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『インパルス』~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~  作者: 時雲仁


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73話 孤児院 [被験]

正巳の四日目?(後編④)

 いつからそうしていたか分からない。


 目が覚めてからは、ずっと、部屋にある木の枝の数を数えていた。


(1,980、1981,1982……)


(4601,4602,4603,4604……)


(13999,14000……)


 ふと、思う。


(アレハ、タベモノカ?)


(……)


(……ナンデモイイ)


 数えるのを再開した。





 ――

 数えるのも、100,000迄数えて、飽きた。


 その代りに、漂ってくる”臭い”に気が付いた。


(ニオイ、タベモノ?)


 ……ここからでは”何の”匂いか分からない。


 ”知る”には、移動しなくてはいけない。


 ……動こうとしたが、手足が縛られていて動かない。


 ……力を入れようとするが、上手く力が入らない。


 ……上手くいくまで、何度も繰り返した。





 ――

 力が、上手く入れられる様になっていた。


 これで枷から外せる……


 一度、力を緩めて……


『”ミキャッ!”』


 ……力を入れすぎた。


 右の手首が枷に引っ掛かり、手首が千切れてしまった。


(……マア、イイ)


 何度も(・・・)千切れては、再生して来た。


 ……その後、流石に千切るのは痛いので、自由になった右手で、打ち付けられた枷を、壁から抜くことにした。


(ヒク、ヌク、ヒク、ヌク……)


 流石に固かったが、”千切れる寸前まで腕に力を込めて、引く”を繰り返していたら、外れた。


 ……枷は、左手と両足に付いたままだ。


 ……足を動かした。


 ……腕を動かす要領で足に力を入れる。


 ……歩ける。


 10歩少し歩いた処で、匂いのしてくる角に着いた。


(ニオイ……タベレルカ?)


 角を曲がる。


ごれバァ(これは)……」


(タベモノ、チガウ……)

 

 曲がった先には、白衣を着た人間が倒れていた。


「……」


 近づく。


 ……この白衣には見覚えがある。


 何度も苦痛を与えて来た男が着ていたモノと同じだ。


「……」


 近寄ると、既に死んでいた。

 腹部には枝が刺さり、背中まで貫通している。


 男の体を仰向けにする。


 ……腕が異様にデカい。それに、足も大きくて指と指の間に水かきがある。


 匂いはこの男から出ているようだ。


「……」


(タベモノチガウ)


 男の体から漂って来た腐臭に、近くを離れる。


 周囲を見渡すと、机があったので、近づいた。


「……」


 それは”机”と言うよりは、”実験台”で、上には幾つかのビーカーや、試験官が並んでいる。


「……」


(ナイ、ナイ、ナイ、ナイ……)


 上に並んでいた器の中身は、ほぼ全てが空だった。


 ……ただ、一つだけ中身の入った器があった。


(タベモノ、ダ)


 ……手に取る。


 ……液体の色は分からない。


 ただ、何か色が付いている事だけは分かる。


 口に含む。


 ……液体が、喉を滑り落ちて行く。


 もう一口含む。


 ……液体が、体内に浸みて行くのが分かる。


 もう一口。


 ……体が軽くなった気がした。


 半分ほど飲む。


 ……体中を覆っていた”痛み”が抜けていく。


 腕を見ると、先ほど千切れた腕が綺麗に治っていた。


「……俺は……」


 自分がいる場所を改めて見渡した。


「俺は地下室に下りて……これは……」


 忘れていた(・・・・・)事を思い出した。


「なんで忘れてたんだ……」


 理由は分からないが、分かっている事は一つだけ。


 この液体を飲んだら、悪かったものが治った、と言う事。


 見ると、まだ半分ほど残っている。


(まだ忘れている事があったら困るし、飲んでおくか)


 そう思い、一気に飲み干した。


 次の瞬間、体が焼けるように熱くなって来たが、耐えられない感覚では無かったので、立ったまま、落ち着くのを待った。



 ――――この時、正巳は自分が何を(・・)飲んでいるのか、何に(・・)なったのかを知らなかった。加えて言えば、正巳を実験台にしていた博士がとある国の科学者であり、大量の人体実験の結果亡命中であるという事、その実験の結果生まれたのが、某国で見世物(デス・ゲーム)の中で使われているキメラであると知らなかった。


 そもそも博士が亡命する事になった原因は、ある実験に有った。当時、未完成の遺伝子融合の研究に行き詰まった博士が、身を置いていた国の極秘施設から取り出した、ある生命体"ウィル"の遺伝子を遺伝子融合に使用したのだ。その生命体とは、地球に存在する生命体では無い。と言うのも、かつて隕石と共に見つかった生命で、既にその存在もかつて存在した星からは姿を消していた訳だが……


 その生命体の遺伝子情報の一部を、被験体に合成・融合した結果、暴走した。最終的に軍が出動し、変異した化物を始末した訳だが、それ迄に一つの村を壊滅させたのだった。当然の如く、拘束及び移送された博士だったが、その際に、元になった生物"ウィル"の遺伝子を全て詰めたカプセルを飲み込んでいた。


 博士は、極秘刑務所に収監される筈だった。しかし、護送中に何者かの集団に襲撃を受け、博士は姿をくらましていたのであった。当時同じ国で、研究者として交流があった"ロイス"は、その身の心配とその技術を危険視していたのだが、政府は国民からの批判を恐れ、隠蔽していた。それから既に十数年が経過していたが――――




 ――

 体の発熱が落ち着いた後の確認は、直ぐに済んだ。


 ……これ以上忘れている事は無かったが、何となく”多少無理”しても大丈夫になった、と分かった。例えば、先程みたいに腕を引き千切っても、大丈夫なような……やらないけど。


 俺の体がどうなっているのか分からない。


 ただ、”実験台になっていた”と云う事だけは分かる。


 今でもはっきりと思い出せる。


 繰り返される、苦痛と”無”の時間。


 ”無”の時、俺はただ目の前の事にしか興味を持てなくなっていた。


 視界に入るモノ、体で感じたコト。


 ただ、臭いを嗅いだことは正解だった。


 腐臭に興味を持ち、結果的にこうして戻る事が出来た。


 それにしても、この男は、何だったのだろう。


「これ、骨か……」


 改めて、男を見ると、その腹部を貫通しているのが”骨”である事に気が付いた。


 誰かに刺されたか……


 そう言えば、俺の拘束されていた部屋にも沢山の骨があった。


「確認してみるか……」


 ひんやりと足裏に心地よさを感じながら、歩き出した。





 ――

 先ほど迄繋がれていた部屋を確認していた。


「……これが骨で……どうしてこんなに粉々になっているんだ? それに、この数……」


 改めて見ると、床一面骨と言うのは異常だ。


 その量もそうだが、其々が細かくすり潰されたように、小さくなっている点も気になる。


 ……俺が関係している?


 この部屋に居たのは、俺と死んだ男のみ。もしかすると、他にも人が居たのかも知れないが、記憶にあるのは、俺の外には死んだ男のみだ。

 

 その男が、腹部に骨を刺して、死んでいたとなると、俺が関係していると見るのが自然だろう。


 ……俺が、粉々になった骨と、腹部に刺さって死んだ男に関係してるとして、どうやってこの現状になるんだ?


 …………さっぱり、分からない。


 …………


 ……何時までこうしていても仕方ないだろう。


「そう言えば、どれ位時間経ったかな……」


 俺が地下に下りて来たのは、上の孤児院から子供達を救出して直ぐ。

 時間的には、あと一時間もすれば、朝日が昇る時間帯だったはずだ。


 となると、今は夕方?


 いや、それなりの時間が経っている気もするし……


 もしかすると、一日や二日経っているかも知れない。


 ……ホテルに送った子供達はどうしているだろうか。

 体調の悪かった子が多かったが、少しでもよくなっていると良いけど。


 ……そう言えば、今日今井さんが戻ってくる予定だったはずだ。


「……外に出ないとな」


 床一面何の骨か分からない”骨”で埋め尽くされた部屋を出た。


 実は先程、机のあった部屋までの間に、道がある事に気が付いたのだ。


「こっちは部屋か……」


 先へと歩いていると、道の途中に部屋があった。


 ドアは付いていないので、そのまま中に入るが……


「うぉっ!」


 入ってすぐ横に、眼球が浮かんだ瓶が陳列されていた。


 ……よく見ると、部屋にある棚を埋め尽くすくらいに瓶が置いてある。


 ……其々の瓶には、眼、耳、鼻などを始めとして、何らかの臓器や皮膚などが入っている。


 見ていて気持ちの良いものではないので、注視しないようにして、部屋を見渡す。


 ……見つけてしまった。


「これは……」


 その棚には、下に骨格標本、上に体の一部が陳列されていた。

 着いているラベルには”9歳、男、投薬L0012、20倍希釈、3時間後死亡”とあった。


「……胸糞悪い」


 一度手を合わせてから、通り過ぎる。


 棚を通り過ぎると、少し大きな風呂桶があった。


 嫌な予感がしたが、見ない訳にも行くまい。


 蓋がしてあったので、取っ手を掴んで持ち上げた。


「クソッ!」


 何とも言えない感情がこみあげて来た。


「こうやって標本にしてたのか……っ」


 静かにふたを閉めた。


 再び、手を合わせる。


 …………安らかに。


 その後、部屋の中を”情報”が無いか探したが、見つからなかった。


「……場所は分かっているし、一度ホテルに戻るか……」


 どのくらい時間が経っているか分からない。


 少なくとも、今井さんと話をする必要があるだろうし、先に帰った子供達の事も心配だ。


 子供達や、今井さん、マムの事を考えながら出口を探し始めた。







――

 その後、30分程だろうか、入り組んだ部屋を歩き回り、マッピングしていた。


「やっぱり、ココが出口っぽいんだよなぁ……」


 そう言いながら、壁を叩いた。


 ……少し響く。


 他の場所も叩いてみる。


 ……響かない。


 音が響くのは、中が空洞になっている証拠、もしくは、壁の向こうに空間があるという事だ。それに、歩き回って部屋の位置関係を調べてみた所、この場所に出入り口をつくる確率が高いだろう事が分かった。


 この近くには保管庫がある。保管庫とは言っても、ほぼゴミの集積所の様な感じだ。何より、俺が居た部屋……実験室やホルマリン漬けの陳列室から一番遠くに当たる。


 つまるところ、この場所が一番当たり障りのない場所なのだ。


「……さて、どうするか」


 触った感じ、他の場所と同じコンクリートだ。


 コンクリートは、『砂』や『砂利』細骨材、粗骨材とも言うがそれらと、『水』、『セメント』を混ぜたものだ。セメントの主成分は、『石灰岩』(炭酸カルシウム)、『けい砂』(石英)、『粘土』(アルミニウムとケイ素の酸化物)それに『鉄』を含んだ酸化物な訳だ。


 ……つまり、めちゃくちゃ”固い”のだ。


 ピッケルや穴を掘る為の機械でもあれば良いのだが、そんなモノ有る訳がない。


 出来るのは一つだけ。


「……殴るしかないよなぁ」


 そう、殴る。


 俺が全力で殴れば……普通は拳が砕けてお終いだが、今の俺は強い力が出せる。

 この力でどうにかなるかも知れない。


 ……ならないかも知れないけど。


「全力で、やるか……」


 拘束から抜ける際に力を込めた時は、自分の腕を砕いてしまった。


 しかし今回は、先ず”腕が壊れないくらい”で殴る。

 それでもだめであれば”壊れる位に力を入れて”殴る。


 これで良いだろう。


「よし……」


 コンクリートの壁に向かって、立った。


次話は、今井視点になります。

正巳が、孤児院の地下で捕えられていた頃の今井達の話と、

捕まってからどのくらいの時間が経過していたかが分かります。

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