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1話

大学時代の友人の結婚式で、好きだった人・村上和也と再会したゆきの。

好きだと告げて別れて、終ったと思っていたが…

『ゆきの』



大学卒業から、2年あまりで友達が結婚した。

お相手は、大学時代から付き合ってた、歳上の彼。

長く付き合ってたのは知ってたけれど、社会人になってからこんな早く結婚するなんて思わなかった。

都内での結婚式のため、私は実家のある東北から前日のうちに泊まり込んでいた。




披露宴会場は都内のホテル。

部屋をチェックアウトしてから、荷物をクロークへ。

幾つもの宴会場があるフロアに上がる。

まだ時間があるから、休憩場所のソファーに座ってあたりを見渡したら、見覚えのある顔が見えて思わず二度見した。

あれは、同じサークル仲間だった淳くんだ。

隣の受付の前にいるから、隣の披露宴会場なのかな。

そして、その隣にいるのは…

もう会うことはないかもと思ってた、村上くん。

村上和也。

学生の頃は、天パの髪をふわふわさせてた。

今は髪も短くしてうまく撫で付けてる。

淳くんと、顔を近づけて何やら喋ってるみたいだ。

急な展開にドキドキして目を逸らした。

しばらくして顔をそっと向けると、淳くんが気がついたようだ。

こっちを、じっと見てから村上くんに話し掛けてる。

話し掛けられてる村上くんが横を向いてるのが見えた。

あの横顔、好きだったな…

学生時代の記憶はまだ、そんなに薄れてない。

でも、村上くんへの気持ちはもう、胸の一番奥に沈めたつもり。

ただ、こんなに早くまた顔を合わせるなんて、予想外だったけれど…





披露宴が無事終わり、同じホテルの中のパーティールームが二次会の会場だった。

招待客はみんな、披露宴の衣装のまま移動してる。

私も、薔薇のモチーフを散らした濃いピンクのワンピースのまま。

ゆるくカールした髪は、シニヨンに。

耳元には大振りのパールのイヤリング。

パーティー用とは言え、こんな格好は学生時代には全くしなかった。

…いや、1回だけしたかな。

最後の勇気を振り絞って。

「ゆきちゃん、久しぶりだね」

「…淳くん」

廊下で淳くんに呼び止められた。

「そのピンクのワンピース、すごく似合ってる。女の子っぽくなったね~」

「あ、ありがとう」

あの頃から、なぜか淳くんだけは私を可愛いと褒めてくれてた。

ショートヘアで、いつもジーパンとTシャツ、大きなリュックを抱えてた私を。

淳くんの後ろにいる村上くんは、1度も言ってくれなかったな…

「ゆき、久しぶり」

ようやく、村上くんが口を開いた。

「うん…ほんと久しぶりだね。村上くん、元気だった?」

「ああ、まあ…仕事は忙しいけどね。ゆきはどう?」

「私?私も忙しいかな。ちょっとずつ慣れては来たけど」

「そう…」

村上くん、淳くんとは映画同好会で一緒に過ごした。

特に村上くんとは、一時だけどいつもいつも一緒だった。

淳くんは『ゆきちゃん』と呼ぶけれど、村上くんは私を『ゆき』と呼んでた。




笑いと涙のツボが一緒で、

コーヒーが好きで、

思い立ったらすぐ行動して。

そして、映画が大好き。

私にとって村上くんは、『めちゃめちゃ気が合う人』だった。

噛み合わないことがあっても、村上くんだと受け入れることが出来た。

それが、気づいたら…

天パが可愛くて、なのに低い声が男の人で。

笑顔が可愛くて年下見られるのに、捲ってる袖から出てる腕が、私とは違うんだって教えてくれる。

綺麗な横顔にいつも見とれてた。

そう、『好きな人』になってた。

ラブコメの映画が好きな私は、村上くんに恋したんだわ、と自覚した。

自覚して、村上くんもそうだったらいいのにと願ったのだ。

でも、恋愛経験の無い私にも分かるくらい、村上くんが私を好きかなんてこと、ありそうには見えなかった。

…でも、今日の村上くんは。

思ってたことをすぐ口に出してたのに、口数が少ない。

その理由はなんとなく見当はついたけれど、私は気づかない振りをした。

もう、私の気持ちは沈めたの。

振り向いて貰えない人のことは、忘れるしかないもの。

「ゆきちゃんはさ、今彼氏いるの?」

淳くんがケロッと聞いてくる。

相変わらずだな。

「残念ながら、いないよ。まだ仕事で手一杯なの」

「そっか~そんな素敵なのに。勿体ないよね」

サラッと褒めてくれる淳くん。

そんなやりとりを聞いてる村上くん。

…そんな顔しないでよ。

どうせもう、私のことなんて忘れてたんでしょ?

「あ、ちょっとあっち行って来る!」

顔見知りを見付けたのか、淳くんが離れて行く。

村上くんと二人残されてしまって、気まずくなった。

「…私、そろそろ行かなくちゃ」

そう言いかけたら、村上くんに遮られた。

「向こうに行くと、ベランダに出られるんだって。行ってみないか」

「ベランダ?」

「夜景が綺麗らしいよ」

「…でも、時間が…」

「ちょっと、見てみようよ」

「じゃあ、ちょっとだけ」




石造りのベランダに出ると、中の灯りが漏れていて、明るい。

でも、手すりまで来るとランプみたいな灯りだけで、薄暗かった。

その代わり、庭のイルミネーションがよく映えていて綺麗。

12月始めの夜の空気は都心でも冷たくて、持っていたファーのケープを急いで肩に掛けた。

「よく似合ってるよ。女の子って侮れないな」

「侮れない?」

「…ほら、男の子かってくらいショートカットで、スカート1枚も持ってないって言ってただろ」

「ああ…そういえば、そうだったかな」

「それが、こんなワンピース似合っちゃうんだから」

「似合ってる、かな」

「うん…すごく」

村上くんの好きなタイプは、私とは真逆。

なのに、こんなこと言ってくれるなんて。

「村上くんはさ、彼女出来たの?」

「え?」

「ほら、もう社会人になって2年たつでしょ。出会いとかありそうじゃない」

「…いや、そんな出会いなんて全然…」

「そうなんだ…村上くんの会社都内だし、出会いなんていくらでもありそうなのに」

「仕事忙しいし、そんな暇ないよ。ゆきだってそうなんだろ」

「うん…まあ、そうだよね」

久しぶりに村上くんと言葉を交わすと、学生にもどったみたい。

でも、二人ともなんだかぎこちない。

私も、居心地が悪くなって、もう行かなくちゃと思った。



「そろそろ中に入ろうよ。もう寒い。私も行かなくちゃ」

そう声を掛けると、しばらく黙ってた村上くんがボソッと言った。

「ゆきのメッセージのID、ずっと一緒なの」

「うん…そうだけど」

動かない村上くんをおいて、中に入ろうとした。

途端に、手首をぎゅっと掴まれた。

「…どうしたの、痛いよ」

「また、連絡してもいいか?」

「…なんで」

「なんででも。ゆきとまだ話したいことが…」

予想外の村上くんの反応に、どうしていいか分からなくなった。

今さら、まだ何を話すの。

私はあの時振られたって思ってるのに。

「中途半端なこと、言わないで」

村上くんの手を振りほどいて、中に入った。

そのまま二次会会場に入り、ワインを受け取った。

新郎新婦が入って来たら、二次会が始まる。

まだドキドキしてるというのに、辛口のワインを飲み干してしまった。

私には、振られて終わった恋。

新しい出会いだってあるかもしれないもの、さっきのことは忘れよう。

きっと村上くんは少し懐かしかっただけ。

今さらあの頃には戻れないのよ。





『和也』



ゆきが中に入ってしまったのを見て、ため息をついた。

あんな風に言いたかったんじゃないのに。

もっと…今の俺の気持ちを言いたかった。

ゆきの今の気持ちを知りたかった。

なのに、なんでこう上手く言えないんだ。

ゆきはなんであんな頑ななんだ…

あんな…

あんな、綺麗になるんだな。

化粧っ気が無くて、いつも素顔で色気も何もなくて。

女の子扱いしたことなんて、1度も…

いや、最後のクリスマスパーティーの時だけは、違ったけれど。

あの時のゆきを見てから、もやもやして自分の気持ちが分からなくなったんだ。

だから今日、もっとちゃんと喋りたかった。

そうだ、よく考えよう。

考えて、ちゃんとゆきに伝えなくちゃ。

そのチャンスは、絶対にある。









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