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『インパルス』~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~  作者: 時雲仁


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364話 猫と幼女と釣り

 マムのお披露目をした日から約三か月。


 示し合わせて行う戦闘、通称"代理戦争"まで凡そ半年となっていた。


 その間、戦闘に関わるルールの取り決めを行ったが、これはお互いにとっての公平さを期すのと同時に、後世への影響を最小限に止める為だった。


 ルールとして定めたものは大きく三つ。


 一つ「戦闘エリア外に出ない事」、二つ「戦闘期間中本土への侵略行為の禁止」、三つ「大型兵器の持ち込み禁止」この三つがその内容だった。


 最初と最後はともかく、二つ目は連合側への再三となる釘刺し(・・・)の意が大きかった。


 もしこの取り決めを破るような事があり、その結果ハゴロモの民が傷付く事になれば、その結果相応の犠牲を払って貰う事となる。そうならない為にも、前もって明文化したという訳だ。


 ちなみに、一つ目はお互いの合意の元の決定だったが、三つ目は違った。二つ目の条件をハゴロモ側が提示した事で、連合側が強い申し入れと共に提示して来たのだ。


 具体的には『携行可能な武器兵器を除いた大型兵器の持ち込みを禁ずる。尚、移動手段としての車両等も禁止する。可能なのは携行可能な……』と、そんな内容だった。


 中身を見れば分かる通り、分かりやすくこちらの強みを潰しに来た訳だ。前回小さな軍隊(マリオネット)によって兵器類の制御が奪われた事が、余程こたえたのだと見える。


 確かに、マムによる近代兵器の制御云々は、大きな強みである事に違いはない。連合側も、過去の戦闘で大型兵器や新型輸送機が活躍した事を調べて来たのだろう。


 しかし、それで全てであるほど貧弱でも偏ってもいないのがハゴロモなのだ。


「ふむ正巳君。やはり、今からでもこの条件を取り払うよう、交渉しないかい?」


 そう言って"大型兵器持ち込み禁止"の部分を忌々(いまいま)し気に指さすのは、昼食を終え合流した今井だった。それに苦笑しながら「もう決めた事ですから」と答えると、大きなため息と共に「それじゃあ僕は役立たずじゃないかぁー」と肩を落としている。


 今井としては、自分の作った新型兵器云々に活躍して欲しかったのだろう。敢えてそれには触れず、机に置かれていた防具の様なモノを手に取ると、話題を逸らすようにして聞いた。


「これは?」

「それは籠手(こて)だね。サナくんにどうかと思ってね」


 サナは時々、拳で直接打撃をする事がある。きっと、今回大型兵器を持ち込めないと決まった際に、色々考えて用意してくれたのだろう。ひっくり返して確認すると言った。


「なるほど、だいぶアンティークな見た目ですね」


 表側のみだと思ったら、裏側までもがしっかりと年代を感じる作りで驚いた。その様子を見てか、にんまりとした今井が腰に手を当て説明をする。


「ふふふ、見た目だけはね。デザインは完全に僕好みだけど、その中身はサナくん寄りさ。あの子は扱いが大雑把だからね、多少破損しても自動で治るようにしてみたんだ」


「黒刀と同じと言う訳ですか」


 それにそういう事だねと頷いた今井は、そう言えばと思い出した様子で言った。


「そうそう、君の刀も後で持って来てくれよ。ちょっとした改良をしておくからね」


「改良ですか?」

「前に軽すぎるって話していただろう?」


 確かに言った記憶はあるが、それは感想を求められての事だ。


 敢えて言うならの事であって、別に気にする程でもない。断ろうとした正巳だったが、その嬉しそうな顔を見て、結局開きかけた口を閉じた。


「まったく、どうしてこう働き者ばかりなんですかね」


 すでに次の作業を始めた今井に苦笑すると、正巳も次の予定へと移る事にした。



 ◇◆◇◆◇◆



 今日はサナと魚釣りの約束をしている。


 それと言うのも、以前サナが「魚釣りに行く」と言ってその肩に担いでいたのが、背丈ほどもある大きな"(モリ)"で、常識含め色々と心配になった為、一度本当の"魚釣り"を教えた方が良いと思ったのだ。


 拠点から一歩出ると、太陽の光に手をかざす。


 午前中雲が多くてどうなるかと思ったが、どうやら無事晴れてくれたらしい。この様子だと一先ず、雨で中止と言う事にはならないだろう。


「あ、来たなの!」


 そう言って元気に手を振るのはサナだが、その先にはしっかりと銛が握られていた。


「待たせたな。それで、竿はどうしたんだ?」

「これなの!」


 自慢げに掲げて言うサナに、苦笑しつつ答えた。


「いやそれは銛。モリ(・・)だ」


 首を傾げるサナ。その様子に、やはり分かってなかったかと息を吐いた正巳は、あとに付いて来ていたマムに振り返ると言った。


「悪いがサナの分を取って来るから、準備だけ先にしていてくれるか?」


 それに分かりましたと答えたマムが、正巳が持っていた竿を受け取ると、拠点の先に泊まっていた小型船の方へと歩き始めた。途中サナへと竿を見せながら何か話していたが、きっと前もって説明してくれているのだろう。


 その様子を視界の端に収めた後、急いで部屋へと戻った。


 実は先日、サナには「これが竿だ」とサナ用の物をプレゼントしていた。そのサイズこそ少し小さいものの、今井謹製のサナ専用の特注品だ。


 渡した時の微妙な反応からして察するべきではあったものの、きっとサナにはこの竿で魚を釣ると言うのが想像できなかったのだろう。何の迷いもなく竿を置いて部屋を出るサナの姿が想像できる。


「まったく、変な事教えたの誰だ?」


 何となく白髪で白髭をたくわえた筋肉質な爺さんの姿を思い浮かべた正巳だったが、あまり待たせてはいけないなと二人が待つもとへと戻り始めた。


 途中、視線を感じた気もしたが、いつもの事だろうと気にも留めなかった。


 その正体を知るのは拠点を出発した後だったが……。



 ◆◇◆◇◆◇



 頬を撫でる風が心地よく過ぎて行く。


 どういう仕組みなのだろう。屋根が無いにもかかわらず、疾走する船上にあって心地よい風が吹いている。きっと色々と、ハイテク且つ工夫された設計が施されているのだろう。


 膝に二匹の毛玉を抱えながら目を細めると、隣でジッと手元と睨めっこするサナへと目を向けた。普段であれば、真っ先に抱っこしたいと手を伸ばして来るのだが、今日はどうやら違うらしい。


 何やら「ズガって突くのが楽しいけど、糸を垂らして待つのも楽しいなの? でも、マムはそう言ってるなの。お兄ちゃんも好きらしいなの……どっちにするか、難問なの」と呟いている。


 そもそも、銛で突くのは"釣り"では無いのだが、その辺りも後で教える必要がありそうだ。


「なおー」

「みゃー」


 サナの様子を見ていると、膝に乗った二匹が自分達にも構えとじゃれて来る。


 それに苦笑しながら応えると、手を伸ばして構ってやる。


 この二匹もこいつらで、出発する寸前に飛び乗って来た知能犯だ。


 その様子からして、きっと何度か同じように"釣り"に同行した事があるのだろう。正巳以外で釣りをするのは、それこそハク爺か上原先輩くらいだが……。


「お前達はおこぼれが欲しいのか?」


 言いながら顎を撫でると「みゃー」と鳴いて答えて来る。


「パパ、ふたりには『一緒に来ている』と伝えておきました」

「ああ。心配するといけないからな」


 ボス吉とシーズに連絡したと言うマムに礼を言うと、隣に座ったマムに片方が移動した。


「あら"バニラ"は私が好きなんですか~?」

「みゃお~」


 安直ではあるが、白っぽいクリーム色をした方はバニラと名付けた。


「ふふふ、そんなに甘えても"おやつ"はあげませんよ~」

「ふみゃあ?」


「ええ、あれは"おとも印"のきび団子(・・・・)ですからね」

「みゃみゃみゃ~」


「ふふ、すっかり夢中ですね。これなら他の生物に試しても……」


 それに何の話だと首を傾げると、誤魔化すように「いえいえ何でもないです」と言って話題を変えた。


「それより今日はお魚でしょう? 楽しみですね~」


 バニラを見ると、いまだに頭を擦り付けお腹を見せて体を揺らしている。何となくマムの言葉とその様子に「おかしな事はするなよ」と釘を刺しておいた。


 マムは変な処で今井さんに似ている。


 少しでも違和感があったら、先手を打つに越した事はないのだ。誤魔化すように視線を泳がせ始めたマムに、本当に何かやっているんじゃないかと疑い始めた正巳だったが、服を伝って上り始めた子猫に苦笑した。


 上って来たのは正巳が抱えていたもう一匹。

 どうやら、自分にも構えと言いたいらしい。


 それに「落ちたら危ないぞ」と言いながら、わきの下に手を差し入れて持ち上げた。


「にゃ?」


 目を丸くして首を傾げて来る。


「チョコは甘えんぼだな」

「にゃ~」


 手をパタパタとさせ始めたので再び膝に戻す。


 チョコと名付けたのは黒い方の子猫。バニラと比べると毛は少し短めだが、その愛らしいクリッとした目が可愛い子猫だ。その瞳は金色で、この点はバニラと一緒だ。


 膝に戻して落ち着いていたのも束の間、再び動き出すとまたしても服を上り始めた。


 興奮しているのか、長い髭がぴくぴくと動いている。こうなってはもう、気が済むまでやらせる他ないだろう。きっと降ろしても何度でも挑戦してくる。


「まぁ、怪我しなければ良いか……」


 そう呟くと、答えるように鳴いたチョコに思わず頬が緩んだ。


 こうして程なく、正巳の首元には猫の首巻が出来ていた訳だが……流石は猫だ、バランス感覚が優れている。不安定な場所でも絶妙なバランスで落ち着いていた。


 しばらくの間、正巳の方が冷や冷やとしていたが、どうやら心配なさそうだと知って息を吐いた。風に心地良さそうに目を細める子猫へそっと手を添えると、穏やかに流れる時間を楽しむ事にした。


 その後、ポイントまで移動した正巳達は、早速糸を垂らして釣りを始めた。


 途中、盛り上げようと考えた正巳によって『誰が大物を釣り上げられるか大会』が開催されたが、その結果大変な事になる等とは思いもしなかった。


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