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『インパルス』~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~  作者: 時雲仁


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360話 支配の手《ドミネーション》

 マムの話では、目の前の兵士それぞれが特殊な薬物(ドラッグ)によって、能力の向上とその恩恵を受けているらしいとの事だった。それになるほどなと頷くと、残り時間を確認して言った。


「直に時間だが、手筈(てはず)に問題は無いか?」


 正巳としては「問題ない」と返って来るのを期待した訳だが、どうにもそう予定通りには行かないらしい。『それが少々問題がありまして……』と言ったマムに続きを促すと、若干呆れた様子を含ませながら『何を考えたのか「このまま押し切る」つもりの様です』と返って来た。


 どうやら、連合側(むこう)からして、現状このまま勝てると考えたらしい。


「それはつまり、俺達。いや、俺の事をこのままどうにか出来ると、そう考えたって事か?」


 ため息を吐きたくなるのを抑えながら確認すると、愚かですねと相槌があって『それももう少しの間でしょう』と何やら予見した答えがあった。


 考えがあるらしいと知ってそのまま任せる事にした正巳だったが、それからそうかからずにある変化があった。それは、それまで厄介に感じていた"狙撃"に関する事。


 これまでの流れであれば、確実に突いて来るであろう隙に弾が飛んで来なかったのだ。


「狙撃手は?」


 何かしたとすれば、それはマム以外には考え難い。


 予想通り『対処しました』と返って来た言葉に、やはりそうかと頷くも、小さく『百倍返しです!』と続きがあった。どうやらマムは、正巳に弾を当てた怒りを当の狙撃兵へとぶつけていたらしい。


『やってやりました。ふっふっふー』


 満足そうな様子に苦笑するも、相手の心境を考えて笑うに笑えなかった。


(白い化け猫に幼女が跨って、襲って来るんだもんな……)


 自分であれば、到底遭遇したくない場面だ。


 その後、一向に狙撃の入らない事に二人も気付いたらしい。


「まさかイヴァンがやられたのか?」

「そんな訳ねぇだろ。後方支援基地からだぞ?」


 イヴァンと言うのが狙撃手の事なのだろう。


「だが狙撃が……」

「そんなの、きっと機を伺ってるんだ」


 動揺し始めた様子を見て、これはちょうど良いタイミングかも知れないと思った。


 何せ、これまで問題なく対処して来たものの、視界の半分を失った状態だ。幾ら狙撃手を排除したとはいえ、このまま闘い続けるならどこかで、邪魔になっている"仮面"を取る必要が出て来る。


 これが何でもない雑兵であれば、死なない程度に加減して無力化も出来ただろう。


 しかし、目の前の相手にそれは難しい。それこそ、本気で対処を考えるなら、『相手を殺しても仕方ない』――そう言った前提でなくては、どうにもならないだろう。


 少し考えて言った。


「おい、お前らの上官に"祖国"の状況を聞いたか?」


 急に声を掛けたもので驚いたのだろう。


 距離を置いた上、こちらが動かないのを見て通信機を手に取っている。


 見れば、小男の方は二本目のブースターに手を伸ばしている。どうやら、薬物の効果時間(・・・・)自体はそんなに長くはないらしい。つまりお互いにとって、ここは一つの分かれ目と言う事だ。


 通信を取っていた男が振り向くと、こちらを睨みつけながら言った。


「……ここは引くが、これで終わると思うなよ」


 それに肩をすくめてみせると引き返して行った。小男の方は、何処か悔しそうにしていたが、その視線に気付いたのは、いつの間に戻ったのかマムに「使わなかったんですね」と言われてからだった。


「そうか、結局武器を抜かずに終わったな」


 戻って行く遥か後方で、赤い狼煙が三つ上がった。


 その後、防衛している各方面から"敵部隊の撤退"の報告が入ったが、その殆どが連合軍の撤退の報告だった。その報告を聞きながらふと(そう言えば、初めは長引きそうだって話だったよな)と疑問に思った。


「それで、結局何をしたんだ?」


 マムが何かしたのは間違いないだろう。見当つかずに聞くも、その答えを聞いて、先程の狙撃手を倒した事に直結しているらしいと知って納得だった。


「向こうの切り札に退場して貰ったんです。そもそも、その切り札のおかげでどうにかなると思い込んでいたみたいでしたので。切り札を失い、加えて各国本土で問題が起きているのです。向こうにとっても、こんな所で悠長にしている場合ではなくなったのでしょう。それこそ政治の危機にも繋がりますから」


 その口調から、切り札と言うのが先程相手をした男たちであるのは間違いない。


「悠長に?」

「はい、その基盤を置くのは国民ですから」


 どうやらそちらの方は予定通り済んでいたらしい。


「そうか、インフラの方は支配し終えたか」

「問題なく」


 それに頷くと聞いた。


「それで、何から手を付けたんだ?」


 幾らインフラを支配したと言っても、それは、その状況を正確に相手へと伝えなくては意味がない。つまり、置かれた状況を連合国地域の国民に広く分からせる必要があった訳だ。


「それはですね、中でも最も大切な一つです!」


 インフラと言っても、その範囲は限りなく広く多種多様だ。


 その定義こそ、生活や産業などの経済活動を営む上で不可欠な"社会基盤"と位置づけられているが……要は、現代社会において人として暮らす為必要なあらゆる設備や施設なのだ。


 その中には当然、水道設備や電気設備なども含まれている。


 これら生活に密接したインフラは、言ってみればその国に住む人々の生命線(・・・)だ。


 正巳の問いに微笑みを浮かべたマムは、人差し指を立てて言った。


「つまり電気です!」


 自信満々に言うマムに首を傾げた。


「電気か?」

「はい。一部を除いて全ての電気を止めました!」


 その、大変な事ですよと言ったマムの様子を見て(なるほど、マムにとっては大変な事かも知れないな)と思う。それこそ、人工知能であるマムにとっては"命の源"の様なモノだろう。


 納得した正巳だったが、ふと思い出して言った。


「そう言えば、以前クラウド化したって言ってたが、それは問題ないのか?」


 クラウド化と言うのは、マム本体を一つの機械に入れるのではなく、マム自体をネットワーク上に置く事で分散構成すると言うモノだった。


 正巳は、世界中のネットワークにマムが残った状態で電源を落としたら、マムの処理能力自体にも影響が起きるのではないか。――そう思ったのだ。


 しかし、それに首を振ったマムが言う。


「それでしたら問題ありません。確かに以前はその様な形を取っていましたが、現状それほど重要ではなくなっていますから」


 それにどういう事かと聞くと、どうやら既に数年前から始め、対策を取っていたと言う話だった。


 その中身は、衛星を打ち上げ、惑星に基地を作り、地球外を中心にした宇宙規模でのシステム構築。つまり、とっくに地球外へとリスク分散済みだったと言う訳だ。


 確かにリスクを考えれば、より手の届きづらい場所に置くのが良くはある。それでも、知らない内に地球規模から宇宙規模へと拡大していたと知っては、最早笑う他ない。


「問題ないのか?」

「はい、むしろ宇宙(そと)の方が条件的には良かったりします」


 研究だなんだで今井さんから、拠点を宇宙空間や地球外の惑星に作っているとは聞いていた。それでも、それがここまで進んでいるなど夢にも思わなかった。


 ひょっとすると本当に、近い将来地球外へと移住する時が来るかもしれない。


 将来の事を一人妄想していた正巳だったが、マムの「そう言えば、火星へ植樹予定の新種の植物ですが、無事組み換えが出来たとマスターが言っていました」という話を聞いて、帰ったら確認しなくては気付いた時には宇宙規模で大変な事になるかも知れないなと思った。


 その後、連合側による新たな進軍がない事を確認し王都内へと戻ったが、ハゴロモ側に死者は無く、怪我人は出たものの完治済み。おおよそ上々とも言える結果だった。


 怪我をしたのはハク爺との事で、話によると新たに考えた戦術とやらを試していたらしい。元気な事は良い事だが、流石に少しは自重して欲しかった。


 グルハ宮殿内で待つアブドラへと報告に戻ると、話し合いの結果、警備兵器を追加で配備する代わりに一度ハゴロモへと帰還する事に決まった。


 その日グルハの民は、戦時下である事を考慮しても、ごく変わりのない日常を送っていた。


 その大半は、自国を立て直し成長発展させた、自分達の王アブドラを信じていた訳だが……まさか自分達と幾つかの国を除いた国々が、混乱状態にあるなどとは想像もしていなかった。


 それも、数世紀以来となる"夜"を迎えている等とは……。


 ――挙げられたのは支配の手。


 その日、世界中のあらゆる国々から、文明の象徴たる"光"が消えた。


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