない。なんていうのかな。わかりやすく言えば、残像使われてる気がするんだよね。それに最近では、全日本剣道連盟の常任理事っていうのについてるみたい。
他にも逆刃刀なんかもある。これ、使うとき…あるのか…?あとは、食料かな。一ヶ月分くらい?それくらいかな。
アイテムボックス内を確認しながら、のんびり歩いていると目の前街道が広がってきた。
「お!ついたよ。バベル!街道だ。」
「キャン!」
僕らの前には、結構広い石造りの道が広がっていた。そして、右を向くと神様の言った王都が見え…なかった。
あの神様…嘘言ったのか?それとも、あるにはあるけど相当遠いのか?まぁ、いいや。せっかくの異世界なんだし。
ゆっくり歩いて探していこうか。
僕たちは、当初の予定通り街道を右に進んだ。道に沿って歩き始めて、10分くらいすると前から人同士が争う喧騒が聞こえてきた。普通の人なら避けるかもしれないけど、僕はそういうときは、野次馬として必ず見に行くことにしている。面白そうだから。
だから、今回も見に行った。ただ、その前に自分に来られたら困るので、楔帷子を身に着けて、刀を取り出した上で向かった。そこには、結構良い服を着た貴族っぽい男性とその娘と二人を守るように立つ騎士が5人ほど。騎士達は怪我してる。その周りを2、30人の貧相で汚い服を着た人たちが囲っている。もしかして、もしかしなくても、これは大チャンス到来なのか?異世界モノあるあるの序盤に手助けをして、今後のストーリーに密接に関わってくる親友イベントか!?ここで彼らを助けることで恩を売って後で店を開くときに金銭面で助けてもらおうかな。
僕は、刀を抜くとバベルに言った
「ここで待っててね。」
「クゥ…。」
自分も一緒に戦いたいのだろうか。
拗ねたように地面を爪で弄っている。
「バベルも大きくなったら一緒に戦おうね。」
僕はそう言うと、ゆっくりとその集団に向けて歩き出した。僕という存在にいち早く気づいたのは、汚い服の盗賊さんの中でも最も後ろにいた親分らしき人だった。それに続いて貴族さんも気づいたみたいだ。
ただ、声をかけてきたのは、貴族のおじさんが早かった。
「そこの君!私達を助けてくれ。報酬に何でも出す!金でも土地でも!頼む!」
よし!こっちから切り出さずに言質をとった。これで助ければ、店を出すお金がいらなくなった。加えて出店地も用意してもらえるかもしれない。これは大きいぞ。よし、それならちょっと格好いいことでも言って倒そうかな。
「そういうことなんで盗賊?の皆さん。今すぐ引けば見逃さしてあげますが?ただ、やる気なら容赦は出来ません。どうしますか?」
因みに真剣で人を切ったことはないけど、昔から家が裕福と思われて学生の頃とか不良の人達に狙われることあった。そういうときにはよく、木刀で叩きのめしたりしてたから、人を殴ることや血が出ることに関しては、 忌避感はあんまりないんだよね。
「あ?餓鬼が、何ふざけたこと言ってんだ!おい、この阿呆から先に殺っちまえ!」
頭領みたい人の声で若そうな人が粗悪そうな剣で切りかかってきた。この人馬鹿なんだろうか?大声出しながら両手で剣を振り下ろしてきた。僕は軽く彼の剣を避けると首と体を切り離した。それと同時に吹き上がる彼の返り血によって、刀は血に塗れた。盗賊も騎士さんたちも呆然としてる。
僕は、盗賊さん達に恐怖を縫い付けておくためにちょっとしたキャラを装ってみた。
「…アハハ!さぁ!次に死にたい方はどなたですか?まあ、全員容赦しませんけどね(笑)」
僕はそう言って近くにいた盗賊たちを3人ほど同じ動きで一刀両断にした。今度も頭と胴体を分けてあげた。なんだろうな…。殺人なのに何も感じない。異世界だからかな?
僕が笑いながら3人を瞬殺した上でさらに笑いながら自分たちの方へ近づいてくる姿を目の当たりにした盗賊達は、我先に逃げ出してくれた。よく見れば、頭領さんはいつの間にか、騎士さんたちによって捕らえられていた。僕は、刀に付いた血を敵さんの服で拭うと鞘へと仕舞った。
そして、貴族さんのもとへ行き、声をかけた。
「ご無事なようで。」
僕は、貴族さんに言ったつもりだったのだけど、返答しようとした貴族さんを遮って答えたのは娘さんだった。
「助けて下さってありがとうございました。
先程は素晴らしかったです。お名前を伺っても?」
ぐいぐい来るなこの子。それにここは、なんて答えればいいんだ?大橋哲哉って言ったら、流石に不味いだろうし、名字をつけたら貴族だと思われて面倒臭いだろうし、まぁ、好きなゲームのキャラクターからでもとっておけばいいか。
「これは…失礼を致しました。私は、グレンと申します。」
少しハマってた、ロールプレイングゲームの騎士の名前なんだ。滅茶苦茶強くて格好良くて憧れだったんだ。銃器をには負けるけどね。
「グレン様?家名は、教えてくださらないのですか?」
「私には家名はございません。私は、しがない傭兵でございますので。母は、私が幼き頃に亡くなり、父は、傭兵業をしながら母無き私を養ってくれていたのですが、彼も数年前に戦争で命を落とし帰ってきませんでした。他に親戚もおりませんでしたので、自己流の剣術を磨きながら、旅をしてまいりました。」
「あれほど剣を使えているのに、貴族ではないだと!?どうして、国に仕官しなかったのだ?」
今度は、貴族さんからの質問。
「私は、傭兵としての生活に満足しております。貴族になることで生まれるしがらみもなく、自分の力量だけで生きていくことができる。まあ、夢はありますが、それも近く叶う予定でありますので。」
「その夢とは?」
「一商人として、自分の店を持ち、各国にて支点を開き、一代で大商会を築くことです。」
「商人!?これほどの剣の腕を持ちながら、その腕を腐らせて商人に収まろうというのか?勿体ない!君の腕なら我がマーリン公国においても、名高い騎士を目指せるというのに。」
「私は、家族を戦争でなくしました。ですので、無駄な殺生は避けたいのです。」
「それで、盗賊共にもああいったのか…。ならば、何を売るのだ?」
「武器です。私は、武器商人になるつもりです。」
「武器商?戦争が嫌いなのではないのか?」
「確かに戦争は嫌いです。直接的に参加するのは忌避的に考えておりますが、間接的ならば、構いません。それに私の武器は中々のモノであると自負しておりますので。私の武器を使うことで早期に戦争を終わらせることができるならば、それはそれで好都合というもの。」
「君が先程使っていたモノ売るつもりなのか?」
「まぁ、これも売るつもりではいますが。どれを売るかについては検討中です。」
「そうか…。そういえば、報酬の件だが、何が良い?金か?土地か?」
「そこで、先程の夢の話であります。小さな店を開くことのできる土地で構いませんので、店舗用地を下さい。それが私が報酬として求めるものであります。」
「そうか…。娘をくれとでもいうかと思ったが、店舗か…。分かった。用意しよう。とりあえず、王都の私の屋敷まで来てもらえるか?そこで資料を用意するとしよう。君も乗りなさい。」
「ありがとうございます。あ…。少しお待ちいただけますか?」
「何かあるのか?」
「私の相棒を近くに待たせていますので、その子も呼びたいと思います。」
「相棒?」
「バベル!!おいで!」
「キャン!!」
僕が呼ぶとバベルは、嬉しそうに一声吠えると僕に向かって駆け寄ってきた。かまってほしかったのか、僕の周りをくるくると回っている。
「もしや…その子、フェンリルでは?」
「お解りになるんですか?」
「いや、魔狼は普通は黒なのだ。白く艷やかな毛並みを持つものは、フェンリル種しかいないだけだ。」
「そうだったんですね。あぁ、この子は、僕の相棒でフェンリルのバベルといいます。バベル。偉い方だよ。挨拶して。」
「クゥ!」
バベルは、任せてと言わんばかりにその場に座るとお辞儀をした。まぁ、ここに来る道中でまでに僕が教え込んだのだけど…。バベルは頭がいいのか、俺の言いたいことをすぐに理解してくれた。
「な…なんと!フェンリルの子供を連れているとは…。この子はどうしたのだ?」
「森で一匹で震えているところを助けてあげたんです。群れから逸れたのではないかと、一時的に暮らしていた小屋に連れ帰って世話をしていたら懐かれてしまって…。私が小屋を離れるときに離してくれなかったので、そのまま相棒として連れ添っているわけなんですよ。」
勿論これも、バベルとさっき決めた話。いきなりさっきばったりであって連れてきたというよりも信憑性がある。バベルは、そのとおりですと言わんばかりに胸を張っている。
「それはそれは。そうなってくると、君に助けられたことは、我がマーリン公国にとって非常に重要な事になってくる。フォンリルを連れたそなたの価値は、計り知れぬものがある。その子も私達と一緒の馬車に乗せるといい。共に王都へ参ろう!」
「ありがとうございます。えぇ…と、お名前を伺っても?」
「あぁ。済まない。私は、マーリン公国三大公爵家の一つ、アーソン家十代目当主アルベルト−フォン-アーソンという。この子は、娘のソフィアだ。」
「よろしくお願いしますね。グレン様!バベル様!」
「こちらこそ!」
「キャン!」
確実に王様に会う流れだと思うけど、悪用されないようにしないとね。ようやく、異世界での僕の物語が始まるよ。存分に楽しまないとね。そんな事を考えた僕を連れた馬車はマーリン公国の王都へと走り出した。でもあれだね…お尻が痛いね