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『インパルス』~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~  作者: 時雲仁


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343話 二色の花束

 目の前にあるのは、先の尖っている見た目いかにも(・・・・)な戦闘機だ。ただ実際には、この機体は何か兵器を積んでいる訳でも、戦闘する目的で設計されている訳でもない。


 単に高速で移動するだけなので、戦闘機と言うよりは高速航空機と言った方が正しいだろう。少し普通でないのはその移動速度だが、まぁそんなのは些細な事だ。


 それで、いったい何故そんな物の前にいるかと言うと……それは、緊急事態だと報告を受け「現地に向かう」と答えた処で、それに反応した今井に「丁度良いのがあるよ」と言われたのだ。


 設置された場所とその先を考えるに、どうやらこの機体は水中でも問題なく航行可能らしい。


「問題ないんですね?」

「あー、多分ね!」


 その先が深海である事を考え、念の為再確認した正巳だったが、その答えを聞いて安心する処か却って不安になった。小さく「理論上は問題ないはず」とかなんとか言っているが、作ったものに関しては間違いなく問題ないか、きちんとテストしておいてほしい。


 これ以上は余計な心配が増えるだけだと、さっさと乗り込んでしまう事にした。


「正巳、皆には何て伝えておくか?」


 それにそうだったと頷く。


「全体には伏せておいて下さい。余計な不安を煽ってはいけませんから。ただ、アキラとハクエンとハク爺を始めとした傭兵には、マムから今回の出来事については伝えてもらいます」


「なるほどな、つまり出る(・・)可能性があるメンバーだな?」


 それに首を振ると一部訂正した。


「いえ、今回は誰も出しません」

「そうなのか?」


 きっと先輩は、アキラたちはともかくハク爺たち傭兵出身組は出撃すると、そう思っていたのだろう。その証拠に「爺さんもか?」と言って驚いている。


 それに、そうですと頷いた正巳だったが、その理由が新たに用意していた"装備"にある事は話さなかった。と言うのも、ここに居るのが先輩だけであれば問題なかったのだが、その隣の"機械狂い"に聞かれては間違いなく時間が掛かるからだ。


 新たな装備と武器に関しては、まだ調整中であって議論の余地は十分にある。ただ、そんな事を言っていてはいつまでも進まない訳で、早い内に区切りをつけるべきだろう。


「今井さん、戻ったら話したい事があります」


 そう言って約束だけしておいた。ちなみに、今井さんの出すアイデアはユニークで新しいのだが、場合によっては仲間にまで被害が及ぶであろう、危険な物まである。


「話っていったい……」


 首を傾げた今井だったが、直後何を納得したのか頬を赤くして頷いた。そんな様子を見ながら(おかしな勘違いしていないと良いけど)と思いながら、奥から走って来るサナの姿に出発する事にした。



 ◇◆◇◆



 機体に乗り込んだ正巳だったが、外でジッと視線を送って来るミューの姿に苦笑していた。


 サナが走って来た後で、そのすぐ後にミューも付いて来ていたのだ。


 どうやら、マムがサナに「正巳が出る」と伝えた時、その場にミューも居たらしかった。考えてみれば、ミューもサナも同室であって、ある意味当然の結果であったが……。


 自分も付いて来て世話をすると言うミューには、「流石にそう言う訳には行かない。ミューが居なくては、給仕部の皆を始めとした大勢が不安になる。それに何より危険だ」とそう言っていた。


 それに対して、残念そうにしながらも「仕方ないですね」と理解を示していたミューだった。それが、その直後動ける(・・・)躯体を持ち出して来たマムが、そっと出発する機体に乗り込んだのを見てむくれてしまったのだ。


「……流石に可哀そうだったか」


 そう呟いた正巳だったが、それでも戦場を経験していないミューを連れて行くのは危険すぎると思った。それこそ、一人部屋に残して行くのが可哀そうだから連れて行く、などという軽い気持ちで連れて行ける場所ではない。


 心の中で「また今度だな」と呟くと、動き始めた機体に腰を下ろした。


 細長い機体だけあって、中もそれほど広くはない。


 ただ、それでも八人ほどであれば十分ゆったりできるスペースがある。十人を超えて来ると少し手狭に感じるかも知れないが、三人では十分すぎる広さだろう。


 視線を外へ向けると、既に周囲は暗かった。


 窓から洩れる光が淡く散光しているのを見るに、既に周囲に海水が入っていると見て間違いないだろう。僅かな音も聞こえなかったが、きっとそれだけ機体のつくりが良いと言う事だ。


 そのまま見ていると、数秒後窓の外後方で明るい光が瞬いたと思った瞬間、振動と共に後方への強い重力が加わった。どうやら、発進と同時にジェット噴射したらしい。


 真っ暗だったのが、次第に淡い紺へと変わって行き……次見た時には、月の光に輝く雲の海が眼下に広がっていた。数分も経たぬ内にこんな所まで来てしまったらしい。


 横を見ると、窓に張り付いたサナとその腕に抱えられたボス吉。その後ろには、大人の躯体を動かすマムとその腕にがっちりとホールドされたゴンとが居た。


 常に正巳の管理下に置かれる事になっているゴンはともかく、サナに連れて来られたらしいボス吉は少し可哀そうだった。そんな様子を確認しつつ、周囲を見回すと言った。


「それじゃあ準備をするか」

「はい正巳様」


 頷いたマムが抱えていたゴンを離す。それにペショっと落ちたゴンは、うわ言を繰り返すように「なんかブルブルしてるんだなぁ」と言って四つん這いになっていた。


 見ると裸足だが、いくらゴンでも流石にこのままと言う訳には行かないだろう。


 マムに言ってサナの予備用の靴と装備を出させると、それを着けさせた。


 基本的にスーツの様な外観をした装備が多かったが、今回は普段より大きめの外套を用意したらしい。着けてみると案外取り回しが良く、使い勝手が良さそうだった。


「これは基本的な防弾防刃機能に加えて、新たに光学迷彩機能を備えています」


 そう言って説明するマムによると、これは双子のファナとフィナ考案の技術を実現した物らしかった。全身をカバーする為、少し大きめに作られているらしいが……こうしていると何となく何処かの危ない組織みたいだ。


 悪くは無かったが、流石にこれを今後も使って行くのは避けたい。


「俺には不要かもな……」


 そうボソッと呟いた正巳だったが、横で嬉しそうになびかせているサナに苦笑した。


「他には何があるんだ?」

「あとは、こちらが新しい銃ですね」


 そう言って差し出された拳銃を見るも、見た目はさほど変わって見えなかった。どういう事かと確認すると、どうやらその銃弾の中身を変えたと言う事らしかった。


「どう変わったんだ?」

「これまでの火薬に比べ爆発力の強い物を使っています」


 それになるほどなと頷くも、それだけなのかと首を傾げる。確かに爆発の威力が上がれば、それだけ着弾する速度も威力も上がるだろう。しかし、何となくそれだけでない気がした。


 そもそも、この新たな"火薬"については数か月前に知らされていたし、慣れる為に試し撃ちだってしていた。敢えてこの場で出してくる物でもないのだ。


 そんな様子を見ていてか、微笑んで頷いたマムが弾薬を一つ取り出した。


「今回火薬の性能が上がったお陰で、内部にスペースが生まれました。それで、この中に十分なだけのナノマシンを搭載する事が出来たんです」


 指先でつままれた弾薬が、その後部がねじれる様にして内側から開いた。はっきりと視認する事は出来ないが、どうやらその内部には無数のナノマシンが詰まっているらしい。


「……それで、これがいったいどんな効果を生むんだ?」


 何となく予想は出来たものの、聞かずにはいられない。そんな正巳に頷いたマムは、人差し指をピンと立てると楽しそうに言った。


「着弾と同時に体内に侵入、体調不良を引き起こしたりその他色々な事が可能です。ちなみに、通信機能を持った機器が近くにあれば、わたし(マム)本体へ接続(コネクト)する事だって出来るんです!」


 それに苦笑すると「それは、敵さんも可哀そうだな」と言った。


 マムと言えば、その電子支配による乗っ取りが一番凶悪ではある。しかし、これは飽くまで最終手段に近い。とすればこそ、こう言ったちょっとした物の方がダメージが大きかったりするのだ。


 よく見ると弾倉の入った銃の横にスロットルがあるが、そこに数字が書かれている事からして、これを調整する事で何か調整が出来るのかも知れない。


 一先ず装備を整えた正巳は、軽く上着を羽織っただけのマムに言った。


「お前は何か持って行くのか?」


 マムには人間の殺傷を目的とした戦闘行為を原則禁止している。しかし、それは飽くまでも自発的な戦闘の禁止であって、自衛であればまた話は違う。


 頷いてその上着を少しはだけて見せるマム。


 その仕草に少しドキッとするも、きっとこれも学習したんだなと苦笑する。勿体ぶるマムにいったい何を持って来たのかと緊張するも、取り出された物を見て苦笑した。


「そんなもの持って行くのか?」


 そこにあったのは、鮮やかな色をした二色の花束だった。今まで何処に入れていたかもそうだが、そもそも何故持って来たのかも分からなかった。


「はい、保管しておきますので」


 笑顔で言うマムに苦笑するも、一先ず横に置いておく事にした。


「把握しているだけで良い。現地の状況を教えてくれ」


 そう言った正巳は、目の前に広げられた地図を前にしながら、その脳裏にはつい先ほど見た真っ赤な花と真っ青な花の束を思い出していた。


「……花束が必要な状況なんてあるのか?」


 首を傾げ呟いた正巳だったが、その答えをすぐに知る事になるなどとは知る由もなかった。

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