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7話 原因

 "技術の今井"から衝撃的な告白をされ、しばらく悶々としていた。しかし、何時までもそうしてる訳にも行かないので、促されるままに部屋に入ると椅子に座った。


 ……何故座って(・・・)いるかって?


 それはね、今井さんが解体(バラ)しているからだよ。


 ……パソコンを。


「おやおや、これはこれは……綺麗にしましょうね~フフフ……」


 声だけ聴いていると自然と警察に通報したくなるが、目の前で行われているのはあくまでも機械の整備清掃(クリーニング)だ。


「あの、それでさっき言っていた、『ロックした』というのは……?」


 そう、目の前で繰り広げられている変態的行為はどうでも良い。


 重要なのは、そんな事ではないのだ。


「ん? ああそれはね、このパソコン()を通して見ていたんだ。で、丁度良いタイミングでコードを走らせることで……あっ、ここで言う"コード"は飽くまでもクローズされた環境での話しで、同じ事をオープンでやろうとするならまた違ったアプローチが――」


「あの、そこら辺の話は大丈夫です。あと、正巳(まさみ)でお願いします」


 一から全て聞いていたら、それこそ夜が明けてしまう。


「んー仕方ない。つまり、僕が君を見ていて、君がここに来るように誘導したんだ」


 分かりやすい。


 最初からそうやって話して欲しい。


「その『誘導』が、パソコンのキーボードを使えなくすると?」


 言葉通り取ると、ただ俺を呼ぶ為に遠隔操作をしたと云う事だ。

 それだけの為に、ここまで手の込んだ事をしたのだろうか……?


「君をここに呼ぶ為の"正当な理由"が必要だったからね!」


 今井さんが、なぜか胸を張っている。


「それは、私にとっての"正当な理由"ではないですよね……?」


 そう、さっきまでは俺にとっても正当な(・・・)理由があった。


 ……パソコンが壊れたという理由が。


 しかし、既に『それを仕組んだのは僕だ』と今井さんから暴露されている。


「もちろん君にとって正当な理由では無いかもしれないけど、意地悪した訳じゃないよ。君には、そんな意地悪しても仕方ないしね」


 ……『君に()』と言う部分に少し思う所があったが、今は重要ではないので触れないでおく。


「それでは、なぜですか?」

「"壊れたパソコンを直しに来た"という記録が必要だったからさ」


 ……記録?


「記録ですか?」


 少し変だと思う。


 単に記録が欲しければ、記録自体を勝手に作ってしまえば良い。


 "技術の今井"と呼ばれるくらいだ、そんな事は朝飯前だろう。


 しかし、俺の言葉を受けた今井さんは、何やら難しい顔をして『そう、記録が必要なんだ』と言った。そして、続けて説明をしてくれた。


「内扉の前にあるドアは、開閉こそこっちからで出来る。でもね、"入退室の記録"は全て外部の会社が管理しているんだ」


 ……なるほど、確かに"セキュリティ何たら"と云う社内規定で、その様なセキュリティ管理がされていると見た覚えがある。


「それで、外のドアにはカメラが付いてるだろ? そのカメラにパソコンを持ってる姿を記録させる必要があったんだ」


 ……うん?


「なるほど? でもそれだと、ただ僕に"パソコン持参"とメールをくれれば良いんじゃ?」


「いや、ただメールを見てパソコンを持って来たんじゃ、後々調べられた時に不味い。"メールを見たから来た"と思われる。……それに"偶然性"が欲しかったからね」


 つまり、誰かに指示されて来たと云うのではなくて、"自然に"来た。と言う状況が欲しかったのか……誰対策?


「それで、パソコンのキーボードをロックしたと……」


「そう!丁度見ていたら、君がパソコンの上に珈琲を溢していたからね。その様子もちゃんとカメラに記録されているよ」


 ……まじか、会社ではプライバシーは無いらしい。


 プライバシー?


 あれ?


 ……不味くないか?


「今井さん、話は変わりますが、カフェエリアの個室にもカメラとか機械有るんですか?」


 もし、カメラやマイクなんかが有ったら、午前中に先輩と話していた事が筒抜けになっていると云う事になって色々と不味い。


「カフェ?ああ、あそこのエリアは、社長とか役員とかが利用する事もあるとかで、そういった機械類は一切入ってないよ」


 ふぅ……一安心。


「そうですか。ところで、肝心の話を聞いても?わざわざ手を回して苦労した訳ですし、こうしてただお話をしたかった訳でも無いでしょうし」


「まあ、久しぶりに話したかったのは間違いじゃないんだけどね……そうだね、正巳君。これを見てどう思う?」


 そう言って今井さんが俺の(・・)パソコンの画面をこちらに向けてくる。


 ……うん。


「えっと、統計データですね」

「これはどうだい?」


 スライドすると次のデータが表示される。


「これは……決算書ですか?」


 薄々何を言いたいのか気が付いているが、わざわざ自爆する必要もないのでとぼける。


「そう、これは先月行われたイベントの決算目録だよ」


 ……何を言わせたい?


「……はい。はじめて(・・・・)見ましたが、私が担当した案件なので分かりました」


 今井さんが、じっとこちらを見ている。


「それじゃあこれは?」


 そう言ってから、すっかり機能を取り戻したキーボードにカタカタと打ち込む。

 今井さんは、操作後に表示された画面をこちらに見せて来た。


「……」


 そこには、赤文字で表示された"シンガポール支援活動部署"の文字が表示されていた。


「分かるかな?」


 顔が強張る。


 ……何を知っている?


 と云うか、なぜ俺にこんな話をしている?


「えっと、寄付先の一つでしょうか?」


 答えると、今井さんがニヤリとした。


「それじゃあ、これまでその"寄付先"にこの団体は有ったかな?」


 誤魔化せない。


 そもそも、統計分析をする為のデータの半分は今井さんから貰った。だからこそ、過去の寄付先に"シンガポール支援活動部署"なんて存在し無いのを、お互いに(・・・・)良く知っているはずだ。


「いえ、有りませんでした」


 そう答えると、今井さんの顔を正面から見た。

 ……これ以上隠しても意味が無いと思ったのだ。


 そんな正巳の心境を知ってか知らずか、今井さんの表情は変わらない。


「では、なぜ今年から"有る"んだと思う?」


 真っすぐにこちらを見据えたまま、今井さんは言った。

 そんな今井さんを見ながら、聞かれた事の意味(・・)を考えた。


 そして――


「まさか、今井さんが載せたんですか?」


 ニヤッと笑う顔を見て、力が抜けるのを感じた。

 それと同時に、何やら禄でもない事を考えてそうだな、とも思った。


 ただ、その瞳は真っすぐなモノで、少しもブレていなかった。

 そればかりか、こちらの様子を見ながら楽し気にしている。


 少し強張っていた体をほぐしながら、今井さんの話を少し話を聞いてみる事にした。

 ふむふむ……ふむふむ……

「これは評価してやっても良いぞ!」


 そんな感じで、評価を頂きました!

 感謝感激雨あられです(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ु⁾⁾

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