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『インパルス』~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~  作者: 時雲仁


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85話 帰還 [施設跡]

さて皆さん、ジェットコースターはお好きでしょうか。

……それでは、高速移動する”箱”は如何でしょうか。

 夕日が沈み行く中、施設へと向かう車両内でふと、サナが呟いた。


「お兄ちゃんとね、車に乗った時はもっと速かったなの……」


 恐らく、大使館から脱出した時の事を言っているのだろう。

 現在も高速道路を飛ばしているのだが、これよりも速いって……


「その時の運転は、正巳君がしてたのかい?」


 ホテルに着いた際、正巳君は何処か疲れた表情を浮かべていた。


 『普段運転しないんです』と言っていた正巳君が運転していた。

 ……そう考えると、正巳君が疲れていたのにも納得できる。


「お兄ちゃん、凄く速かったなの!」


 どうやら、本当に正巳君が運転していた様だ。


「マム、アレ(・・)を使うかい?」


 そう言って、サナが手に持っているスマフォを見る。


『やりましょう!』


 文字が浮かぶ。


 その直後『”ガコン”』という音がした。

 ……マムが、高速スキャンシステムを起動させた様だ。


 このシステムは、高速移動するドローンによってスキャンを行い、地形データを取るというスキャニングドローンだ。応用する事で、()の道路情報等も確認できる。


 (始まったな)と思いながら、車内を見渡した。


 ザイ、ハクエン、サカマキ(ハク爺)は正面の席に座っている。

 その為、画面はサナと今井にのみ見えていて、他の者からは見えていない筈だ。


 高度な人工知能である”マム”の存在を知る者は少ない方が良い。

 ……特に、身内となった訳でない者に関しては、気を付ける必要がある。


 ザイやサカマキ(ハク爺)に関しては、既に身内のような感覚にはなっているが、今の所部外者である。そこら辺はきっちりと区別を行っている。


 ……まあ、マムの機体(からだ)を見てしまえば、隠せるはずも無いのだが……まあ、一応体裁だけでも必要なのだ。


 よって、今のマムは”自動運転システム”として機能している……事になっている。出発時にザイが『運転致しましょうか?』と聞いて来たので、『自動操縦なんだ』と説明しておいた。


 ……多分大丈夫。


「よし! サナくん、正巳君の運転よりも”速いの”を体感できるよ!」


 そう言うと、サナが目を輝かせる。


「速いのなの?」


「そうさ、速いよ! もう、何もかもを置いて行くぐらいにね! ……皆も、しっかりとシートベルトを締めてくれ給え」


 そう言うと、今井はサナのベルトを締めてやった。


「……あの、”速い”んですか?」


 声がした方を見ると、ハクエンがキラキラした目をしている。

 ……どうやらサナと同種らしい。


 その横に座っている”師匠”は、何処か落ち着かない様子だ。

 ……焦っているのか、中々ベルトを締められていない。


 ザイはいつも通り、素早くシートベルトを締めていた。

 ……何時もぶれない男だが、確かホテルの支配人だったはずだ。こんな所まで付いて来て良いのだろうか……今更だが。


 そんな面々を見ながら、口を開く。


「”物凄く”速いよ! 一応、ナンバープレートも”それ用”にして来たから、スピードは幾ら出しても良いのさ!」


 ……今井が言っているのは、『ナンバープレートを大使館のモノにしている』という意味なのだが、当然”良い”訳が無い。


「ザイ君、サカマキ君のベルト締めてくれるかい?」


 今井がそう言うと、ザイが『ハッ!』と答えて、師匠のベルトを締めた。


 ……いつの間にか、ボス吉が膝の上に乗っている。


「にゃんにゃん、もふもふなの!」


 サナが手を出そうとしてくるが、途中でシートベルトが締まり、手が届いていない。


 丁度良かった。


 ……スピードを上げた際にサナが腕に力を入れ、抱えているネコ君がスプラッタな状態になっては目も当てられない。


 サナには、『しっかりとつかまっていた方が良いぞ?』と言い、モニターを見た。


 ……一つのモニター上に複数の情報が載っている。


 目的地までの残りの距離……約80km

 目的地までの残りの時間……約54分

 使用エネルギー充填時間……完了

 使用エネルギー燃焼レベル……Lv2


 ……どうやら、既に準備は終わっているらしい。


「さあ、マム頼んだ!」


 今井がそう言った次の瞬間、『”ボッボボボ……”』という”燃焼音”と共に、徐々に加速し始めた。……体にGが掛かる。飛行機が離陸時に加速する、あの感覚だ。


 ……小さい窓から外を見ると、外の景色は最早只の線画の様になっていた。


「ヒュッ…………ヒュッ……」


 変な呼吸音がすると思って、目を向けると、サカマキ(ハク爺)が目を閉じて深い瞑想(・・)状態へと入っていた。


 それに対して、ハクエンは楽しそうに、小さな窓から外を見ている。


 ……そろそろ夕日も沈み始めているだろう。


「おねえちゃ! 速いなの!」


 サナもハクエンと同じく、目をキラキラさせている。


 腕の中で震えているボス吉を抱えながら、モニターの数値を確認する。


 ……目的地迄の残り時間……約10分


(直ぐ着きそうだな)


 そんな風に思いながら、高速移動する車の中、ボス吉のモフモフを堪能する今井だった。


 サナのスマフォ上に表示されていたマムは、上機嫌でクルクルと回っていた。


『はしれ~はしれ~びゅんびゅん、はしれ~』


 そんな言葉が画面上に表示されていたのだが、誰一人気が付く筈も無かった……いや、ザイが一瞬その画面を見たのだが、直ぐに何もなかったかのように、視線を外したのだった。




――――


 その日、スピード違反を取り締まるシステムは一部区間で停止していた。


 更に、一部の運転手から『蒼い火を噴いて走る化物が出た』とか、『地面を焼きながら爆走する妖怪が出た』とか話題になるのだが、その日のその時間帯のドライブレコーダーには、何故かデータが残っていないのだった。


 夕闇に沈み行く(あか)色の中、蒼い炎を放ちながら進む車はさながら”流星”の様だった。


 後日、ネット上を徘徊していたマムが『高速道路を暴走する妖怪、”流星公”』と云う記事を見つけて気に入り、ジェット加速を”流星行(りゅうせいこう)”と名付けた。


 この後、密かに”開発”を進めるマムに気付いた今井が、『僕も協力しよう』と言い出すまで、そう時間はかからなかった。


 ……その結果、蒼い炎を吹き出しながら飛ぶドローンや、水上を飛ぶように(・・・・・)走る船が造られるのだが……そんな事を正巳が知る由も無かった。


――――


 爆走(・・)から数分後、一同は無事(・・)目的地である孤児院へと到着していた。


 ……一部、本当に無事(・・)なのか分かりかねる者も居たが。


 ”瞑想”で、深く精神の内に入り込んでしまったサカマキ(ハク爺)をハクエンに任せ、車両の外へと出た。


 ……外へと出た瞬間、ボス吉が凄い勢いで走り去って行った。


 そんなボス吉の姿を見送りながら、”施設”へと目を向けた。


「……どんな建物が建っていたか分からないね」


 今井の目には、既に崩れ去った”瓦礫の山”が映っていた。


 何処を見渡しても、”施設”らしきモノは無い。


 周囲には何台ものトラックが、瓦礫や土を、広場の隅に積み上げている。


 そして、その広場の中心地は、中心から半径40メートル程が掘り返されていて、大きな”穴”が出来ている。恐らく、これが『地下一階部分を掘り返した』結果だろう。


 そんな光景を見ながら、ポケットから取り出したイヤホンを耳に装着した。


「マム――」


 マムに『正巳君が何処に居るか、何処に居る可能性が高いか教えてくれ』と言おうとした瞬間、話しかけて来る人物がいた。


「今井様……」


 妙に沈んでいるが、そこに居たのはホテルマンの女性であり、正巳君とこの”施設”へ来ていたと云うユミルだった。


「君か、それで正巳君は?」


 見た所、掘り返した”穴”は只のあなで、”地下室”らしき影は無かった。


「申し訳ありません、全ての地面を掘り返したのですが……」


 実は、”掘削機”は今井も送り届け、マムの操作の元運用していた。しかし、その運用エリアは施設周辺では無く、付近に存在した”監視施設”の地下部だった。


 だから、この施設はホテルへと任せていたのだ。

 そして、周囲には数十人単位の人員が作業している。


 ……見ると、ユミルは作業着を着て、泥だらけになっている。

 土を抄うショベルカーから降りてきたのを見るに、自分で運転していたらしい。


「君、ショベルカー(これ)運転出来たんだ」


 ユミルの言葉の意味を理解したくなくて、話題を逸らす。


「……はい、こちらに来てから教わりました」


 見ると、ユミルは”片腕”だ。

 この状態で操作するのは大変だろう。


 今井の視線を感じ取ったのか、ユミルが苦笑する。


「操作しているのを見ますか?」


 そう言って来たユミルに頷いた。


「ああ、是非見せてくれ……」


 頷いたユミルが、重機へと乗り込む。


 ……片手を上手く使っている。


「それでは、そこの瓦礫を移動させますね」


 そう言って、近くの瓦礫をショベルカーのアームを使って抄い上げた。

 見ると、腕の他に、足を器用に使っている。


 ……どうやら足りない腕の代わりに、足を使っていたらしい。


「……上手いもんだね」


 上手い言葉など、思い浮かばなかった。


 そのままユミルの操作する様子を、見ていようと思った。


 しかし、不意に入ったマムからの通信でそれ処では無くなった。


「マスター! 再び振動が検知されました!」

「なに? 前回と同じ波形かい?」


 前回検知した振動は、膨張現象の振動だった。もし、今回も同じであるならば、近くに研究室が存在するか、他にも類似した波形を持つ現象が有ると云う事になる。


 もし、後者だった場合、そもそもこの3ヶ月間の努力が無駄になる。


「……いえ、前回と違う波形になります……あ、再び検知されました!」


 これは……


 急いで、車両へと戻った。


 車両内には、未だに瞑想中のハク爺とハクエンが居て、ハクエンは未だ、どうやって起こしたものかと苦労している様だった。


「……」


 ハクエン達に声もかけずに、モニターを起動する。


「マム、波形表及び、元の施設図と計測地点を重ねた”図表”を出してくれ!」


 『はい、マスター』と答えたマムが、モニターにリクエスト通りのものを並べて行く。


 ・波形表……大きな波一つ(・・)の波形だ。

 ・施設図……ポイントが打たれている。


「……これは、もしかして……」


 表示された情報を確認した今井の脳裏に、一つの可能性が閃いた。


「マム、この地点に行こう!」


 そう言って、モニター上に現れた『起動認証』のボタンを押した。


「認証確認……状況確認――各部破損無し、マム起動します」


 これは、起動時に自身の状態確認の為に設計した機能だが、抑揚のないマムの声は新鮮だ。


 初期確認が済んだ、マムの体が起動する。


 車両後部に積み込まれた、人間の子供位のサイズの機体(マム)が立ち上がる。


 ……尻尾があって、不自然に肌が綺麗な点以外は、5,6歳位の少女に見える。


「パパを迎えに行くデス!」


 そう言って、勝手に歩き出したマムに慌てながら、呆気にとられるハクエンと、未だに”瞑想”しているハク爺に『正巳君を迎えに行くよ!』と言い、自分も車両を出た。


 まだ微かに視界にある、マムの姿を目標にしながら、走り出した。


 ……途中、ショベルカーの上で黄昏ていたユミルにも『正巳君だよ!』と声を掛けて、そのまま走り過ぎた。


 ……技術者であり、科学者でもある今井が、”証明されていない事”を”断言”する事は殆どなかったが、今井のその言葉は『祈り』であった。


 ただ、『祈り』に過ぎない筈の事ではあったが、何故か、確信があった。


 ”正巳君は、あそこに居る”







 ショベルカーの上で、一人黄昏ていたユミルだったが、物凄い速度で走り過ぎた”少女”に加え、後から走って来た今井の言葉に、暫くフリーズしていた。


『正巳君だよ!』


 数秒、その言葉の意味を考えていたが、その後通り過ぎた少年と、髪を後ろで結んだ”傭兵”の姿を見て、我に返った。


「見つかった?」


 ようやく言葉の意味が理解出来、慌てたユミルは、ショベルカーの上から降りる際、バランスを崩して落下した。


 ……左手が使えないのに、左に体重を掛けようとしたせいだ。


 しかし、そんな事は些細な事。


 今は一刻も早く、その存在を確認しに行くのが先だ。……これで自分の役目が終わるとしても、それでも、その姿を最後に目に焼き付けておきたかった。


 密かに、”覚悟”を固めながら、ユミルは今井達の向かった方へと急いだ。







 ショベルカーから落ちたユミルを陰から見ていた男は、踏み出しそうになった足を、グッと踏ん張り、”一歩を踏み出す”その姿を見つめていた。 


サナの目に映る”お兄ちゃん”は、

かなり補正が掛かっているようです。


明日も続けて投稿いたします。

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感謝ですm(_ _)/

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