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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

光るもぐら

作者: 恒我臥薪

間に合った。ギリギリだった。


 過去にニューヨークでワニをトイレに流し巨大になったワニが下水道にいるという都市伝説があった。

 なんでも当時話題のペットがワニの赤ちゃんで大きくなると困ると言って飼い主がそのままトイレに流すと下水道で繁殖していつの間にか増えていた、というものらしい。

 まあただの都市伝説であるし、日本の外来生物の話にも(思いっきり)類似している。

 話のオチとしてはニューヨークの越冬にワニは死ぬだろうとのこと。インターネットで調べると大体ニューヨークの冬の気温は0~ー4℃ぐらいだったがあくまでも平均みたいなものだから実際はどうだかわからない。

 加えてワニは19℃で冬眠するそうで。耐えるにしても我々哺乳類のように毛が無く変温動物の爬虫類がどうやって越冬なんてできるのだろうか。これが決定的な証拠になると考えられる。


 さて、軽い前振りはここまでにしてこれからは私が体験した話を話そう。

 その前に私の職業を言っておかないとこの話を進めるにおいて障害になる部分がいくらかある。

 この段階である程度察している諸君は私がまともな人間でないことはわかるだろう。

 実際そうだし、周りの人間もそう答えることがほとんどだ。たまにそのことで色々言われるし。

 私の職業は近代考故学専門学者、政府からは忘れていたことを呼び起こす藪蛇な仕事と軽蔑されてる、である。

 不名誉なことにこの仕事は「レスドラ(Let Sleeping dogs lieの略)」なんて呼ばれることが多い。

 仕事の内容としては近代で起きた事象が消えた原因を探りそれに対する答えを調べ上げるというもの。

 簡単な例としては死語が分かりやすいだろうか、あたり前田のクラッカーとかチョベリグとか。

 ゆえに近代考故学なのである。日本では考古学と間違われるが、英語にするとModern Lostlogyと表記する。

 今回の件はまさにLostlogyと言っても問題はないだろう。調べるところはとある州にある旧米軍基地、そこの調査だ。



 ‐------------------



 荒野に一人、場違いな男がいた。

 サファリハットにベージュの肩章付きのシャツと膝上のパンツ、いわゆる探検家の服装に加えて大きなバックパックを背負って荒野をトボトボと歩いている。

 男は胸のポケットから携帯端末を取り出し、電源をつける。

 見ると大量の履歴が画面を埋めるぐらいに表示された。宛先はすべて同じ人間。

 男は自身が今圏外にいることを安堵する反面、帰ったらどやされそうなことに対してため息をついた。

 

 今回の仕事は近場の職場にインターンされるようなものだと内心思っていた。

 事実、指名を受けた理由が実家が近いから、だ。

 久々にガバガバな指令を受けて愕然とした。同時にそのあとの言葉を聞いてその場にくずれる始末。

 最近お前に仕事回してなかっただろ?帰省ついでに行ってこい。

 「はぁ~」

 ため息がより深いものに変わる。今のテンションなら冷たい息でも使えそうだ(棒)。

 しかしながら周りは見渡す限りの荒野、荒野、荒野、それとたまにメサとビュート。

 少し前に道が補導されたと聞いたがあれはデマだった。補導もなにもここら一体の温度では作業する人間もたまったものではない。

 というか一番最悪なことは現場と実家の距離が10km離れているのだ。本当にたまったものではない。

 車を使えばいいだろう、と言うかもしれないが現場に向かう途中に補給する場所が一つもない。というか途中にある検問で容赦なく撃ち殺される、いや検問の半径1㎞に入った段階でスティンガーミサイルで迎撃される。そのため車で移動は不可。ヘリも同上。

 そのため歩いていかなければならない。半径1㎞ギリギリまで近づいて車を置いてけばいいのではないか、それはアシがつくので一番やってはいけない。

 我々の仕事はとある国では正式な公務とされているがほとんどの国でこれは非公認のものとされている。

 諸事情でそこを詳しくは言えないが要するに暗躍する例の組織みたいなものだろう。

 なので基本的には隠密行動である。今は険しい崖を超えて検問を抜け、背中に背負ったバックパック内のジャミング装置で位置をごまかしつつ、地雷探知機を片手に目的の場所まで向かっている状態である。

 けれどその時間ももう終わる。なぜなら、

 「やっと着いたー………」

 現場、コアネカ州旧ジルバ軍基地についたからである。


 ジルバ軍、かつてロシアとアメリカの冷戦時代にアメリカのコアネカ州で当時少佐だったジルバ・アルフォードが率いていた小隊である。

 少佐は短気で周りの人間にその竜のような目つきで睨みつけていたことから「アングリードラゴン」というあだ名があり、本人にそれを言うことはまさしく逆鱗に触れるそのものだったという。

 彼は何度も上司に反発、政府からの命令無視を何度も行っていたが無罪放免にされることの方が多かった。なぜなら彼とその軍の行動は上層部の思う以上にうまく・・・ことが運んだからである。

 そしてとある事件で彼はついに政府から辞令が下る。その際に彼は自身の軍が配備されていたコアネカ州一帯を占領し、自身がこれまでに行ってきた軍の隠蔽工作を赤裸々にロシアに漏洩ながし、亡命すると宣言。政府は彼の隠蔽能力とその判断力を考慮して一時彼の条件を飲もうとしたが、当時の大統領フロイド・ヴォルマがジルバ軍は我が国の汚点であるという声明によりジルバ軍は現在私がいる基地にまで追い込まれる。そしてここでジルバ軍は…………


 「ミサイルの実験の失敗として処理される、どこが在り来たりなのかねぇ………」

 と愚痴りながら水筒の残り少ない水で喉を潤す。

 ジルバ軍は半ば強引に存在を抹消された。当時のアメリカの記事では、ミサイルの失敗、駐屯中の小隊全滅が堂々と書かれ何度も読んでも詳しいことは載せられていなかった。

 (けど俺ら地元民にしたらこんなのが嘘だとわかる、街一つの広さもあるところがミサイルの、しかも冷戦っていう緊張下の中でいきなり消えたらすぐにわかる)

 有刺鉄線を超えて基地内に入るとそれがよくわかるものだ。ショッピングモールが三つ入るぐらいの広さを誇る元コアネカ州東基地、現在そこにあるのは焼け焦げた司令塔と寄宿舎のみだった。滑走路は砂に埋もれ、そのコンクリも風化してしまったためかもうどこにあるのか知る由もない。

 司令塔の奥に行くとそこに格納庫があった。小さいながらも小型ジェット一機は入りそうな大きさだった。中に入ろうとしたが鍵がかかっているようでしかもシャッターが錆びているのだろうか開けようとするとひどく耳障りな音がした。周りが荒野であるため政府は音による監視の機材を一つもこの基地に付けていないのを確認はしている。まああったところでたまに吹き荒れる砂が混じった強風の音にかき消されるのがオチだが。

 ともあれ格納庫には入ることはできなかった、痕跡残るし。嗚呼、この太陽と風を完全に遮る場所はないのだろうか……。先に司令塔と寄宿舎の方を見たが所々穴が開いていたので熱風が舞い込む、勘弁してくれ。

 持ってきた水も半分を切った、もう無駄に飲むことはできない。遠足は帰るまでが遠足だ、仕事だけど。

 寄宿舎のの廊下まで来た俺は部屋を一部屋づつ虱潰しに調べた。ベッドの骨組み、溜まって山となった砂ぼこり、日焼けでもしたように残る色がはけた壁、どの部屋もそんないかにも・・・・焼けてなくなったものが多かった。

 そして歩くたびに砂ぼこりが舞う廊下を進んで行くとジルバ少佐が寝室として使ったとされる3106号室に到着した。扉はもちろんないのでそのまま潜入する。驚くことに部屋が異様に暗く外の太陽が入っていないのではと思ってしまった。それもそのはずジルバ少佐の部屋は爆心地(司令塔の頂点てっぺんのところから丁度2km東、滑走路上空)から一番遠い場所にあったにも関わらず燃えた形跡が一番ひどい場所であったのだ。それが数十年経った今もこの部屋は太陽を遮るという目的をほのめかすように真っ黒になっている。

 ホラー映画の子どもが書いた絵みたいだな、とぼやきつつペンライトを逆手に持って前に進もう。と思ったがやめた。入る前にチェックすることがある、安全の確認だ。ポケットから小さいコインを三枚取り出して部屋の奥に投げる。

 今投げたのはコイン型生物探知機、ホイホイである。投げた半径2m以内に人に聞こえない音を出して探知する優れもので生物を発見した場合は手に持つ本機に反応がある仕組みになっている。あとこれ試作品だから後で回収しないと怒られる。

 一枚目は地面に数回バウンドし、くるくると円を描きながら最後に回転力を失ってよくは見えなかったが恐らく裏面を上にして倒れた。二枚目は残ったガラス片に落ちてパキッという音ともにその場で静止した。

 ところが三枚目だけがおかしな挙動をとった。普通なら地面に当たった回転したコインは跳ね上がると同時にもう一回転しようと自身を回転させる。がそれもなく、重しでも巻いてあるかのようにそれは地面にさり・・コロコロと部屋の中央に転がるとストンとゴルフのツアーでカップインが決まる感じで小さい穴の中に消えていった。

 すると早速手元の本機からホイッスルのような音が聞こえてくる。合図だ、この建物の何処かに生物がいるらしい。

 だがもうこの建物のほとんどは調べ尽くしている。三枚目が落ちていって別の部屋の下に転がった可能性も考えられなくもない。なので手前の一枚目をまず調べてみる。

 生物探知機のセンサーは表面に付いているため恐らく裏面の一枚目をめくってライトで確認する。

 「あー!!うるさ!!」

 ぴーるる、ぴーるると本機がより一層騒がしく音をたてる。生物の距離に応じてその音を上げるためなくすことはないとかなんとか言っていたのを思い出す。なので本機でボリュームを下げることが出来ないのが一番の難点だそうだ。作った本人も試作だから仕方ないよね?と笑っていた。試作だから何でもいいわけではない。

 とりあえず一枚目をそのままポケットの中にしまう。ここはコイン型の利点でポケットなどにしまってしまえばセンサーを止めることが出来る。元ネタが防犯ブザーなのもあって以外にも原理は簡単だ。センサーが作動するのは設定された温度と光の量である。説明は長くなるので省略。

 まあそれはそれとして。素早く二枚目を回収し、三枚目の落ちた穴に向かう。そしてその穴のところをライトで照らすとライトの光が一瞬だけこちらに反射した。

 (鏡でも挟まってんのか?)

 そう思い穴の方に近づこうと思い、ライトを下した瞬間、



      穴からこちらをじっと見つめる者がいた。



 「…………!!」

 俺は硬直してしまったがとっさにライトをそちらの方に向ける。だが勘違いだったかのようにそこには何もなく、先ほど同様何か反射するものがあるだけだった。生物探知機で確かに生物がいるのを確認したが、あれはネズミとかの目の大きさではない。爬虫類のワニとかカメレオンみたいな目だった。

 バイオハザードをの調査じゃないんだから、とぼやきながらライトを構えつつ穴のところに向かう。

 穴は四角くくりぬかれたような跡をしていて、自然に出来たものにしては形が綺麗な気がした。恐らくここに何かを隠していていたのだろうかと適当に予想する。それにしても穴の中に鏡なんてものを入れておくだろうか?

 しゃがみ込み穴を覗き込もうと思ったが体がその選択を拒んでいた、と言うよりもホラー、サスペンスに近い展開でこういうところからこそモンスターだとかが出てくるのだ。下手をすると死ぬ可能性もある。一旦ここでサイコロでも回したい気分だが、そんなものないので別の手を取る。

 持ってきたバックパックをあさり自分の拳の中に丸いものを手にした感触を確認してからそれを取り出す。手にしていたのは飴玉………ではなくパチンコ玉。別に途中で寄ってたまたまバックの中に入ったというわけではない。地面が傾ているのを確認するために数玉持ってきているだけだ。

 一つをコイン同様にコロコロ転がして入れようと思ったがそれはやめた。それではわり・・にはならない。握る手に力を込め持つ玉の熱を感じながら親指と人さし指で玉をつまんで垂直に穴へ落した。

 するとどうであろう、カキンという音と共に落ちたはずの玉が私の頭よりも高い所まで跳ね上がったのだ。そしてそれはコロコロと転がりそこには昔机があったことを証明するかのように薄く焼けた所で回転を止めた。玉に近づいてそっと持ち上げる、一応そこにもう一つの玉を転がしてみる。見事にコロコロと壁に転がっていった玉を見て私は心底驚いた。

 (削れたのか………!?)

 そうでなければ傾いた地面で止まるなんて現象は起きない。勿論そんなところに瞬間接着剤のようなものが塗っているわけではない。それは確かにたかだか半径数mmの玉の端を鋭利な刃物か何かで削ったことを示していた。というよりも斬った、といった方が良いかもしれない。

 (まさか………刀!?)

 と思って調べに行こうと思ったが自分の指が無くなるのが視えたのでやめた。けれどもこれでこの基地全体を見ることはできた、表面的・・・には。

 「なんてこった………あの阿保な上司の勘が当たっちまったぞ………」

 そう思いながら口に加えたライトの端をガジガジとしながらバックパックから通信機を探す。奥の方にトランシーバー型のそれを見つけて引っ張り上げた。そしてしっかりと持って静かに少佐の部屋を後にする。彼の部屋に再び静寂が戻り、少しだけ差し込む日光はあったはずの彼の机の跡を照らしていた。



 ――――――――――――――――――――――――――――――

 


 寄宿舎から出て司令塔の裏手で先程の通信機のアンテナを伸ばす。試しにラジオの周波数に合わせるとたまたまビートルズの曲がノイズがあまり入らないで流れてきたので通信が良好と判断した。目的の周波数にかける前より先に予め設定している周波数の一つにダイヤルを合わせる。

 『………が……………オ………あ…………』

 ここまで言ったのを確認して通信機のダイヤルを回す、目的周波数は114.25Hz。

 『もっしもーし?聞こえてるかーい?』

 「オーライト、リーダー。(確認のため)花いちもんめ」

 『勝てばいいのだよ、勝てば!!』

 よし確認が取れたから間違いなく本物だ。というか絶対花いちもんめ知らないよな、この人。まあかく言う俺もだけど。

 「とりあえず状況報告。地あり、空なし」

 ここで言う「地」は「地下」、「空」は「現在空が見える地点=地上」である。そう今回の目的はこの基地の地下の探索なのである。今回の考故学ロストロジーは「ジルバの遺産」というもの。阿保上司曰く、ジルバ軍は幾つもの基地を一時期だけ占領していたんだ。でもどの基地も現在は一般市民の使用が許される建物になっていたり、公園になったりしているにも関わらず君のいるそこ、旧ジルバ軍基地はただ隔離施設のように何も手が加えられていない、放置され続けている。

 さあなんでだと思う?遠いから?見晴らし良すぎて観光客も飽きるから?それとも補修工事が一切進まないから?どれも違う、答えは国が手を付け難い何かがあるという明示されていない事実!!だから私はこれを「遺産」と呼んでいる、とのことだ。

 要するに手が付けられない=解明してはいけないゆえがある、ということだ。考故学の範疇は単純に「近代のわかっていないということ」が証明もしくは判別されていればその中に故があるという結構いい加減な枠組みだ。勿論「いい加減」は「良い加減」であり決して曖昧という意味ではない。範疇なんて波のようなもの、下手に枠組みを作ってしまえばそこまでにしか対応できないと上のお偉いさんが言っていた。

 『フッフッフ………どうやら私の考えていた通りに物事が進んでいるようだな』

 「いやあんたただ地下がありそうだから調べてこいって言っただけであって、今回の手続き、準備と装備、それに念のための調査書類を用意したの全部自分なんですけど」

 『…………………フッ、そんなことよりも他に何か連絡事項はないのかい?私も手伝いたいのは山々だが―――』

 「あーありましたね、始末書・・・。一昨日見た時は大体200枚書き上げた所ですよね」

 ギクッという声が聞こえたのでまあ予想通りやっていないだろうなというのが判明した。この始末書は最近、阿保上司が派遣された先で暗躍していた暴力団をよくあ……じゃなくて取り押さえた時の被害を警察から直接始末書という形で片している。

 「で、あと何枚ですか?1600ぐらいあったからそのうちの半分は終わってますよね?」

 『あー、あー……あれれ?なんだか通信機の調子がおかしいなー??』

 「マイクの所に爪立てないでください、猫じゃないんだから」

 『にゃあにゃあなーご?』

 「あ、うん、確定だ。もうクリスには連絡してあるんで、一旦切りますね。あとNGワードは『にゃあ』です。ではまた連絡します」

 『あ、ちょっ………え!?クリスちゃん!?なんでここにいるの!?え、どうし』

 溜息をついて通信機の電源を切ってそれを再びナップザックにしまい地下への道を探し始めた。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――



 途方に暮れる自分がいた。それもそのはずかれこれ数十分は司令塔、寄宿舎、ガレージ周りを調べたが扉の反応はなく、途中壁の中に何らかの反応があったが金属探知機が反応したのでただパイプが残っているのだけだなと思ってスルーした。結果地下への入り口は見つかるはずもなくただいたずらに時間を消費してしまったことを後悔していた。

 日が若干だが傾いているのが分かる。念のため地面に棒を立てみるとその影が数㎝伸びていた。急がねば……と内心焦る。なにせここら辺は灯りと言うものがないので真っ暗になり、星が輝くとは言え見えるのはだだっ広い荒野、しかも帰り道はやって来た道一本のみ。残りの水も尽きかけている、8月なので夜は確実に20℃を超える。

 「…………………………あー無理ー」

 そう言ってバックパックを壁際に置き日陰の地面に寝転ぶ。砂漠のように砂が積もっているかと思いきや底が浅く、昔が基地であったことを投げ出した身に痛みという形で思い出させられる。しかも砂はひんやりと気持ちいいと(何故か)思っていた為か砂風呂ぐらいの温度の砂に触れて予想以上に温かくて面食らう。

 本格的に考えがまとまらなくなってきたな………としみじみと熱いと感じてしまう砂の上に転がりながらそう考えていると置いていたバックパックが突然揺れ始めた。一瞬呆気にとられたがそれが上司が個人で連絡するための合図だったことを思い出す。バックパックをまさぐって上司とだけ繋がる通信機を取り出す。

 それは今では珍しいとされるケータイの中のガラケーよりもさらに古い歴史を持つ『ポケベル』だった。正確にはポケベル『型』の受信機で本来のポケベルのように数字のみを送れるだけのものではなく、アルファベットも入力できる。加えて送受信が可能なため、これはメールが完全にできる様になったポケベルである。ただし打ち込める文字は16文字まで。

 だがこれのすごい所は違う所にある。それはこれにオルゴールの機能があるという所である。まあ使う機械なんてそうそうないが。

 「えと………どれどれ?」

 そこに書かれていたのは「Airport under」と書かれていた。飛行場の下を調べたが特に出てくるものはなかった。あったのはダイハード2の時に見た司令塔と繫がる道だけ。まあそこを調べれば一発でミイラになるだろう。

 とりあえず「Nothing there」と送り返す。するとクリスに拘束させているにも関わらずすぐに返信が返ってきた。「Let down」と来たので速攻で「Fuck」と送り返す。すると何故か「Why」と返信が返ってきた。

 「は?なんでってそりゃ…………」

 と送る間もなく本人から回答が返ってくる。そこには「Seek hide」と書かれていた。それが見つかれば苦労はしないんだよ、と内心ぼやきながら再び「Nothing there」と送ると「Seek sand」と返信が返ってきた。

 ついに頭がイカれたか、と思いつつ言葉の意図を考える。そろそろ三十路の半ばで婚期がなんとかと近頃言っている阿保上司だが頭の回転が速いのは誰もが知っている。その上司が特にヒントらしきものを出さずにこんな曖昧な回答をするだろうか?わざとやっているにしても流石に意地悪すぎるが16文字という制限の中でそんなことをしないことは互いに承知している。

 だがどう考えても辺り一面砂だらけの中から地下へ通じる隠し通路みたいなものを見つけられるのだろうか。まさか一回一回一応持ってるスコップを使って掘れなんてことはあるはずもない。となると………。

 「もう一回司令塔の周りを調べてみるか」

 そう言って起き上がり髪の毛についた砂を落とす。ついでに服とズボンについた砂を落としながら立ち上がりバックパックを再び背負って司令塔向かった。

 


 ―――――――――――――――――――――――――――



 時刻は既に3時を回っている、影の長さが倍になっているから恐らくそうであろう。

 疑問に思うかもしれないが私は時計を持たない、脳にある体内時計を崩さないためだ。街に時計台だとか電光掲示板の端のデジタル時計とかがあるが比較的見ないようにしている。

 人間使わないと衰える。昔スポーツをやっていた人間が大丈夫だろうと思って急に走りだしたら肉離れを起こした、みたいなものだ。だからこそ日常に取り入れて常に使い続けるようにする、そうすれば衰えるどころか『慣れて』くれる。使うたびに強くなる、まさしくゲームみたいなもんだ。

 話がそれたが司令塔の周りをうろついてみて何もなかったので現在司令塔内部にいる。どこもかしこもコンクリが風化して穴だらけになっていてすごい危ない。ひどい所になると罠のように一部分だけが風化していて通った後にその場所が崩れる、なんてことが3階を調べている時に数回起きた。このままだとダルマ落しの要領で2階も危ういかもしれない。

 それで、地下だったのか。それっぽい箇所を2階と1階に見つけた。まずは2階から、ダストシュートだ。壁に彫られたダストシュートの経路を見ると地下にあるごみ処理場に繋がっていることが分かったのだけれども調べようとは思わなかった。パイプの風化、削り過ぎとかによる人為的な外部の影響ではないそれを考えると手元にあるこのコインを投入すべきかどうか迷ってしまう。うまくいけば1階に落ちるが下手すれば手の届かない何処かに行ったら大目玉を食らってしまう。だから調べずに放置した。

 次に1階のところは2箇所あった。一つは食堂の厨房、もう一つは2階に上がる階段の隣にある不自然に盛り上がった砂の山。食堂の方は錆びた冷蔵庫を嫌な摩擦音をたてながらどかして見つけた。これは当てずっぽうだったので見つけた時には驚いた。階段の方は初めから怪しいと睨んでいた。説明するまでもないので割愛する。

 だが二つとも調べるには至っていない。何故なら厨房が当たりだったのだ。

 初めは中にあるものが腐り過ぎてておぞましい臭いが凝縮されているのではと思いつつ鼻をつまみながら開けようと思ったが予想以上に堅かった為思いっきり引っ張ったところ、扉を壊すに至った。残念ながら錆びが酷かったので直すことは叶わなかったが、とりあえず地下への階段を発見できたのは僥倖だった。

 ライトを片手にかなり長い階段を降りると下水道のような道が目の前に現れた。上にライトを照らすと銅で作られた古い看板が掲げられていたが、ほとんどの文字が崩れて読めなかった。けど一部分だけ文字が残っていてそこには「――――――坑道」と書かれていた。

 記録によるとこの基地の地下に坑道があったというものはない、つまり少佐が何らかの狙いでここを作ったと考えられる。まあ当時の情勢から考えると核兵器が落ちた時のためのシェルターと考えるのが妥当だと思うが。

 そんなことを考えつつ古びた坑道への扉を蹴って中に潜入しようと思ったが、先に阿保上司に連絡を入れるべきだと思い一時地上に戻る。まだあまり日が傾いてないのを確認して建物の、先程まで寝そべっていたところまでやってくる。同じように通信機を取り出して上司に連絡をしようとした瞬間、妙な音が聞こえた。

 (……………なんだ?)

 ヘリの音にしては小さく鳥の羽ばたきにしては大きい音。そして一つだけ心当たりが思い浮かび顔を上げるとそれは丁度視界の端に入っていた。

 (ドローンか!!)

 俺は一応持ってきた砂の迷彩布を頭から被って地面に伏せる。自分の身体よりも大きいものを持ってきたので全身を確実に隠せている……はず。

 俺の考え通りうまく隠れられたようでドローンは何も見なかった素振りをして日向の方に去っていった。そして俺は静かにバックパックから通信機を出し、クリスに繋がる周波数に合わせてモールスでSOSを送る。驚いたことに返信は例のポケベルから返ってきた、内容は「Whats happen」。

 (知らないのか………!?)

 と思い「Drawn」と送ると「Dont know」が返ってきた。そうなると何らかの印が付いているはず。双眼鏡を使いドローンの行く末を見るとドローンは寄宿舎の方に行って建物の影に隠れた。事前にこの近辺を調査した資料に目を通していたがここら一帯に現在のアメリカ軍の人間は関与していないことがわかった。

 (そうなると考えられるのは…………あーやっぱり)

 ある意味称賛できるその執着心に溜息と小さい拍手をしてしまう。ドローンの向かった先の装甲車の奥から姿を現したのはヴォルホード・ヴァ―キンス中尉、いや元中尉か。現在は大佐になっている。少し前にアイツの部隊が作戦に失敗しているのを見かねた阿保上司が助けてやったにも関わらずそちらに非があると言って逆ギレしてきた。そこからコイツとの縁が始まった。

 まあなんでコイツが来たかというのは周波数を合わせた時にたまたま無線を聞き取ってたんだろうな、阿保上司の回線を。それでたまたまここの座標を見つけたんだろう、私より先に手柄を立てるために。あれがいると自由な行動ができないのは確かだが………。

 (あれを先行させて中を調べさせよう、丁度犠牲者アイツのぶかがいるし)

 完全に犯人の目線だな、これと思いつつ静かに無線機のダイヤルを回した。実は上司とアイツとの話し合いの最中、クリスに頼んでアイツの軍帽に盗聴器を仕込んでもらっていた。その番号に相手に気付かれないように回し、内情を探ってもらうことにした。

 (というかなんで中佐時代の軍帽被ってんだ………?)



 ―――――――――――――――――――――――――――――


 1時間ぐらい経過して坑道へ向かったヴォルホードの部隊の大半が行方不明との連絡が入った。想定していたよりも地下は広いというのが分かった。双眼鏡でヴォルホードの方を見ると額に血管が浮き出ていたのでそろそろキレる頃だなと思った。そしてアイツらもそろそろ頃合いだなとも思った。

 俺みたいな不法侵入ならともかくアイツらは正式な手続きの下でこの基地にやって来たのだろう、そうでなければヴォルホードはもう少し落ち着いているだろう。そこで数分待っているとヴォルホードは持っていた水筒を飲み干したのだろうか、投げ捨てて撤退命令を出した。すでに部下たちは地上に戻っていたから一応あんな奴でも信頼はあるみたいだな、と少し感心してしまう。

 それはともかく装甲車とドローンが立ち去るのを確認して迷彩布を畳む。今の時間は大体4時といったところだ、あと2時間もしないうちに日が沈む。急いで坑道に向かい既に蹴られて壊されていた扉を飛び越えて中に潜入する。

 とにかく中は暗かった。ペンライト程度では少し前しか照らせない為か周りがどのような様子になっているかが一切わからなかった。これがいつもゾンビゲーの主人公たちが味わってる感覚なのかと思いつつ、一寸先は闇という言葉が頭の中をよぎった。

 それから壁を伝いながら進んでいくとパシャと音がした。足を上げ、下ろす。もう一度同じ音がして足元にライトを照らすと地面に水が溜まっていた。そしてそのままゆっくりと先の足元を照らしていくと道に水が溜まっているのが見えて愕然とした。何故なら乾燥地帯での装備なら一通り揃えたが水辺の装備は何も持ってきていないのだ。

 そう思いつつも先程落としたホイホイを探す。ヴォルホードの部隊にはあれがなかったがこちらにはあれがある。左手にライトとホイホイの本機、右手にホイホイを落とした時用に作ってもらったホイホイ探知機を持ちながら落としたホイホイを探す。それに落ちている場所は確実にジルバ少佐の部屋の真下なのだ、まさに一石二鳥だ。

 数分後ようやく探知機に反応があったと思い顔を上げると俺は左手のライトをポロリとその場に落としてしまう。坑道内がやけに明るいのだ、こちらの目が慣れてしまったというよりは全体的に緑がかっているので何か外部の影響によるものだと推測できた。壁に光るそれに近づくとフッとそれは光を消して音を立てて何処かに消える。

 (これは…………)

 再び近づいて厚手のグローブをはめてそれに触ろうとする。このグローブは砂漠にいるサソリを捕まえる時に用いるものだが、何か毒物に触るかもしれないので念のため持ってきておいた。そしてそれを親指と人さし指でつまんで顔の前に持ってくる。

 (………これは虫?しかも発行して水辺となると………)

 驚いたことに今つまんでいるのはあの蛍だった。蛍は日本の源氏蛍が有名だが他の国でも生息しているのが確認されている。特にアジア近隣が多く、秋や冬に見られる個体がいるらしいが実際に目の当たりにしたことはない。それでもこの手にいる蛍はこのアメリカ大陸にいる、これは世紀の大発見なのでは!?

 と浮かれたかったが場所が場所だけにそんな余裕はない。加えて蛍であるにも関わらずおかしな点がいくつもあった。まず、人に触れられていても生きていること。蛍は人間の体温に耐えられずに死んでしまう、という通説があるがこれは少し度が過ぎる言い方で死にはしないが弱らせてしまうことは確かである。だというのに捕まったカブトムシの如く今もわしゃわしゃと動いている。

 次に固いのだ、この蛍。そこまでの強い力で握っているわけではないのだが普通の虫の、そうだなやはりカブトムシを基準にした方がいい、固さよりも固いのだ。プラスチックでできた弁当のふたを虫型にしたような感じの固さだと思う。とりあえず普通の虫ではないとここでは理解して頂きたい。

 (そういえばなんでこんなところに蛍がいるんだ?)

 と思い蛍がいた所をつまんでいない方の手で触るとべっとりとした何かがついた。それを顔の前に寄せてジッと見るとそれが血痕だというのに気が付きつまんだ蛍を放してしまう。その蛍は既に光を消していたので何処かに消えてしまった。

 (あーあ、やっちまった)

 そこまで残念ではなかったがホイホイを無くしたときの代わりになるかなと考えていた。多分ならないな。ふとそこで奇妙な羽音がしたので血痕を触ったグローブを見るとわらわらと大量の蛍がくっついてきた、いやいついて・・・・きた。

 (うおおおおお!?)

 声を出すのを堪えそのままグローブを壁に叩きつけるように投げ捨てる。するとどうであろう、先程まで

手の形をしていたグローブがみるみるうちに小さくなっていき、ついにはその姿を消した。そして蛍たちは食い散らかしたものが無くなったのを理解したかのように光を消して何処かに飛んで行った。

 (…………………はっはは、これが本当の虫食いかよ)

 と無言のまま予備のグローブを取り出してそれをはめていない方の手にはめた。


 ―――――――――――――――――――――――――


 しばらく進むと道が徐々に明るくなっていくのに気付く。おそらくヴォルホードの部下たちが消えたのはこのあたりだろう。血と腐った何かの臭いが辺りに充満している、立っているだけでもかなり気分が悪い。そして奥に一際輝いている所が見えたので近づき蛍の上から触って仰向けにする。

 (やっぱりか………)

 それは地上でヴォルホードの整列の際に一番手前にいた兵士だった。こいつも運がないな、あんなダメな上司の下について。そう思い手を合わせ、弔うことはできないが成仏してくれることを祈る。そして死体を調べた時に違和感を感じた。

 (首筋………しかも頸動脈の辺りが無くなっている?)

 しかもその跡から察するにこれは鋭利なものでつけられたのではなく、肉食獣に襲われたような噛み切られたものだった。明らかに蛍のものではない。

 (……フッ、もしかしてここで吸血鬼か?)

 そう考えながらもそれが可能性の一つにあったことを忘れてはいない。だが可能性が薄すぎるのだ、乾燥地帯、照り付ける太陽、そして清潔感のない湿っている地下の空間。伝承通りならばこの環境の真逆の場所にいなければおかしい。というかいたら相当なもの好きだ。

 立ち上がりここの道が左右に分かれているのを確認する。どちらに進めば少佐の部屋の真下に付けるだろうか、探知機の反応がどちらを差しても同じ反応しかせず気が滅入る。これこそコイントスをする場面だろうかと思ったその瞬間、

 「助けてくれ!!誰か!!」

 息を切らしながらこちらに向かってくる音がする。そして追い打ちをかけるように探知機から小さい音が鳴り、奥から光がやってくるのが見える。

 (マズイ!!アイツ、連れて来やがった!!)

 ドッと冷や汗が流れ、心拍数が上がる。そうここにはとある・・・ものが住んでいたのだ。もうすでに察しているだろう、ジルバ・アルフォード少佐本人である。



 ――――――――――――――――――――――――――――


 「実はジルバ・アルフォードは生きているんだ」

 言われて口に含んでいたコーヒーを上司にぶちまけるとスーツを汚されたにもかかわらず一瞬だけ恍惚とした表情を浮かべたが直ぐにいつもの無表情に戻った。数日前の昼食の時のことである。この段階ですでに自分が厄介事を任せられると瞬時に察したが、今日上司が着ているのはドルチェのスーツなのでやらなきゃ弁償、という流れが既に作られている。

 (やっぱりこの人最悪だ………)

 と思っても時すでに遅し、阿保上司は勝手に話を進める。内容は、地上に何の生体反応がないから多分地下があってそこにいると思うんだけど、それだけである。これで調べることが決定してしまったのだ。急な展開かもしれないがこれが日常茶飯事だと感覚が麻痺する。

 だが、疑問があった。ジルバ軍の基地が襲われて50年を迎えるかそこらなのに何故生きているという確証が出てきたのだろうか?それを阿保上司に尋ねてみると吸血鬼にでもなったんじゃない?という回答が返ってきた、やはり阿保である。


 ――――――――――――――――――――――――――――

 

 だが実際見てみるとどうであろう、それは吸血鬼として判別できる姿であろうか。全身が発光する怪物、滑稽に聞こえるかもしれないが全身に吸血蛍を纏っている不死者と考えればどうであろう?そんなものが奥から全力でダッシュしてくるのだ。ゾンビとかピエロとかよりも相当怖い。

 加えてあれに弾丸は効かない。それはヴォルホードと部下の無線を聞いている時に知った。別に銃弾を止めたとか体に当たっても傷一つつかないというものではない。弾丸が少佐に当たると同時にそこにいた蛍が身を挺してその弾丸を弾くのだ、何と蛍たちが少佐を守っているのだ。それを無線で聞いた時には驚いた。

 そして少佐が狙うのは決まって発砲した人間とその近くにいた人間、もしくは………

 (大声で叫んでいる人間とその近くにいた人間!!)

 俺は持っていた探知機をこちらに走ってくる兵士の男に向けて投げつけた。男は後ろを振り向いた直後だったので気付かず、顔面にもろに探知機を食らった。けれどヘルメットを被っていたので一瞬だけしかひるまなかった、だがそれでも少佐を追い付かせるのには十分だった。少佐は素早く手の蛍を投げて、男の右の脇の下に滑り込ませる。そしてその蛍は男の脇に凄まじい速さで噛みつき、男は転んでその場で悶絶する。

 そして少佐はその上に飛び乗り、男は痛みに呻きながら少佐に首筋を食われた。男は恐らく即死しただろう。けれど俺はそのタイミングを見逃さず、少佐の方に向けて走った。少佐の近くに落ちている探知機がけたたましい音を鳴らしていたのだ、つまり少佐かそこで死んでいる兵士が持っていることになる。

 少佐は見ての通り周りにいる人間しか狙わない。そこの兵士は不自然なコインを拾って何処かに入れているのだろう。なので兵士の死体をどうしても漁らなければならない。それには少佐が邪魔だ。

 走った勢いを活かして少佐の顔面にトーキックを食らわせる。履いている靴が作業靴を改良しているものであったこと、そして昔サッカーをやっていた経験から少佐にクリーンヒットした手応え、いや足応えがあった。少佐は数メートル先に吹き飛びそこで動きを止めた。

 急いで靴についた蛍を水で払い、兵士に向けてホイホイの本機を向ける。右胸のポケットから反応があり、急いでそこ開けるとホイホイがあった。それをポケットにしまい、落ちている探知機を拾って急いできた道を走る。

 「うおおおおお!!!」

 なりふり構っていられなかった。バックパックが大きく揺れてすごく走りずらかったが、それも気にせず無我夢中で走り続けた。幸いにも蛍たちが点々と壁にいたので道に迷うことはなかったが、予想以上に少佐が早かった。

 英語なのかうめき声なのかよくわからない声を発してくる少佐は完全に怪物だった。300mぐらい離れていたのにもうすぐ後ろにまで来ているのだ。捕まったらさっきの兵士みたいに首を噛まれて死ぬだろう。だがもう息が続かず丁度水路が途切れるところまで来て倒れ込んでしまう。

 呼吸が乱れ、心臓が今にも爆発するぐらい動いている。頭が段々真白になっていくが、それでも水を走る音が近づいてくることに対して焦り這って水のないところまで上がる。そして後ろを振り向くと、そこには誰もいなかった。

 不審がった。音が突然消えるのはありえない。何処かにいるはずだ、何処に………。

 ハッと滴った水に気付き、上を向く。そこには飛び上がって落ちてきている少佐がいた。

 「うおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」

 もうどうにでもなれと思い邪魔なバックパックを隣に放り投げ足を宙に向けて出す。頭に描いたのは寝たままできる日本のジュウドウの技。うまくできる自信はなかったがやるしかなかった。

 タイミングはバッチリだったようで重かったが少佐の身体を抑え奥の通路に向けて投げることができた。今の少佐には受け身をとるだけの技量がなかったようでうめき声が聞こえたのを逃さず、隣のバックパックを持っておまけと言わんばかりに震える足に喝を入れて少佐の顔を踏みつけた。

 そこからは再び坑道の入り口まで走り続けた。途中でなんでも転びそうになったがその度に太ももを殴りつけて走る足にムチを打ち続けた。入口に着くころには立つ気力もなく、その場でどっぷりと寝たかったが

バックパックの奥にしまってあったぬるい第二医薬品を数本飲んで無理矢理立ち上がる。瓶は証拠になるのでちゃんと持ち帰りましょう。

 外に出ると地平線の奥が赤くなっていて空は紫色の中に白く光る星を輝かせていた。それを見た瞬間に体の中に溜まっていた疲れがドッと現れてくる。安心したのだろう、不思議と笑みがこぼれて涙が目から流れる。そして足に溜まった疲れが足裏から………足裏?

 「うわあああああああ!!!!」

 足裏にはびっしりと蛍がいた。水辺がないのもあってかなり衰弱しているがそれでも食うことだけはやめていなかった。急いで靴を脱ぎバンバンと地面に叩きつける。

 それを数分繰り返し蛍を全滅させたのを見て靴を見ると、

 「これでどうやって帰れっていうだよ………」

 すっかり穴だらけになっていた。これでは来た道を引き返せるかどうか………。

 空には満天の星が溢れ、名前のわからない星座が自らを主張するように輝いている。風は昼間よりもぬるく、気持ちいいぐらいだ。溜息をついて立ち上がり通信機を出して、阿保上司に連絡する。

 「花いちもんめ」

 『勝てばよか以下略!!』

 「少佐はいましたよ」

 『証拠は?』

 「蛍まみれでも自身の大事な勲章だけは身に着けてましたから」

 『ブッ、蛍だらけだって?それ何の冗談?』

 「………まあそれは帰ったら話しますよ」

 『………分かった、迎えは必要かい?』

 「靴はやられましたけど、どうにか」

 『本当に?大丈夫?』

 「ええ、お心遣いありがとうございます」

 『分かったよ、じゃあ気を付けて帰ってき給え。またなんかあったら連絡してね』

 「あ、ちょっと待ってください」

 『何だい?愛の告白かい?』

 「それこそ何の冗談だ。じゃなくて星座に………竜座ってありますか」

 『………あるよ。確かラードーンっていう守護竜だったはず』

 「………なるほど。………やっぱり少佐は死んで星のラードーンになって言い換えますよ、さっきのは嘘です」

 『へぇ~………上司に虚偽の報告をしたって言うのかい』

 「そうですよ、嘘です。真っ赤な嘘」

 『ふ~ん………まあいいか。君がそう報告するならそういうことにしてあげよう』

 「………!!ありがとうございます!!」

 『フフッ、礼には及ばない。その代わり帰ってきた少し買い物に付き合ってくれるかい?』

 「………はぁ、わかりました。付き合いましょう」

 『………まさか承諾するとはね。どういった心変わりだい?』

 「たまにはあんたの冗談に付き合うぐらいはいいだろう、なあ?」

 『………ほんと可愛くない部下だよ』


 『ああ、そうだ。星になったっていうよりもいい言い回しを思いついたのだけど。彼、アングリードラゴンって呼ばれてたから光るモグラに会ったでどうだい?』

 遅くなりました、これが後書きになります。

 今回は洋ホラーを書くって内容で海外の都市伝説を調べることから始めました。その中でニューヨークの鰐を見て、地下でなんかしよう、という大雑把なスタートを切ったのがなんと6月初旬。

 まあサボりっぱなしというわけではなかったのですが、スクランブルの内容が滅茶苦茶になったのもあってスランプになって逃げました、小説から。

 それでもなんとか考えたのですが、自分で書いていて納得がいかない。昔みたいに理論とか一切考えずに書きたいもんでしたね、本当に。

 それでも思いついたのが蛍。アンゴルモアのアニメ化が発表されて、源氏蛍を最近見てないなぁと思ったのが始まり。そこから海外って蛍いるのかな?と疑問に思って調べると本当にいた、ビックリ。

 モグラは確か朝ドラのセリフか何かにモグラ星人というフレーズが出て、ん?モグラか………と考えていました。でも蛍とモグラってどう合わせればいいんだ?と考えた結果、光るモグラとなりました。過程がぶっ飛んでる?気にしない気にしない。

 まあ普通に考えてもこのタイトルは漢字が分かる人間にしか理解できないだろうなと思ってます。モグラを漢字で書くと土竜。ジルバ少佐はアングリードラゴン。土の下にいる怒れる竜、なので土竜。判ればただの洒落ですね、はは………。

 ジルバ少佐のラフとしては全身にびっしり蛍がついている感じではなく、目だけに蛍が住んでいる感じでした。でもそれだと少佐が生きるには根拠が少なすぎると思い、全身にしました。

 加えてちょっと書けなかった裏設定を書くと、普通に考えれば核兵器みたいな後世に影響を遺すものしか管理しない国の政府がたかが基地一個のためにここまで厳重に警備するのか、とジャックのレポートの考察に書いてるというのを書きたかった。けど余裕なかった………残念。

 実はここまで書けてたらバットエンドになるように考えていたんですが、まあこれがうまくいかないこと、うまくいかないこと。おかげで後書きこんなに長くなってる(´;ω;`)

 さて最後に人間50年ましてや虫に体の栄養を奪われている状態で生きていけるのか?という疑問に対して(ここではミュータントのことは考えないことを前提条件に置く)。これの解答は結構とんちんかんなものですが、なんとなーくそれっぽい理由にしてあります。

 昔、ジョジョの最強は誰だ!!というタイトルの本の中の考察に吸血鬼の原理についてというものがありました。これは文字通り石仮面のメカニズムはどういうものかを解析したもので、その中にビタミンDを生成しないネズミがアフリカの方に生息している部分がありました。

 石仮面は体内のDNAを弄ってビタミンDを生成できないようにして常にハイテンションであるようアドレナリンをドバドバ出させるように脳を弄る力を持っている、みたいな内容が書かれてました。

 で、これがどうジルバ少佐と関係するかと言うと。ジルバ少佐はミサイルの直撃を食らって体の表面を大きく焼かれてしまいました、るろ剣の包帯ぐるぐる巻きの人みたいなもんです。その際に生きている細胞を使って生き延びようとしたジルバ少佐は坑道の奥で密かに研究していた、コアネカホタルを使った延命を思い出し坑道の奥に住み始めます。

 しかし、体から湧く蛆虫、治らない怪我、そして断続的に続く痛みに耐えられなくなったジルバ少佐は発狂し、コアネカホタルの主食を自身の蛆虫にして自身をホタルの巣にすることを考えました。どうせ長くは持たない、なら自身のこの研究と共に消えようと心中のようなことしていました。

 発狂した人間の気持ちまでは流石にわかりませんが、とりあえずこれが功を奏し見事ホタルの巣となることで危機を脱しました。

 ここから先は書かないことにします。まあここまで書いていれば真犯人も、政府の目的もなーんとなく理解できると思います。本当は獅子待咲華しじまちさいかの続きを書いてたんですが、ほのぼのパートが多すぎたのでやめて何もない所から書き始めました。おかげで本当に時間かかった………。

 今回は洋ホラーで書かせてもらいましたが次回はもう少しバットエンド向きの話を書きたいと思います。スプラッターでもいいかな?とは思ってますがうまくできるかは不明。ではまた次回!!さよなら!!









 ポイント2だけだけど………これから伸びるよね…………

咲華「それはないと思うぞ、今回もオチが滅茶苦茶だし」

ジャック「だから詰めが甘いって言われちゃうんでしょうが」

 言い訳が出来ないのが本当に悲しいよ………、お前ら………。

 


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 1万6000文字だとすると、さすがにちょっと長く感じます。 私も昔やったことがあるのですが、二話か三話に分割した方がいいと思います。 いい区切りのところが何カ所かありますし。 [一言]…
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