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『インパルス』~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~  作者: 時雲仁


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66話 欠陥品

正巳の四日目(前編①)


四日目と言うよりは、三日目の夜ですが、

便宜上四日目としています。

 今井がシンガポールの一室で、新しいアイディアを紙に書き殴っていたのと同時刻。正巳は、目標施設である孤児院から約12km地点の、鬱蒼とした森林に囲まれた場所に到着していた。







 車両から降りた俺は、最終確認をしていた。


 既に、全体の指揮を執っている佐藤には、目標到着の報告をしている。


 ……ただ、俺の所は完全に丸投げらしく、俺が現場指揮を執る事になっている、らしい。


「それじゃあ、俺が通信で合図を送る。その合図で施設前まで回収に来てくれ」


「「了解」」


 二人の班員が答える。

 二人とも運転を担当している者だ。


 二台で来ている為、運転手も二人必要なのだ。


 ……マムから、自動操縦できる趣旨の報告があったが、無意味にマムの存在を晒す事になるので却下した。何やら、今井さんが技術フォーラムで上手くやったようで、マムの能力も大幅に上がったらしい。


 却下した際、マムが残念そうだったが、今後幾らでも頼る機会があるだろう。


「さて、二班に分かれるわけだが……」


 俺とこの拠点に来ているのは、二班(十五班と十六班)だ。


 1班が4人で構成されているので、この場には俺と女性ホテルマン(ユミル)を含め、10名がいる。その内二人ずつ、合計4人が各車両に残るので、これから登山するのは6名となる。


 6名を3名ずつの二班に分け、施設を挟むように攻略していくのだ。


「私は護衛ですので……」


 ユミルが、そう言って俺に着く。


 ……何時俺の護衛になったんだろうか。


「……それじゃあ、君は俺と来てくれ」


 そう言って、長身の男性に声を掛けた。

 何となく、腕っぷしが強そうだから選んだ。


 今回は、短時間の作戦な為か皆軽装備で、俺に限っては上下黒の防刃防弾服に、短刀と伸縮する鉄の棒のみだ。しかし、俺が声を掛けた男は、登山用リュックの様な大きなバッグを背負っている。


「……了解(ラジャー)


 低い声をしている。


「……よし、それじゃあ、その三人で班を組んでくれ」


「「「ハッ!」」」


 返事を確認してから、続ける。


「今回の目標は、施設内の全ての児童を救出する事である」


 前情報で、施設内に捕らえられているのは、全て15歳以下の少年少女である事を確認してある。どうやら、15歳~16歳になったタイミングで奴隷として売却していたらしい。


 何れは、売却されて行った子供達も救出したいが、その為には施設内にあるであろう情報を確保する必要がある。……マムには確認して貰ったが、どうやら取引の情報はオンラインに繋がった媒体には保管して居ないらしい。


 ……ネットに繋がっていない記憶媒体に保管しているのか、それとも紙等の媒体で情報の管理を行っているのか……どちらにしても、確保しなくてはいけない情報だ。


「児童を救出後、俺は施設内の情報を確保する。その間に子供達を車両に乗せて帰還してくれ」


「「「了解……」」 ……施設内の職員はどの様にしましょうか」


 ……考えていなかった。


 ……子供達を売買するようなクズだが、俺は……


「一か所に捕えておいてくれ……」


 俺がどうにかする事は出来ない。それこそ、俺自身が制裁を下す事はエゴでは無いだろうか?この施設で働いている者達にも、何か理由があって働いていたのだろう。


「……了解」


 一瞬、何か言いたそうな顔をするが、男は直ぐに表情を消す。


 登山する中でも俺と違う、もう一つの三人班の男だ。


 名前は……今更ながらに名前を聞いていない事を思い出した。


「名前を聞いても良いか?」


 そう言うと、俺の横にいたユミルが、紹介してくれた。


「同じ班になったのがジュウ」

 大きなバッグを背負った男だ。


「もう一班のリーダーがリョウ」

 俺に職員の扱いについて聞いて来た男だ。


「その横でひょろひょろしたのがイタチ」

 ……確かに、ジュウと比べると線が細い。


「最後のがハムです」

 ……名前?

 ……皆が呼んでいる愛称らしい。


「車両に残るのが其々サンとハオ、マイクとジェイ」

 車両の前で一礼してくるので、軽く頷いておく。


「皆、俺はカグラだ。俺達の班をアルファ、リョウの班をベータ、車両班は其々『十五』と『十六』を無線の際のキーワードにしてくれ」


「……フォネティックコードですね、了解」


 リョウがそう答えて頷くと、他の面々も頷いた。


 ……フォネ……?


 俺は戦闘訓練や特殊な訓練を積んだわけでは無い。だから仕方ない、と言うわけでは無いが……こう、必要な事を俺だけ知らない状況が、何か重大な失敗を生まないか心配だ。


 とは言っても、知らないものは知らないので、現状のままどうにかするしかない。


「それではこれより作戦を開始する。一人も残さず救い出す」


「「「オウ!」」」


 その声を合図に、車両班は車両の中に、ベータは施設に向かって右側へと歩き出した。


「さて、行くか……」


 振り返って、班員であるユミルとジュウに声を掛けた。


了解(ラジャー)


 『了解(ラジャー)』か、これが普通なのだろうか……


 そう思いながら、俺達アルファも歩き出した。


 歩いている方向はベータの反対側。

 施設に向かって左から進行する事になる。


 何となく、慣れない仕事(指揮)に入社時の感覚を思い出していた。


 入社時、よく先輩に扱かれたっけ……今先輩は、カプセルの中で安静状態にある。先輩の傷が治るかは、今井さんとマム頼りだ。


 ……俺が出来る範囲は狭い。それに俺にしか出来ない事が、見つかっていない。


 有るとすれば、金だけだ。


 その金さえも、俺自身の力やスキルと言うわけでは無い。


 俺自身が持っているのは、分析力と最近思いだした幼少期の記憶。


 ……分析に関してはマムに敵わない。

 それに、幼少期の記憶に関しても未だ断片的だ。

 

 幼少期の記憶があったとしても、恐らく特殊な訓練を受けているであろうユミルには、その技術でも、経験においても遠く及ばないだろう。

 

 俺が他の人と違う事は、”死”への恐怖が薄い……いや、”死の恐怖”を知らないという事位だろう。施設では職員に”欠陥品”と呼ばれていた。


 この記憶はつい最近まで忘れていたのだが、会社から逃げる際の落下中に思い出した。あの頃は、中々大変な子供だった思う。


 それこそ、自分の命も他人の命も、何故大切なのかが分からなかったほどなのだ。しかし、命の価値については、父から何度も聞かされた物語で理解した(・・・・)


 欠陥品と呼ばれていた事を、なぜ今思い出したのか分からない。


 しかし、この言葉を思い浮かべると胸がズキズキとして来る。


 ……しばらく胸を押さえつける様にしていたが、ユミルが心配するような視線を向けていたのに気が付き、疲れた振りへとすり替えて、誤魔化した。


 何にしても、今回の救出は俺が言い出したことだ。今回無事帰れれば……その頃には、何か得られている事があるかも知れない。


 ……そんな事を思いながら、片道3時間ある道のりを進んでいった。

今日と明日は、二話投稿予定です。

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