のじゃロリ銀髪エルフ
一人の少女が、森の中で木の実を拾っていた。
「確かにあの時、今生で出来なかった体験をしたいとは言ったがのぅ。 まさかこんな事になるなんて思わなかったぞい」
肩先まで伸びた美しい銀色の髪と、紅玉のような瞳をした幼い少女が、見た目と声に似合わない言葉使いで呟く。
幼いながらも整った容姿は、その手の趣味がない者でも、目を奪われる事は間違いないだろう。
ただ、普通の少女と違うところが一点。それは耳が長く突き出ていることだった。
これは妖精族と呼ばれる種族の特徴であり、彼女がそのエルフであることの証でもある。
「再びこの世に生を受けるとは聞いておったが、女に生まれ変わるとは思ってもみなかったのじゃ」
その少女は生まれ変わったシドであり、親から新たに付けられた名前は「ニア」だった。
「おーい、ニア! 拾い終わったかい?」
そう言ってニアに近付いてきた翠色に近い金髪と碧眼の青年は、ニアの父親のカイルだ。
子持ちとは思えない程の若い容姿をしているが、長命であるエルフの一族では当たり前のような光景なのだ。
「む、父上。うむ、だいぶ集まったぞい」
「そうか、偉いぞ〜」
そう言って、カイルは袋一杯の木の実を見せてくるニアの頭を撫で回す。
……前世の記憶を持っているニアにとって、自分の親はあくまで前世での親という気持ちが強かった。
その為、最初は名前で呼んでいたのだが、今生での両親があまりにも悲しそうな顔をしていたので、それを見てからは父上・母上の愛称で呼ぶようにしたのだ。
「父上、やめるのじゃ。視界がくるくる回っておる」
「……あぁ! ごめんごめん! ニアが可愛くてつい」
されるがままになっていたニアが、カイルの手を掴んで止めようと抵抗する。
この溺愛っぷりは、生まれてから六年間ずっと続いているのである。
「まったく、撫でられる身にもなってほしいものじゃ」
「ごめんって! ほら、この通り」
腕を組んで文句を言うニアに対して、両手を合わせて拝むように謝るカイルという構図は、中々に微笑ましい様子であった。
「あら、おかえりなさい」
木の実を集め終わって家へと戻ると、柔和な笑みを浮かべる女性が二人を出迎えた。
薄い桃色の髪と琥珀色の瞳をしたその女性は、シノアというカイルの妻で、つまりはニアの母親である。
「ただいま、シノア」
「母上、ただいま戻ったぞい。これが今日の成果じゃ」
ニアが木の実で満杯になった袋を母へと手渡す。
シノアは微笑みながらそれを受け取り、同時にニアを胸に搔き抱いた。
「わぷっ」
「あーもう、ニアってばなんでこんなに可愛いのかしら!」
カイルだけではなく、シノアも子煩悩な母親なのであった。
胸が顔に押し付けられている状態で拘束されていた為、苦しくなってきたニアは必死に抵抗するが、トリップしてしまっているシノアには届かなかったようだ。
「シノア、ニアが大変な事になってるみたいだよ?」
「あらあら、ごめんなさい!」
「……また死ぬかと思ったのじゃ」
ようやく解放されたニアは、盛大に溜息を吐く。
このような光景は、もはや日課になりつつあるのもので、加減を知らない両親の溺愛っぷりに、この先どうなるのか不安なニアなのであった。