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『インパルス』~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~  作者: 時雲仁


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376話 シャフイル山の戦い【七】

 敵拠点に侵入し目に入ったのは、こちらへ向いた銃口とそれを構える兵士たちだった。数にして六人、一瞬間があるも隊長らしき男の号令で一斉に銃撃が始まる。


 間があったのはこちらの姿が見えなかったから、迷彩機能を使用していたからだろう。中にはまともに飛んで来た銃弾もあったが、そのほとんどはかわす必要すらなかった。


 一度ステップを踏んで射線から外れると、小さくシステムコールを入れる。


幻影(ミラージュ)


 それに起動音が返ってきたのを確認し、天井付近へと一息に跳んだ。その直後、再度「アゴーニ(撃て)!」と聞こえて来るも、銃弾が向かったのは先ほどまで正巳がいた地点だった。


 それを確認しつつ着地すると、敵との距離を詰める。


 そして一閃。鞘から抜いた刀をすり抜けざまに薙ぐと、返す刃でもう一人。切先を落として踏み込むとそのまま突き通し、持ち手を変えて逆手で回すとそのままもう一人。


 刃を寝かせ首を落とすと、こちらへ向いた銃口を真っ直ぐに切り下ろした。


「ヒッ」──それが男の放った最後の言葉だった。


 その瞳には動揺と恐怖が浮かんでいたが、それは理解できない事象と現実に対する感情の表れだったのだろう。


 まあ気持ちは分からなくもない。何せ、捉えたと思った敵影はいくら撃てども倒れず。思いもしない場所から現れた刃によって、気付いた時には既に壊滅状態へと陥っていたのだから。


 抜き身の刃に目を落とすと、そこに欠けも、血糊も付いていないのを確認する。防弾チョッキや銃身など、相当に硬いものも切ったはずだが……さすがと言ったところだろう。


 揺らいでいた幻影もといナノマシンが漂ってくると、再び収納されるのを確認する。現時点では精々がデコイ程度の使い方しかできないが、いずれできる事も増えて行くはずだ。


 足元に散った兵士たちに黙礼した正巳だったが、そこに飛んで来た銃弾に身を伏せた。


 その弾丸は正確に頭部を狙って撃たれたものだった。確かに一瞬ではあるが、ナノマシンを戻した際迷彩が途切れたかも知れない。だとしても、その一瞬を狙って撃つというのはとても人間技とは思えなかった。


 どうやら、これまでの兵士たちとは少し違うらしい。


「出てこないのか?」


 二発目がないのを確認しそう話しかけると、返ってきたのは笑い声だった。


「フハッ、出て来いだってよドルゲン!」

「お前が突っ込んでこいよ、チビニース」


 緊張感のかけらもなかったが、現れた男たちをみてその理由がわかった気がした。と言うのも、普通であれば、いくら精鋭だと言えど目の前に仲間の死体が転がっていれば、多少の動揺はあるものだろう。


 しかし、よほどの修羅場を潜って来たのか、それともそう言った感情を消す薬物(ドラッグ)でも使っているのか、男たちには微塵も動揺が見られなかったのだ。


「しくじるなよ、チビ!」

「うっせ、テメエこそ!」


 そう言って突っ込んできた二人のうち、チビと呼ばれた男が両手に掴んだ短剣を繰り出してくる。それに刃を合わせ応じた正巳だったが、一瞬力が緩んだと感じた直後、振り下ろされた巨大な鈍器から身を避けた。


 タイミングを合わせた気配はなかったものの、僅かな隙もない完璧な連携だった。


「なるほど、前に一度会ったな……」


 その巨大な鈍器もとい盾の形をした武器を扱う男と、双刀を扱う”チビ”と呼ばれる男の事を思い出し呟く。前回会った時は、単に足止めで応じただけだった。


 なんとなく知っている気がしたものの、確信がなかったのはその気配が以前とはだいぶ違っていたからだったが、恐らくそれは腰に下げた注入薬が関係しているのだろう。


 ここまで相手した兵士たちも、確かに普通ではありえない反応速度や力をしていたりはした。しかし、どこか歪でつぎはぎ。借りて来たかのようで、正直やりやすささえ感じる相手だった。


 しかし、目の前の男たちはそれとは全く次元が違う。完全に自分のものにしている。


 じっと見ていると、チビと呼ばれた男の方が口を開いた。


「なあ、おい、そんなチンケなものに頼ってないで、本気でやらないか?」


 それに大きな体をした男が反応する。


「おいチビ、馬鹿野郎! 余計なことすんな! 隊長がいるんだから見えなくたって大丈夫なんだよ。むしろ見えない方がやりやすいだろうが! なあ隊長!」


 どうやら二人は、その”隊長”とやらから指示をもらって動いているらしい。見えない敵にどうやって合わせているのかと不思議だったが、その疑問と時折感じていた視線の謎が解けた。


 推測ではあるが、その指示役の隊長とやらが、何らかの装置でもってこちらの正確な位置を把握しているのだろう。こうなって来ると、もはや迷彩はこちらの動きを制限する邪魔な道具でしか無くなってくる。


 それに、どうせ激しく動いて壊すなら、そもそも解除して壊さずに済ませた方が良い。少し考えて「良いだろう」と答えると、それまで起動していた迷彩を解いた。


 迷彩を解けばすぐ警告が来るかも知れないとも思ったが、意外な事にマムは黙ったままだった。負けるはずがないと分かっていても警告して来るのがマムなのだが、きっと黙っているのもなんらかの意図があっての事なのだろう。


 こちらを見て驚いた様子の二人が「あの時の……」と口にするのを見て言う。


「今更名乗る必要があるとも思えないが、お前たちの最後を看取る者だ」


 それに唾を吐いた男が言う。


「ハッツ、気色悪いお面だな。まだ、このデカブツの方が良い趣味してるぜ!」


 それに確かに不気味と言う点では同意だなと頷きかけ、止める。確かニースと言ったか、小さい方が腰に下げていた道具を手に取ると、それをそのまま首に打ったのだ。


 正巳からしてみれば、その正体こそ”ブースター”と呼ばれる強化ドラッグだと知っていたが、その使い方に関しては知らなかった。当然、どこに打つのが正しいのかなど、知るはずもなかった。


 だからこそ、男の取った行動が危険な行為であって、効果を強める代わりにその命を削る取り返しのつかない行動だなどとは、つゆ知るはずもなかった。


「お前それ……」


 横で見ていた大男が絶句するも、打ち終わって空になった容器を捨て、男が言った。


「これが最後の賭けだ。まだ聞いてない事もあるしな!」

「お前、まだ隊長のこと諦めてなかったのかよ……」


 何を言っているのかは分からないが、恐らくこの戦争とは関係のない話だろう。


「うるせえ、デカブツ……クッ、ウヴァ!」

「お前……仕方ないな、付き合ってやるか」


 首に続け足へ打ち込んだのを見て、それに続いた大男が同様に、取り出した強化薬物(ブースター)を両腕に打った。


「うグァグァあぁあぁぁ!!」


 屈んでいた小男の首から背中、そして足にかけて体が肥大化したのが見える。


「うぐっ……まったく、本当にうるせえ奴だな」


 そう言った大男の方は、小男のような変化が起きるわけでは無かったものの、突き出た両腕の表面が赤黒く変わったのが分かった。この変化がどう言った反応によるものかは分からなかったが、少なくとも目の前で使用された薬物によるものだと言うことだけは確かだった。


 その様子を観察していた正巳だったが、屈んでいた男の足が縮んだのを見逃さなかった。


「ツッ──」


 左足に力を込め咄嗟に身を翻すと、直後先ほどまでいた場所を二本の筋が通り過ぎるのが見えた。その筋は短刀が映した光の跡だった。早いとかそう言った種の話ではない。動きが人の限界を超えていた。


 例えるならば足自体が鋼のバネでできたような、そんな印象を受ける動きだった。それもこれも間違いなく、あの異常に変異した脚部が生み出す結果としての動きなのだろう。


「うん?」


 油断していたわけではない。ただ、こちらも意外なほどに早かったのだ。振り返ったのと、一っ飛びで跳んだ大男が、振りかぶった大盾を持ち、振り下ろして来たのはほぼ同時だった。


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