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『インパルス』~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~  作者: 時雲仁


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356話 動揺、衝撃、安堵【連合side】

視点が変わります。

 正巳達が戦闘態勢へと入る少し前。


 連合軍の指令室にて、男は一つの選択を迫られていた。


 ――それは、要求を呑むか無視するか。


 過去数えきれないほどの作戦で指揮を執り、実戦において正確な判断を下して来た男だったが、この状況に似た事態は過去遭遇した事が無かった。


 いや、無かったと言うよりは、無くて当然(・・・・・)な内容だろう。


 何せ敵が口にしたのは、突拍子もない脅迫であって、到底起こり得るとは思えない内容。要求を聞き入れなければ、核兵器を使って攻撃に出ると言う大言壮語だったのだから。


「これが只のブラフと判断できればな、悩まないんだが……」


 そう呟いた頭の端には、有識者の間で"世界大使館"と呼ばれる組織の存在があった。


 この組織は表向き"ホテル"として世界各地に拠点を持っていて、その中ではどの国の法も適用されない特区とされている。男も度々利用する事があったものの、それはこの組織の中立性を買っての事だった。


 だが、ここでこの組織の事を思い出したのは、この組織が現在敵対するハゴロモの背後にいるという噂があった為だった。もしこれが事実であれば、これは大変な事だろう。


 何せこの組織は、独自に"核兵器"を保有しているのだから。


 そもそもこの組織が"世界大使館"等と呼ばれ、世界のどの国からの干渉も受けていないのは、そのベースにそれに値するだけの力を持っているからだ。


 もし、この組織の保有する核兵器を念頭に"脅迫"しているのだとしたら、これは思っているよりもずっと厄介で入り組んだ、とても複雑で政治的な問題になる。


 それこそ、連合国の中に"世界大使館"と手を取った、"裏切り者"がいる可能性だって出て来る。


 あるはずもない妄想に駆られ、疑念が疑惑へと変わり始めていた男だったが、聞こえて来た音声と混乱する映像を前に、自分らしくもなく余計な事を考えてたらしいなと我に返った。


「どういう事だ、そもそもあの小さな国は核を保有していたのか?」

「いやそれよりもだ。問題なのはどの国地域を指して言ったかだ!」

「言葉通り取れば、全ての国だと言う事になるな」

「核の保有に関しては、可能性は無いとは言えないが――」

「仮にそうだとしても全ての国を標的には出来ないだろう。出まかせだ」


 騒がしいモニターを前に、今一度状況を確認する。


 現在敵対しているのは、つい数年前に出来たばかりの新興国も良い処の小さな国だ。


 問題なのは、この国が他とは比べ物にならないほどのテクノロジーを包している事実であって、それが無ければこんな形で連合を組む事も、こうして戦争になる事も無かった。


 このテクノロジーは、魅力的で且つ厄介な代物と言う訳だ。


 予め情報はあったものの、目の前で指揮する軍がその武装――と言っても近代兵器の類に限られた事だが――が解かれた事には、流石に驚かされた。


 だが、飽くまで近代兵器の類が使えなくなっただけで、銃火器や近接武器等の通常兵器は問題なく使える。簡単にと言う訳には行かなくなったものの、通常戦闘に入れば問題なく制圧できただろう。


 実際、そう判断して"戦闘"命令を出した。


 脅迫の内容が事実であれば、既に半ば詰んではいる。しかし、その可能性が限りなく薄い以上、仮に可能性があるとしても、現段階では要求通り従う事などまずあり得ない。


 つまり、要求には応えないのが正しい判断だ。


 結論を出した男だったが、慌てた様子で飛び込んで来た部下を前に嫌な予感がした。


「べレコフ大将、至急報告が!」


 ここは連合軍の指令室。通常であれば、この場では"総司令"と呼ばれるのが普通だ。その上で大将と国の階称で呼びかけられたのは、連合関連ではなく母国関連での報告があると言う事だろう。


 頷いたべレコフに、報告に来た兵士が近寄り言った。


「我が国保有の戦略核が、起動待機状態に入ったと報告がありました」

「どういう事だ。大統領閣下が決断されたのか?」


 そんな事をしては、そもそもの目的である"戦利品"が無に帰してしまう。あり得ないとは思いつつ確認すると、更に信じがたい内容の報告があった。


「いえ、実は勝手に(・・・)起動したようでして。現在制御不能状態にあるようです」


 眩暈のし始めた頭を押さえ、確認を続ける。


「どの程度その問題状態(・・・・)にあるんだ?」


 べレコフの言葉に一瞬ビクリとした兵士。


 それを見て、どうやら状況は想像を超えて悪いらしいと知った。


「ハッ、それが……"スティングレー"、"シネバ"、"ブラバ"など原潜に搭載している"144基"を始めとし、移動式"M1"、固定式"M2"などICBM全"316基"が……加えて状況が悪い事に作戦外貯蔵も――」


「馬鹿者が! 状況が悪い処の話では無いだろうが!!」


 思わず怒鳴り声を上げるも、周囲を見て事態を知った。


「どうやら我々は、とんだ思い違いをしていたらしい。まさか、こちらの保有する核を頭数(あたまかず)に加えているとはな。忌々しいが、これは状況が変わって来た」


 周囲を見れば、慌てふためく複数の国の様子が確認できる。その全ての国が所謂"核保有国"であり、その地位がその強力な兵器によって保たれている国だった。


 仮に「核の状況」に関して確認しても、決して奪われた等とは認めないだろう。しかし、仮に全ての国が自国と同じ状況に陥っているのであれば、これはもう……。


 最悪の事態を想像したべレコフは、先程突如映像と共にあった「核による最後通告だ」の言葉を思い出し、背筋を冷たいものが伝うのを感じた。


 つい今しがた入った通信では、最前線が衝突するまで秒読みだった。


「クッ、前線状況を報告しろ!」


 慌てて言うも手遅れだったらしい。


 返って来たのは、戦闘に入ったという報告だった。もし"最後通告"の期限(リミット)が交戦に入るまでであれば、この時点で破滅的終了(ジ・エンド)だろう。


 最悪な事態を想像しながらその報告が入るのを待った。


 腕に着けた時計の針が進むのを感じる。


 普段であれば何とも思わない一秒を、こんなにも長く感じたのは初めてかも知れない。時間にして数分だったかも知れないが、体感では既に数十分経過した様な気がする。


 周囲を見回すと、多少の差異はあれ皆同じような状況だったらしい。


 一先ず、核のボタンは押されなかったと見て良いだろう。


 視線が合うと苦笑して、思い出したように息を吐き胸を撫で下ろしている。その様子を見ながらホッとしたべレコフだったが、改めて気合を入れ直した。


 何せ最もまずい事態は回避できたものの、状況が最悪なのは変わりない。


 下手をすれば国、いや現在の社会の崩壊へと直結するのだ。


 核の制御を取り戻すのが、いま最も急がなくてはならない急務だろう。


 しかし、そこに希望を持つのは神頼りにも等しい行為だ。そもそも、奪われないように全力を注いでいるのに、それを奪われた挙句奪い返すと言うのは不可能だ。


 認めよう。


 現時点では、テクノロジーで上を行くのは不可能だ。であればどうするか。それは、一刻も早く交渉の席に着き事態を改善する事。これが最善で、これ以外に手段は無いだろう。


 深く吸い込んだ息が、身体の緊張を解くのを感じた。


明日も更新します。

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