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5話

大学生活最後の仲間たちとのクリスマスパーティー。

会場の、レストランで見たゆきのは…

『ゆきの』






お店の前で立ち止まったら、丁度ドアが開いた。

「淳くん」

「ゆきちゃん!久しぶりだね。さあ、寒いから早く入って」

ベルが鳴るドアを開けて入ると、お店の中は天井が高くて、大きなシャンデリアが輝いてた。

フロアには、ゆったりとテーブルが配置されていて、真っ白なクロスが掛けられている。

広い窓枠も、テーブルや椅子もモノトーンで統一されていて、落ち着いた雰囲気だった。

「淳くん…ずいぶん気張ったんだね」

袖を引っ張ってこそっと言うと、そうだろって言うように、肩をポンポンと叩かれた。

「ゆきちゃん、今日はパーティールーム貸し切りだから、こっち」

淳くんの後をついて行くと、1番奥にあるドアを開けて、促されて入った。

「わ、思ったより広いね。6人で使うの申し訳ないわ」

「そうなんだけど、ちょうど空いてたから…ゆきちゃん、そこにコート掛けて」

コートを掛けて振り向くと、部屋の片側はガラス戸になっていて、中庭が見える。

中庭は、ツリーやイルミネーションの飾り付けがされていて、きらきらと眩しかった。

「わあ、なんて綺麗なの」

窓にくっついて、思わず声を上げた。

そのとき、またドアが開いた。

振り向いてみたら…村上くんがいた。



「ゆき…久しぶり」

「うん、久しぶり」

ドアから私の方までまっすぐ歩いて来るから、思わず後ずさった。

後ずさったら、ピンヒールが絨毯に引っ掛かって、よろめいた。

村上くんの腕が伸びて、手首を掴まれてどうにか踏み止まった。

「危なかった…ゆき、大丈夫か?」

「あ…ありがとう…ごめんなさい」

「脚、挫いてないか?」

「うん…痛くないから…平気だと思う」

手首から村上くんの手が離れて、行き場の無いその手をガラス戸に当てた。

ガラス戸に顔を向けて、2人並ぶ。

中庭に目を向ければ、キラキラと点滅するイルミネーション…

憧れていたロマンチックな場面のはずなのに、ドキドキと胸の音だけが響く。

逃げ出したい…

勝手に足が動いた。

…いけない。

これじゃあ、何のために来たのか分からないじゃない。

そっと村上くんの方を伺うと、私をじっと見つめている。

部屋の灯りが映っているブラウンの瞳。

「…それ、そのワンピース」

ボソッと村上くんが投げた言葉。

それが、私の耳に大きく響いてドキンとする。

「え?」

「ゆきが着てる、それ。買ったの?スカート1枚も持ってないって…」

「あ!これ?そう、買ったの。仕事も決まったし1枚くらいは持ってなきゃって思って」

鎖骨が綺麗だからって、薦められた襟の開いたワンピース。

光沢のあるピンクのフレンチスリーブ、ウエストからフレアーになるベビーピンクのジョーゼット。

ちょうど膝丈にしたのは、脚が綺麗に見えるよって教えて貰ったから。

脚元はシャンパンホワイトの、初めて履いたピンヒール…

こんな格好、今まで興味が無かった。

でも、もう社会人になるし…何より村上くんに自分の違う部分を見せたかった。

もう、最後なんだから。



「よく似合ってるよ。ゆきって色白なんだな…今まで気がつかなかった」

「そう?就活で日焼けしたの、もうさめたのかな」

どうしよう…何を話せばいい?

最後なんだから、私の気持ちを言うって言っても…

「ゆき、卒業したら実家に帰るんだって?」

「あ、うん。淳くんに聞いたの?実家って言うより地元に帰って独り暮らしするの。実家はもう、兄夫婦がいるから部屋はないしね」

「そうか、じゃあ来年になったら引っ越すんだ」

「そのつもり。」

「そうか…もう、こっちに心残りはないのか?」

村上くんからこんなこと言って来るなんて…

どうしたの?

そうだ、大事なことを言わないと。

…ドキドキする。

「私ね、2年の頃からずっと、好きな人がいるの」

「好きな、人?」

「うん…告白はしてないけど…心残りがあるなら、それかな」

「そうか…」

村上くんは、じっと窓の外を見てる。

顔を見たいけど、目が合ったらどうしていいか分からない。

「だからね、せめて最後にこのワンピース、見せようと思ってるんだ」

「…え?今日見せるのか?」

「そうだよ…ね、もう皆来たし料理も並んだし、座ろうよ」

「あ、ほんとだ」

久しぶりに、村上くんの隣に座って思い出話をした。

同好会で色んな映画を見たこと。

いつものカフェのコーヒーが懐かしいこと。

村上くんに教えてもらったバンドにハマったこと…

思い出しながら話していて、もうこんな風に話すことも、ないんだと思った。

二人とも、まず仕事に慣れないといけない。

ただの友達に、いちいち連絡を入れる暇なんて、きっとない…

村上くんは、私がポツポツ話すことを、マメに相槌を打ちながら聞いてくれた。

私は、それだけでもういいかもしれないと、思った…

でも、やっぱり一言でも伝えたい。

私の我儘だって分かってるけど。



お開きになって、時間も遅いからとタクシーを呼んで貰った。

タクシーを待つ間、寒いから店の待ち合いスペースに二人で座ってた。

1人で待つのは嫌だって言ったら、来てくれたのだ。

本当は、たぶんこれでもう会えなくなるから、少しでも長く一緒に居たかったんだ…

コートをはおり、マフラーで首元を覆った私に、村上くんが不思議そうに聞いた。

「ゆき、これから誰かに会うんじゃないのか」

「え?もう遅いから、まっすぐ帰るよ」

「そうなのか?…だって、さっき…」

「あ、タクシー来たみたい」

外に出ると、村上くんもついてきてくれた。

乗り込もうとする私に、声を掛ける。

「ゆき、そのワンピース、好きな人に見せるって言ったよな」

気にしてくれたんだ…

もう最後だけど、嬉しい。

開いたドアに手を置いて、答える。

「好きな人になら、もう見せたよ…似合ってるって褒めてくれた」

「え…それって」

「村上くんのこと、ずっと好きだったの。褒めてくれて嬉しかった。同好会、楽しかったよ。ありがとう。さよなら」

バタン、とドアが閉まる。

閉まったドアを見たまま、村上くんは固まっていた。

私は行き先を告げてから、後部座席に沈んだ。

…言えた、好きだって。

もういいや、これで心残りはない。

学生時代の思い出に出来る。

私は次の日、帰省した。











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