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『インパルス』~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~  作者: 時雲仁


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63話 強力な助っ人

正巳の三日目(後編)

 ホテルの前まで来た所で、運転していた男性のホテルマンが口を開いた。


神楽(かぐら)様、只今地下駐車場は車両で一杯となっている為、裏口(・・)に停車致しますが宜しいでしょうか?」


 一瞬首を傾げたが、マムが使った偽名だと思い出した。


「ああ、構わないよ」

「ありがとうございます」


 駐車場が一杯と言うのは、恐らく俺の依頼を達成する為だろう。


 俺が頼んだのは、30人ほどが乗れる車三台と、それを運転する運転手だ。流石に、車三台で駐車場が一杯になる事は無いだろうから、人払いを兼ねて配慮してくれたのだろう。


 細かい配慮が行き届いている事に感心していると、車がいつもの入り口を通り過ぎる。


 そして、そのままホテルの搬入口の方へと行き……シャッターのある駐車場へと入った。


 見た感じ、詰めれば車四台が停まれそうな広さはある。


「こちらへ」


 車が停車した後、女性ホテルマンが立ち上がって、車の外へと誘導する。


「あっ……」


 サナが女性の手を離したのだが、女性はそれにショックを受けたらしい。


「おにいちゃ! いくの!」

「サナ……」


 悪意があるわけでは無いので叱る事は出来ない。


 そもそも、手を離したから怒る事自体、色々と可笑しな気もする。


「また、手つないであげるなの」

「そうだな」


 答えつつ、サナが出して来た手を繋ぐ(・・・・)


「サナ……」


「……?」


 固まっている女性に、男性ホテルマンが一瞬眉を寄せるが、直ぐに誘導をし始めた。女性ホテルマンは、2,3秒遅れて付いて来ていたが、心ここに在らずと言った様子だった。


 ◆


 いつの間にか閉まっていたシャッターを背に付いて行くと、ドアがあった。


「どうぞ、お入りください」


 そう言われて、扉の前に誘導される。


 それまで閉じていたのが、前に立つと数秒間があってから自動で開いた。


「失礼しました。決まりでして」

「構わないよ」


 恐らく、センサーか何かで識別しているのだろう。


 セキュリティは万全なようだ。


「こちらがお部屋に入る為の、入り口となっております。壁に手を当てると反応しますので、開いたドアからお入りください」


 そう言われて目を向けると、そこは確かに壁だった。


 大理石で出来た"石の壁"だ。


「……」


 何も言わずに、壁に近づくが反応は無い。


 首を傾げたて手を当てると、手をおいた壁がスライドした。


「おお、面白いなこれ」


 スライドした壁を入ると、そこは竹林だった。


 恐らく、何時も部屋へ入る時に通っている竹林だろう。


「俺はまだ少し仕事(・・)があるから、先に部屋に戻っていてくれ」


 そう言うと、サナが疑問を含んだ目を向けて来る。


 その視線には直接答えずに言葉を続ける。


「明日の夕方には、一度戻って来れると思う」


 拠点は全国に散らばっているのだ、一拠点づつ回るしかないだろう。


 時間はかかると思う。


 しかし、1カ月――いや、数カ月かかっても救い出す――そう決めたのだ。


 通信妨害はマムが行うので、他の拠点に連絡が行く心配は無いが……もし決められた定時連絡の様なものがあるのであれば困った事になる。


 その時は、出来る事を最大限やるしかないが……。


「お兄ちゃんもどってくるなの?」


 そう言って、サナが繋いでいた手を握る。


「大丈夫必ず戻る。サナ、テン、皆には説明しておいてくれ」


 そう言って頼むと、頷いて二人が答えた。


「はいなの!」

「ハイ、わかりました」


 サナの頭を撫でると、目を細めて手を離してくれる。


 隣にいるテンには頷いて返しただけだったが、その眼には何か決心したような真っ直ぐな光があった。この短い期間で成長したようにも感じるが、きっと子供とはそういうモノなのだろう。


 その後、他の子達とも少し話をして"直ぐに戻って来る"と約束をした。


「さあ、行こうか」


 視線の先に待っていた女性が頷くと短く応えた。


「ご案内します」


 どうやら、サナから受けたショックからは、完全に立ち直ったらしかった。


 ◆


 ホテル内の廊下を歩いて、地下駐車場まで来ていた。どうやらこのホテルには、迷路のように通路が存在するらしい。


「既に準備が整っています。こちらへ」


 女性が扉を開くが、その先に見えた光景に思わず足を止めた。


「……えっと?」


 開いた扉の向こうには、整列した人々(・・)と、何台あるかも分からない数の装甲車が並んでいた。装甲車は、先ほど乗ったものよりも幾分かゴツくて、より装甲が厚く見える。


 整列している人数は一、二、三……十六、全部で十六人並んでいる。各列の後ろにも七、八人並んでいる所を見ると、班やチーム毎に整列しているのかも知れない。


「依頼通り、必要な数と装備を準備しました」


 女性ホテルマンがそう言って、敬礼の体を取る。


「依頼したっけ?」

「はい、奪還――救出作戦に必要な補助並びに護衛、時間的制約の排除の依頼を受けています」


 その言葉に意味が分からず苦笑と共に首を傾げた。


 ホテルだと思っていたが、もしかしたらホテルの皮をかぶった別の何かなのかも知れない。考えれば考えるほど、ドツボにはまりそうな内容だった。


 結局、考えても埒が明かないと判断して、考えるのを止めた。


「まぁ良いか、不都合はないしな……」


 見渡す限り並んで見えるのは皆、練度の高い兵士に見える。


 恐らく、普段はホテルマンなのだと思う。おかしな状況に違いなかったが、そんな状況は元より依頼を出したのが誰なのかが気になっていた。


 少なくとも、自分では依頼を出した覚えがない。


「何時に受けた依頼か聞いても?」

「昨夜二四時〇〇分(フタヨンマルマル)であります!」


 その言葉を聞いて理解した。


 依頼したのは今井さんで、昨日の夜電話をした直後にでも依頼を出したのだろう。依頼者は分かったが、その内容も気になった。これだけの人数が居て車がある。


「それで、具体的に何を依頼したのかな?」


 ある程度予測は着くが。


「奪還――救出先拠点への強襲及び対象の保護、指揮官の護衛、指揮官帰還リミットは明日二四時〇〇分(フタヨンマルマル)に帰還する事、であります!」


 先ほど聞いたより詳しい情報だ。


「つまり、俺が行く拠点以外の場所は任せても良いと?」

「問題ありません!」


 その答えに少し考えてみて頷いた。


「……助かるし良いか」


 正直、任務(コレ)を依頼する事で掛かる費用が気になるが、帰って来たら聞いてみる事にしよう。余計な事は全て後回しにする事にして、今必要な情報を確認する事にした。


「それで、全部でどれくらい居るのかな……」


 見回しながら、四五十人では利かないだろうなと思ったが、その答えを聞いて苦笑した。


「ハッ! 一班四名、一拠点に付き二班。十六拠点なので百二十八名。車両は一班に付き一台、計三十二台になります!」


 通りで多く感じるわけだ。――と言うか、目の前に並んでいるホテルマン(?)達は、明らかに素人では無いだろう。そのまま軍人に見える。


 一人一人が着ているのは一見普通のスーツのようだが、素材が違う事が分かる。恐らく、防刃加工のされたスーツだろう。俺が仕立てて貰ったものと同じだ。


 それに、後ろに並んでいる装甲車は、おかしいと言う次元の光景ではない。


 この国って、私兵持つの良かったんだっけ?


「何か訓練とかしてるんですか?」


 口に出してみて、我ながら阿呆みたいな質問だなと思う。それこそ、近所のおじちゃんに、『元気だね、何か運動してるの?』って聞くようなテンションで、聞いてしまった。


「許可が出れば、訓練を受ける事も可能です」


 直接肯定はしていないが、肯定したのと同じだろう。


「……考えておくよ」

「神楽様であれば、許可が出るかと思いますので、その際はお声がけ下さい」


 急に軍隊の様な『ハッ!~』から、ホテルマンの口調に戻った。


 それに一瞬戸惑ったが、頷いて答えた。


「え?あぁ……まあ、無事これが終わったら考えてみるかな」


 そう答えた正巳に頷いた後、そっと手を向けながら言った。


「それでは、打合せ(ブリーフィング)をしましょう」


 呆気に取られている内に、用意されていたテーブルへと案内された。


 テーブルに歩いて行く途中、整列する人の前を歩いていて、ふと『ああ、駐車場に入れなかったのは、単純に一杯だったんだな』と思った。


 途中、敬語は止めるように頼まれたが、理由を聞くと指揮系統的問題が理由らしかった。それに頷くと、意識的に丁寧な言葉を抑えて行く事にした。


 ◇


 テーブルに案内された俺は、その上にある地図を見ていた。


「つまり、これが点在している拠点の位置と、予測される規模なんだな?」


 地図上には、マークされた点が20か所近く存在している。

 そのマークの近くには、付箋が貼って在り、消費電力値などが書いてある。


「はい、こちらは信頼に足る情報筋が調べた内容だそうなので、正確かと」


情報筋(・・・)ね……」


 恐らく、マムが手を回したのだろう。


「それで、俺はどうすれば良い?」

「我々は、指示に従いますので……」


 ……なるほど。


「それであれば、俺はこの場所に行く。ここなら一日で戻って来れるだろうしな。後は、お前……名前を教えて貰えるかな……」


「182……いえ、ユミル・ハインツェです。ユミルとお呼び下さい」


 ユミルか。


「いい名前だな」


 呼びやすい。


「有難うございます。神楽様」

「……あ、あぁそうだったな」


 何となく、偽名で呼ばせている事に抵抗を感じたが、今は仕方がないと割り切る。


「それで、他の班はどう致しましょう」

「そうだな……任せる」


 一人ひとりの事を知らない俺よりも、同僚であるユミルの方がよっぽど適切に指揮できるだろう。そう思ったのだが、どうやらユミルはユミルで考えがあったらしい。


「承知しました……佐藤! そう言う事です」

「ハッ! 了解であります!」


 後ろに控えていた男に丸投げした。


「……指揮、執らないんだな」


 そう言うと、ユミルが答えた。


「私は護衛の任務がありますので」

「そうか」


 最早目の前の集団が、何でもできるホテルマンなのか、ホテルマンの皮を被ったナニカなのか分からなくなって来ていた。


「それじゃあ、遠征班から出発してくれ」


 俺がそう言うと、直ぐに指揮をする男……"佐藤"が指示を飛ばす。


「一班出ろ。目標座標(ポイント)はナビゲートマップを確認しろ」

「ハッ! 一班出ます!」


「次二班、一班に続け!」

「ハッ! 続きます!」


 佐藤の指示の下、順番に出発し始める。


「……十五班! 十六班! 出ろ!」

「「ハッ!」」


 最後に残った2班が前へ出て来る。


「神楽様と副長に着いて行け!」

「「ハッ!」」


 返事をした2班8名が、そのままの姿勢で待機している。

 

「佐藤さんはどうするんですか?」


 俺がそう聞くと答えた。


「ハッ! 私は全体の指揮を執りますので、彼方の指令車でオペレートします」


 そう言って指さす方を見ると、そこにはアンテナが五つ付いた四角いワゴン車が停まっていた。それを見て納得する。


「なるほど……」


 佐藤の横には三人付いている。


 恐らく、佐藤の班が司令塔の役割をするのだろう。


 これなら、問題なさそうだ。


 ――と言うより、ある程度の事は予め練られていたのだろう。


 全てがスムーズに行われている。


 練度が恐ろしく高いだけの可能性もあるが……。


「俺達も行くか?」


 何時までも、ぼーっとしている訳にも行かないので出る事にした。


「それで、どっちに乗れば良い?」


 俺がそう聞くとユミルが答える。


「一六号車が専用車になっています」

「分かった。それで、俺はこの服のままで良いのかな?」


 俺は普段着のままだし、ユミルはホテルの制服のままだが……。


「中にご用意しています」

「用意が良いな……」


 気になる事もあったが、車に乗り込むと直ぐに移動し始めた。


 車内は意外と広く、普通に立っていても頭の上に幾らかの余裕があった。


 そして、用意されていた服に車の中で着替えた俺は、同じく着替えていたユミルが着やせするタイプだと知ったのだった。


 ただ、同乗していた班員達の視線が恐かったので、なるべく視線をユミルへと向けないようにする破目になったが。視線を向けると、どうしてもその胸元に視線が言ってしまうから……。


 何はともあれ、強力な助っ人を得た俺は片道6時間の道のりを走り始めた。


 ……俺達が向かっている拠点は、日帰りで行ける距離ではあるが、集めたデータを見る限りは最大規模の孤児院だと思われる。恐らく、簡単には行かないだろう。


「先に情報を(頭に)入れておかないとな……」


 簡単でなくとも、少しでもスムーズに行くように、着くまでの間イヤホン(マム)からの情報を頭に入れる事にした。


 ◇


 約6時間後、目標地点から約十二kmの場所に着いた。ここで先行隊が降り、歩いて施設に近づく事になる。後続隊は、合図を出したタイミングで車で施設まで近づくのが手順だ。


 施設までの道は一本道だが、それでも警戒は必要だろう。


 車内を見回すと皆準備が出来ている。


「さて、奪いに行くか」


 そう呟くと車両を降りた。


孤児院に、奴隷として売られる予定の、子供達が居る事を知った正巳達。

ホテルの力も借りて、救出に向かうが……


次話は、今井視点になります。

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