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『インパルス』~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~  作者: 時雲仁


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341話 海遊光戯

 ハゴロモの拠点は、主に地上部分と海中部分とに分かれている。


 初めこそ地上の比率が高かったものの、次第に海中の拠点比率が増え始めていた。理由は単純で、その新たな拠点を下に下にと増築していたからだ。そして、それは今後より進むであろう事だった。


 そんな、今後も拡大する事が決まっていた海中拠点であったが、その全体は大きな構造体を主とし繋げた集合構造だった。構造体はその一単位を"ブロック"と呼び、その一ブロックは複数のフロアに分かれた階層構造をしていた。


 これが地上であれば、高層マンションと言う感じかも知れない。そんな海中拠点の内、正巳達が居るのは中心部に位置するブロック、"フロント"の中層に位置するメインフロアの一つだった。


 海中であるにもかかわらず天井が高いのは、只でさえ溜まりやすいストレスを少しでも緩和させる為だろう。吹き抜けで十メートル弱は少しやり過ぎな気もするが……。


「この食堂にも慣れたみたいだな」


 思い思いにくつろぐ人々を横目に言うと、マムがそれに頷いた。


「そうですね。初めの頃は落ち着かない人も多かったようですが、今ではすっかりあたりまえ(・・・・・)になったみたいです。おかわりしますか?」


 空になったグラスを見て聞いて来るので、それに「頼む」と頷いておいた。


 少し離れた場所では、ひと際盛り上がっている集団が居たが、きっと恒例の"腕相撲大会"でもしているのだろう。少し前に悲しそうな様子で来たサナが「参加しちゃダメって言われたなの」と、トボトボと歩いて来た事があったが――


「さぁ、優勝者は豪華賞品と最強への"挑戦券"を得られるぞ! 今宵の主役は誰だ~!!」


 どうやら、サナは"殿堂入り"として扱う事になったらしい。


「少し回るか……」


 そう言って立ち上がると、マムが頷いて立ち上がる。


「はい、皆さん喜ぶと思います!」


 その後、思い思いに過ごす人々の間を歩いて回った。途中声を掛けられたり寄り道しながらだったが、ぐるりと回り終える頃には、いつの間にかいつものメンバーがお供に加わっていた。


 ひっそりと回ろうとしたのに、これではどうやっても注目を集めてしまう。何となくパレードか何かをしている気分になって来たのもあって、休める場所を探す事にした。


「皆で休めるのは……」

「この人数だと端の方しか難しいかと思います」


「開けてもらうよう頼みますか?」

「いやミュー、大丈夫だ。今日の主役はここに居る全員だからな」


「パパ、向こうに行きましょう」

「そうするか」


 付いて来て下さいと案内を始めたマムに、頷いて付いて行く。


「おう正巳、お疲れだったな」

「機嫌良さそうですね先輩」


「ああ、そうなんだ。実はこの前王様から貰った酒が旨くてな!」

「そうですか……」


 半透明な瓶に入った液体を掲げながらそんな事を言うので、程々にして下さいねと言って苦笑する。横に居るデウを見るとほんのりと頬を染めているが、きっとデウも飲んだのだろう。


 その様子からそれほど飲んだようには見えないが、きっとデウは酒に弱いのだろう。


「それよりだ。その子は初めましてか?」


 そう言って、マムが手を繋ぐ少女へと目を向ける。


「ええ、まぁそんな処です」

「ワハハハハ、また幼女か!」


 事情を知らずにそんな事を言って笑う上原に、心の中で(ここで正体を知ったらどんな顔をするかな)と一瞬悪戯を思い浮かべた正巳だったが、周囲を見回して踏み留まった。


 こんな場所でゴンがその正体を現しては、混乱以外起こらないだろう。


 ……いや、もしかするとそれさえ人々は受け入れてしまうかも知れないが。それはそれで、何となく皆揃っておかしくなっている様で嫌だった。


 ちなみに、ゴンにはハンバーガーを与えてみた。


 口に入れるまでは嬉しそうにしていたものの、いざ口に入れた後、何故か首を傾げて目をクルクルとさせ始めたので、とりあえず新しい何かを与えるのは止めていた。


 現在拠点内で扱っている食材は、半分ほどが人工物。中でも肉に類するものは、ほぼ百パーセント人工物だ。可能性として、人工肉がゴンには良くない可能性がある。


「あとで今井さん行きだな」


 そう呟いたのを聞いていたらしい。


「僕が何だって?」


 見ると、今井は会場の端で優雅にしていたらしい。十分な広さがある事を確認した正巳は、振り向いた今井に頷くと、一先ず一緒しても良いかと確認する事にした。



 ◆◇◆◇



 その後、何だかんだあってゴンを今井に任せ、検査結果を待っていた。


「ふむ、どうやらこの子を構成する細胞とその性質が、"拒絶反応"を起こしているみたいだね」


 歩いて来た今井が興味深げに言う。


 その手にあるのは、調査結果が示された物なのだろう。数十からなる項目と、それに応じた結果が記載されていた。チラッと見せてもらうも、専門外だと返す。


「拒絶反応ですか?」


 アレルギーの様なモノだろうかと聞くと、少しややこしいんだと説明がある。


「似ていると言えばそうなんだけどね。そもそも違うと言うかなんと言うか……そうだなぁ、人間で言うと、僕たちは幾らエネルギー源と言われても"機械油"は飲めないだろう? それと同じような事なんだ」


 なるほどと頷きかけるも、やはり少し不思議だと思う。


「私達が大丈夫なのに、ですか?」

「そう、人間(・・)には大丈夫でもこの子(・・・)にはそうじゃないのさ」


「それは……」

「うん、不思議だよね。でもそういう事(・・・・・)なのさ」


 そう言って、『きっと生物としてそういう特性なのだろう』とまとめる今井に、完全に理解できたわけでは無かったものの頷く外なかった。


 なに、時間はあるし今後も一緒に暮すのだ。


 今分からずとも、次第に分かって来るだろう。


 宙を進んで来た配膳ドローンから飲み物を受け取ると、後に付いて来ていつの間にか大所帯になっていた一同を見回した。傭兵の面々、ジロウとハク爺の姿は無かったがきっとサナと一緒だろう。


 こんもりと盛られた肉を食べるのはアキラだ。横でハクエンが心配そうにしているが、お前も一緒に食べろと押し付けている。


 綾香と一緒に話しているのはサクヤ。その横には、時々話を振られ困った様子をしているユミルがいた。目が合うと、逃げるようにしてこちらに歩いて来るが……


「どうした?」

「いえ、少し答えにくい質問をされまして」


 ユミルが答えにくいとはいったい何を聞いたのか。少し気になったものの、それを聞いては困らせてしまいそうだったので止めておいた。


「正巳君ちょっと良いかな?」


 その声に振り返ると、そこには両手を繋いだ今井さんがいた。


 何となく事情を察しながら近づくと、片方が出て来てぺこりと頭を下げる。


「勝手な事をしてごめんなさい。ぼくのせいでサナちゃんが怪我をしたって……ごめんなさい」


 それに、膝を突いて目線を合わせると言った。


「サナは大丈夫だ。それに、サナだって謝ってほしくて助けた訳じゃない。あとでお礼しておくと良いさ。それに……ほら、もう顔を上げるんだ。もう十分に反省しただろう?」


 うるみ始めた瞳に、気分を変えようかとファナの身体を抱き上げた。


「ほら見てみろ、綺麗だぞ」


 海に接する壁は、その一面が耐圧ガラスとなっている。


「……」

「ほらな?」


 その向こうには、深海特有の濃い青とその中を優雅に泳ぐ光の群れがあった。その正体は言うまでも無かったが、猛威を振るった"兵器"も用い方を変えればこうも変わるのだ。


 正巳に誘導され顔を上げたファナだったが、しばらくその光景を目で追っていた。気付くと、周りのメンバーを始め人々の視線も集めていたが、その光景は確かに美しく神秘的だった。


「……きれいだね」


 それにそうだなと頷くと、飽きるまでその光の軌跡を眺めていた。


 それはまるで、光の妖精たちが戯れているかのようだった。


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