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『インパルス』~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~  作者: 時雲仁


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338話 変身?変態?変異?

 彼女(ゴン)に、最初とった姿になって欲しい。そう言った今井は、何か気になっている事がある様子だった。それに頷いた正巳は、ゴンに「頼めるか?」と続ける。


 それに「分かったなんだなぁ……」と同意したゴンだったが、すぐに迷った様子でもじもじとする。何か躊躇する理由があるのかと聞くと、意を決した様子でゴンが言った。


「お願いなんだなぁ。おりゃの事、生意気だってかじらないで欲しいんだなぁ!!」


 突然の爆弾発言に、来たばかりの二人が引いている。


「えぇお兄さん、そんな趣味が……」

「正巳様、流石にいたいけな少女にそれは無いかと……」


 それにため息を吐く。


「あのなぁ、そんなわけ無いだろ」


 しかし――


「まさか、手を出して来ないと思っていたら、そんな趣味があったのですか。そりゃあ、こんな幼い子供が趣味ならば私なんて熟れ過ぎた果実。最早、旬をとうに過ぎてしまった売れ残りですよね」


 訳の分からない自虐の綾香に、ユミルが寄り添うように近づきこちらをキッと睨んで言う。


「正巳様、それは確かにここは貴方の王国の様なモノです。しかし、いくら何でもそれはあんまりでしょう。……ユミル? 大丈夫ですよ、貴方は十分に若いし綺麗です。私が保証します」


 その茶番劇に反応する気も起きず、一瞥して放っておく事にした。


「……おい、早くしろ」


 若干たまったストレスが言葉に出たのかも知れない。端的に発した言葉がゴンに伝わると、それ以上何も言わずコクコクと頷いたのちはじまった(・・・・・)


 その様子を言葉で表すとすれば、それはまるで――"粘土造形"。一度できた人形を潰してこねて、そこから端々に至るまでを再度作り直す――そんな様子だった。


 それまで(かたど)っていた輪郭があやふやになり、それが崩れてスライムのようになる。それが、次の瞬間には何処か人の腕や足、臓器のような物が見え……終わった時そこに居たのは、少し前までそこに居た幼女とは全く違う姿の人間だった。


 その姿を見て思わず漏らす。


「何でここに……」


 しかしすぐに、それがゴンのとった姿に過ぎないと思い出した。


「ふぅ、そうだったな」


 直ぐに落ち着きを取り戻すと、今井が二人を呼んだ理由を知ってそちらへと目を向けた。それまでキャッキャと燥いでいた二人だったが、どうやらその姿を見て正巳以上に驚いたらしかった。


 驚きの余りか口を開けたままな綾香と、その前へ咄嗟に割り込み守ろうとするユミル。


 綾香の反応はごく自然なものだろうし、ユミルにしても流石と言うべき反応だろう。この場合、どれほど二人が驚いたという証拠でもあったが……二人の事だ、きっと直ぐに落ち着く事だろう。


 一先ず話を聞こうと向き直った正巳だったが、当の今井は「なるほどなるほど、身体のサイズが大きくなる時はきっと急激な細胞分裂を繰り返しているんだね。となると、その逆の際はコントロールされた細胞死滅が起こっている訳か!」と、そんな事を呟いている。


 そのまま研究に戻りかねない今井に言う。


「それで、今井さんは知っていたんですか?」


 正巳の問いに首を傾げた今井だったが、すぐに思い出したらしい。


「ああ、そうだった。まだ確認が残ってたね……うん、そうだね。僕は会った事ないけど、マムのデータベースに載ってたから直ぐにね」


 そう言って再び目を向ける。


「広域指定暴力団"弘瀬組"組長、弘瀬龍児。綾香君のお父さんだね」


 そう、それは紛れもない綾香の実の父にして、正巳にその最愛の娘を預けた本人だった。何となく、以前会った本人より若く、雰囲気も尖っている気もしたが……


 恐らく今井は、本人を良く知る二人を呼んで、実際に対面した際の反応を見たかったのだろう。それで言えば、会った事のある正巳もその観察対象なのかも知れない。


「確かにそっくりだな」


 じいっと見ていた正巳だったが、どうやらその視線に耐えられなかったらしい。


「お前、そろそろ……。うん、『お前?』違う、『お前』違う……ええと、そう。なんだなぁ、あるじそろそろ戻っても良いなんだなぁ? ちょっとそろそろ戻りたいなんだなぁ……あるじぃ」


 本人そっくりの姿で、決して本人が言わなそうなことを言う。慌てる様子に思わず吹き出しそうになるも、それを堪えているとどうやら、固まっていた綾香も硬直が解けたらしかった。


 複雑な顔をしながらずいッと出て来ると言った。


「貴方、どなたか知らないけど。お父様の姿でその話し方は止めて下さい!」


 手の平をギュッと握りながら、必死に上半身を突き出している。恐らく少し怖いのだろう。それに反応したゴンが僅かに舌なめずりするも、すぐにこちらを見て言う。


「違うんだなぁ、少し美味しそうな匂いがしたけど……違うんだなぁ。食べないんだなぁ」


 どうやら、先程約束した事を覚えていたらしい。


 少し間があったのが心配だったが、まぁ生物本来の習性と言うモノは、そう簡単に変わらないのだろう。それも時間を掛けて矯正して行けばよい。


 そんな様子を見てか、綾香に伴って一歩出たユミルが言った。


「正巳様、そろそろ戻して頂けると。その、知っている筈の見た目で見ず知らずの他人と言うのは、精神的にだいぶ来ますので。それに、そちらも戻りたがっているようですし……」


 どうやら綾香が限界だったらしい。気遣う様子のユミルに頷くと、今井の仕方なさそうに同意する姿に苦笑しながらゴンに言った。


「戻って良いぞ。それと、良いと言わない限り決して人前で姿を変えるなよ」


 それに激しく頷いたゴンは、先程と同じようにして元の姿に戻っていった。


 脇で観察していた今井は、何やらゴーグルのような物を取り出して「ふむふむなるほど、熱エネルギーが発生しているのは細胞を燃焼させているからかな? それとも、何か他に理由があるのかな? ううむ、そうだとしても膨大なエネルギーを溜め込む為の、何か生体機関が無いと理屈が通らないのだけど……」と呟いている。


 その呟きに(そう言えば以前、ゴンの身体に何か心臓のような"核"を見た気がしたな)と思い出す。しかし、ここでそれを言っては面倒な事になるだろう。


 そっと心の中に仕舞っておく事にした。


 警戒していた綾香とユミルだったが、サナが抱えなおした事でほっとしたらしい。胸を撫で下ろしながらも、複雑な顔でゴンを見る綾香に苦笑する。


「きっと他人の空似か何かだろう」

「ええ、そうですねお兄様……」


 納得と言うより、忘れる事にしたと言った様子の綾香。その様子に(そりゃそうなるよな)と頷くと、話を変える事にした。


「それより今は戦闘後の処理と、今後の対応についてだ。今回の件で、この拠点位置が知られている事がはっきりした。今後の戦闘も避けられないだろう」


 そう言って「住民にはあとニ、三日は海底で暮らすように」と通達させると、続けて至急"会議"の招集をする事にした。今回こちらの被害は建造物の破損が主だったものだったが、それとは別に対応すべき課題が多数残されていった。


 その主だった中には、捕虜の問題や友好国への影響の考慮などがあったが……今回、あれだけの数でもって攻めて来て失敗したのだ。次があるとしても、すぐにではないだろう。


 となれば段階的な作戦、中でも手が付けやすい部分から始めるはずだ。最悪なのは、現状でこちらに有効打となる一手を打たれる事だが――


「グルハにガムルス、最悪な事態も想定するべきか」


 そう呟いた正巳の脳裏には、懸念している事があった。


 敵は大国含めた連合軍。

 世界が相手だと言っても過言ではない。


 そんな中脅威となるのは、その"兵器"ではなくその"数"だ。


 それと言うのも、近代兵器の大半は電子制御されている訳だが、この時点でマムによる介入の余地が出て来る。必殺であるはずの兵器も、マムの前では無力となるのだ。


 それではどうだろうか、近代兵器が使えないとなったらそれで諦めるだろうか。


 答えは『否』だ。そう、単純な事。使えないのであれば、使える武器を使おうとするはずだ。地のみならず海や空を支配する、それより以前の戦い方……。


 それに、マムが制御を奪い無力化できる兵器にも限度がある。いくらマムとは言え、電子制御を介さない兵器には干渉する事が出来ないのだ。


 この時点で、そのまま大昔の剣と弓で戦った時代とは、大きな隔たりがあるだろう。


 ハゴロモの様に、周囲を海で囲われ"独立"しているのであればまだしも。気を払うべき友好国があるのは大陸の端――他国と陸続きになっているような場所だ。


 もし、その圧倒的な人的兵力で攻め込まれては、ひとたまりもない。


「次の戦場か……ただ平穏に暮らしたいだけなんだがな」


 そう呟いた正巳は、横でサナに抱えられ、涙目になっている幼女を見て続けた。


「脅威による抑止。それも必要かもな」

「おりゃは無害なんだなぁ」


 ゴンの声は少しだけ震えていた。


感想、評価などありがとうございます!

少しばかり駆け足で書き上げた為、荒いかも知れません。何か気になった事があったら遠慮なく!加えて、誤字脱字報告して下さる方、本当にありがとうございます。助かっております!


感謝を添えて、時雲。

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