59話 誘き出された襲撃者
今井の二日目(後編①)
+別支点
イベントの告知を終えた今井は、帰路に付いていた。
実は、フォーラムで出される食事にも興味が有ったのだが、護衛のザイに止められていた。『何がどこで仕込まれるか分からない』との事で、結局一口も食べる事が出来なかったのだ。
今朝から何も食べていない為だろう、お腹が空いて仕方ない。
「久しぶりに、インスタントラーメン食べたいな」
ロイス教授と共同研究していた頃は、3食インスタントと言う事も良くあった。
「到着いたしましたが……、もう少々お待ちください」
降りようとした今井だったが、ザイの言葉に首を傾げた。
「乗ったままかい?」
「直ぐに済みますので」
「まあ、良いけどね」
ホテルの前で止まったまま、2,3分が過ぎた。
「安全ですので、このまま中でお待ちください」
ザイがそう言うと、車の外へと出て行く。
「ちょっと君――」
状況が読めずに飛び出しそうになったが、直後、ホテルの周りの植え込みから出て来た男達を見て理解した。どうやら、黒スーツの男たちが待ち構えていたらしい。
「不審者ねぇ」
そう呟いて見渡すと、窓の向こうに見知った顔があった。
「あれ? あれって……」
男たちに混ざって、辛うじて知っている顔だと判断できる男がいた。
顔が二倍とは言わないまでも、気の毒になるくらいに膨れ上がっている。
「昨日捕まったんじゃなかったっけ」
そこには、昨日ホテルのレストランで襲って来た男――岡本財務部長がいた。
首を傾げた今井にマムが説明した。
「映像データからの情報だと、一度痛めつけられた後解放されたようです。ただ、他の男達が解放されていない点を考えると……これは、罠を仕掛けたのかと推測されます」
「ふむ、ワザと逃がして"襲撃"を誘発させたのか」
仕組んだのは恐らく、ザイだろう。
会場で妙にピリピリしていたのは、会場での襲撃を警戒していたのかも知れない。もしあの時に襲撃が有った場合、イベントの告知どころでは無くなっていただろう。何もなくてよかった。
それにしても……
出て来るわ来るわ、一匹いたら十匹居ると思えと言われる恐怖の"G"のように、ゾワゾワと這い出て来る。その数、いつの間にか三十を数えるほどになっていた。
「大丈夫かな」
自然に出た呟きだったが、それにマムが反応した。
「心配ないかと思います。この車は厚さ5cmの鋼鉄で守られていますし、ガラスは防弾ガラスです。それにいざと言う時は――」
マムの心配は常に今井へしか向いていないらしい。それに苦笑すると言った。
「僕じゃなくてザイ君がね、心配なんだ」
最悪今井が運転すれば取り敢えず逃げるだけなら問題ないだろう。しかし、ザイが相手するのは三十余人もの数なのだ。一対三十では、少し分が悪いと思う。
「あ、それなら問題――」
マムが何やら言う前に、事態が動いた。
『ハァッ!』
『死ねヤァ!』
黒スーツの男達がザイに殴りかかっている。危ないと目を閉じた今井だったが、次目を開けた時には片方が胸を押さえて、もう片方は首元を押さえて蹲っていた。
その後も、次々と襲い掛かって行くが、皆他の男達同様に地に倒れている。
「彼、強いんだねぇ……」
「調べたところ、傭兵として従軍経験もあるみたいですよ」
マムの説明に納得した。なるほど、確かに戦争経験者であれば納得が出来る。沢山の男達に囲まれ、普通困って動けなくなる状況だというのに、やけに落ち着いているのだ。
ザイが大丈夫そうだと知って、次に気になる事が出て来た。
「スーツの男達の素性、調べられるかな?」
「はいマスター」
マムに任せておけば、程なくして分かるだろう。
「もしかしたら京生の社員だったりして。ははは、流石にないか」
そんな風に呟いた今井だったが、まさかその言葉が半分当たっているなどとは思いもしなかった。
◇◆◇◆
――俺は、選ばれた人間だ。
生まれた瞬間からだ。
俺の両親は議員だ。
議員は力を持っている。
小学校では、授業参観の時には皆が俺の両親のもとに挨拶に来た。
普段偉そうにしている教師だってそうだった。
それまで俺に対して色々と注意して来たのが、授業参観の次の日から無くなった。
それからは、俺が何をしても怒られる事は無かった。
やりたい放題だった。
それは、中学に進学してからも同じで、思いつく事は粗方やった。
高い所から、下を走る車目がけて果物を落とすゲーム。
上手い事ヒットして、転げ回っていた奴もいたっけな。
俺の親父の秘書の男に指示して、女を用意させたりもした。
うん、何をするかって?
パソコンを用意して、ランダムに検索をするんだ。
『女、イタズラ』とか『女、イジメ』とか。
それで、出て来た内容を実際にやる。
ふふ、あれは楽しかったなぁ……優越感に浸れた。
一通り楽しんだ後は、そこら辺の道路に放置するんだ。
大抵は心が壊れてるんだろうな、走ってる車に突っ込んでいたっけ。
時々上手い事生き延びて、被害届を出すアホナ奴もいたけど、そんなものは親父の”チカラ”と”カネ”でどうにでもなった。
そんなこんな楽しんで来たけど、結局飽きたんだ。
女で遊ぶのに飽きたら、次に手を出したのは男だった。
男の場合、女とはまた違った遊びが出来る。
真冬にプールに飛び込ませたり、一緒に歩いてる二人を攫って来て殴り合いをさせたり……
ただ、流石に限界はあった。
限界――そう、殺し合いは流石に無理だ。
準備も処理も面倒だし、外に漏れた場合アウトだ。
――そう思っていた。
しかしある時、ある男と出会って世界が変わった。
その男は、親父のパーティに来ていた男だった。見た目こそ豚みたいだったが、周りに聞いた所、親父よりも"チカラ"も"カネ"もあるという事だった。
男の話に興味を持った俺は、何度か男と遊ぶようになった。
正直、レベルが違った。
毎回、これまで自分がしていたのは単なるお遊びだったと、そう気づかされた。
『デス・ギャンブル』『奴隷・オークション』『人脈・パーティ』
どれをとっても、桁が違った。
正確にいつだったかは忘れたが、いつの間にか俺は男に弟子入りしていた。
"これ以上の男はいない"
誰よりも、"チカラ"と"カネ"がある。
俺と考えが合うのか、その男は俺を可愛がってくれた。
そして、事ある毎に『お前が俺の全てを継ぐんだ』そう言ってくれたんだ。
◇
今日も、その一環のはずだった。
俺は少し前から男の会社の、支社を任されることに決まっていた。
今日がその日だった。
無事、社長就任の手続きを終えた俺は、その足で最初の仕事をしていた。
『世界最大級のイベントでトップの人材が集まる』
――そう聞いていた。
確かに見渡す限り、偉そうな男ばかりだった。
前もって、"VIP"と教えられていた人は全て暗記していた。
今日来るVIPの中でも、ロイス教授と言う男は、最重要人物だった。
噂では、『世界の医療に影響を与える』と言われている技術を持つらしい。
それに、ロイス教授は"伯爵"でもある。
ある大国の由緒ある家柄の出で、個人的にも相当な力を持っているらしい。
見かけたら、覚えて貰うように挨拶をする必要がある。
そんな事を考えていた時、声を掛けて来た人が居た。
「君、スクリーンとスピーカーとステージ、借りても良いかな?」
振り返ると、そこに居たのは女だった。
確かに目鼻は整っているが、そんな女はこれまで掃いて捨てるほど程見て来た。
だから――
「は? 何言ってるんですか? ココにはあなたの様な、頭の悪い下っ端の女性が来る場所ではありませんよ? さっさと向こうに――」
そう言って追い払おうとした。
我ながら中々丁寧な対応だったと思う。
しかし、言い終わる前に割って入る声が有った。
しかも、不遜にも俺の事を小僧と呼んで。
「おい、小僧……」
「なん――」
振り返ると、そこには最重要人物の男、ロイス教授が居た。
「ヒィッツ! ロイス教授……」
余りに驚いて何も言えないでいた。
すると、女がロイス教授に反応した。
「……やっぱり、君はこの時間時にいると思ったよ」
その後、俺の前で二人で話し始めた。
……許せない。
俺よりも下等な生物が、俺を差し置くなんて。
近くに居るのに耐えられなくて、歩いて端の方に移動した。
「ああ、見ていろよ」
そうだ、今に目にもの見せてやる。
「俺は支社長、いずれ誰より偉くなるんだ……」
俺の力を使えば、あの女くらい如何にだってできる。
しかし、俺はまだ裏の人脈を受け継いでいない。
「そうだ、オカモト部長に頼めばきっと……」
俺が弟子入りした男オカモト部長――"部長"では有るが、その裏の人脈と手腕で会社を支配している。それに、俺を裏の社会に連れて行ってくれたのもオカモト部長だ。
「そうさ、めちゃくちゃにして自分の立場を、俺の立場をよく分からせてやる」
そう呟いて、直ぐに行動に移す事にした。
◇
オカモト部長に連絡を取ると、中々繋がらなかった。
しかし、繰り返しかけると繋がった。
「あの、少しお願いしたい事が――」
「ヴぇるざいっ! イま゛ゾれどころじゃナ゛いっ!」
酷く聞き取りにくい声だったが、何やらあったらしい。
「あの、それじゃあこれだけでも良いので」
そう言うが、返事が無いので暗黙の承認だと思い続ける。
「フォーラムに来ていた女、ロイス教授と仲の良い女は誰ですか?」
正直、これだけの情報で答えが有るとは思っていなかった。しかし――
「ヴぁ! ゾのおんなア゛! いヴぁどごダァ!」
「っ! 今ロイス教授と話していましたが……」
「がならズゥ、ミつげだぜぇ!」
「ハイ!」
何やら、オカモト部長の方にも事情が有るらしいが……丁度良い。
待っていろ、俺に恥を掻かせたお礼をしてやる。
◇
オカモト部長が、会場に着いたと連絡が有ったので迎えに行った。
「それは……、どうされたのですか」
「イヴぃがらぁ、その女が出ていぐのヴぉみのがずな!」
顔が膨れ上がったオカモト部長が、そう言って、会場に刺すような視線を向けている。
「分かりました」
その後、出入りする車を駐車場で見張っていた。
その直後、会場に設置されたスピーカーから一斉に、同じ内容の放送がされ始めた。
内容は、賞金100億のイベントを開催するという内容だった。
最後に主催者の名前が明かされた。
周囲にいた研究者らしい男達が、それまで怪訝そうに聞いていた顔を一気に明るくした。
相当"VIP"な男なんだろう。
イマイか、今回の件が住んだらオカモトに聞いてみるのも良いだろう。
何にせよ、今はあの女の事が先だ。
暫く探していたら、見つけた。
確かにあの女だ。
ただ、護衛の男を連れている。
中々に屈強な体つきをしているが、老人だ問題ないだろう。
「オカモト部長、護衛が居ます」
オカモトはニヤッと笑みを作り、顎をクイっと動かした。
そちらを見ると、黒スーツの男たちが車に乗って見えた。
「アレは?」
「にぼんがらぁ連れ出ぎ出た、ヤヅラだぁ!」
ヤクザ……なるほど、どうやら人脈内の兵隊らしい。
周囲を見ると、他にも同じような車が何台もある。
「なるほど流石です!」
得意げに頷き、口の端をゆがませたのを見て車に乗り込んだ。
◇
女の乗る車を追いかけて、しばらく走って来た。
目の前にあるのは、一つのホテルだ。
確か、親父のパーティーに大臣が来るとかで、以前利用した事のあるホテルだ。
「……止まった?」
ホテルの入り口の前で、女の乗った車が止まった。
「インベリアル、だかぜがいだいじがん、だがぁじらないがぁ……きのうヴぁあまぐみでいだたげだぁ!」
オカモトの言葉を聞く限り、昨日もここに来ていたらしい。
……そう言えば、親父のパーティーに参加した時に、珍しく厳しく言われた事がある『決してホテルの中で問題を犯すな。この中では法律が変わる、治外法権なんだ』
当時の親父の必死さに気圧され、大人しくしていたっけ。
「オカモトもいる、大丈夫だ」
そう呟くと車を下りた。
次話も今日中に投稿予定です。
引き続きよろしくお願いしますm(_ _)/




