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『インパルス』~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~  作者: 時雲仁


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370話 シャフイル山の戦い【一】

 視界を覆うように吹き荒れる吹雪は、さながら真っ白なカーテンを幾重にも垂らした舞台のようだ。


(きっと、とんでもなく寒いんだろうな)


 目の前の景色にそんな事を考えるも、ふと他人事みたいだなと気づき苦笑する。それもこれも、外気を完全に遮断し体温を一定に保つことの出来るこの”スーツ”のお陰だろう。


 このスーツには他にも、景色と同化する”迷彩”や水中を魚のように泳げる”アシスト”、内蔵されたナノマシンを周囲に散布する事で可能な”ミラージュ”、視界をサポートする”プロビデンスアイ”などの機能がある。


 そんな一見完璧なスーツではあるのだが、一点だけ弱点があるのだ。


 それは、攻撃に脆いと言う弱点。もちろん普通に使う分には問題ないのだが、戦闘時に求められるような激しい動作にも耐え得る丈夫さが欠けているのだ。


 防弾性能こそ備えてはいるものの、被弾すればその他の機能は全てあってないものとなるだろう。意味致命的ではあるが……それでも、メリットがそれを上回る。


 それに、そもそも攻撃に当たらなければ良いのだ。


 当たらなければ問題がない。


 そう、当たらなければ(・・・・・・・)


(頼むから余計な事を考えないでくれよ……)


 別働隊として指揮を執る白髪をした爺の事を思い浮かべるも、出発する前に見せたその顔を思い出してため息をついた。これで凍傷になどなられては困りものだが……まあ、最悪命さえ失わなければそれで良いだろう。


 それに、いざと言う時は一緒にいるサクヤがどうにかする筈だ。


 何はともあれ、今集中すべきは目の前の事。


 視線を向けると、パネル越しに引かれたラインとそこに乗る形で表示されたカウントに目をやった。先ほど確認した時点で三桁並んでいた秒刻みの数字が、今や二桁を切っている。直にカウントダウンが始まるだろう。


 不意に視界の端で飛び立った鳥の影を見送ると、深く息を吸い込んだ。


 点滅していた数字が、短いビープ音と共に横一文字に並ぶ。


「時間だ」


 そう発して目の前に降り積もった雪の丘に手をつくと、力をこめ体を持ち上げた。


 それに続いて左右で動き出した影二つも、同様にして雪の上に立つ。


 本来であれば自重で沈み、とても立つことなど不可能だろう。にも関わらずそれができたのは、その周囲に高密度で散布されたナノマシンとそれが、その意図を汲んで機能した結果だった。


 これと同じものが全戦闘員とその周囲に配備されているが、この様子であれば、雪山で最も気をつけるべき奈落の裂け目クレバスへの滑落や、不安定な雪面の崩落など自然の脅威も防げるだろう。


 正巳を先頭にした三つの影は、それまで越えずにいた境界線まで進むと、踏み出した一歩とともにそのラインを超えた。中心ラインであるこの境界線は、それぞれ戦闘エリアの端からちょうど二十キロほどの地点にある。


 つまり、ここから後ろ半分二十キロ圏内にハゴロモ側の拠点があるように、前方二十キロ圏内に敵陣の拠点があると言うわけだ。本来であれば、お互いその拠点本陣を探しつつ戦闘殲滅を行う事になる。


 しかし、それは普通であればの話。そもそも敵側の探査装置が前もって仕掛けられていたように、こちらでも同様な……いや、それを遥かに凌ぐ精度での探索が既に済んでいた。


「さて、敵さんらはどうしてる?」


「ほとんどの兵士は、拠点内で休息を取っているようです。流石に、この吹雪の中進もうとは考えていないようですね。外の監視もサーモグラフィでモニターしてはいるようですが、数は通常配置の半数かと」


「そうか。この吹雪の中監視をつけているのは流石だが、おごりが出ているな」


 一応付け加えておくと、ここに来るまで敵側の探知の中心を通って来た。その為、正巳達が拠点を出発した事はすでに伝わっている筈なのだ。


 にも関わらず監視体制すら変えないとは……きっと(まさかこんな吹雪の中仕掛けては来ないだろう)と、そんな風に考えでもしたのだろう。いずれ気付きはするだろうが、その時にはもう……。


 正巳の言葉に「何かあげるなの?」と返してきたサナに、「そのおごるでは無いな」と返すも、その腕に着けられた新しい籠手の装備と腰に刺さった二振りの短刀に呟いた。


「これは、想像以上に早く終わるかもな」


 それに反応したサナになんでも無いと返した正巳だったが、振り返ったマムに頷くと、予め確認していたルートを進み始めた。一応、マムにはルート上に問題がないか確認して貰っている。


 止まらないと言うことは、それすなわち問題がないという事なのだ。


 この先、盛り上がった山肌を二つ越えればその先に、主力部隊のキャンプがある。このキャンプには総勢二百を超える兵士が詰めているが、その全てが戦闘員というわけではない。


 敵だからと言って、非戦闘員まで殺すつもりはない。


 降伏したのを確認できればそれで良いのだ。


 マスクを通して見える景色は、上り坂とその頂上を映していた。これが一つ目の山なのだろう。決して高くはないが、低いわけでもない。傾斜がキツイわけでもないが、緩やかなわけでもない。


「なるほど、これはちょうど(・・・・)雪崩を起こしやすそうな地形だな」


 そう呟いた正巳は、報告に受けていたポイントを目標に進み始めた。



 ◆◇◆◇◆◇



 その後、しばらく進んだ先に、大きな岩肌とその下にできたちょっとした空洞を見つけていた。別に、疲れて休憩に寄ったのではない。この場所に用事があって寄ったのだ。


「ここにあります」


 そう言って積もっていた雪を少し退けたマムに頷く。


「性能を殺さず外せるか?」


 それに「お安い御用のちょちょいのちょいです!」と、何処か時代を感じる返事をしたマムが、屈むと同時に作業を始めた。途中まで見ていた正巳だったが、腕を変形させたマムから「見ないで下さい」と言われ黙って待つ事にした。


「できたか?」


 目を離してから数分も経っていなかったが、どうやら済んだらしい。


 頷いて差し出された手の平と、その上に乗っていた小さな筒状の物を取る。見た目こそ何でもない鉄の筒に見えるが、これは遠隔で反応する小型爆弾の一種だ。


 ここ以外にも無数に仕掛けられているようだが、それについても把握済みだ。


 通常の爆弾であれば話は違ったが、このタイプの爆弾は流石にマム以外には無効化はできない。よって、他の面々には仕掛けられた範囲を迂回するよう指示しているのだ。


「どうすれば起動する?」


「少し回路を組み直しましたので、そのタイミングで指示して貰えば起動させられます」


 どうやら、好きなタイミングで起動できるらしい。それに満足すると、使い所が来るまでしまっておく事にした。今回持ってきたのは、その殆どが近接武器であって火薬を使うような武器がない。


 これも、この雪山というフィールドに合わせた結果だったが、ふとこの仕掛けとその報告を聞いた時、選択肢を増やす分には良さそうだと考えていたのだ。


「用事は終わったなの?」


 見れば足元に小さな雪だるまを作っている。


「ああ、終わったぞ」


 そんな素振りはなかったものの、どうやら今回置いてきたボス吉の事が気になっているらしい。まあ、考えてみれば大きな戦闘では、その大半で行動を共にして来たのだ。横に居ないというだけで違和感があるのだろう。


 その、小さくて不恰好な四足歩行の雪だるまモドキに苦笑すると言った。


「早く戻ってやろうな」


 表情こそ見えなかったが、その背を撫でるようにして雪の塊を崩したサナは、両手を上げると言った。


「もふもふぎゅ、なの!」


大変お待たせしました。

本日新しいパソコンが届き、執筆再開できました!

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