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『インパルス』~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~  作者: 時雲仁


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62話 見送りは手を繋いで

正巳の三日目(前編)

 部屋に戻って来た正巳は、サナを寝かしつけた後に電話をしていた。


 ◇


 今井さんに、明日子供達を空港に送り届けた後の話をした。


 国内に存在する孤児院に子供達を救出しに行く事、救出は正巳自身が潜入して行う事。正直、心配はするだろうが反対はしないと思っていた。そして、その予想通り――


「分かった。でも、必ず戻って来てね!」


 そう言って送り出してくれた。


 その後、話の本題が済んだので、子供達とレストランで夕食を食べた話をした。


 俺が話している途中で、今井さんが寂しそうな表情を浮かべていたので、マムに頼んで録画しておいた動画を再生して貰った。


 一応、館内の監視カメラ類は自由に使えるようになったらしい。


 それが可能になったのは、今日。


 何やら良いシステムを食べられたとかで、一気にセキュリティ突破及び操作技術が向上したらしい。


「そう言えばニュースでやってましたけど、シンガポールで、随分と羽振りの良いイベントが発表されたんですね……賞金100億円のハックコンテストとか?今井さんも参加してみたらどうですか?」


 何となく、ニュースで流れていた内容を思い出す。同じ場所、同じ分野での話題だから、今井さんが知らないはずが無いと思ったのだが……。


「そ、そそそうだねぇ~気が向いたら、見てみようかな!」

「……?」


 この反応は?


 もしかすると、今井さんは既に参加しているのかも知れない。


 そして、その中で何だかんだあって、マムが色々と食べちゃったとか?


 そう考えると、マムの性能が向上したのにも納得できる。


 そんな風に考えていると、今井さんが”お休み”と言ってくる。


「さ、さて~そろそろ寝るかな! 明日は、早いしね! それじゃあ、おやすみ!」


 確かに、もう遅い時間だが……


「あ、お休みなさい――」


 呆気に取られている内に映像が切れた。


 もしかすると、トイレに行きたかったのかも知れない。


 今度から、気を遣う事にしよう。


 そのまま、ベッドに仰向けになる。


「明日で子供達が帰るのか、少し寂しくなるな……」


 そう呟きながら、ゆっくりと夢中へと入って行った。


 ◇


 あさ目が覚めると、全身に重さを感じた。


「お前達……」


 いつの間に潜り込んだのやら、栗毛の子や、サラサラの髪をした子が、俺の腕を枕替わりにしている。両腕には其々子供が2人、俺の足やらお腹には4人が、空いたスペースには2人が寝ている。


「そう言えば、一緒に寝るって話だったっけ……?」


 起き上がると腕を動かす事になり、子供が起きてしまう。


 起きるまでの間しばらく、我慢している事にした。


 故郷に戻って幸せになれば良いが、全てが上手く行くわけではないだろう。


 もし、何かあれば連れ帰るか……


 何となく沢山の息子や娘を持った親の気分になったが、俺はまだ20代の半ばだ。それこそ、ミンやテンなんかとは10歳位しか年は離れていない。ギリギリ"兄弟"とも言えなくもない年齢差だ。


 対してサナは、恐らく5歳か6歳。


 20歳近い年の差があっては、親子だとしても何ら可笑しくないだろう。


「無常だ」


 あっという間に流れ去って行く(トキ)の流れに無常を感じていると、部屋の扉が開いた。


「おにいちゃ、もう良いなの?」

「サナ?」


 確か俺がベッドに入った時には、サナも一緒に寝ていたはずだが……。


「お兄ちゃんとばいばいするの、いっしょにねる約束なの」

「そうか……」


 サナなりの気の使い方なのだろう。


「偉いぞサナ」


 そう一言褒めると、サナは嬉しそうにする。


「ふへへ~~」


 そして、トテトテと歩いて来て……頭の横に座った。


「ええっと、サナさん?」


 座ったサナが俺の髪を触っている。


「お兄ちゃんを可愛くするの!」

「……」


 その後、子供達の体重を感じながらサナに髪を結われるという、少なからず修行に近い状況を味わう事になった。ついでに言うと、途中でパネルに現れたマムが何やらニコニコして、クルクル回っていた。


 何かマムの琴線に触れる事でもあったのだろう。


 ◇


 目覚めてから一時間近くじっとしていた正巳だったが、途中で乱入して来た他の子供達によって自由になる事が出来た。子供達曰く、『みんなおきてるの!』だそうだ。


 確かに、起こされた子供達は、寝起きとは思えないくらいに目ぱっちりとしていた。


 大方、誰か一人が目覚めたのと連動して、みんなが起きてしまったのだろう。


 長時間同じ体勢で我慢するのは少し骨が折れたが、この位の事であれば幾らでも問題ない。


 そうこうしている内に全員が入って来たので、頷くと言った。


「よし、それじゃあ皆にやってもらう事がある!」


 そう言って、キャッキャとしていた子供達をパネルの前に並ばせた。


「今から一人づつに、それぞれ好きな服を選んでもらう」


 それに反応したのはミン。流石に年頃の女の子らしい。


「服ですか?」


 それに頷きながら言った。


「そうだ。パネルの前に立つと、いろんな種類の服が表示される。その中から選んでくれ」

「それは……」


 驚いた様子のミンだったが、それに少し申し訳ないと思った。


「俺からのプレゼントだ。……本当は皆で買い物ができれば良かったんだけどな」


 外に買い物に出るのは危険だが、かと言ってこのホテルの服屋は少し高すぎる。このまま日本で住むのであれば問題ないだろうが、ここで選んだ服を来て買えるのだ。故郷に帰っても着られる服が良い。


 体のサイズは部屋に入る時に自動計測済みだ。


 これから選ぶ服が、すぐに用意される手筈となっている。


「そんな……なんとお礼したら良いか」


 気持ちが伝わったらしい。


 それに首を振ると、もっと色々してやりたかったんだがなと続けた。


「良いんだ。俺が出来るのはこれ位だしな」


 言いながら眼鏡のフレームをクイっと指で持ち上げるが、これは一種の癖だ。その様子に微笑んだミンだったが、直ぐに俯いて言った。


「助けて頂いただけでも、返せないほどの恩なのに……」


 どうやら、余計な事を考えていたらしい。それに笑いながら「そんな事気にするな」と言った。そもそも、これ自体その最初から最後まで自分のやりたいようにやった自己満足のようなものなのだ。


 そのままではミンが泣いてしまいそうだったので、一先ず子供達に説明するように頼んで着替えてしまう事にした。仕事だと言って頼んだ甲斐もあって、持ち直した様子だった。



 □■□■



 その後m子供達は部屋へと届けられた服に着替えた。


 着替え終わった子供達と、朝食を()る。


「「「ハンバーガー!」」」


 『何が食べたい?』と聞いた時に帰ってきた答えだ。


 日本語が話せないはずの子供でさえ、”ハンバーガー”と言う単語を覚えてしまった。


 恐るべき、ハンバーガーの力だ……。


 食べ終えた後、順番に洗面台へと行く。


 マムに確認したところ、人数分の歯ブラシを用意しておいたらしい。


 ◇


 子供達を連れてロビーまで来た。


「お似合いですね、可愛いです」


 カウンターにいた女性ホテルマンが、近くの子供にそう声を掛けている。


 しかし、声を掛けられた子供は、反応出来ない。


「そうですね……{********}」


 言葉が通じない事に気が付いたのか、直ぐに別の言葉で話しかけている。


 幾つかの言語を話せるらしい。


「……! {******!}」


 子供が顔を輝かせ、俺の方を指差す。


 俺と目が合った女性が会釈したので、俺も返す。


「皆様お揃いですか?」

「はい」


 俺を含めて22人。


 今井さんは今シンガポールにいる為、予定より一名少ない形だ。


「それでは、空港までお送りします。こちらへ……」


 女性は、そう言うと駐車場の方へと先導を始めた。


 ◇


 俺は、子供達21人全員と車に乗っていた。


 運転手は男性のホテルマンが、後部席には女性のホテルマンが座っている。


 ホテル側が用意したのは、装甲車のようなバスだった。


 イメージとしては護送車が近いだろう。


 確かに、この車なら皆で一緒に乗れる。


「ミン、テンとの話は済んだか?」


 余り敏感な方では無いが、ミンとテンが互いに意識している事には気が付いていた。一瞬恥ずかしそうにするが、それでも真っすぐ目けて来る。


「は、ハイ……。その、テンをよろしくお願いします」

「ああ、任せろ。ミンは俺の妹だし、テンは俺の弟だからな」


 そう言って頭を撫でたのだが――


「あの、はい、はぃっ……」


 結局泣かせてしまった。


「大丈夫さ、また会えるんだから。困ったら、全部まとめて俺の処に来ればいい」


 そう言いながら、空港に着くまで、泣き虫な妹の世話をした。


 ◇


 空港に着いた後、車は直接航路へと入った。


 到着後、既に用意されていた小型ジェット機へと、子供達を乗せた。


 最後に乗り込んでいったのは、年の近い兄弟だった。


 始めあった時と比べると、随分と元気になったと思う。


 いま俺は、こちらに残る子供達と一緒に見送りをしている。


「頑張らないとな」


 そう言いながら、横に立つテンの肩に手を置く。


「……はい、頑張りマス」


 心なしか、日本語の発音が自然なものになっている。


 ジェット機のエンジンが音を大きくし始める。


「……」


 テンと反対に立っていたサナが俺の手を握る。


「大丈夫さ」


 サナの真似をして、小さな子供が俺とテンの手を握る。


 ――自然と、見送っている皆で手を繋いでいた。


 左を見ると、サナが女性のホテルマンの手を取っている。


 手を取られた女性が、とても不思議な物を見るような眼で繋がれた手を見ているが……サナに気にした様子はない。子供は最強だ。


 その後、程なくして爆音とともにジェット機が飛び立っていった。


「帰ろうか」


 俺の言葉に頷いたサナが、子供達に通訳する。


 すると、それに頷いた子供達が車へと戻って行った。


 テンは、他の子よりも数瞬長く空を見ていたが、少しすると(きびす)を返してついて来た。その目には、少し前に見えた不安の色はもうなかった。


 その後、皆で車に乗り込んだのだが、サナは女性のホテルマンと手を繋いだままだった。サナが手を離さなかったのだろうが、心なしか女性の表情が柔らかくなっている気がした。


 サナは時折複雑な表情をして、時折反対側の手を俺の方に向けて来ていたが……。


 そんな、サナと女性の様子を微笑ましく見ていたら、いつの間にか出発していた車があっという間にホテルへと戻って来ていた。


女性ホテルマン(手を繋ぐ……これは良い事だ!)

サナ(……このおねえちゃん、手はなしてくれないなの)

----------------------

サナの口調は、

この後「~なの」という語尾になって行きますが、

これは誰が”アドバイス”したのでしょうか。


アドバイスしたヒトは、

区別したかったのかも知れません。

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