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『インパルス』~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~  作者: 時雲仁


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359話 薬物強化《ドラッグ・ブースト》

 その手にあるのは厚い金属製の盾。


 マシンガンを防いだのは、どうやらこの盾だったらしい。その盾を見てふと呟く。


「……あれは、装甲車のドアか何かか?」


 すると、それに頷いたマムが答えた。


「はい、"パニッシャー"の壁面装甲ですね。ミサイルにも耐える強度です」


 パニッシャーと言えば、ロシアの特殊装甲車だ。恐らく、無理やり壊しでもして持って来たのだろう。端の方にひん曲がった金属棒が飛び出ており、その下ではケーブルらしき物がぶら下がっているのも見えた。


「ヤルなの?」


 そう言って指さすサナに首を振る。


「いや、時間さえ稼げれば良いからな。待機だ」


 それに「分かったなの」と頷いたサナが、「ゴンすけも待機。降りてここに来るなの」と正巳の背にしがみ付いていたゴンを下ろしている。


 対してゴンは、何処か恍惚とした様子で頬をモニャモニャと動かし、うわ言のように「おいしいかおり(・・・)なんだなぁ」と繰り返している。恐らく初めての戦場で酔った(・・・)のだろう。


 ボス吉とマムの姿が見えなかったが、きっと何か理由があっての事だ。視界の端に表示されたタイマーを、チラリと見て呟いた。


「残り五分切ったか」


 計画通りに行けば、この五分で決着が付くだろう。しかし――(あの男たち……予定通り進まないかもな)視線の先、盾を持った男と合流したもう一人の兵士を見て、嫌な予感がしていた。


「おいドルゲン、テメェ!」


 後から来た男が、盾を持った男の背中を叩いている。その動きからして、本当は頭を(はた)きたかったのだろう。若干背が足らなかったからか、背伸びしている様子が見えた。


「何だ? チビ(・・)ニース」


 体の大きな方を"ドルゲン"、後から来た小さな方を"ニース"というらしい。ドルゲンがニースへと手を伸ばし、そのまま頭をガシっと掴んで笑っている。


 それを膝を屈めて避けたニースが、ムッとした様子で言う。


「うっせえデカブツ、オメェ一人で突っ込んでんじゃねえよ!」

「おいおい、置いて行かれて寂しかったのかチビ?」


 どうやら仲が良いらしい。


「ふっざけんな! オメェ武器忘れて行くわ勝手に突っ込むわ、死にてぇのか?」

「おう? 何だ、置いて行かれて寂しかったんならそう言えよ」


「はぁ? ちげぇし!」

「そもそも、俺はお前と違って燃費が良い(・・・・・)んだよ」


「テメっ、何言ってんだ。普段からあれだけ大食いでいて、何が燃費が良いだよ。そもそもだなぁ、オメェ俺の昼飯食っただろ!」


 緊張感があるのか無いのか、状況を横に置いて言い合いを始めた二人に息を吐きかけた。しかし、その瞬間だった。何か嫌な感覚があり顔を上げると、ほぼ同時に警告が入った。


『パパ、避けて下さい!』

「――ッツ!」


 咄嗟に首を捻りながら体を屈める。


『"ズ――ッパァアン!"』


 直後、遠方からの発射音と共に、頭があった場所を弾丸が掠めて行くのを感じた。


 狙撃されたらしい。


 視界には通ったばかりの弾道が、赤い線でもって表示されている。


「なるほどな、あいつ等はおとり。こっちが本命だったか」


 着弾した壁に穴が空き、建物が崩れている。


 使ったのは、確認するまでも無く相当口径の大きな物。それこそ、対物ライフルか対戦車ライフルであって、到底人間に向けるような代物では無いだろう。


 退避した先の物陰で、サナが困った様子で言う。


「すないぱーなの!」


 それに頷くと考えた。


 正巳であればマムのサポートを受け対処する事も出来るし、最悪被弾したとしてもどうにかなるだろう。もっとも、こういった場所で特殊な力を示すのは、まだ避けたい処ではあるが……。


「この二人は俺が受け持つ。後ろの(スナイパー)も俺なら問題ない」


 分かったと返して来たサナに、周囲の警戒と何かあった時の対処を任せると言った。


「マム、サポートを頼む」

『了解しましたパパ!』


 ゴンを連れ散開したサナを見送ると、物陰から外に出た。


「さて、強化兵士だったか? どんなものか見てやろう」


 姿を現すと同時に走り出した正巳は、途中現れた赤い線を避けながら、男たちへと距離を詰めた。赤い線が通った後、コンマ数秒でその軌道通りに弾丸が過ぎて行ったが、その一つとして体を掠める事は無かった。


 どうやら想定こそすれ、敵にとっては想定外の事だったらしい。


「イヴァンが外すなんて初めてだな」

「バカッ、あいつが外すわけ無いだろ。避けられたんだよ!」


 こちらを見て言った小男は、その両手に双刀を構えている。腰に銃を差してはいるが、どうやらそちらを使うつもりはないらしい。


(なるほど。相当に連携の鍛えられた、それも近接戦を得意とする奴らみたいだな)


 こういった輩がたまに居るのだが、こうした相手は厄介な場合が多い気がする。


「はっ、それはそれでレアな状況だな!」

「違いネェ! ――逝くぜ!」


 掛け声とともに、持っていた盾もとい破壊された"ドア"を振り上げて来る。それをバックステップで避けると、視線の先で胸元から何やら取り出した小男が、それをそのまま太ももに打つのが見えた。


 どうやら、小型化された注射器だったらしい。


「なるほど、あれが例の薬物。ブースタードラッグか」


 再び振り上げられた盾をかわすと、一度屈伸して見えた小男が瞬間的に肉薄していた。


「フヘッ! フハッハッツ!!」

「くっ、こいつ……人間か?!」


 思わず漏らした言葉に敵が笑んだように見えた。


「ヒャハッツ!」


 明らかに人間離れした動き。いや、スピードだ。


 通常、人間にはセーフティが働いており、脳が百パーセントの力を出さないよう制御している。それが解除されるのは有事であって、意識外の事。意図的に起こせるようなモノではないのだ。


 俗に言う"火事場のバカ力"なんかがそうだが……何となく、この男は本来ある"制御"から外れている様にも見える。それで言えば、横でバカでかいドアを振り回す男もそうだ。


「潰れろオォォ!」


 大振りであるのが幸いしてか、避ける事自体は造作もない。が、それは正巳だからであって、これが普通の人であれば打つ手も無いほど最悪な相手だろう。


 それこそ、ミサイルか手りゅう弾。神経ガスや毒ガス、罠を設置して対処する他ない。


「フハハッ!!」


 持ち手を逆にし、変則的な攻撃を繰り出す小男を捌くも、ゾワリとする気配にその原因を探った。結局その正体は、仲間越しに正巳を狙ったスナイパーの死線だったが……。


 連撃の合間に小男の首の横、大男との僅かな合間を縫って撃たれた弾丸に、仮面表面を擦られた。


 その瞬間、仮面の左半分にヒビが入る。


 どうやらこの二人は、狙撃手の男を全面的に信頼しているらしい。


(それにしても、この乱戦の合間を撃って来るなんてな……)


 普通に考えてあり得ない事だ。


 コンマ数秒も無い激しい動きの中、仲間に当てず正確に狙うなど。とても人間業ではない。


「もしや、これも強化によるものなのか?」


 そう呟いた正巳にマムが答えた。


『どうやらそのようです。データを確認しましたが、大きい方が"筋力"、小さい方が筋力と加え"反射神経"。そして、パパを狙っている男が極度の"集中力"。其々、薬物によって強化されていたみたいです』


 どうやらこれが、薬物強化(ドラッグ・ブースト)によって兵士たちが得た恩恵らしかった。


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