69話 孤児院 [傭兵]
正巳の四日目(前編④)
――
その後、順番に部屋を回ったが、どの部屋も男や、男達が部屋の隅に重ねられていた。
最初は驚いて確認したが……
ある男の首には、ガムテープの様な物が貼り付けられていて、そのテープからはじわりと生ぬるい液体が染みて来ていた。他の男の中には、腕や足が折られている奴もいた……急いで戻した。
恐らく、順番にユミルが始末して行き、その後で入ったジュウが処理をしたのだろう。それにしても……この孤児院はどうなっているのだろうか。
余りにも好き放題、やりたい放題に子供達が扱われている気がする。
幾つかの部屋では、白くて丸い錠剤が落ちていた。調べるまでも無いが、恐らく薬物の類だろう。持ち帰って、今井さんに成分を解析して貰う事にする。
何の成分で出来ているのかが分かれば、子供の体内から薬を抜く、役に立つかもしれない。
その後、2階、3階と確認したが、どれも同じような感じだった。
ただ、中には部屋内に複数人の大人がいて、集団での乱暴が行われた跡の残る部屋もあった。再び意識が飛びそうになったが、既に息をしていない男達を見て、落ち着いた。
その落ち着きも、次に入った部屋で消し飛んだ。
最初に、俺の目に飛び込んで来たのは、目の前でガリガリにやせ細った少年の姿。そして、その体に付けられた数多の”根性焼き”……部屋の中には、少年とまだ息のある男が縛られて転がされていた。
部屋の中には、煙草の煙とその残り香が漂っている。
微かに目が開いている少年に声を掛けた。
「誰にやられた?」
「……、、……、……」
微かに話しているが、聞き取れない。
少年の口元に耳を近づける。
「……ぁ……ぁり、がと……」
”ありがとう”そう聞き取れた。
もちろん、横で転がっている男に対してでは無いだろう。
「もう大丈夫だ安心しろ」
そう少年に答えて、縛られている男に向き直った。
……口元のテープを剥がす。
「だれがぁ――!」
首元を軽い力で押さえる。
――昔、ある男が言っていた。
『どんな生き物にも、生物としての構造がある。構造には、絶対の強度なんてものはない。例えばほら、どんなに筋肉を付けていたとしても、首元の筋肉は鍛えにくいだろ?それに、こんな風に、”つぼ”を押さえれば、呼吸さえ止めてしまえる』
「俺の質問に答えろ……」
男が必死に目で頷いている。
――男の様子を見て手を離す。
この押さえ方をすると、酸素が届かなくなり酸欠状態に陥るのだ。
手を離した瞬間、溺れるように空気を吸い込んでいる。
「ブハァ・ハァハァハァ……スーハ―……」
男の呼吸が落ち着いてから、問い正す。
「さて、この子に”これ”をしたのは、他に何人いる? 人数と特徴を言え」
「このガキを? チッ……俺の他に10数人いた。中には、食事を抜いた後、ネズミを食わせていた奴もいたな。あぁ、特徴だったか……そうだな、一人は短髪で耳に髑髏のピアスをしていて……――」
暫くの間黙って話を聞いていたが、ヘラヘラと自慢話をするかのように話す男に、我慢の限界が来ていた。息をゆっくりと吸い込むと、聞いた。
「……おい、この少年にした事を後悔しているか?」
飽くまで、情状酌量の余地を探る為だった。しかし――
「ぷはっ! ははは……そいつは貧弱すぎるってんで捨てられた子供ですぜ? 悪運が強いのか、何なのか、結局こうして10数年生きてきましたけど――『カキョンッ』」
男の頭を挟むようにして掴み、力を入れずに回した。
何となく、どうしたら少ない力で済むのかが分かった。
男の眼球がクルリと動き、光を失っていく。
……何となく、男の妙な落ち着きが気になったが、もう済んだ事だ。
男に背を向けると、少年に声を掛けた。
「名前は?」
聞きながらも、沸騰している血が中々収まらなかった。
「……、、、……」
耳を近づけると、こう聞こえた。
『なまえ ない です』
少し考えて口を開いた。
「よし、今日からお前は"ハクエン"だ」
我ながら、残念なセンスをしていると思う。
トラウマ級の記憶を、名前に付けるなど。少し考えて、『やっぱり、違う名前にするか』と少年の顔を見たら、何も言えなくなってしまった。
「……ぅっ……ぅぅッ」
涙を流して泣いている。
その涙を見て、ふと呟いていた。
「誕生日、おめでとう……かな?」
「……ぁ、、ぅ……」
掠れた声だったが、確かに『ありがとう』と、聞き取れた。
◇◆
”ハクエン”に『後で迎えに来る』と言い、男を廊下に引きずり出した。
その後も順番に確認して行ったところで、正面からユミルとジュウが歩いて来た。
……ユミルが一人、ジュウが二人の男を拘束して、歩かせている。
「カグラ様、攻略完了しました」
「お疲れ様……それは?」
……男達は、手足を結束バンドで拘束されている。両手はきつく縛られているようだが、両足の方は少し間隔を空けて縛ってある。
恐らく、間隔を空けているのは、自分で歩く事が出来るようにそうしているのだろう。歩ける間隔ではあるが、走り出せるほどではない。
「この者達は傭兵です。恐らく"孤児院"に雇われたのでしょう」
「傭兵?」
拘束されている男達の目には、鋭さがある。拘束されても、尚この視線を向けて来る……相当数の修羅場をくぐり抜けて来たのだろう。
それにしても、傭兵を拘束して歩いているホテルマンって……。
ホテルマンって何だろう。
”ホテルマン”と云う職業が、どんなモノだったか分からなくなる。
「はい”傭兵”です。一応私の判断で生かして連れて来ました」
「……うん。まあ、そうだね」
傭兵なんかを連れて来て、俺にどうしろと言うのだろうか?
ジュウを見ても、沈黙している。
「……取り敢えず、中央ホールに行こうか」
「「了解」」
一先ず、予め決めていた集合場所に向かう事にした。
一瞬だけ見覚えのある男に視線を向け、歩き出した。
◇◆
――中央ホールに来た。
ホール内に入ると、そこは4人掛けの長椅子が均等間隔で設置され、正面には十字架がある。
多分、”教会”というモノだろう。
内部は、廊下と同じく薄い灯りが点いているが、光が弱い。
3メートルほども離れれば、相手の顔がぼやけてしまう。
そんなホール内の真ん中に、ペンライトの光が灯っていた。
「早かったな」
リョウに声を掛ける。
「スピード重視で攻略しましたので」
「それで、そいつが"傭兵"か?」
リョウ達の前に膝を突いている男に目を向ける。
こちらが連れて来た"傭兵達"と同じように、両手足が拘束されている。ただ、俺達の連れて来た傭兵達と違い、一人連れられて来た男の目には鋭さが無い。
……元々そうだったのか、それともリョウ達が何かした結果なのか。
男の様子を伺う限り、後者の可能性が高そうだ。
「はい”待機部屋”に居た所を捕らえました」
「そうか……。悪いが、話せるようにしてくれるか?」
俺の言葉に頷いたリョウが、イタチに合図する。
「何でも質問して下さい」
口元のテープを剥がされた男は、震える声でそう言った。
……本当に、リョウ達は何をしたんだろうか。
「お前たちの目的は?」
「”商品の護送”です」
間髪入れずに答えがある。
”商品”が何かは考えるまでも無いだろう。
「仲間は全部で何人だ?」
「……24名でした」
各監視塔に3名づつ居たとして、合計12名。残りの12名が居るはずだが……。
「私の方には、各階に4名ずつ居ました」
ユミルが答え、隣のジュウも頷いている。
「こちらにも同じ人数が居ました。3人一組を基本単位にしているようなので、施設内においては全て排除済みと云う事になります」
リョウが、分かりやすくまとめてくれる。が……其々アルファが6人を抹殺。リョウ達に関しては、8人を抹殺した事になる。
リョウ側の生き残りの傭兵が酷く怯えていたのは、これが原因かもしれない。逆に、こちらの傭兵3人が一つの班で恐怖感が薄かった。
――そう考えると、其々の状態が理解できる。
「これから他にも幾つか聞く。俺以外にも、気になった事は確認してくれ」
『了解』と答えた後、淡々と質問をしているのを見て、安心した。
てっきり、拷問の時間だと思っていたのだが……流石に、血が飛び、叫び声を押さえつけ――というスプラッターな展開は勘弁だ。
――その後、イヤに協力的な傭兵に質問を続けた。
一度、文章を手違いで消してしまい……
すべて書き直して、如何にか投稿できました。




