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『インパルス』~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~  作者: 時雲仁


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361話 歴史というもの

 歴史は勝者がつくる。


 勝者こそが次時代の支配者となり、社会の秩序を作るからだ。


 秩序を作る以上、勝者が正当化される。


 正当化された支配者の「正義」が語られ、それが「正史」となるのだ。


 これ即ち「戦争に勝ったこと」自体が、勝者の正当化(・・・・・・)になると言う事だ。


 勝者とならなくては、歴史を語る事すら叶わない。


 勝者が歴史をつくるのだ。


 そしてそれは、歴史を作って来た者達が最もよく理解している。


「このままでは終わらないだろうな」


 開いていた書籍から目を上げると、ちょうど日が昇り始めた処だった。


 先の防衛戦から丸二日経過し迎えた朝だったが、いつでも出撃()られるようにはしている。本来であれば、先日退けた時点で降伏終戦となる流れだったが、そうはならなかった。


 予想するに今頃、ハゴロモ(こちら)への非難を交えた書簡でもしたためているのだろう。きっと、内容は「第三国が不当介入」とか「人道的側面からの抗議」とかそんな物だ。


「場合によっては更なる制限も考えるか……」


 今回行ったのは、数あるインフラ設備の内"ライフライン"に含まれるエネルギー施設の停止。端的に言えば、国規模での電源供給の停止を行っていた。


 電源と言ってもその中身は様々。


 一般家庭に灯る明かりを始めとして、街中の街灯や道路信号、交通インフラでもある電車なんかもそうだ。当然テレビだって点かないし、パソコンだって電池が切れれば使えない。


 例外的に放送タワーは生かしてあるが、これはラジオで情報を流させる為だ。


 ここまで来れば分かるだろうが、最早この時点で、現代社会の"普通の生活"を送る事は不可能。この上更なる制限とすれば、それはもう"最後のひと押し"と言っても良いレベルだった。


 それこそ、ギリギリ社会を支えている綱を、その元から断ち切るような。


「やるとしたら"水"だが……」


 砂漠で乾いた人間は、水を得る為に同じ重さだけの"黄金"を差し出すと言う。これが誇張かどうかは分からないが、少なくとも人間にとっての水はそれだけ重要たり得ると言う事だ。


(それこそ最終手段だがな)


 近づいて来た足音に目を向けると、その主と手に持っていた物を見て言った。


「それが例の?」


 頷いたのは今井。


「そう、これが大地を癒す者(カンモクレイ)。宇宙で育つ植物さ!」


 その手にあったのは円柱型の容器。上部がドーム状になっていて、その中には砂や石が入っておりそこに小さく根付いた植物が確認できた。


 外見から言えば茶色い色をした枯れ木のようだったものの、その先に付いた葉は不釣り合いなほどに大きく鮮やかな緑色をしていた。見れば見るほど、造木のように見えてくる。


「これはどんな特徴を持っているんですか?」

「ふふ、気になるよね! やっぱり気になるよね!」


 相変わらずこういった"新作"を見せて来る時はテンションが高い。


 苦笑しつつ頷くと、先を促すように言った。


「宇宙で育つと言う事ですけど……」


 それに頷いた今井が話し始めるも、やはり長くなりそうだった。


「正確には"地球外の星で育つ"だね! 今この中は、火星の大気と同じ構成になっていてね、その中で成長する植物なのさ。それに、この植物"カンモクレイ"は生物が生きる為の重要な役割を持っていてね、住みやすい環境を整える調環境植物なんだ。具体的には、生物にとって有害な気体を吸収、無害化して排出したり。あと、代謝の速い落葉樹にした事で、落ちた葉によって土地を肥えさせる役目も持っているんだ。あとね……」


 大まかに理解が出来た所で、ふとケース内の土表面が盛り上がったのが見えた。


「あの、この土の中に何かいるんですか?」


 疑問を向けた正巳に、話を遮られたにも拘らず嬉しそうに答える。


「よく気が付いたね、実はそうなんだ。この中に居るのは"母なる開拓者(マザーワーム)"と言って、見た目は蛇……いや、ミミズに似ているかな。今はまだ紐程のサイズだけどね、これが成長すればとても大きく成長するのさ」


 嫌な予感がして聞く。


「……とても大きく(・・・)ですか?」


 青くなりつつあった正巳と対照的な今井。


「そう、それこそ星によっては地球の何十倍も大きいからね。直径で数キロメートル位にはなるんじゃないかな。まだ確かめてないけど、多分ね! 多分ね!」


 テンションが高い。


「それは……大きくなり過ぎたら、それはそれで大変な事になると思うんですが」


 直径で数キロメートルにもなる化け物が、地面の下を動き巡る。想像の時点ですでにこの世の終わりの様な絵面なのだ。仮にそんな物に遭遇した時など、それこそ怖いどころの話ではない。


 正巳の表情から流石に察したのだろう。取り繕うように慌て始めた今井が説明する。


「だ、大丈夫! この子はその星がそれ以上必要ない(・・・・)と知ったら、その時点で一度繭になる特性を持っているんだ。繭から孵ったら次の星に移動するからね。大丈夫なんだ!」


 正巳からしてみれば、何が大丈夫なのか全く分からなかったが……一応、その辺りもちゃんと考えているらしい。そもそも、全て想定通りの成功している事が前提の話だ。


 世の中想定通りに行く事など殆どない。とすれば、目の前にいるらしい"悪魔のようなミミズの子"も、イレギュラーがあって直ぐに死んでしまう可能性だってある。


(きっとそうだ、そう思い通りに行く事など無いんだから大丈夫だ)


 そびえるほど大きく成長したミミズの姿を想像するも、それをかき消すように頭を振る。


「この子らに関しては分かり(・・・)ました」

「この子! 正巳君がそう呼んでくれると嬉しいね~」


 そのつもりは全くなかったものの、喜ぶ今井に何も言えなかった。


 苦笑しつつ歩き始めると、時間を見て言った。


「そろそろ集まっているでしょうから、向かいますか」


 それに「そうだね!」と答えた今井に、「それはマムに戻しておいて貰いましょうか」と言って、持っていたドーム状のケースを受け取った。


 もしそのまま持って行っていれば、まず間違いなく集まったメンバーへのプレゼンが始まっていただろう。そんな事になれば、それこそ恐怖のプレゼンテーション大会だ。


 向かう途中、合流した先輩に「大丈夫か?」と聞かれた。どうやら顔色が良くなかったらしい。今井さんの手前頷く事しか出来なかったが、どうやらその様子だけで察したらしい。


 それ以上は何も聞かず、着くまでの間当たり障りない話題を選んで振って来た。その後、集められた数名によって始まった会議は、日が昇り切るまでに終わっていた。


 話し合ったのは、次打つ一手。


 選択肢がそれほどないと言うのもあったが、それでも、他に比べ「平和的」というのが決定打となった。何せ、他の選択肢はどれも「大規模な犠牲を伴う」ものだったのだから。


「それでは、段階的に各国へと"制限"を加えて行く事にする」


 ここで決まったのは、『一週間経過するごとに新たに制限を加えて行く』という制裁的一手だ。段階的にではあるものの、これが進めばそのまま、連合諸国の国民生活を壊滅させてゆく事となる。


 これは飽くまで、連合側からの「降伏宣言」がなかった場合の決定だが……後はもう、素早い判断が下される事を祈るしかないだろう。こちらとしても別に死人を見たいわけじゃないのだ。


 幾度となく見て来た"結末"を思い出して呟いた。


「歴史は勝者によってつくられる。されど、その勝者たる者は、その未来によって裁かれる」


母なる開拓者マザーワーム

 荒廃した土地をその生息地として棲み、その成長に限界はない。その星から離れるのはその必要が無くなった時であり、その際は繭を形成し変態を経て次の星を探す。取り込んだ鉱物によって外殻が形成される為、地域によって固くなる個体もいる。


……現実でこんな生物がいたら嫌ですね。

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