61話 今井の依頼
今井の二日目(後編③)
インスタントラーメンを食べ終わった僕は、正巳君と電話をしていた。
「そうなんだ、男達に囲まれてね。でも、ザイ君が片っ端から倒して行ったんだ!」
昨日岡本部長に襲われた話は、結局できなかった。
少し、無理やりでは有るが、ザイの活躍をややテンション高く話す事で、誤魔化していた。
「今井さんが無事でよかったです。それにしても、その”ザイ”と言う護衛強いんですね」
正巳君が、考え込むようにしている。
「そうなんだ。もう、100人いても大丈夫!って位に強かったよ」
「なるほど?」
正巳君が更に考え込んでしまった。
そんな正巳君を見ていると、不意に横から少女が現れた。
「君は……」
トラックに乗っている時に話をした少女だった。
最初はぎこちなかったが、共通して盛り上がる話題が有った為、直ぐに打ち解けたのだ。その話題と言うのは、目の前で考え込んでいる男が少なからず関係しているいるので、ここでは話せないが……。
「ミンだったね」
「はい、その……直接お礼をしたかったんですが……」
ミンが、申し訳なさそうにしている。
「なに、良いんだよ。それに、帰って来るんだろう?」
「はい、皆を故郷に送り届けたら。それに……」
ミンは、言葉を途中で切ると少し恥ずかしそうにモジモジし始める。
「大丈夫。あいつは、言葉の禄に通じないような国で、コマせるほど器用じゃないさ」
そう言って笑いかけると、ミンも顔を綻ばせる。
「そうですね。その、お姉さんも苦労しそうですね……」
ミンがそう言いながら、チラッと視線を動かす。
その先にいるのは勿論――
「ははは……そうだね、お互い頑張らないとだね」
「はい……」
二人で空笑いをしていると、ミンの少し後ろで座っていた正巳が、不思議そうな顔で口を開く。
「何か楽しい事でも?」
「いや、何でもないさ。ただ、未来の事を話してたんだ」
そう言いながら一つ苦笑して、ミンにウィンクする。
聡いミンの事だ、僕の言わんとしている事が通じたのだろう。
軽くお辞儀すると画面から外れた。
恐らくこの後、テンと二人で夜を過ごす事だろう。
「……必ず無事に帰れますよ、全員ね」
そう言って、正巳君が優しい表情を浮かべている。
その表情をみて、不覚にも胸がキュッとなる。
これが、心を掴まれる、と言う事なのだろう。
「……う、うん」
顔が赤らんで来るのを感じたので、話題を変えた。
「さて、僕は明日の夕方こっちを出るから、そっちに着くのは明後日の朝方になりそうなんだ」
明日は、日中に外に出ないでくれと、ザイから暗に言われている。
恐らく、”残党狩り”に関係しているのだろうが、任せて問題ないだろう。
ともかく、僕は明日出発して、明後日の朝着く。
そして、頼んでいた機材も明日か明後日に届く。
これで、ようやくやりたい事に着手できる。
届いた機材で、準備を整えながら、必要な技術はマムが吸収してくる。
それでようやく目的が叶う。
明後日帰るのが楽しみだ。
そう思っていると、正巳君が答えた。
「明後日の朝ですね、分かりました。実はその事で話がありまして」
そう言うと、正巳君が表情を引き締める。
余り良い予感はしないが、続きを促した。
「なんだい?」
「はい、マムに調べて貰った黒い人脈関連で……」
◇
正巳君から聞いた話は、想像以上に大きな話だった。
日本各地に孤児を奴隷として売る施設が有る。
明日その施設を襲撃し、子供達を奪還する。
事実関係自体は、僕の両親が週刊誌で報じようとした内容が証明された形だ。
今回問題なのは、子供達を奪還しに行くという事。
そして、その奪還作戦を正巳君が一人でやろうとしている事だ。
「無謀だと思うけど、正巳君は止めないんだろう?」
「はい、見逃す事は出来ないので……」
それだったら……
「分かった!でも、必ず戻って来てね!」
送り出すしか出来ない。
「はい、必ず生きて戻ってきます」
「うん、絶対だよ」
生きて戻って来る。これは決して大げさな言葉ではない。
事実、僕の両親以外でも、闇を暴こうとしたジャーナリストが何人も行方不明になっている。
年間の行方不明者数は現時点で8万人強。
しかも、これは捜索願が出された数においてだ。
知られていない分を入れると、一年間にどれ位の人が消えているか分からない。
その中の一人に、僕らが入ったとしても、何ら可笑しくは無いのだ。
だからこそ……”必ず戻って来てね”と言ったのだ。
◇
その後は、正巳君が子供達と、レストランで食事した話を聞いた。
マムが、きっちりと映像で残しておいてくれたので、一緒に食べられはしなかったが、同じ場所にいるかのような、疑似体験が出来た。
「さて、そろそろ寝ないといけないんじゃ、ないかい?」
時刻を見ると、もう直ぐで0時を迎える。
「……そうですね、あ、そう言えばニュースでやってましたけど、シンガポールで、随分と羽振りの良いイベントが発表されたんですね……賞金100億円のハックコンテストとか?今井さんも参加してみたらどうですか?」
正巳君がいつもと同じ表情で、そう言ってくる。
「そ、そそそうだねぇ~気が向いたら、見てみようかな!」
「……?」
正巳君が、顎に手を持って行く動作をする……正巳君が考える時に取る、癖の様なものだ。
「さ、さて~そろそろ寝るかな! 明日は、早いしね! それじゃあ、おやすみ!」
「あ、お休みなさい……」
正巳の、呆気に取られたような顔を最後に、映像が切れる。
「別に悪い事をしたんじゃ無いんだけどね。流石に賞金100億円は、やりすぎたかなぁ……まあ、考えても仕方ないし、やる事をやっておこうかな!」
一人、呟いていたが、直ぐに気を取り直して、呼び鈴を鳴らした。
正巳君が、少しでも安全に帰って来る為に出来る事は全てやるのだ。
そう心に決めて、改めてホテルに着いた時の事を思い出していた。
「ザイ君も強かったんだし、他のホテルマンも強いはず……」
そう言いながら、依頼内容をまとめるのだった。
①.正巳君が実施する救出作戦を最大限補助する事
②.正巳君が生きて帰って来れるように護衛する事
③.正巳君が明後日には帰ってくる事
①と②はともかく、③は難しいかも知れない。
しかし、なるべく早く正巳君と合いたい。頼んでみるのは只だ(依頼料はかかるけど)それで、無理だと言われたら、修正すればよい。
まとめた内容に満足した今井は、駆け付けたザイに、依頼を出したのだった。
◇
無事に依頼が受理された。
依頼を聞いた時にザイが、喜色を浮かべた気がした。
ただ、一瞬の事だったので気のせいだったかも知れない。
一先ず、”依頼が受理された”その安堵からか、布団に倒れこむようにして眠りに着いた。
明日も投稿予定です。
よろしくお願いしますm(_ _)/
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