345話 新型兵装
窓の外に見えるのは、月に照らされ輝く雲海と並行して飛ぶ鉄の鳥。
来る時気付かなかったものの、どうやら秘密で護衛を付けて来ていたらしい。遠目で見ると完全に鳥だが、よくよく見れば全くの別物だと分かる。
外見で言えば、翼を広げた猛禽類――オオワシやトンビなんかにも見えるが、そのサイズは人を遥かに超えていて、どちらかと言えば太古の翼竜といった感じだ。
「良かったんですか?」
そう言って聞いて来るのはマムだ。ミンとテンの「泊まって行ってください」という誘いを断った事を指しているのだろう。確かに魅力的な誘いだったし、二人と話したい事も沢山あった。
しかし、それは飽くまで自分の思いを優先させた場合だ。
「朝起きた時俺が居なくては、心配させるだろう?」
何せ戦闘のあった翌日なのだ。そこで、責任者にして守る立場である正巳が居なくては、何かあったのではないかと不安がらせてしまう可能性がある。それは一番に避けるべき事だろう。
その後、小さな寝息が聞こえて来たのでそちらを見ると、苦悶の顔で寝るゴンとそれを抱えてスヤスヤと眠るサナの姿があった。
いつもであればゴンの位置に居るのはボス吉だったが、どうやらその辺は上手くやったらしい。足元でフワフワと揺れるモフっとした尻尾を撫でると、手の平を包むようにして丸まった。
その尻尾を愛でた正巳は、もう少しの空の旅をゆっくりする事にした。
◇◆◇◆◇◆
拠点に帰るのと日が昇り始めたのは、ほぼ同じくらいだった。
着いてから部屋に戻るまでの間、出会ったのは正巳の父で征士くらいだったが、もう少しすれば続々と起き始める事だろう。気持ち早めに出て来て正解だったみたいだ。
恐らくハク爺やユミルは既に起きていて、朝の訓練を始めているだろう。
「……行ってみるか」
着いてもなおサナとゴンは寝たままだった。何となくゴンの方は寝たふりな気もしたが、流石に下手な事はしないだろう。マムの方はいつもの子共サイズの躯体へと戻っていたが、訓練所に向かうと伝えると目を輝かせていた。
どうやら、新しい兵装の試運転をして欲しいらしい。
それ自体は正巳自身必要だと思っていた為、頷くと同時に折角だからと、訓練所にいる人数分の兵装もそろえて貰う事にした。間違いなく、みんなで試したいと言って来るだろう。
その後、途中でミューと出会ったが、こちらに気付いたミューは少し頬を膨らませていた。それに苦笑すると「部屋におみやげがある」と伝えて、今度は一緒に行こうなと言っておいた。
おみやげと言っても、近くに咲いていた花を貰った瓶に入れ、向こうで撮った写真を壁に投影している程度だが……それでも、何もないよりは良いだろう。
全てミンのアイディアだが、これでダメならどうしようもない。
「みんな花、好きだよな」
そう言って呟くと、隣を歩いていたマムが頷いて答えた。
「花ほど着飾っている存在も居ませんので、女性にとって花は完璧な美なのですよ」
それに(着飾ってるってほぼ裸じゃないか?)と思ったが、考えてみれば確かにマムの言う通りなのかも知れない。頷いて「そうなのかもな」と答えると、何やら賑やかな訓練所へと入って行った。
◆◇◆◇
中に入るとそこには、異様な盛り上がりを見せる一団と、それに触発されるようにして盛り上がる子供達の姿があった。どうやら先に兵装を公開していたらしい。
盛り上がっている大人たちの中には、眠そうな人も居た。
恐らく無理やり起こされ連れて来られたのだろうが、それでも目を輝かせているのは、興奮が眠気に勝ったからで間違いなさそうだった。
「朝からテンション高いなぁ……」
下手に声を掛けると面倒な事になりそうだったのもあって、落ち着くまでは触れない事にした。元々正巳自身、低血圧で朝に弱いのだ。改善されたとはいえ、朝からあのテンションは少しきつい。
気付かれないように入って行くと、マムが誘導してくれる。
「こちらで試してみて下さい」
着いたのは射撃訓練エリアだったが、どうやら先ずは飛び道具からと言う事らしい。
手渡された弾を前に確認する。
「これは、中にナノマシンが入ったヤツか?」
それに首を振ったマムが言った。
「いえ、これは新たな炸裂弾です」
「新たな?」
「はい、サナが受けた弾丸から着想していて……」
「撃ってみても良いか?」
それに頷いたマムだったが、少し考えて言った。
「どうせだったら、きちんと効果の分かる的を用意しましょう」
どうやら的を変えるらしい。
そのまま待っていると、そこに現れたのは人の背丈ほどもある岩だった。
通常の的は投影されたものだが、そこにあるのは現物でリアルな岩だ。確かに、炸裂弾と言うからには命中した後にこそ、本領が分かるとも言えるだろう。
弾丸をセットして構えると、的へ意識を向け、引き金を絞る。
『"パン"』
通常より若干振動が強かったものの、大した事はない。
わざわざ岩を用意した意味はあったのかと、そう首を傾げたその瞬間だった。着弾した弾が炸裂と同時に、岩の手前半分が吹き飛んだ。
「おいおい、冗談だろ……」
どうやったってあのサイズの弾丸の威力ではない。
驚いている正巳に嬉しそうにしたマムが言った。
「この弾はですね、貫通力があるため目標の内部まで入り込むんです。そこで炸裂するわけですが、着弾した弾は真ん中で傘が開くようにして機構が開くと、その圧縮された力を爆発的に後方へと吐き出す訳なんです」
説明しながら、両手を合わせて花が開くようにして見せて来る。どうやら、この弾はとんでもなくヤバイやつだったらしい。こんなものを使っては、人など跡形も残らないだろう。
想像して気分の悪くなった正巳は、笑顔でニコニコとしているマムに言った。
「確かに、壁を壊したり障害物を排除するには良いかも知れないな」
それに嬉しそうにするマムに念を押して言った。
「人には使うなよ……と言うか、基本持ち出さずに使用もさせるな」
人類の発明した兵器の中には、非人道的だと言う面で幾つもの兵器が封印されて来た経緯がある。その面で言えば、この弾も間違いなくその部類に入るだろう。
残念そうにするマムだったが、すぐに「それでは」と言って別の弾を持ち出して来ていた。今度のは若干普通の弾に比べ大きく、銃自体も少し口径の大きなものを使うみたいだった。
「試してみて下さい」
そう言って渡して来るも、いざ向き直って見て言った。
「いや、試してみてと言われてもこれではな……」
マムが指す先には衝立があり、的は見えない状態だった。これでは流石に狙いようがない――そう思ってマムを見るも、頷くばかりのマムに苦笑するしかなかった。
本日18時にもう一話、続きを投稿します。




