358話 強化兵士
視点戻ります。
正巳が降りたのは、王都をぐるりと囲む城壁の外だった。
城壁と言っても、数百年前に建てられた遺跡の様なモノだ。壁としての役割は期待されないが、少なくとも外と内とを分ける境界としては役立っていた。
この境界を越えさせないよう防衛するのが、一つの目安なのだ。
ただ、城壁の外と言ってもそこには、壁の内側と同じように街があり民家がある。そこに住んでいる住民は避難済みだが、その一軒一軒には人々の暮らしと思い出があるだろう。
人命こそ守れても、犠牲と言う意味では小さくない物を払っているわけだ。
すでに崩れた家や建物を見ながら(保証はきっちりしないとな)と呟くと、視界の端で"攻撃"しているマムへと目をやった。マムは、崩壊した家の残骸を掴みそれを片っ端から投げている。
普通であれば何でもない事も、マムにかかれば一撃必殺になるだろう。
一応加減するとは言っていたが、あれの何処が加減しているのだろうか。当たれば間違いなく重傷。当たり所が良ければ骨折程度で済むだろうが、悪ければ粉砕、破裂、少なくとも相当痛いに違いない。
確かに、即死しないだけ加減しているとも言えるだろうが、それは手加減とは少し違う気もする。
苦笑した正巳は、前方から近づく気配に呟いた。
「一、ニ、三……五人一班で六班行動。その後ろの分も合わせると、全部でざっと八十ほどか。徐々に影響が出て来たな」
影響と言うのは、浮遊戦車の能力である小さな軍隊。その小さな軍隊でもって操る敵所有兵器の大半を、他の仲間の守る場所へと回させた影響だった。
他の場所の守りが固くなれば、相対的に守りの薄そうな場所が目に付き始める。そして、防衛の補助として置いたハゴロモ製兵器の類も、敢えてこの周囲を浮かせる形で周囲に手厚く配置している。
配置した兵器の大半が、空中を飛び警備する旋回型ドローン"レギオン"だったが、事前に"目"を配置し高低差や遮蔽物などのマップはインストール済みだ。
レギオンには、機銃を取り付けたような攻撃特化の物から、比較的平和的な電気針を射出するようなモノまである。中には、煙を発生させたり火花を出したりするようなトリッキーな機体もあるが、きっとうまい事働いてくれている事だろう。
何はともあれ、徐々に兵士が集まり始めている訳だ。
「サナとボスは其々左右の敵を。俺は正面を叩く」
すでに第一波を凌いだ後だったが、時間にしてまだ十分そこらだろう。
横を見ると、プルプルと震えるゴンが居た。
「お、おりゃはどうすれば良いんだなぁ?」
目が合うとそんな事を聞いて来るが、こいつには前科がある。もし好きにでもさせたらきっと、隠れる場所の多い町の地形を利用して、片っ端から敵兵を襲い始めるだろう。
「お前は俺の後ろに居ろ」
隠してはいるが、口の端からよだれが垂れているのが見える。
「そんなぁ、美味しい匂いがしてるに……だめなんだなぁ?」
「ダメだ。そもそも、人なんぞ食っても美味くないぞ?」
「ち、ちがうんだなぁ。人間はたべないんだなぁ~」
「それじゃあ何喰うんだよ」
「それは美味しいかおりなんだなぁ」
頬に手を当ててそんな事を言っている。
正体を知らなければ、可愛い少女にでも見えたかもしれないが……。
「どうでも良いが離れるなよ。お前も、捕まって実験動物になんかなりたくないだろう?」
正巳の言葉に、慌てた様子で駆け寄ったゴンがしがみ付いて来た。それに「足はやめろ」と言うと、そのままよじ登って来て、最終的にはおんぶする形になった。
多少動きは制限されるモノの、振り落とす事は無さそうだったので、一先ずそれで良い事にした。
少し広い通りを進んで来る敵兵に対し、通りに面する建物の屋上へと陣取った正巳は、そのまま身を潜めると目の前を通り過ぎようとしたタイミングで、その中心へと飛び降りた。
――ダンッ。
不意を突かれた様子があったものの、すぐに反応した兵士が銃口を向ける。が、そのまま撃っては背後の味方へと当たってしまう。
舌打ちをして散開の指示を出した男に、半歩で近づくと掌底を打ち込む。
「グハッツ!!」
唾と一緒に血が吐き出るが、死ぬほどの傷では無いだろう。
敵兵が拳銃を構えたのを見て体をひねる。
そのまま重力に従って体を倒すと、その過程で二発避ける。
標準を合わせようとする動きを読んで、片足に力を籠める。
強い力によって体が弾き上げられ、不安定な横跳びをした。
ここで三発。
見れば少し下がった兵士が、マシンガンを構えかけている。
「悪いな」
呟くと同時に放ったのは、腰に下げていた刀。
黒い刀身が一線を切ると、その切っ先が兵士の腕ごと壁に突き刺さる。
それを見て呆気にとられた様子の兵士、これもみぞおちに一発。
残るのは二人。
視線を向けると立て続けに二発撃って来る。
が、そんな何のひねりも無い弾道が掠る事など無い。
難なくかわすと、ナイフを抜いて対峙した一人をその腕ごとへし折った。
「ひいっっ!!」
情けなく声を上げた兵士が尻もちを着くが、それが背中に乗ったゴンの仕業と気付いて苦笑する。
どうやらゴンは、こちらに見えないのを良い事に口を大きく開けてみたり、体の一部を変異させてみたりとやりたい放題していたらしい。
途中から違和感があったが、恐怖が動きを鈍らせたのだろう。
銃口を向け、必死に引き金を絞っているが……残念ながら弾切れだ。
「殺しはしない。仲間を連れて退いていろ」
言いながら武器の類をはぎ取ると、それをまとめて近くの民家へと投げ入れておいた。
刀を抜く際出血があったが、治療薬をかけると固まった後で確認し驚いた様子だった。
その後、続けて何度か戦闘があったものの、特に問題なく撃退していた。
「次は二百人規模。中隊で来たか」
規模が膨らみ始めたなと思うも、途中で止まった兵士たちに首を傾げた。何故か途中まで進んで来ていた中隊が途中で止まり、代わりに数名程度の兵士が進み始めたのだ。
叶わないと考えての数だろうに、改めて数人で来るとはどういった事なのだろうか。
「まさか特攻する訳じゃないだろうな」
連想したのは、自らを犠牲にして敵を倒す攻撃。言い方を選ばなければ"自爆"。自ら何らかの爆発物を身に着けて突撃、敵に近づいた時点で爆発し相手諸共巻き込む攻撃の事だった。
稀に動物や生物なんかを使う奴らは居たものの、こういった戦場で目にする事はまぁないだろう。そもそも正規軍がそんな事をしたらきっと、世界中の人々から反発を受けて大変な事になる。
「来たか」
歩いて来たサナとボス吉に目を向けると、頷いて返して来る。
「なの。急に引いてったなの!」
「グルルルル」
サナはともかく、巨大化したボス吉はその牙を赤く染めていた。見た目が真っ白なのもあって、赤い血が目立つが……きっと激しい戦いがあったのだろう。
ボス吉の後からマムがやって来るが、どうやらボス吉の後片付けをしていたらしい。
「傷が大きくて少し使い過ぎてしまいました。補充しますね」
両手に持ったマシンガンが気になったものの、マムとしてはそれ処ではないらしい。「何故敵に使わなくてはいけないんでしょう」と呟きながら、補給元である浮遊戦車を呼ぼうとしている。
「どれくらい使ったんだ?」
「手持ちの十パーセント程です」
こんなに沢山!と頬を膨らませているマムには悪いが、ほとんど使ってないのと同じだ。苦笑して「補給の必要ないだろう」と言うと、あからさま残念そうな顔をしていた。
そもそも、正巳もサナもボス吉も、基本的には自己治癒が出来るのだ。ゴンについて確認こそしていないものの、それこそ必要ない気がする。
「もしや敵兵に使ってやるつもりで……」
優しい子になったなと、そう思ったのも束の間。視界に入る程度の距離に現れた影――そちらへ照準を合わせたマムが、両手に持ったマシンガンを一斉に撃ち始めた。
一瞬どうかしたのかと思ったが、どうやら先程浮遊戦車を呼びたがっていた理由もここにあったらしい。全弾打ち切ったマムが、硝煙香る中ため息を吐くと言った。
「やはり火力が足りませんでしたか」
いったいどういう事かと問いかけるも、そこに現れた人影を見て理解した。
「なるほどな、こいつが来るのを知ってたわけか」
「はい」
確認したのは資料だけだが、それでも間違えようが無い。
「あれが例の――」
「そうです。例の"超人兵士"……彼らの呼び方で言えば"強化兵士"ですね」
そこに居たのは、明らかに普通とは違う、異質な雰囲気を持つ兵士だった。




